conversations
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337
| speakers
sequencelengths 2
3
| product_name
stringclasses 10
values | file_name
stringlengths 19
26
|
---|---|---|---|
[
{
"utterance": "う……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ゆっくりと視界が戻って来る。見慣れたいつもの部屋の光景が映し出される。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "身体の芯が重く感じる。なんだろう、この妙な疲労感は……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お帰りなさい、白鷺さま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その声に振り返れば、優しい笑顔のオペラさん。そしてその顔を見た瞬間、俺はすべてを思いだした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく、ひどいですよオペラさん。あんな無理やりに",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すみません。ですがその甲斐はあったようですね\n白鷺さまがウルルさまの夢に入られてから、ウルルさま、終始もうニッコニコでしたから\n白鷺さまにとってはいかがでしたか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "い、いやまあ、その……どうなんでしょうね……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんていうか、夢の中とはいえ俺はウルルと……なわけで。あれがもし本当にウルルの願望なんだとしたら……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ま、まあ、ウルルにとっていい夢だったなら、多分俺にとってもそうだったんじゃないかなと",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "確かにそうかもしれませんね。ウルルさまが白鷺さまにとってマイナスになるような夢を喜ぶはずありませんから\nですがまあ、その……ちょっとした想定外なこともあったんですけど……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "想定外?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さすがにちょっと捨て置けない。それを問いただそうとしたところで、ベッドの方から声がした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほぇ?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ、ウルルも起きたのか。まったくお寝坊さんな王女様だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああっ。白鷺さま、今ベッドに近づいたらっ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "苦笑しながらウルルの元へ行く俺を、珍しく慌てて引き止めようとするオペラさん。とはいえ時既に遅し。俺はもうベッドへと辿り着いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いい夢だった、か、い……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思わず言葉を失ってしまう俺。えーと、これはその……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、にいさまだぁ……。にいさまぁ、ウルル、にいさまのものになっちゃいましたぁ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "どうやらまだ夢の話を引きずっているらしい。寝ぼけ眼でそんなことを言いながら、ウルルは起き上がった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、あれ……?ウルル、闘技場にいたはずなのに、なんでにいさまの部屋に……\n服も、私服になってますし……っ?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "自分の姿を見回して、そして唐突に硬直するウルル。どうやら気付いたらしい。\nウルルの下半身から広がる、その下着すらも汚している染みに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……えっと……\nあ、あの、にいさま……ウ、ウルルもしかして\nえっと、その……だ、だけど……\nウ、ウルル……ウルルは……ウルル……は……\nきゃああああああっ!!\nえっ?ええ!?ウ、ウルル、なんでこんな、お、お、お……\nお漏らし、なんて……\nな、なんでえ!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "オペラさん、これはあの、いったい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の引きつり顔での質問に、オペラさんはやっぱり笑顔を引きつらせながら答えてくれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あくまで仮定なんですが、もしかして夢の中で、その……放水されたりしていたのではないかと……\nそれが、あまりに衝撃すぎて、現実の方でも……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そんな、じゃ、じゃあ、あれって夢!?確かにウルル、しちゃいましたけど……いやあああん!\nにいさま聞かないで下さい!今聞いた事忘れて下さーい!!\nふええええん!ごめんなさい、ごめんなさい、にいさまあっ!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルは泣きながら謝ると、顔を耳まで真っ赤にしたまま俺の部屋を飛び出していってしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、恥じらいつつも泣きながら謝るウルルさま、やっぱり可愛らしい……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやあの、オペラさん?こうなったの、ある意味あなたのせいでは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うっ。ま、まあ、確かに私にも多少の責任はあるようですね……\nで、ですが最大の原因はやはり、夢の中であのような行為を行わせた白鷺さま。犯人はあなたです!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "びしいっ、と俺を指差しつつ言い切るオペラさん。いやまあ、否定はできません。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "何はともあれご安心下さい。こちらは責任を持って、私の方で綺麗にさせていただきますから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "言うが早いか、颯爽とベッドからシーツと下の布団を剥がすオペラさん。さすがに手際いいなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですが、白鷺さま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "手早く布団をたたむと、オペラさんは真面目な顔で俺を見た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "正直言えば、ウルルさまがどうのような夢を見たのか、見当はついています\nウルルさまは竜族王家の最後の生き残り。あの小さな肩には想像以上に重い未来がのしかかっています。それはきっと、ウルルさま個人の幸せにはならないでしょう",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その言葉に、俺は夢の中でウルルの言っていたことを思い出した。種族を存続させる務め……。\nあの小さな金竜のことだ。竜族の未来ばかりを考え、きっと自分の未来はどこかにしまってしまうのだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですから、ウルルさまの気持ちだけでも、大事にしてあげて下さい\nいつの日か、成長し寂しさを覚えてしまったウルルさまが、その日を思い出し笑えるように",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんは深く頭を下げると、シーツと布団を持って部屋を出て行った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "王女の立場、か。考えたこともなかったな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いつも俺達の前で見せてくれているあの笑顔。あれが見られなくなるなんてこと、考えもしなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ヴェルやノートも、やっぱり同じなのか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはきっと当然だろう。フォンが俺に向かって言ったことも、きっとこのことだ。\nいつの日か俺は、そういった彼女達の未来と相対することがるのかもしれない。\nその時俺は、どんな顔でその未来を見ているんだろう……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 034406_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……なんなんだろうなあ、この嫌な気持ちは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "午後の休み時間、俺は一人中庭の木陰に寝転がりながら考えていた。\n昼休みにみんなと昼食を取ってから、どうにも俺の中で妙な不安が渦巻いて消えてくれない。\n確かに昨夜も考えはした。簡単すぎないかって。それでも、最小限の被害で捕まえることができた。だったら、きっとこれからも同じようにできるはずだ。\nなのに、この不安はなくなるばかりか、より濃さを増している。いったい何に俺は不安を抱いてるんだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほんと、分からない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "誰にともなく呟くと、俺は静かに目を閉じた。\n恐らくは、このまま無理に考えても浮かばない。だったら、何か思いつくまで待ってみよう。\n心地いい風に身を任せながら、頭の中を空っぽにしていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あら?もしかして、お休みですか?\nもしもーし。おーい。やっほー\nむー。これは由々しき問題ですね。これだけお呼びしても気にも止めてもらえないだなんて、私のプライドズタボロさんです",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "なんだろう……誰かが来てるみたいだけれど、今はちょっと相手をする気になれない。\n悪いけど、このまま逃げさせてもらおう。\nゆさゆさ。\n……なんだ?身体が揺れてる?\nゆさゆさゆさゆさ。\nゆさゆさ。\n……気のせいじゃない。確実に揺れてる。\nゆさゆさ。\nていうかこれ、誰かが揺さぶってる?\nゆさゆさ。\nゆさゆさゆさゆさ。\nゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんだいったいーっ!!\nって、オペラさん!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ついに耐えかね目覚めてみれば、そこにはクッキーを一枚咥えたオペラさんの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "またですか、これ!?たしか以前もやったでしょう!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな俺の訴えも気にせず、オペラさんはニッコリ笑って俺を急かす。やっぱり、早く食え、ということだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んーっ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "この人は、機会さえあればすぐに人をこうやってからかいたがるから問題だ。\nいいだろう。そちらがそのつもりなら、この白鷺姫、何度でも受けて立つ!\nいつまでもいつまでも、ねんねな俺とは思わないことだ!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んうっ!?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "俺のいきなりの反撃に、オペラさんの顔が朱に染まる。この人のこういう顔というのは滅多に見られるものじゃないだけに、うん、いいことだ。\nオペラさん、相当な美人だし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いえ、その……まさか本当に食べられるとは夢にも思っていなかったので……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやあの、以前も食べた覚えあるんですけど俺……分かっててやってますよね、オペラさん……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな俺のツッコミに、オペラさんはおほほほー、と顔を赤らめながらも笑っていた。うわ、明らかなごまかしだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんなに恥ずかしがるなら自分からやらないで下さいよ。俺も恥ずかしかったんですから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ、気持ちよさげな白鷺さまの顔を見てたらつい\nうわ、どうしましょう。まだ胸がドキドキいってます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "意外ですね、オペラさんがそこまで男免疫ないなんて。オペラさんなら選び放題じゃないですか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それが、竜族には男性という性別が産まれないもので……ウルルさまにお仕えすることにすべて捧げてきましたし\nこれほどまでに近い距離で話すようになったのも、白鷺さまが初めてなんですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あー、そういえば聞いたことあるような……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "この前のウルルの夢の中で、確かに言ってたな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですが、こんな所にお一人でどうされたんですか?\n中庭でこっそり、というわりには、デート相手の女性もいらっしゃいませんでしたし\nさあ、どんなドキドキワクテカ光景が見られるのか!と胸弾ませてやってきた私の期待、粉々です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そのまま箒で集めて捨ててしまって下さい、そんなもの\nいや、どうにも嫌な予感がするもので。でも、それがどう嫌なのかが上手くまとまらないもので、ちょっと考えてみようかな、と",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "嫌な予感、ですか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ええ。暴漢事件なんですけど、ラーロンが捕まったのに、なんかまた現われたじゃないですか。にも関わらず、またこうも簡単に捕まって\nなんか、これで終わる気がしないんですよ。だけど、なんでそう思うのかが今一つハッキリしなくって",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なるほど……ですがそう思われる気持ちは分かる気がします。下級貴族さま同様に封印されたとはいえ、情報類は何も手に入っていませんし",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんの一言を聞いた瞬間、一瞬で霧が晴れた。ああそうだ。そんな簡単なことだったんだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "同じなんですよ、ラーロンと。結末までが\n捕まえたっていう安堵感から、つい目を逸らしてたみたいです。いくらヴェルの一撃とはいえ、昨夜のあれは全然手加減していた\nそれが、なんでまだ目を覚まさない?それって、本当にヴェルの一撃のせいなんですかねえ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なるほど。もしそれがダメージによるものでないのだとすれば……\nでしたら、簡単な手がありますよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ご自分の目で確かめちゃえばいいんですよ。どうせ今夜も見回りはあるんですよね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それは至極当然、ごもっともな意見だった。あまりに簡単明瞭で、おもわず吹き出してしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですね。ほんと、その通りだ。これからの見回りの中で、自分の目で見極めればいいだけだ\nなんていうか、今はじめてオペラさんが大人の女性に見えました",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それは、若いんだという褒め言葉に変換させてもらいます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その言葉に対するツッコミを、俺はあえて自粛した。だってほら、誰だって命は惜しいもんだし。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"姫",
"?"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 034502_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ベッドの上で、ゴロリと寝返りをうつ。\nいつもならとっくに見回りに行ってる時間なんだが、今は違っていた。それぞれの部屋で、こうして休んでいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……なんか、手持ち無沙汰だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ここ数日は毎日外に出てたからな。その気持ちも分からなくはない。なんなら本でも読んでたらどうだ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅は本棚へと向かうと一冊取り出し、俺に渡してくれた。タイトルには覚えがある。学園の方でも少し話題になってた恋愛小説だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅が読んでるから、てっきり歴史小説か何かだと思ってた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "一応言ってはおく。あたしも女なんだから、そういったものに憧れる気持ちくらいは充分あるんだ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "まったく、と拗ねたように言いながら紅は机に座った。そして読みかけだった本を再び開く。タイトルからすると、どうやらそっちも恋愛もののようだ。\n紅は生真面目で固いっていう印象あるけど、結構乙女モードなんだよな。\n以前学園長も言っていた、見回り用の別チーム。その選抜がようやく終わり、見回りは完全に交代制となった。\nとりあえず、今まで頑張って来た俺達は、今日、明日と休みをもらえた訳だけれども……あって当然と思っていたものがなくなると、こうまで暇だとは。\n俺はベッドに横になりながら、渡された小説をパラパラとめくって見る。\n……ごめん。俺には無理だ、この本。\n静かに表紙を閉じたと同時、入り口の扉からノックの音が聞こえた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お邪魔しまぁす",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そして覗き込むようにして、ヴェルが部屋の中へと入ってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヴェル、どうかしたのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "珍しいな、こんな時間に",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ちょっと様子を、と思ったんだけど、本当に暇してるのね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "呆れたように言うヴェルを横になったまま見上げつつ、俺は持っていた本を机の上に置いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあな。その分多目に素振りでもしたいんだけど、今無茶して、いざという時に動けなくなったらどうするんだー、とお目付役様が仰るんでさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "反対側の机で本を読んでいるお目付役様へと視線を送れば、当然だ、とばかりに頷いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お前は、やり始めたらとことんやってしまう男だからな。少しは手を抜くことも覚えろ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "まあ、こんな感じだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やれやれと肩をすくめると、ヴェルは小さく吹き出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅の言う通りね。ヒメは突っ走りすぎるところがあるから、たまには休むくらいで丁度いいのよ\nほんとのこと言うとね、私もおんなじ。退屈だったから、二人のところに遊びに来たってわけ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "おいおい。二人のところ、じゃなくて姫のところだろ。あたしの存在は抜けてたんじゃないのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そんなことないわよ。ちゃんと紅のことも考えてます\nただまあ、ヒメに甘えさせてもらいながら、とは思ってましたけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "えへ、と可愛らしく舌を出しながら笑うヴェル。そのままベッドの上、俺の脇へと腰を下ろす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あとはまあ、お誘い、かな",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "お誘い?俺を?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ。明日は学園も見回りもお休みで、完全な休養日。どこかに遊びに行くには丁度よくないかしら",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "うーん……でも、今っていつ次の事件が起こってもおかしくない状況。そんな時に、浮かれて遊びに行ったりしてもいいのかなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "問題ないと思うわよ。事件中だからってみんなが家に閉じこもってたら、お店なんて全部つぶれちゃうじゃない\nむしろこんな時でどこも大変だろうから、私たちで騒いであげないと。私たちなら暴漢なんか出たって問題ないもの",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "確かにな。まあ、たまにはそういうのもいいんじゃないか。少しくらい息抜きしてもバチは当たらないと思うぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "なるほど。気にしすぎるとマイナスにもなるか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうだな。たまには遊びに行くのもいいか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃあんっ♪",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "胸の前で両手を握り合わせて喜ぶヴェル。ここまで喜んでもらえると、俺としても嬉しい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、と。それじゃあ、あたしはちょっと出てくるな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あれ、どこ行くんだ?夕飯ももう済んだし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はあ……あのなあ、気を遣ってるんだからそれくらい気付いてくれ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、一時間もしたら戻るから",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そう苦笑しながら、紅は部屋から出て行った。途端に静かになる部屋に、今度は気恥ずかしさが流れ出す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんか、変なところで気を遣うなあ、紅のやつ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "わがまま言うのが下手なのよ。自分の気持ちよりも、他人の気持ちを重視しちゃう\n……あとで紅にお礼言わないとね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そう真面目な表情で呟くヴェル。が、次の瞬間には、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけど今は♪",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "満面の笑みで、俺に抱きついてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、おい。ヴェル?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "せっかく紅が作ってくれた時間だもん。姫を堪能させてもらっちゃわないと",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルってさ、本当に甘えんぼだよな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん。甘えん坊よ。ただしヒメの前でだけ\n私のこんな姿知ってるの、ほとんどいないんだから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "確かに。最近はみんなの前でも結構素を見せてる気がするけど、さすがにここまでじゃない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "時間は一時間。なんなら、お風呂にでも行く?その……私は、ヒメとならまた一緒でも構わないから……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あー、男として耐え難いお誘いなのですが!残念ながら今の時間は俺は風呂を使わせてもらえませーん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヒメが望んでくれるなら、占拠しちゃうけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "やめて下さい。明日からの俺の肩身がより狭くなりますっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もっとも、この状態を耐え続けることとどっちがいいかと聞かれれば……\nきっとどっちも死刑宣告。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 034802_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "日曜も含めれば、三日ぶりの学園だ。休んだ理由が休んだ理由のせいか、妙に新鮮に感じるな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、どうやら無事だったみたいねえ。ま、そんな簡単に逝っちゃうようなヤツが、俺様に勝てるはずもないけどね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "俺の姿を見つけ、いつも通りの軽い口調で言いながらやってくるデイル。\nデイルも、彼なりに心配してくれていたんだろう。そんな気持ちがいつもと変わらないはずのセリフの中に見えた気がした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "悪いな、心配かけたみたいで",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いやいや、そうでもないから。どうせ戻って来るって分かってたしねえ\nま、姫っちに逝かれたりすると、姫さんがどうなっちゃうか怖くてたまんないから自重したげて\n姫っちのいない世界なんて存在する価値ない、とか言って大暴れしちゃいかねないから",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "デイルは笑顔で俺の肩を叩くと、自分の席へと戻っていった。\n俺のすぐ後ろでヴェルが、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんなこと……多分ある……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "なんて恐ろしいことを恥ずかしげに呟いていたのがちょっとばかし怖かった。\nいや紅さん。あなたも笑ってないで下さい。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"姫",
"ヴェル"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 035201_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ふざけるな!てめえの方からぶつかってきたんだろうが!",
"speaker": "魔族"
},
{
"utterance": "あなたが急に立ち止まるからでしょう。まったく、これだから魔族は",
"speaker": "神族"
},
{
"utterance": "なんだと!明らかにわざとだっただろうが!",
"speaker": "魔族"
},
{
"utterance": "ほんと、魔族って疑り深いのよねえ。自分は平然と他を騙すくせに",
"speaker": "神族"
},
{
"utterance": "休み時間、たまたま手洗いへと行った途中で、魔族と神族とが揉めている場面に出会う。さっきの実技といい、本当に多いな、こういう場面。\nそれだけ、あの事件の真実が浸透してるってことなんだろうけれど……。\nやがて、他の生徒が呼んだのか、数人の教師達が現われ、目の前の争いは収まった。\nけれども、それを見ていた生徒達の間には、間違いなく冷たい空気が流れている。火種は残った、というべきだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "本当に、どうなってるんだよ、いったい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "間違いなく、今後もこういった争いは増えていくだろう。まるで、学園全体が火薬庫にでもなったみたいだ。\n俺は、明らかな敵意を持って睨み合う生徒達に、うすら寒いものを感じていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"魔族",
"神族"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 035502_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "何気なく、丘へと続く道を歩いていた。そこに何があるというんじゃなく、今ウルルといくならあそこがいい。そんな気がしたから。\n既に陽も沈み、月と星の明かりだけを頼りに、暗い道を二人で歩いていく。\nウルルは、すぐ隣を歩く俺を、何か欲しそうな顔でチラチラと見上げていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうかした?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう尋ねたと同時、ウルルの顔が急激に赤味を増す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あの、にいさま……手、つないでいいですか……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺は言葉で応えることなく、上目遣いで俺を見上げているウルルの手をそっと握った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ……\nえへへ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "それだけで、嬉しそうに笑顔になるウルル。俺への信頼が手のひらを通じて伝わってくるみたいで、俺も自然と頬が緩んでしまう。\nそしてウルルは、俺に笑いかけたままで嬉しそうに言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "初めて会った時も、こうでしたね",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そう言われて、俺はようやく気がつく。ウルルと向かう場所に、この道を選んだ理由を。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、そうか。そうだよな。ここだったんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まだ一年も経ってない、あの日。丘へと向かおうとしていた俺の視界に、その少女は唐突に現れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、ここです。ウルルは、今でも鮮明に思い出せます\n初めて訪れたこの学園世界。まだよく分からないこの世界の中で、久しぶりに見てしまった、幸せそうな家族連れの人たち……\n楽しそうなその笑顔に、昔のウルルを思い出してしまって、ちょっと寂しくなってしまって……\n気がついたら、どこかも分からない夜の道で、迷子になってて……\n一緒にいたはずのオペラを探して、キョロキョロ周囲を見回してたら、そこに、知らない人族の男の人が現れてくれたんです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "覚えている。あの日、たまたまここで見かけた竜族の女の子。\n余りに寂しそうだったその背中に、思わず声をかけたんだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そっちは丘の方に行くから、こんな時間だと危ないぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?あの、何かあるんですか?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……もしかして、この世界に来るの初めてか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "なるほど。いや、丘の奥に森があるんだけれど、そこには野生の獣もいるんだ。夜なんかだと、たまに森から出てくることもあるんだよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そうなんですか……あの、街ってどっちでしょう……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "仕方ないな、はい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?あ……\nはい……\nおっきくて、あったかい手のひらでした……\n人族の男の人を見るのは初めてじゃなかったですけれど、それでも今まで会ったことのないその人はまだ怖くて\nウルルの手は、きっと震えていたと思います\nだけどその人は嫌な顔一つすることもなく、ウルルの手をとって笑いかけてくれました\nあ、あの……なんでここまでしてくれるんですか……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "なんでって、迷った子供を送り返してあげるのは当然だろう?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルは子供じゃありませんっ。人族のあなたよりも、遥かに年上なんですよ。ウルル、竜族なんですから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "え?あー、こういうのは女性に聞くのは失礼かもだけど……ちなみに何歳?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "160歳です",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……冗談で言ってる?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本気に決まってます。竜族は、個体数が少ない代わりに寿命が長いんですから。人族の十倍くらいですよ。えっへん",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "でもまあ、君は来たばかりなんだろ、この世界?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え、は、はい。まあ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だったら、この世界での生活に関しては、やっぱり子供みたいなもんだ。俺のがお兄さんだな、うん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい?あ、あの、その理屈はどうかと思います",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そうか?別にいいだろ。ここに道に迷った子供がいて、俺はその子を兄として街へ送り届けようとしてる。問題なしだ、安心して着いてきなさい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……あの、もしかして、ウルルの不安を取り除こうとしてくれてますか……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そんな大層なつもりはないよ。ただまあ、見知らぬ人に着いていくにはそれなりの理由も必要かなと。理由になってるかは知らないけどな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あなたは、不思議な人ですね……\nでも、ウルルは強い子ですから、別に大丈夫……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "強がらなくてもいいよ。俺への不安だけじゃ、こんなに震えない\n一人ぼっちの怖さは分かるから。俺も人族だからさ、他の世界で一人ぼっちになる怖さ、よく分かる\nだからまあ、ここは素直にお兄さんに頼ってくれると嬉しい。可愛い女の子にかっこつける機会を与えるくらいはしてもいいと思うんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "かっこ、つけたいんですか……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そりゃもちろん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……なんていいますか……そんなことを堂々と言ってしまう男の人を信じろというのは、非常に難しいと思うのですけど\nでも、にいさま、だったらありですね\n分かりました。ウルル、妹として、にいさまにすべてを委ねちゃいます\nこれからは、いつでもどこでも何をしていても、にいさま、ですよ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、さすがにそこまで気にしなくてもいいんだけど。あくまで今限定で、そう思ってなさいという……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさまはにいさま、です。ウルルにとってのあなたは、もう、ず~っとにいさま、ですよ♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "にいさま、か。なんかちょっとくすぐったいけども……悪くないかな\n俺も、可愛い妹が出来て嬉しいよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルも、にいさまが出来て嬉しいです♪\n強がってたの、すぐバレちゃいました",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "あのあと、街で血相変えたオペラさんに、街中でいきなりハイパーメイドキックとかくらったんだよなあ……\nで、竜族の王女様だって言われて焦ったっけ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でも、すぐに、この世界のこの子は、俺の妹みたいなものだ!とか言い返してくれたんですよね",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "事情も聞いてもらえず、ハイパーメイドスピンキックをくらいました……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルとの出会い。今にして思えば、あれも衝撃的なものだった。まるで運命みたいな出会い。\n俺は兄としてこの子を助けて、だけどこのよく出来た妹に何度も助けられて。\nあの時握った、この小さな手は、確かに俺の未来を切り開いてくれた。\nやがて、俺達は丘へと辿り着く。何気なくこの場所を目指していたのは、やっぱり必然だったのかもしれない。\n初めて出会ったあの夜。今夜がその再現だというなら、ここ以上に相応しい場所はない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの日の俺はさ、本当は、ここに来ようとしていたんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう。あの夜俺はこの場所を目指して、そして小さな竜の王女に出会ったんだから。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここに、ですか?やっぱり特訓とか……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そう尋ねて来るウルルに苦笑しながら、俺は首を左右に振った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "焦ってたんだ\n強くなりたかったからこの世界に来た。だけど、自分で納得出来るような力は到底得られなくて、上の階級に上がれるかすらも危ない成績\n他の連中の強さと自分を見比べて、ただ落込むだけだった\n人族である俺を見る周囲の視線と、強くなれない俺を認めてしまった自分の目。その両方に、俺は耐えられなくなってた\nもしここで俺が折れてしまえば、紅をたった一人の人族として残してしまうことにもなる。そう考えたら、紅にも相談出来なかった\nそんな弱さを少しでもいいから、叫びたかった。ジッとしていることも出来なくて、俺はここを目指してた\n不思議なもんだよなあ。誰かを守れる力がほしかった。だけど、手に入れられなくて悩んでいたら、そこで助けを求めてる女の子に出会えた\n俺の差し出した手を、握ってくれた。俺にも、差し伸べられる手があることを教えてくれた\nあの夜、ウルルに出会えたから、今の俺はいるんだ。もしあの時の手の感触を知らなかったら、俺はきっと、折れていた……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "自分の本当の弱さをこの子に語ってしまうのは正直、ちょっと勇気がいった。この子には、失望されたくない、そんな想いがあるから。\nだけどウルルは、そんな俺を見上げて優しく笑ってくれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……にいさまは、出会ったあの日から、頼れる男の人だったんですね",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、頼れたか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルも、正直に言っちゃいます。ここまで来たら、女は度胸、です\nウルルも、悩んでました。何をするにも一生懸命なにいさま\n優しくて、一直線に前を見続けるにいさま\nどんなに遅くても、少しずつ確実に前へと進んでいくにいさま\n……気がつけば、そんなにいさまに憧れているウルルがいました\nそれが、兄としての、家族としての憧れなのか。それとも一人の男の人としての憧れなのか……ウルルはずっと悩んでいたんです\n紅さんがいて、そしてヴェルさまやノートさま……にいさまの周りに女性が増える度、痛みを感じているウルルがいました\nだけど、やっと答えが出ました。にいさまは、出会ったあの日から今までずっと、ウルルを守ってくれる男の人でした",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルは俺を真っ直ぐに見上げながら言うと、頬を染め、恥ずかしそうに目をそらした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あの……夢での行為、覚えていますか……?オペラのアイテムで……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "えっと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今まで通り知らないフリをしていた方がいいのか。一瞬悩むものの、ウルルの言葉には何か期待のようなものを感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……覚えてるよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だから、あえて正直に答える。同時に、ウルルの顔に、恥じらいながらの笑みが浮かぶ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……あの夢はきっと、ウルルの本当の願望だったんです。にいさまと、いつの日かあんな関係になりたいって……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そしてその小さな手が、そっと俺の袖を掴んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま……あの夢での出来事を、今こそ現実に……してくれませんか……\nウ、ウルル、こんな身体ですけど、も、もう大人ですっ。にいさまにも、きっと満足してもらえるものと……胸はちょっとその……ですけど……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "現実にって、その意味分かって言ってるのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もちろんです!にいさまだから……本当に願ってるから……言ってます……\n責任とか、そういうのは考えないで下さい。これは今だけの現実です。明日になれば、きっと夢になっているはずですから……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルの目は真剣だった。遊びや冗談じゃない。本気で、これからの時間を望んでいる。ほんの一時の夢を望んでいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "結果がどうなっても構いません。ただ、ウルル様の想いには、正面から応えてあげて下さい",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんの言葉が、再び脳裏に浮かんだ。その意味を、俺は今になってようやく悟る。\n妹のような存在が、一人の女として俺を見ていてくれたという事実。その想いを、俺はどう受け止めるべきなのか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、ダメですか……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ダメなはずがない。この、ウルルという少女を好意的に思わない男なんているはずがない。一人の男としてなら、迷うこともない。なら、白鷺姫としてはどうなのか。\n断るのは簡単だ。だけど、この本気の願いを断って、俺は明日からウルルと向き合えるだろうか。逃げていいんだろうか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……本当に、俺でいいのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "違います。にいさまが、いいんです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "その言葉に、ためらいはなかった。どうやら俺の負けらしい。\nウルルの、その小さな手を、俺は再び握りしめた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 035603_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……すっかり遅くなっちゃったな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま、い~っぱいウルルのこと求めてくれましたから♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "う……い、いや、事実ではあるんですけど、改めてそう言われると非常に申し訳ないというか恥ずかしいというか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうなんですか?ウルルはすっごく嬉しかったですけど\nウルルの心も身体もお腹の中も、みんなぽっかぽかです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ごめんなさい。ちょっとハリキリすぎました……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でも、二人一緒に戻ると、ちょっと変に見られちゃうかもですね",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そうだな。俺は少し後から戻るから、ウルルは先に戻って休むといいよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。にいさま、今日は、本当に、と~っても嬉しかったです♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルは満面の笑顔でそう言うと、寮の中へと入っていった。\n一人きり。シンと静まり返った夜気の中で、ただぼーっと月を見上げる。\nその空気の中に感じる寂しさ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "昔は当たり前だったんだけどなあ、こんな空気は",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は苦笑しながら呟くと、そろそろいいだろうと、寮の中に入っていった。\nさすがにこの時間に帰ってくるというのは、あまりいい気分がしない。誰かに見つかれば、悲鳴を上げられても文句がいえない状況だろう。\nとりあえずは、このまま抜き足差し足で部屋に……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "って、待てよ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "風呂に行くところだ、とか言ってごまかすことは可能だな。俺が入れるの、どうせいつも夜中なんだし。\nそれに、わざわざ部屋に戻ってからまた降りてくるのも面倒だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よし。ついでだし、このまま風呂入ってっちゃうか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は振り返ると、そのまま風呂場へと目的地を変更した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "風呂場はまさしく戦場だった。\n丁度風呂上りだったのか、ほんのりと上気した肌を、申し訳なさそうに包む小さな上下の布。\n昼間と同様、降ろされた長い髪が、いつもと違った女性としてのオペラさんを感じさせる。\n女性特有の二つの膨らみは、男としての俺の手で掴んでしまえるほどに豊かだ。\nキュッと引き締まったウエストと、大きずぎず、けれども丸みを帯びたお尻のラインは実に理想的。\nって、何批評みたいなことしてるんだ俺は!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "し、ししし、白鷺、さま?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "い、いや、あの……\nな、なんでこんな時間にオペラさんが……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ……朝まで戻られないだろうと思ったもので……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "この人、本当にそのつもりで俺とウルルの背中押したのか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ……う……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ダメだ。こういう時こそ、何かを言わなければならない。硬直こそが最大の敵!少なくとも、紅とのハプニングで俺はそれを知ってるはずだ。\nさあ言え、俺!ここは素直に謝罪の一手だ!そしてすかさずダッシュで逃げろ!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オ、オペラさん!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はいっ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "スタイルいいですね!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ありがとう、ございます……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "って、違うだろ俺ー!この空気どうするつもりだ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "と焦りまくる俺の姿に多少落ち着きを取り戻したのか、オペラさんは小さく笑った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "も、もう、白鷺さまったら。さすがに覗きは感心できませんよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "い、いやいやいやいや!覗きじゃないです!\nこれは幸せ……じゃなくって不幸な偶然が産んだ悲しき現実というやつでっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはまあ、白鷺さまも男性ですから、女性の身体に興味を持ってもしかたない……\nといいますか、むしろ興味持たない種なし男だったりすると、竜族の将来に響くんでやばかったりしますが",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "なんか、今さらりととんでもないこと言いましたね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえいえ~。竜族の相手は人族が望ましい、なんて少しも思っていませんのでご安心を~♪\nところで、あの~……まだ満足とかはしていただけませんでしょうかぁ……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、あはははは……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "失礼しましたあー!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "白鷺姫は逃げ出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、焦った……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "猛ダッシュで、どうにか玄関の方まで戻ってきた俺。あまりの衝撃映像に、本気で思考が停止してしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……オペラさん、ほんとにスタイルよかったな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あれ、紅より大きかったんじゃないだろうか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "って、何を考えてるんだ俺はっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルさまと比べて、どう思われました?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや、なんていうか、本当に正反対で……いや、ウルルのは、あれはあれで凄いよかったんですけど……\nって、いつの間に!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかし回り込まれてしまった!?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "男性たるもの、ある程度のえっち力は必要ですけど、あんまりえっちすぎるのはダメですよ\nそ、それではその……\nし、失礼しました~",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その顔を、風呂上りのためか羞恥のためか、真っ赤に染めて走り去るオペラさん。なんだか新鮮だ。\n普段は結構平然と下ネタ言っちゃう人だけど、やっぱり自分が対象になると恥ずかしいんだなあ。\nそういえば、腕を組んだのも今日が初めて、とか言ってたなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "中身は結構乙女なんだな、オペラさん",
"speaker": "姫"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 035605_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "もらったあっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃあ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "身体全体での体当たりのような踏み込みの一撃に、さすがのノートも威力を吸収しきれず体勢を崩す。\nかわされれば、負けが確定した一か八かの賭け。どうやらその賭けに俺は勝利したみたいだ。\n俺は更に一歩踏み込むと、ノートへと一撃を……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "不意に、ガクンと俺の足が崩れ落ちた。俺はそのまま地面を転がるようにして倒れ込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あれ?なんだ、これ……足に、まったく力が入らない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "完全なオーバーワークです。二時間以上も休憩無しの全力で組み手だなんて、無茶にもほどがありますよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "普通の相手ならまだしも、ノート相手となれば動く量も、緊張もまるで違う。それは、体力の消耗も、普段とは比べものにならない……そういうことか。\n意識してしまった瞬間、足だけでなく全身から力が抜けた。俺はそのまま、地面のに大の字を描く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "結局、一本も取れず、か。悔しいなあ……最後のは、いけたと思ったのに……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ダメですよ。あれだって強引すぎます。訓練用の模造刀じゃなかったら、その前の一撃で姫くん、死んでますよぉ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "回復魔法をかけてくれながら、今にも泣き出しそうな声で言うノート。どうやら本気で心配をかけてたらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あんなの続けてたら、強くなる前に、姫くんの身体が壊れちゃいますよ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "……ごめん。でも、一秒でも早く強くならないと、俺……\n今のままだと、俺、何もできない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ごめんなさい、ヒメ……私、母様の手伝いしてくる……\n何が出来るかなんて分からないけれど、魔界の黒翼としての私の名前が役立てることがあるかもしれないから……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "授業が終わると同時、ヴェルはそう言って学園長室へと向かって行った。\n残された俺にも何かできないか。色々考えた結論は、何もできない、だった。\n少しでも強くなりたい。そんな想いからノートに特訓相手を頼み、今に至る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くんは、間違いなく強くなってきてますよ……今のままでもきっと強くなれます\nなのに、なんでそんなに急ぐんですか……?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんなノートの問いに、俺の中で一人の女の子の笑顔が浮かぶ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺さ、あの時、ただ動転するばかりで、お礼すら言えなかったんだよな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "雨の中、笑いながら、ただ俺の身を案じて消えていった、小さな少女。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんな俺に出来ることは、シャルの分まで誰かを守ることだけで……だけど、今のままじゃあ到底そんなこともできなさそうで……\nかといって、そのまま何もしないでいたら、その弱い自分に負けそうで。でも、負けたらシャルに本気で怒られるだろうからさ\n少なくとも俺は、シャルにとっての強い自分でいたい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "シャルが、守ったことを誇れるくらいに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……やっぱり、姫くんは戦ってるんだね……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "戦ってる?俺が?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん、戦ってる。ボクも、戦えるかな……ボクも……強い自分でいたいよ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートはもう充分に強いだろう?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ううん。全然。だってボクは、戦ってすらいないんだもん……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そう言って、ノートはただ小さく首を振った。そして、俺とノートの会話が止まる。\nそれからしばらくの間、どうにか動けるようになるまで、俺はこの場所でノートと二人きりだった。\nお互いに何か言いたいことがある。だけど、言えない。そんな空気の中で、ただ二人きりだった。\nそして、唐突にノートが立ち上がる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今日は、ここまでにしよう?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "優しい微笑みと共にかけられたその言葉に、俺は黙って頷いていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"ヴェル"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 036503_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "う……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ゆっくりと目を開く。なんだ、俺、どうしたんだろう……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "昨夜はお楽しみでしたね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "って、フォン!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "不意に視界に入った少女の姿に、俺は慌てて飛び起きた。\nいやちょっと待て。俺さっきまで何を……って、まさか!?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……えーっと、あの……な、何か見たりとか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヴェルさまとの行為のことを言ってるんでしたら、それはもうバッチリです\nといいますか、ああいうのは別に邪魔したりはしませんけど、せめて周囲を確認してからにして下さい。ほんとにもう\nあまりのいちゃいちゃぶりに、フォン、まだ赤面止まんないんですよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あ、あはははは……\nって、そうだ、ヴェルは!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヴェルさまなら、お友だちを止めに行きました",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そんな、一人でなんて……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "行って、どうするんです?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "慌てて立ち上がる俺の足を、フォンの言葉が縫い付ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あのノートさん相手じゃ、姫先輩にできることなんてなんにもないです。むしろお邪魔虫ですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "いや、事実ですけどもまたきつい単語で……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それに、ヴェルさまには、あの黒白の八枚羽があります。あれを完全開放すれば、今のノートさん相手にもヒケは取りません\nそれに、わざわざ言わなくっても今のヴェルさまはちゃんと分かってますよ。恨みとか憎しみとかじゃなく、あくまでも友人として止めてくれるでしょう",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "違う!違うんだ。それじゃダメなんだよ。友人として止めたら、いけないんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "以前の戦いを思い出したのか、大丈夫と言うフォンを、俺は否定する。それにフォンは不思議そうに首を傾げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ノートは、友人として止められることを望んでいない。ノートが今望んでることは、そんなことじゃないんだ\nあの時、俺に向かって言った『信じてる』は、そういう意味じゃない……\n今本当にノートを救うなら、俺が、それをやらなくちゃいけないんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ボクも、戦わなくっちゃって\n姫くん、責任取って下さいね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、そうだ。今になってはっきりと分かった。確信がある。ノートの言っていた意味。ノートが戦っているもの。ノートが俺に求めたこと。信じたこと。\nだけどさ、ノート。それはあまりに酷ってものだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺は、その酷なことを……やらなくちゃいけないんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……え……\nえっと……どういうこと、です?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あいつが、ノートが今望んでることは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……なんですか、それは!\nそんなことを望んで、あの銀月はこんな真似をしたっていうんですか!?トリアさまを殺してまで!\nそんなことしなくたって……なんで、そんな……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "みんな頑張ってた。多分、フォンの言う通りだと思う。ノートがこんなことしなくたって、きっとどうにかなった\nだけど、どうにかなるけど……今だけだ。大きな溝は残って、次に繋がってしまうかもしれない\nもしそれがあるなら、次はいつだ?十年後か?一年後か?それとも、明日か?\nノートが見ていたのは、きっとその日だ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はあ……それで、姫先輩は、それを引き受けるんですか?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ああ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うわ、即答。本当にバカなんですね、姫先輩\nはっきり言いますけど、無理です。姫先輩の力じゃ絶対に無理です。どう足掻いたって無理です。大切なことな上に確定なので三回言いました",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あ、相変わらずきついな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかも、姫先輩も間違いなく傷つきます。心も身体もすべてがです。それが分かってるはずなのに、それでも即答しちゃうわけですか?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ああ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はぁぁぁぁ……本っっっっ当に大バカですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "否定できないところが、やっぱりバカなんだろうなあ、俺",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "苦笑しながらそう答える俺に、けれどフォンは、ニッコリと笑顔を見せた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、納得しました\nヴェルさまが、あの魔界の黒翼が惹かれたのは、きっとその覚悟なんですね\nどんな時でも前に向かう覚悟。自分の心も身体も傷つくことを厭わない覚悟\n自分が守らないといけない本質を見極め、そのために傷つくことが出来る覚悟。それを守るために全力で立ち向かうことが出来る覚悟\nそれは、確かに強さです。それも、ただ自らを鍛えるだけでは得ることのできない、本当の強さ\n魔族にとっては強さがすべて。そんな強さを見せられてしまえば、ヴェルさまだって……\n今ならフォンも、惹かれてしまうかもしれません",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "屈託のない笑顔で言われるその言葉。俺の中にあるという強さ。それを、あのフォンまでが認めてくれたということ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いやでも……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "謙遜はいりません。いえ、ここは謙遜するところじゃありません。素直に胸を張っていればいいんですよ。自信を持って",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォン……そうだな、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "どういたしまして",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そうお互いが笑い合ったその瞬間――、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "学園内にいるすべての方々に、改めて通告します",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "再び、ノートの魔力通信が響き渡った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "只今より一時間後、大聖堂におきまして……\n魔族殲滅の始まりの儀式として、魔界の黒翼・ヴェル=セインの処刑を行います",
"speaker": "ノート"
}
] | [
"姫",
"フォン",
"ノート"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 046709_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "風の槍!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの手から圧縮された空気の塊が連続で解き放たれる。ただし針状の形をし、貫通能力を高めた魔法だ。竜族の気鱗にも、この魔法なら効果は期待できる。\nさすがにウルルもそれを分かっている。正面から受けずにジグザグに動きながらかわすと、アミアとの距離をつめていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今度こそ逃がしません!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルちゃん相手に接近戦はさすがに無理!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "さすがのアミアも竜族に接近戦を挑む危険さはよく分かっている。\nそもそも、姫の特訓中に、何度も組み手をしてみたが、結局一度も勝てなかった。種族間の相性と、根本的な破壊力の差だ。\nだが、広く逃げ場がいくらでもあった丘の上と、狭く行動範囲の限られるこの渡り廊下では条件がまったく違う。\n大きく横に逃げられないのを利用して、アミアは完全に中距離戦に終始していた。\nが、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "この距離、慣れてきました!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そう叫んだウルルが、一直線に走り出した。すかさず、アミアの回りに光弾が浮かぶ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヤケになったらおしまいだよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "振り下ろされたアミアの手と共に、ウルル目がけて撃ち放たれる複数の魔力弾。だが、ウルルはそれを、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "来るのが分かってるなら、耐えられるもんっ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "渾身の右パンチで、弾き返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うそぉっ!普通、素手で魔法弾弾くぅ!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "い、痛いけどガマンっ!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "涙目になりながらも、再び走り出すウルル。その距離は、もう近距離といっていい距離だった。\n固く握りしめられた拳を、そのままアミアへと打ち放つ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃあっ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その小さな身体が後ろに吹き飛ぶが、感触が固い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いったぁ……風の鎧使ってこれじゃあ、生身で当たったらお腹に穴空いてるよぉ……\nあうぅ……これ、絶対アザできるよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアは、ウルルの拳を受けたお腹をさすりつつ、痛みに顔を歪める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミアちゃんこそ、いつの間にそんな魔法を使ってたんですか、ずるいです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルちゃんとは何回も戦ってるからね。始まって早々の遠距離弾幕の中で使わせてもらっちゃいましたあ\nでも……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアはチラとオペラの方を見る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん、いいの?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ここに残ってから、オペラはまったく動いていない。ただニコニコと微笑みながら、二人の戦いを見ているだけだ。\nオペラの力量は分からないけれど、ここに参戦すれば明らかに戦況を一変させてしまうだろうことは分かる。それでも、彼女は動かない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私がここに残った理由は別にありますから。お気になさらず、お二人でくんずほぐれずどうぞ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "最後の表現はともかくだけど……それじゃあ、お言葉に甘えちゃうよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアは言うと、杖を突き出した。そしてその杖を、妙な魔力が取り巻いていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさか、レーヴァテイン!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "わたしだってバカじゃない。あれだけ負け続ければ、どうやれば勝てるか考える。だから一生懸命に探した。ウルルちゃんに、竜族に勝てる神族の奥義!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "それは、翠の輝きとなって、アミアの杖を長大な剣へと変貌させる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれは……まさか!?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "対竜族専用特化攻撃魔法、ドラゴンスレイヤー!!\n竜族に対してのみに特化させた、竜族の天敵ともいえる魔法!探すもの大変だったし、習得するのはもっと大変だった\n威力は折り紙つきだけど、その負担の大きさから使いものにならないって烙印を押されて、歴史書の中に消えた大魔法\nまだまだ未熟で未完成だけど……それでも、竜族に対する効果は絶大!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まさか、ウルルに勝つためだけに、そんな古い魔法を探し出したんですか!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "言わなかったっけ?わたしこう見えて、負けず嫌いなんだよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアが自ら地面を蹴った。そして、翠の剣を振るう。\nまだ遠い!ウルルの目にはそう映ったが、アミアの身長の倍以上はあるだろうその長剣はウルルの身体を捉え、吹っ飛ばした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃう!\nき……気鱗を、消し飛ばした……!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "一瞬だが意識が飛んだ。まるで魂そのものに打ち込まれたかのような衝撃に、全身が悲鳴を上げているのが分かる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "た、たった、一撃……ガードの上からなのに……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "言ったよ。竜族専用の魔法だって!\nあ、あはは……でも、やっぱ消耗激しいなあ、これ……も、もうあんまもたない\nだから、一気にいくよ!手加減なんかできないからねー!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "だ、だめっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "アミアは跳ぶと、今度は思い切り振り下ろす。さすがにこれをまともに食らうわけにはいかない。ウルルは痛みに引きつる身体で、どうにか横に跳んでかわした。\nそのまま地面を転がり、反動を利用して立ち上がる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さっきのが効いてるね!遅いよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "が、その目の前には、既に大魔法を構えたアミアの姿があった。\nかわそうとするものの、身体が思い通りに動かない。さっきの一撃は、思った以上に効いている。\nもしあれを無防備な状態で受けたなら、間違いなくおしまいだ。もう動けない。かわさなきゃ、そう思うものの、身体はそれに反してくずおれる。\n膝からガクンと力が抜けた。踏ん張りすらも利いてくれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わたしは、お姉ちゃんのためにも負けられないんだから!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その叫びと共に振り下ろされる翠の刃。だがその瞬間、ウルルの視界を別のものが埋めた。\nにい……さま……。\nそうだ。あの夜、自分の心を埋めてくれた、家族の温もり。犯した罪から逃げ続けた自分に差し伸べられた、あの手。あの笑顔。\n寂しさを吹き飛ばしてくれた。辛い時、悲しい時、いつもその手を差し出してくれた。\nそしてあの夜、自分の中へと注いでくれた熱い魂。ほしかったものを、すべてこの身体と心に注いでくれた。\nアミアがノートの、姉のためというのなら、自分も……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさまのために、負けられません!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……う、そ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その情景に、アミアは思わず呟いていた。\n自分が、吹き飛ばされている、その情景に。\n完全なタイミングでの一撃だった。使った魔法は、ドラゴンスレイヤー。竜族が耐えられるはずのない一撃だった。\nなのに、今は自分が、こうして吹き飛ばされている。\nそのまま地面に叩きつけられ、呆然と見上げたその先には、\n毅然と構えるウルルの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめんなさいです、アミアちゃん。ウルル、嘘をついていました\n本当なら、二度と使うつもりはなかったんです。だけど……にいさまへの想いのために、今だけ、使います",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルの構えた拳に、力が集っていくのが分かる。それは、今までとは桁の違う、ただすべてを砕くために存在する純粋な力。\nそれはまるで、本気となったヴェルやノートのような……まさしく、あの二人と並び立つ、力。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "竜界の金鱗……金竜、ウルル=カジュタの力を、今だけ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そっか、それがウルルちゃんの……金竜としての本当の力、なんだ……\nずるいなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアは苦笑すると、なんとか立ち上がる。そして、翠の剣をしっかりと構えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけど、わたしだってまだやれる!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "これが、全力!竜の息吹!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "これが最後!ドラゴンスレイヤー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ぶつかり合う二つの破壊の力。それはどちらも尋常を遙かに超える力ではあったけれど、決して互角にはならなかった。\n翠の刃が、金色の拳によって砕かれていく。\nまるで、ハンマーを薄いガラスに向かって振り下ろしたような光景。\nそれは澄んだ破壊の音を伴って、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、ダメかぁ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの心を、叩き折った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ……う……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "温かな光に包まれて、アミアはゆっくりと目を開く。痛みはなかった。むしろ、全身が痺れてなんの感覚もない。\nただ、自分が負けたんだ、ということだけはハッキリと分かる。\nそして目の前に、\nオペラの姿が見えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無理に動かないで下さいね。ダメージ、なんて言葉じゃ語れない状態ですから\n生命力の流れそのものがズタズタになって、しっちゃかめっちゃかのぐっちゃぐっちゃ状態です。ウルルさま、ちょ~っぴりやりすぎちゃいましたね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あう~……だ、だって、久し振りだったし、今の力だとどのくらいの威力になるのか全然分からなくて……\nアミアちゃんのドラゴンスレイヤー、すっごく強かったし",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "まあ、こうなることを予想して私も残ったわけですし、仕方ありません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさん……なんか、変じゃない……?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あ、これですか?オペラの秘密兵器・ラビットフォームですよ♪\n不思議に思ったことありませんか?竜族であるはずの私が、なぜ回復魔法を使えるのか",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラ、竜族の中でも特別なんです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "まあ普段でも少しくらいの回復魔法なら使えちゃいますが、こっちのうさちゃんモードだと、威力が違いますので\nこのダメージだとさすがに完治はむりですけど、リバウンド直前くらいまでかければ、動けるくらいにはなりますよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そっかぁ……オペラさんが残ったのは……わたしを助けるためだったんだ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアさまなら、ウルルさまにあの力を使わせるくらい追い込めるかと思いましたから\nですが、自業自得ですよ。あんな負担の大きい大魔法、未完成の状態で振り回して\n大体、お姉ちゃんのため、お姉ちゃんのため、って、それでアミアさまが死んだりしたら、ノートさま、発狂しますよ、本当に\nあ、むしろ人質に使う、という手もありましたね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そ、それだけは勘弁……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "と、言いたくなってしまうくらいのことをされたわけです。本当なら、みっちり三日間くらいはお説教したいところです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あはは……厳しいなあ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "力無く、けれど嬉しそうに笑うアミア。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、動けるようになったら行きましょう。にいさまたちのところへ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "うん……そうだね\nお兄ちゃん、信じていいって……任せろって、言ってくれたもん……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアは言うと、黙って空を見上げた。まるで、その空の先で戦う姫達の姿を、思い浮かべようとするかのように……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"アミア"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | 046715_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "もう十年ちょっと前になるでしょうか。ボクには、家族はいませんでした。\n神界のどこかに作られていた、それほど大きく無い研究施設。そこがボクの家で、そこがボクの世界でした。\nそこにいる、ほんの五人くらいの研究者のみんな。それがボクの知っているすべての命でした。\n完全銀髪・グランルナ。ここ数百年生まれてこない凄い神族。それがボクなんだよって教えられました。だけど、何が凄いのか、全然ピンとこなくて。\n毎日毎日、変な実験ばかりやって、よくわかんない訓練ばかりをこなしてました。\n研究所のみんなは優しかったけど、だけど何も変わらないその毎日に、ボクは諦めを感じてました。多分、これがずっと続くんだって。\nだけど……だけど、その日、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ルアン=ルゥム。あなたの、お母さんなんですよ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "知らない女の人に、突然そんなことを言われたんです。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お母さん……?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はい。お母さんですよ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "お母さんって、血の繋がってる、家族っていう人たちのことですよね?でも、ボク、そんな人たちはいないって……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ううん。ちゃんといますよ、ここに。ほら、妹だって",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "とっても綺麗な女の人でした。そしてその女の人の後ろから、とっても可愛い女の子が、ぴょこんって姿を見せたんです。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "この人が、わたしのおねーちゃん?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ええ。ノートちゃん。アミアちゃんのお姉さんですよ\nノートちゃん。この子はアミアちゃん。ノートちゃんの妹。可愛がってあげてね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "いもう……と?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "急にそんなこと言われても、なんにも分かりませんでした。お母さんってなに?妹って?家族ってなに?\nボクにとっては、ボクの知らないかった人たちがいきなり現われただけ。それだけでしかなかったんです。\nだけど、その女の子はボクの前に出てくると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おねーちゃん、きれい",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そう言って、ニッコリと笑ってくれました。\nなんでだろう、分かりません。分からないけれど、分からなかったけれど……\nその笑顔を見て、ボクは自然と笑っていました。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめんね。お腹を痛めてはあげられなかったけど、でも、あなたは私の血を、ちゃんと継いでくれてるの\n本当は、もっと早くそうするべきだったんだけど……ごめんね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "おかーさん。おねーちゃん、今日から一緒に暮らせるの?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ええ。今日から……ううん。ずっとずっとずーっと前から、ノートちゃんは家族だったんですから",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "えへへー。あみあ、だよ。おねーちゃん、よろしくね♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミア……アミ、ちゃん……?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それにね、アミアちゃん。ノートちゃんは、私たちを守ってくれるために生まれた、とってもすごい子なんですよ\nだから、ノートちゃん。あなたも、もっと胸を張ってね\nあなたが私達の家族でいてくれる。それだけが、今はとっても嬉しい……",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "本当に嬉しそうに笑って、その人はそう言った。\n胸の奥が、なんだかとってもあったかくって。なんだかとってもドキドキした。\nあまりに突然すぎて、何がなんだか分からなかったけど……、\nそれでもこの日、ボクは知りました。\nボクにも、家族がいたっていうこと。守りたいって思う人のこと。\nだからこの日が、ボクの始まり。ノート=ルゥムの始まりの日。\nこの日のことがこの胸の中に残っているかぎり、ボクはきっと戦える。戦って、絶対に勝てる。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルアン",
"ノート",
"アミア"
] | 03_Tiny Dungeon BaW | P04_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ああ……癒される……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "祝勝会は、俺が思っていたよりも遙かに豪勢だった。とてもじゃないけど食べ切れないほどの料理と一緒に、みんな心から喜んでくれていたのがやっぱり嬉しい。\nこの世界で、あんな風に勝利を祝ってもらえるなんて思ってもいなかっただけに照れくさいものがあったけど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。みんなに感謝しないと。\nどこか元気なさげに見えたヴェルも元気に食べてたし。よかったよかった。なんだかやけ食いっぽくも見えたけど……。\nそうして、そんな祝勝会も終わった夜更け。俺は全身の疲れと汗を流すべく、こうして大浴場に訪れている。\n気分的に昂揚していたせいか、あまり疲れた印象はなかったんだけど、こうして風呂で一息つくとやっぱり分かる。全身ボロボロだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "しっかり疲れ取らないと、明日も学園あるんだしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですよ、にいさま。あれだけの戦いをしたんです、疲れてないはずないんですから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "どうせなら、疲れてボロボロだから今夜は同じベッドで介抱してくれないか、くらいヴェルさまあたりに言う甲斐性は欲しいところですけれど、まあ、白鷺さまですしね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやいや、男としてそれはどうかと。さすがに卑怯じゃないですか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんなことはありません。女性だって、好きな男性に対する欲望というものはあるんですから。まったくもうこの鈍感男は",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そ、そういうものなんですか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。ウルルも、にいさまに頭なでなでしてほしいって思っちゃう時がありますから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "お聞きになりましたか、白鷺さま。この純粋なる想い。これこそ女性が抱く欲望というものです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやあんた、さっき明らかに違う方向性で言ってたろう\nって、なんでウルルとオペラさんの声が聞こえる!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはもちろん、真後ろにいますから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "お風呂だと声もよく通りますし",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そういう問題じゃないと思うのは俺の感性がおかしいんでしょうか……\nって、本当に!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "慌てて振り返った俺の目の前に、麗しき二人の少女……麗しき二人の女性が水着姿で現われる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白鷺さま、今なぜに表現を変えました?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやその……なんというか俺の正義といいますか、俺の中枢といいますかが許さなかったといいますか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほほーう♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いえ!竜族はみなさん寿命が長いので、言い回し的に失礼かなー、と思った次第です!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "っちぇー。久し振りに滾れるかと思いましたのにー",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや、笑顔で言うセリフじゃないですからね、それ。オペラさん\nそもそも、なんで二人がここにっ。今はもう、俺が入っていい時間ですよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "とはいえ、女性が入ってはいけない時間、というわけではありませんから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや、その通りではありますけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "疲れを癒すには、お風呂でマッサージだってオペラが言っていました!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "えっ……マッサージ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。今日はにいさま、と~ってもお疲れだと思うんです。ですから、少しでもウルルが力になれればなって",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "湯船につかりほぐれた身体を入念なマッサージにて……ああ、あの感動!快楽!快感!それはもう、まさしく天国!!\nというわけで、白鷺さまを癒しにまいりました。ウルルさま、や~っておしまい!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あらほらがってんだあ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "にこやかな笑顔で、俺を湯船から引きずり出そうと手を伸ばすウルル。\nだが待ってほしい。湯船に浸かっているということは、今の俺は裸なわけだ。それが湯船の外に出ればはたしてどういうことになるのか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわああ!ま、待ったウルル!お、お気になさらず!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "白鷺さま、可愛い少女の好意は素直に受けるものですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "せめてそのニンマリ笑顔をやめてえ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オペラさんの号令のもと、ウルルは俺を強引に湯船から引きずり出す。単純な力で竜族に対抗できる人間なんてそうはいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "なんとぉ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え、えっと、あの、にいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "は、はわわわわわわわっ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そ、それ、なんですか……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "うわっ、うわっ、うわぁっ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "さて問題です。今の俺はどういう状況になっているでしょう。\n正解。ウルルによって引きずり出され、ほとんど大の字に床に寝っ転がっています。\nええ、当然ながらタオルなんてものはかかっておりません。\n……しかも疲れ切っていたところに二人のとんでもない水着姿ということもあってか、それは普通に怒張していた。\n……本当にどういうイジメですか、これは……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これが、男の人なの、オペラ……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いえ、あの、そのぉ……お、思っていたよりも随分でんじゃらすと申しますかぁ……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "女の子がじっくり見るようなものじゃありませんっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すかさず隠そうと、俺は目の前にかけてあったタオルを慌てて手に取る。が、当然ながら時既に遅し。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーっと……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その目には、しっかりと俺が焼き付いてしまったようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オ、オペラ……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "こ、こういう時はその……あの……だから……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんのその顔が、羞恥で真っ赤に染まっていく。オペラさんのこんな表情は正直珍しい。\nそして、その表情が、俺に色々なものを想像させてしまったわけで……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "に、にいさまの、なんだかおっきくなって……\nは、はわわ~!す、凄いです、こ、これっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ごめんなさい。俺、やっぱり正常な男の子です。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃああああああああああああああああああああああ!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "次の瞬間、オペラさんはまさに絹を引き裂くような悲鳴をあげると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え、オ、オペラ!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルの手を掴んで、全速力で逃げ出していった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーっと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "途端に静まりかえる大浴場。どこかの水滴が落ちる音だけが、妙に高く響き渡った。\nとにかく、だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "し、静まれ俺……静まってくれ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "『あの』オペラさんの、あまりに衝撃的な初々しすぎる女性としての姿は、当分俺の中から消えてくれそうにない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ていうか……本気でバッチリ見られてしまったわけなんですけども……",
"speaker": "姫"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 012403_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "雨は随分前にやんでいた。ようやく仕事も終わり、誰もいない学園を昇降口へと向かって二人で歩く。\n思っていた以上に遅くなってしまった。寮に着く頃には、みんなもう寝てしまっているだろうか。そんなことを考えると、自然と足も早くなってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はふぅ……お腹空きましたぁ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルさま、今日はとっても頑張りました。ご褒美に、明日のデザート三割増しにしちゃいます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ほんと!?わ~い、楽しみ~♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ニコニコ笑顔を浮かべて歩く二人。が、不意にその足が止まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ウルルさま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "うん、分かってる。いるよね……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルさま、気をつけて下さい。この気配、どこか妙です……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "背中を合わせ、周囲の気配を探っていく二人。姿は見えないけれど、間違いない。誰かがこのすぐ近くにいる。\nどんな動きにもすぐに対応できるよう身体を沈め、わずかな動きも察知できるよう、意識の輪を広げる。こんな時間にこんな場所で身を隠している者が真っ当なはずがない。\n息がつまるような数分間の気配による攻防。静まりかえった空間の中、ゆっくりと流れ落ちていく汗。それをウルルがそっと拭った瞬間、気配が爆発した。\n誰もいなかったはずの空間に人影が生まれる。次の瞬間、人影はウルルの眼前へと移動していた。そのまま迫る拳に、ウルルは反応できない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "させません!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "が、その間に強引に身体を割り込ませ、オペラがその一撃を受け止める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "大丈夫です。それよりも今は気を抜かずに",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "黒いローブをまとい、フードで顔を隠した正体不明の人物。眼前に立つその存在を、オペラは睨み付ける。\nウルルのレベルは決して低くない。けれどそれが一瞬の虚をつかれ、反応すらできなかった。その口元には、確かな笑みが浮かんでいる。\nこいつは危険だ。オペラの中で、その本能が激しく赤いサイレンを掻き鳴らしている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "少し急いだのが裏目に出ちゃったみたいですね",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "ローブの人物の口から声がこぼれる。それは、まだ若い女性の声だ。恐らくは、ヴェルやノートや紅と、ほぼ同じくらいの……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさかこんなところで遭遇しちゃうなんて、やっぱり悪いことはできないものですね",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "あなたは何者ですか。どうやって学園内に潜入を?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "えーと、さすがに正体の方はまだ言えないんですけれど、潜入方法に関してはですね、頑張って正面から\nさすがは噂に名高きトリニティ、ですよね。セキュリティをかいくぐるの、苦労しちゃいました",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "この状態で少しも動じることなく、むしろ楽しげですらある。オペラの背中を冷たいものが降りていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "この際、学園に潜入したことについては問いません。どうでもいいです\nですが、ウルルさまにこの拳を向けたことが見逃せません。謝罪していただきます!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "えーと……そうですね。人に危害を加えようとしたわけですから、やっぱりそれは必要です",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "ローブの人物は普通に手を引っ込めると、その場で深く頭を下げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめんなさい。ちょっと驚かして逃げていただくだけのつもりだったんですけど、さすがに竜族の王女さま相手では無理そうだったので\n少し本気になっちゃいました",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "あまりにあっさりすぎる謝罪に、むしろウルル達の方が言葉を失ってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、さすがですね。オペラ=ハウスさん。元竜族特殊部隊長の肩書きは伊達じゃあないということでしょうか\n滅界戦争中、あらゆる裏の任務を引き受け、その達成率はおよそ8割。竜族における陰の切り札",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "間違ってませんよね、と確認するかのように言うローブに対し、オペラは驚きの表情を見せるものの、それも一瞬。すぐに笑顔に変わる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その肩書きはとっくに捨てました。今の私はウルルさま直属の竜従長。ただのメイドさんですよ\nとはいえ、その肩書きを知っているということは滅界戦争経験者ですか。もっと若い方に見えたんですけども",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "よく言われます。まあ、経験者とは少し違いますが、色々と必要のないことを知っているのは間違いないですね\nあ、すみません。ちょっと長話になっちゃったみたいです\nでも、ここでオペラさんに出会ってしまうということは、それがこの扉における運命みたいですね\nやっぱり、この扉での魔界の剣は諦めた方がいいみたいです",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "残念です、と溜息をつく潜入者に、オペラの目が静かに細まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……あなたの目的はいったいなんです……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そうですね……あんまり詳しく言っちゃうわけにはいかないんですけど、とりあえずは生き残ること、かな\nそれじゃあ、今夜はこれで失礼します。ウルルちゃんも、オペラさんも、有意義な夜をありがとうございました",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "一方的に別れの挨拶を押しつけて、頭を下げるローブ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラ、逃がしちゃダメ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "はい、ウルルさま!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ウルルの言葉に押し出されるように、一気に踏み込むオペラ。が、その伸ばした手が意思に反して空中で止まる。\n手を出しちゃいけない。今手を出せば、自分はおろかウルルにすらも被害が及ぶ。そんな明確な予感が身体を貫く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "本当に、さすがですね",
"speaker": "ローブの人物"
},
{
"utterance": "ローブはそう言って微笑むと、動けないオペラをそのままに、悠然と立ち去っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラ?どうして……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "あんな感覚は、滅界戦争以来です……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その答えに、ウルルは何も言えなくなる。オペラの口から、こんな言葉が出る相手。それがどれほどのものかはよく分かっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……そんなに危険なんだ、あの人",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "はい。正体も目的もその強さすらもよく分からないこんちくしょうな輩ではありましたが、それだけは間違いありません\nただまあ、知っている情報に関しては少しばかり修正の必要を訴えたいところではありますけれど",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "修正って、どこか間違ってたっけ?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "それはもう。なんといっても、私の任務達成率は、8割でなく9割ですから",
"speaker": "オペラ"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"ローブの人物"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 012702_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "予想以上に俺は憔悴していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えへへ。いいのが買えました♪",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "お姉ちゃんなら、もうちょっと派手なのでいいと思うんだけどなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ボ、ボク、これ以上派手にしたら、恥ずかしくて死んじゃいますっ\nアミちゃんの方こそ、あんなに恥ずかしそうなのばっかり選ぼうとして、ダメですよっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いやー、やっぱり肌色率は少しでも高い方がお兄ちゃんも喜んでくれるかなーと",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういうセリフは、もう少し出るべきところが出てから言ってくれ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふーん。そんなことを言っていいのかな、お兄ちゃん。わたし、こう見えて成長期なんだから",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "……アミア。未来っていうのはな、時として何よりも残酷になるものなんだぞ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うわ、速攻否定!?お姉ちゃん!そこ、ハンカチで涙拭かなーい!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ノートとアミア、二人の水着をどうにか購入した帰り道。俺は本気で憔悴していた。\n女性だらけの店内。ただでさえ珍しい人族の男という存在に対し、連れているのは神族の王女二人。どっちも抜群の容姿の持ち主。\nそりゃあ、注目されるな、っていうのが無理というものだろう。\nしかもノートは、このスタイルだ。店内の女性の視線を実に独り占め状態。そして、そこを煽るアミア。\n実際のところ、下着選びを手伝ってるのとほとんど変わらないもんなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、二人とも気に入った水着が見つかったみたいでよかったけれど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、ありがとうございます。水着買うのって、いつも悩んじゃうんですよね。去年買った時も、お店で三時間くらい悩んじゃいました",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あれ?去年買ったのに今年も買ったの?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな俺の質問に、ノートの顔がぼんっ、と赤く染まった。\n確か流行が大きく変わった、なんていう話は出てなかったと思うんだけど。水着って、そんな安いものじゃないし毎年買ってたら結構大変なんじゃないか?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お姉ちゃん、まだまだ成長期だもんねえ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃんっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "成長期って……あっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そこで俺もようやく理解する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その……き、去年よりまた大きくなっちゃったみたいで……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "真っ赤になりながら、両手でそっと胸を抱きしめるように隠すノート。これでまだ育ってるわけですか、この姫さまは……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほんと、お姉ちゃんおっきすぎだよねえ。わたしと同じもの食べてるはずなのになあ\nほら、お兄ちゃんも",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ちょっと拗ねたような口調で言うアミア。それと同時、ノートの後ろから伸びてきたアミアの手が俺を手を掴んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、おい。アミア?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そしてそのまま、俺の手にノートの豊かなそれを埋めさせる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あまりに自然な流れに、俺もノートもどうしていいか分からなかった。\nただ俺の手の中で、温かい弾力が確かな存在感を持って揺れている。\nそれは、ビックリするくらいに柔らかかった。そして、男である俺の手にすら収まりきらないほどに大きい。\n沈み込む俺の指に伝わる適度な弾力。そして、手のひらの中心に当たる、何か異質な物体。\nその感触は、紛れもなく気持ちいい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "は、はううぅ…………",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そして、ようやくその状況を把握したのか、ノートの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。\n恥ずかしさからか、その体が小さく震え、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃあああああああぁぁぁぁぁ!!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートは、全力で悲鳴をあげた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ア、アミア、手を離せ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その声に、ようやく俺も自分を取り戻す。が、手は相変わらずアミアによってノートの胸に押さえつけられたままだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、お姉ちゃんったら相変わらず照れやさんだなあ。ほんとは嬉しいくせに",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃあああああんんっ!!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "アミア、これやばいから!人見てるし、来てる!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それじゃあ、今日のサービスはここまでだね。続きはまた今度",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そ、そそそそういうのは自分の身体でやってくださいっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "わたしは別に構わないけど、お姉ちゃんいいの?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?\n…………し、知りませんっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "真っ赤なままの顔を、プイ、と逸らしてしまうノート。えーっと、これどう捉えればいいんでしょうか。\n……ほんと柔らかかったな……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"アミア"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 012803_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "後で部屋の方に来てほしい。寮へと戻ってきてからの別れ際、ノートが俺に残した言葉。\n理由は分からないけれど、ノートの頼み事なんて珍しい。特に用事があるわけでなし、俺はその願いに応えるべくノートの部屋へとやってきていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ノート?俺だけど入っていいか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "姫くんですか?ど、どうぞっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "妙に慌ててる感じのするノートの声に首を傾げつつ、俺は扉の取っ手を握り締めた。\nよく考えてみれば、あのノートの部屋に入るんだよな。これって結構凄いことなんじゃないだろうか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……え、えへ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "えーと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は目の前の光景に、何を言っていいのかさっぱり分からなくなる。\nこめかみへと人差し指をあてながら、自分に問う。これはなんだ。俺は今、何を試されている?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その、ノート?これはいったいどういう状況で……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "部屋の中に一人佇む美少女。ここまではいい、問題ない。けれどその美少女が、なぜに水着姿なのかが分からない。\nこれからグラビア写真でも撮ろうというわけじゃないよなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "や、やっぱりおかしい、ですか?この水着……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、水着がおかしいとかじゃなくって……むしろ水着はよく似合ってて視線の置き所に困ってしまうレベルなんだけれど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほ、ほんとですか!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "俺の言葉に、ずずいっ、と勢いよく顔を近づけてくるノート。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?あ、はい。それはもう本当に……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへへ……よかったです……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そして、ちょっと恥じらいながらも、嬉しそうな笑みを浮かべた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーっと……ノート?これっていったい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ、あの……ちゃんと着てる状態で見てもらってなかったので、実際に着てみたらどうか見てほしいなって……\nす、すみませんすみませんすみません!姫くんも色々予定があるのに、こんな理由で!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ぺこぺこと凄い勢いで頭を下げまくるノート。その姿が妙に可愛らしくて、俺も思わず噴き出してしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、別に怒ってるわけじゃないって\nただ、部屋に入ったら水着姿のノートっていうのがあまりに予想外すぎたんで驚いただけで。謝る必要なんかないよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "で、でもでも……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "むしろ、一足早くこんな目の保養をさせてもらえたんだし、お礼を言うレベルかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言いながら、わざとらしくノートの水着姿を観察させてもらう。こうして見てもやっぱりスタイルいいなあ、ノート。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、そんなにじっくりと見られると……あの、は、恥ずかしいです……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ごめんごめん。でも本当に似合ってると思うよ。その、どこを見ていればいいのか困っちゃうぐらいに",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "す、すみません。そうですよね、姫くん男の子なんですし……と、とりあえずお茶淹れますね。ここ……ベッドの上にでも座っていて下さい",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そう言って、顔を赤らめたままキッチンの方へ向かうノート。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "って、水着のまま!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、あの、何か変、ですか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、変かと聞かれれば間違いなく変なわけだけど、ノート的にそれでいいというなら、俺も受け入れるのはやぶさかではないわけで……男としては嬉しいし……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。それじゃあ、姫くんがいいって言うなら、このままで",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "……なんていうか、今はっきり分かった。ノートは純粋培養されてたせいなのかは知らないけれど、やっぱり色々と凄い子だ。\nまあ、それがマイナスではなくて可愛いって感じられてしまうところが、ノートっていう子の恐ろしいところなんだろうなあ。\nノートは俺の言葉通りに水着姿のままで、お茶の準備に行ってしまった。\nさてさて、と。ちょっと用事があるから、とか珍しくお姉ちゃんが言うんで一人でお風呂に行ってきたわけですが、やっぱ様子変だったよね。なにしてるんだろ。\nというわけで、こっそりと覗いてみたいと思うわけですが……ま、まさかえっちなこととかしてないよね……。\nわたしは、扉をすこぉしだけ開けると、中の様子を窺った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、そんなにじっくりと見られると……あの、は、恥ずかしいです……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "って、お姉ちゃん水着!?しかもお兄ちゃんがいる!?\nあまりに予想外の展開に、わたしは頭の中で状況を整理。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど……つまりお姉ちゃんは、お兄ちゃんに水着姿の自分を披露するために一人残ったと。二人っきりで会うために、と\nほほ~う……これはこれは……\n濡れる!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ああもうほんとに可愛いなあお姉ちゃんたらぁ。言ってくれれば最初っから二人っきりにしてあげるのに。\nまさか、ここまでお兄ちゃんにらぶらぶちゅっちゅなんて。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわっ!水着姿のまんまお兄ちゃんの隣座った!こいつは凄いよ!\nあー、真っ赤になって俯いちゃったお姉ちゃん、らぶりー!ぷりちー!きゅーてぃー!\nああもう、お兄ちゃんったら!そこで肩に手を回すくらいはしなきゃダメだっつーに!\nうわ!うわ!うわ!うわ!いけ!頑張れお姉ちゃん!作ってしまえばこっちの勝ちだ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そう、この時のわたしはあまりに興奮しすぎて気付いていなかったんです。この恐るべき罠に。\nまさか……。\nまさか……興奮しすぎたわたしの重さで、扉が開いてしまうなんて。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あいたたたぁ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "えーっと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃん!?な、なんでここに!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "……あれ?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "それはあまりに突然だった。\n入り口の扉がいきなり開き、それと同時にアミアが床へと倒れ込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーっと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃん!?な、なんでここに!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "……あれ?\nえーっと、その、うん。お風呂上がったから戻ってきましたあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "で、覗いてた、と",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お、お兄ちゃん、相変わらずの鋭さで……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あうっ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "今までの行為を見られていたと知って、ノートの顔がぼん、と赤くなる。いやまあ、やましいことをしていたわけではないけれど、雰囲気的にねえ?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いやあ、お姉ちゃんがとっても幸せそうな雰囲気だったもんで出て行くに行けず",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まあ、見てたなら分かってるとは思うけれど、別に変なことはしてないぞ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほんとだよね。なんでしないの、お兄ちゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?俺怒られてる?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃあん!!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あの空気、雰囲気だよ!少しくらい手を出したって、恥ずかしそうに笑って許してくれるに決まってるじゃん。お姉ちゃんに恥かかせるとか、ほんとありえないよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え、いや、その……ごめんなさい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ああああ謝らないでくださぁい。べ、べべべ別に、ほんとに、そういうつもりだったんじゃないんですっ。ただ、姫くんと一緒だと落ち着くし、楽しいし、で……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "でも、肩くらいは抱いてほしかったよねー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミちゃん!ちょっとそこに座りなさーい!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そういうわけだから、お兄ちゃん!ちゃんと男見せるんだよ!\nわたし、ウルルちゃんのところで遊んでくるから。二時間くらい!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そう笑顔で言い残し、アミアは部屋を飛び出していった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こらぁ!逃げないの、アミちゃん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なんていうか、ほんとアミアはアミアだなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あうぅ……すみません。騒がしいアミちゃんで……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、明るくていい子だよな。そこにいてくれるだけで楽しくなるし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。とっても可愛い妹です",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "微笑みながら、誇らしげに言うノート。この姉妹は本当にいい姉妹だよな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でもまあ、その……さすがに肩に手を回したりは厳しいので……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、照れ隠しに顔を背けつつ、そっとノートの手を取った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ……そ、その、ボクの手、剣を振ってるからカチカチで……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうだな。剣士の手だ。だけど、それだけでもないよ。小さくて、温かくて、それにちゃんと柔らかいところは柔らかい\n尊敬する剣士の手と、可愛らしいノートの手と、両方が混じってる。この手、好きだよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "姫くん……そう言ってもらえて嬉しいです。とっても……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "今度はノートが、俺の手を握り返してくる。ぎゅっと、強く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くんの手は、固くて、大きくて、それに頼りがいがあって……素敵な手です。剣士としてすっごく頑張ってるのが伝わってきて",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "二人きりの部屋。水着姿の美少女とベッドの上に座って互いに手を握り合い、こうして見つめ合っている。\nそれは想像すると少しおかしくて、だけどとっても素敵な光景に思えた。\n俺達はそれから一時間ほど手を握り締め合ったまま会話をし、そして少し後ろ髪を引かれながらその素敵な光景を終わりにした。\nノート=ルゥム、か。やっぱり可愛い子だよな。外見はもちろん、その中も。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"アミア"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 012805_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "入るわよ、母様!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "中からの返答も待たずに、ヴェルは勢いよく扉を開け放つとそのまま部屋に乗り込んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんだ、ヴェルに婿殿じゃないか。二人でということは、婚姻の報告にでも来たのか?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "え?あの……えへへ、実はそうなの♪私もついにヒメに捧げる日が来たのよね\nちょっと怖いけど……う、うん。ヒメだもん、平気……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや、ヴェルさん?どこ行ってらっしゃいます、あなた?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、あのね、ヒメ……ヒメが願うのならなんだって受け入れるつもりなんだけど、その……さ、最初の時だけは優しくお願い……\nヒメとの初めての思い出……大切にしたいから……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや婿殿。見ての通り色々とおバカで扱いにくい娘だとは思うが、よろしく頼んだぞ。これでも可愛い娘なんでな、幸せにしてやってくれ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "母様……うん。私幸せになる",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "……あの、俺はどういう行動をとればいいんですか、この場合",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、そのまま本気で結婚してくれても構わんぞ。ヴェルがそれを望んでいるわけだしな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ヒメ……私、ヒメのご両親にご挨拶行きたいな……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "と思っていたんだが……さすがにこれはないな。我が娘ながらちょっと愉快すぎるだろう、これは\nほら、目を覚ませ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアさんは、履いていた靴を脱ぐと、ぽこん、とヴェルの頭をはたいた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃんっ。て、え?あれ?\n私、ヒメと五人目の孫と一緒に旅行中だったはずなんだけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェル、お前あの一瞬でどこまで妄想を進めてるんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、婿殿と一緒のヴェルは、本当に可愛いねえ。あの暗かった子がここまでキテレツに。たまらんナリよ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ニマニマ笑いながら言う学園長の言葉に、ヴェルはようやく自分が夢を見ていたことを悟ったらしい。たちまちその顔が真っ赤に染まる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひ、卑怯よ母様!ヒメの話題で私をはめるなんて!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いえ、ヴェルさん。あなたが自分から堕ちたんです。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、実にいいものを見せてもらった。今ならお母さん、どんな願いも聞いちゃいそうだぞ。具体的には成績の改ざんとか",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "さらりととんでもないこと言わないで下さい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふ。私の罠にはまってくれて嬉しいわ、母様。それじゃあ聞かせてもらおうかしら",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あー、ヴェルちゃんや。ごまかすにしても、顔真っ赤にして必死に恥じらい堪えてたら意味ないぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "う、うるさいわね!いいから答えなさいっ。魔界の剣ってなんのことよ!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "知らん",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "……また即答ですね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんといってもほんとに知らんからねえ。そうとしか答えようがなかろう?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "けれど、それが賊の狙いである可能性が高いのよ。何かがあるからこそ侵入してきたんでしょ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "間違った情報を入手したのか、それとも何かの暗号なのか。恐らくはそんなところだとは思うがねえ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "仮にそうだとしても、また侵入してくる可能性は充分あるんじゃないですか?それが何を意味するのか知っておくのは重要だと思いますけれど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それに関しては安心していい。既に手は打ったよ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "打ったって、何をしたのよ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まあ、すぐに分かるさ。にしても、いきなり飛び込んできて何かと思えばのう。お母さん悲しい",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ノートやウルルを連れてこなかったことには感謝してほしいわね。種族問題にはならないように、これでも気を遣ってるんだから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "人族の婿殿はいいのかい?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ヒメはいいのよ。だって、将来的には……だもん……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まったく、お前の頭の中は常にそれだねえ。苦労かけてすまんな、婿殿",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "いえ、むしろ助けられてますから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう言ってくれると実に助かる。早くもらってやってくれ\nとりあえず話は終わりか?ならウチは仕事に戻らせてもらうぞ。ただでさえ忙しいというのに、賊のおかげで更に仕事が増えててな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "結局、大した話を聞くこともできずに、俺達は追い出されてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ねえヒメはどう思う……?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "正直、怪しいと思う。いくらなんでも即答すぎた。まるでこっちの質問を予想してたみたいに、ね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっぱりそうよね。手は打ったとか言ってたけど、本当に何したのかしら。嫌な予感しかしないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "その考えには激しく同意だ。これ以上やっかいなことにならないといいけどなあ。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"トリア",
"ヴェル"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 012903_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "話し合いで互いの合意の上とはいえ、やはり女の子の部屋に入るというのは緊張するものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、到着です!ウルルとオペラの部屋にようこそー",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ようこそー",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "おじゃまします……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "控えめにそう言いながら招かれるままに部屋に入る。内装に変化があるわけでは無いため、表面上は見慣れたいつもの部屋だ。\nしかし、やっぱり自分の部屋に無い小物やぬいぐるみなんかを見ると、否応無く自分の部屋では無い事を意識させられてしまう。どうにも落ち着かない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おじゃましますなんて、他人行儀ですよにいさま!元の部屋が直るまでとはいえ、今日からここはにいさまの部屋なんですから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そうです、男たるものもっと堂々としていなくてはダメですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "逆にウルルとオペラさんは、いつも以上にテンションが高いように感じる。特にウルルは子供のようにはしゃいでいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "楽しそうだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?えへへぇ……だってにいさまと同室なんて、なんだか本当の兄妹みたいじゃないですか、そう思ったらつい",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "心から嬉しいという気持ち伝わってくるウルルの笑顔を見てると、なんだか緊張してるのが馬鹿らしくなってきた。\nそうだな。元々ウルルとは兄妹みたいに接してきたんだ、良く考えてみれば今更かも知れない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "確かに、今更他人行儀だったかもな。これからしばらくの間だけど、よろしくウルル。もちろんオペラさん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "はい、こちらこそ宜しくお願いします",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "色々あった結果とはいえ、ウルルと同じ部屋になったのはあながち悪くないかも知れない。そう考えて思わず微笑んだところで、オペラさんがにこやかに口を開く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それではまず重要な事を決めなければなりませんね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?なんですか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい?何を決めるの?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ずばり!今晩白鷺さまが眠るベッドです!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふぇ!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺の中に生まれた温かいものを、たった一言で見事粉々に打ち砕いてくれたオペラさん。俺達は完全に固まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、お選びください白鷺さま!今晩のベッドはウルルさまにしますか?オペラにしますか?それともふ・た・り・と・も?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやいやいやいや!なにいきなり言い出してるんですか!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あら、大事なことじゃないですか。ねえウルルさま?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "に、にいさまがウルルのベッドに……そ、それってつまり……きゃー!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "何を想像したのか顔を真っ赤にしてうずくまってしまうウルル。それを見て、俺も思わず妙な事を意識してしまう。顔が一気に熱くなっていくのが分かった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、お二人とも初々しいです……特にウルルさまの恥らいったらもう!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "前言撤回。ウルルはともかく、オペラさんと同室になった瞬間に俺の平和は終わりを告げたのだということを、俺は今更ながらに思い知った。\n結局、紆余曲折あった話し合いの末、俺はオペラさんのベッドを借りる事になり、ウルルとオペラさんがウルルのベッドで添い寝という形に落ち着いた。\n最初は俺は床で寝ると主張したが、ウルルに猛反対され却下となった。何でも床で寝て風邪でも引いたら大変だし、なにより床に寝たんじゃ疲れがとれないと。\nそう決まった頃には、もう結構な時間だったので、今日のところは風呂に入って寝てしまおうという事で意見は一致。\n俺も時間を見計らって風呂に入り、今はウルル達の部屋に戻ろうとしている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "入って大丈夫か?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、はい、大丈夫ですよー",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "念のため部屋の前でノックしてみたところ、元気のいい声が帰ってきた。俺は安心して扉を開ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "思ってたより長風呂なんですね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いえ、実は風呂の中でうとう……って、えええええ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ん?どうしたんですか、にいさま?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、どうしたも何もウルルさん、あなたなんて格好をしているんですか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ど、どうしたんだウルルその格好……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?別にいつも通りの格好ですよ?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そ、それがいつも通りなのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "半信半疑といった感じで視線でオペラさんに尋ねると、オペラさんはいつも通りにっこり笑いながら頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、ウルルさまは大体寝る時はこの格好です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "さいですか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、別にそれが悪いというわけではないんですけれど、なんといいますか非常に目のやり場に困る格好ではあるわけでして……。\nあれ、でもこのYシャツどこかで見た事があるような?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、気がつきました?実はこれ昔にいさまにもらったものなんですよ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルにそう言われ、頭を捻って過去の記憶を掘り起こす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、確か小さくなって捨てようとした時に、もったいないからって……もしかして、その時の?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、その通りです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "なるほど。渡した時は一体何に使うかと思っていたけれど、まさかこんな形でリサイクルされていようとは。\nしかしそうなると、ウルルにこの格好をさせている最大の元凶は俺、ということになってしまうような。\nいや、ちょっと待て納得しないで考えろ俺。部屋にはもう一人、ウルルにこういった事を吹き込む方がいらっしゃったはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあ~やっぱりウルルさま最高です~",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あの、つかの事をお聞きしますが、もしやウルルにこの使い方を教えたのは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "サイズの合わないぶかぶかYシャツと小柄なウルルさまの身体、なればやる事は一つしかないではないですか!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "やっぱりあんたが元凶か!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、はい、オペラにこの使い方を教えてもらいました",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だってYシャツですよ、だぼだぼですよ!?もうそれだけで眠れぬ夜が続いてしまいそうです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "本当にこの人は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "目をきらきらと輝かせながらウルルを抱きしめるオペラさん。それを見ながら、俺は心に固く誓った。\n今後ウルルに何かを渡す時は、必ずその用途を確認しよう。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 023408_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "さて、いきまいて出てきたはいいけど、学園っていっても広いからな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "とりあえず中庭に来てはみたものの、敷地面積的にも建造物の複雑さ的にも、この学園は人一人を探すには広すぎる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まずはフォンさんを見つけるのが大変だよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "しかもウルルちゃんに鉢合わせする危険もありますし。思ったより難しそうですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ちなみに、紅とヴェルは別行動をとってもらっている。さすがに全員でぞろぞろ移動しては目立ってしまうし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず、どこか適当に当たりをつけて探してみよ……って、二人とも隠れろ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あっ!アミちゃんこっち!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "わきゃっ!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "とりあえず校舎に入ろうとしたところで遠目からでも目立つ真紅の髪が目に映り、慌ててノートと中庭の草陰に隠れる。\n一瞬反応が遅れたアミアはノートに襟首をつかまれて強引に草むらへ放りこまれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うぅ、酷いよお姉ちゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ご、ごめんね。咄嗟だったからつい力が入っちゃって",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "どうやら気付かれなかったみたいだな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "かなり距離が離れていた事と、丁度校舎から出てきた直後だった事もあってか、向こうがこちらを向く前に草むらへと飛び込めた。\nこれから暫く隠密行動でフォンの後をつけてみよう。\nそれにしても……",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、どうにも女の子の後をつけるっていうのは、いい気分がしないな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね……これでもし何も無かったらフォンちゃんに謝らないといけません",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "二人とも、真面目だなー。まあそんなところもお兄ちゃんとお姉ちゃんのいい所だけどさ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの言葉に苦笑しつつ、しばらく様子を窺う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さっきから、中庭の端を回ってるみたいだけど、何をしてるんだ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの位置……多分結界を調べてるんだと思う",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "結界って……侵入者感知用の?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん、多分。昔どんな術式使ってるか気になって調べてみた事あったから",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミちゃんそんな事してたの?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "えへへ、ちょっと気になっちゃって。まあ、結局プロテクトが異常に固くて途中で断念したけど",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そんな事をやってたとは、なんていうかさすがアミアだ。そういったことに関しては筋金入りだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえば……新入生が入ったばかりの頃に、侵入者感知用の結界が誤作動する事件があったような",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "な、なんの事かなーわたし分からないなー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "目を逸らすなこら",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の指摘にさっと目を逸らすアミア。いや、本当に筋金入りだな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、フォンちゃん移動するみたいですよ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "本当だ……次は橋の方か。よし俺達もついていくぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "移動を始めたフォンの後に続いて、俺達もこっそりと移動を始める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかし俺はその直後、背後に妙な視線を感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "振り返ると一人の少女と目が合った。あの子は確か……前に寮の前で見かけた?けど制服も着てないし、日曜のこんな時間になんで学園に?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃん!早くしないとフォンさん行っちゃうよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?あ、ああ。ごめんごめん!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアの声に向き直ると、既に二人はかなり先に進んでいた。慌てて二人を追いながら、もう一度だけ振り返る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "どうしたんですか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、さっきこっちを見てる女の子がいたんだけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え、そんな人いた?わたし気がつかなかったよ?というか草むらに結構しっかり隠れてたし、相当近づかないとわたしたちに気がつかないと思うんだけど……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そうですね、さすがにその距離まで近づかれたらボクが気がつくと思います",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "二人とも見てない?あれ?おかしいなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "気のせいじゃない?それより今はフォンさんを追いかけないと",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そうですね、急ぎましょう",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "本当に何も見ていないのか、俺の言葉も気にせずフォンを追いかける二人。それに続きながらもう一度思い返すものの、やっぱり気のせいや思い過ごしだったとは思えない。\nとはいえ、俺だけが気がついてアミアもノートも気がつかないのはやっぱり変だ。特にノートの気配を察知する力は、俺なんかよりも遙かに高い。\nとなると、やっぱり俺の見間違い……なのか?。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"アミア",
"ノート"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 023503_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "………。\n……。\n…。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま~朝ですよ~おきてくださーい",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "遠くからウルルの声が聞える。もう朝か……",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま~?にいさまー",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "あーうん……起きる、いま……おき……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "頭では起きなければと分かっているのに、どうしても身体が動かない。このまどろみが生み出す二度寝の誘惑に負けそうになる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ!ダメですよ!二度寝したら遅刻しちゃいますよ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう……仕方ないにいさまです……こうなったら!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そういってウルルの声が止む。ああ、まずいこのままじゃ本当に意識が。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラ直伝!秘儀・布団返し!えーい!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "うわあああああ!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "直後、俺の身体は宙を舞っていた。いや、比喩ではなく本当に。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "力入れすぎちゃった……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そして空中で3回転ほどした後俺は、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひでぶっ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "見事に顔面から床に叩きつけられていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "一度覚醒した俺は、今度は一転、一気に意識が暗転していく。あはははーこれはまずいなーきっとこのまま落ちたら二度と帰ってこれない~……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ……よ、良く眠れそう……だ、ぜ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "に、にいさま!寝ちゃだめええええええ!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "………。\n……。\n…。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、蘇生完了です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それから数分ほど臨死体験をした俺は、ウルルの悲鳴を聞きつけて駆けつけたオペラさんのおかげで、なんとか現世に舞い戻ってこれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "し、死ぬかと思った……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ご、ごめんなさい、にいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ちょっと力の加減を間違えちゃいましたね。大丈夫、失敗は誰でもあります。次成功させれば良いのです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや!お願いだからもう二度と使わないで!というかやっぱりあんたか!この技教えたの!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうオペラさんに詰め寄ってまくし立てるが、オペラさんはとってもいい笑顔で言い切った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫です、次はもっと安全な方法で起こしますから♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "お願いだから、普通に起こして下さい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ちょっと泣きそうになりがら、俺は必死にウルルとオペラさんに訴えた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 023601_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "もう、にいさまもオペラも酷いです、ウルルに内緒でそんな事を",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "申し訳ありません、出来るならウルルさまを巻き込みたくなかったんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "まあオペラさんの気持ちも汲んでやってくれウルル。これもウルルを思ってのことなんだし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それは分かってますけど……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "今日の夕方、例のオペラさんからの依頼の件を話して以降、ウルルはずっとこんな調子だ。\nまあ、ウルルからすれば、仲間内で自分だけが知らされてなかったのだから無理もない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "仕方ありませんね。今度クラインズポットに行った時に、特製ジャンボパフェをご馳走しますので許してくださいウルルさま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その言葉にウルルの耳がピクンと動いて反応する。ちなみに特製ジャンボパフェとは女の子がすきそうなスィーツをこれでもかと詰め込んだ巨大パフェだ。\n味もかなりのものらしく、紅が一度食べてみたいとぼやいていた事がある。ただ、普通のパフェの数倍の値段とカロリーに見事に膝を屈していたが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほ、本当!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "本人は平静を装っているつもりなのだろうけれど身体は正直なようで、頭の上の耳が嬉しそうにピコピコ動いている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、もちろんです!このオペラに二言はありません!しっかりとご馳走しますよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ウルルの言葉にそう頷いた後、オペラさんは笑顔のままで、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白鷺さまが♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや、予想はしてましたけど本当に投げますか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "文字通りのキラーパスを俺に向かって投げてきた。その瞬間ウルルの視線の矛先がこちらに向く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "に、にいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "い、いや……でもな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本当ですかと上目遣いで俺を見上げるウルル。くっ、なんていう魔力だ。\nしかし特製ジャンボパフェは、俺の普段の昼食換算でおよそ1週間分の値段。ここで屈しては、色々と今後の生活に支障が……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "完全敗北。俺はガックリと項垂れると、今度機会があったらなと約束をした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい!楽しみにしてますね!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ダメだ、あの瞳に勝てるわけがない。ある意味魔法攻撃より性質が悪い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さすが白鷺さまです!太っ腹です!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あなたって人は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったくこの人は……俺は諦めたように嘆息した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、ウルルさま的には私がご馳走するより白鷺さまにご馳走してもらった方が嬉しそうですから\n今度お詫びという名目で、ウルルさまを遊びにでも連れて行ってあげてくださいね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "まったく、ずるいですよね。そんな事言われたら文句も言えないですよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "くすっ。女は誰しもズルイ一面を持ってるものですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ウルルに聞えないように小声でそう告げたオペラさん。全く本当に油断も隙も無いな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにしても、今日のフォンはどうしたんだろうな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、明らかにいつもと様子が違っておかしかったです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルとの一件も片付いたところで、実はずっと気になっていた事を呟く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "特にウルルさまに対する反応は過剰でしたね。まるでいつも胸の内に抑えているものが噴出してしまったような……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "せっかく、知り合えたのに……できる事ならもっと仲良くなりたいです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そうだな……それが出来たらどんなにいいか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう呟きはするものの、俺は胸の中で広がる嫌な予感を拭えずにいた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 023907_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "さて翌日。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、お姉ちゃんそっちにいったよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "うん、任せて。こっちの大きい奴の相手はボクがするから、アミちゃんは今のうちに攻撃魔法の準備をお願いね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "了解ー!お兄ちゃん、術式構築中の援護宜しくね!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ああ、任された",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日はノート達と迷宮の新規拡張部分に潜っている。昨日のメンバーであるヴェル達と違って、リーダーを任された俺は今日は一日中迷宮に潜りっぱなしだ。\nちょっと本気で泣いてもいいような気がしてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オッケー、準備完了!お姉ちゃん、お兄ちゃんも離れて!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ちなみに今は既に迷宮攻略も半ば、広場に踏み込んだところで突如現れたモンスター群と戦闘中だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うん、分かった!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "了解!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアの号令に従い、戦っていたモンスターに剣を叩きつけてひるませると、アミアの後ろまで退避する。\nノートも同様に退避したのを確認するとアミアは杖を振り上げ。魔法を発動させる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "行くよとっておき!広範囲凍結破砕魔法『ブリザード・コフィン!』",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "直後、俺達を中心とし広場全体を覆うほどの冷気が、周囲のモンスターを一気に飲み込んでいく。\nそしてその冷気が去った後は、凍りつき氷像のようになったモンスター達だけが残っていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "冷気の棺に抱かれて刹那に沈め!なーんてね♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういってアミアが最後に指をぱちりを鳴らす。\nすると、周囲の氷像が一斉に砕け、後には何も残らない。なんというか、これもアミアお得意の古代魔法なのだろうけれど圧倒的すぎて言葉も出ない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふう。急にモンスターがいっぱい出てきた時はびっくりしましたけど、何とかなりましたね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "わたしたち姉妹がそろえば無敵だもんねー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういってアミアがノートとハイタッチする。なんというか楽しそうだなアミア。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここまで順調に来たけど戦闘も多かったし、ちょっとこの辺で休憩しようか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね、ボクもちょっと疲れちゃいました",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "えー、わたしまだまだ行けるよ?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いや、本当に楽しそうだなアミア……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日は当初の予定通り、昨日通ったルートとは別のルートを通ってゴールを目指している。\n昨日はモンスターがほとんど現れない代わりにトラップ地獄だったが、今日のルートはそれとはまったく正反対。\nトラップがほとんど無い代わりに次々とモンスターが現れる、まさにモンスター地獄になっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いやーなんていうかさあ、こんな風にどばどば強力な魔法連発できる機会なんてそうそう無いから、なんかテンションあがっちゃって",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その結果、俺とノートが前衛で敵を抑えその間に後方からアミアがでかいのを撃つという構図が自然と出来上がっていた。\n地下迷宮&身内だけという状況で、普段人前では使えないような古代魔法を存分に使えるのが楽しいらしく、迷宮に入ってからアミアは終始ノリノリだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でもあんまり強い魔法ばっかり使ってるとまいっちゃうよ、まだ先もあるんだし",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それもそっか",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "それじゃ、とりあえず軽く休んでもう一度再開だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "凍り付いたモンスターの残骸近くで休憩しても、寒い上にあまり落ち着けそうにないので通路に入って腰を落ち着ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、半分くらい来ましたね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ。昨日はトラップだらけで一歩進むのにも警戒しないといけなかったから無駄に疲れたけど、今日は思った以上にさくさく進めてるな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、なんか昨日は大変だったみたいだね。紅さんがすっごい疲れた顔してたよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "紅に限らず昨日は終始緊張を強いられたからな、さすがにみんな寮に帰ったときはへとへとだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅ちゃんが毒持ちの敵に攻撃されたから注意した方がいいって言われました。昨日は本当に大変だったみたいですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ことの顛末は紅に聞いて知ってると思うけど、やっぱり最後のゴーレム戦が辛かったかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お姉ちゃんがいれば解毒魔法使えたから良かったのにね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "すごいな、そんなのまで使えるのか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、応急処置程度ですけど",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "前衛で戦える戦闘力を持ってて、強化魔法なんかの戦闘サポートも出来て、さらに回復要因にもなるなんて。本当にお姉ちゃんってパーフェクト超人だよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "確かに今回の迷宮探索が順調に進んでいる理由の一つにノートの戦闘力もある。\nアミアの古代魔法は強力な分準備に時間がかかってしまうものが多いので、どうしてもその間は俺とノートでモンスターを食い止めなければならない。\nノートはその仕事を完璧にこなし、要所要所で俺に強化魔法などをかけてサポートもしてくれる。\nさらにもしもの時は回復魔法も使えるので、実質一人で3人分の働きをしている事になる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、そんな事無いですよ。何でも出来るといえば聞こえはいいですけど、結局のところ何かに秀でてるわけではないので飛びぬけた力を持つ人には負けちゃいます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いわゆる器用貧乏ですよと語るノートだが、正直全ての能力が最高クラスなノートは器用貧乏とは呼べないと思う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、そろそろ行くか。せっかくここまでいいペースできたんだ。このままゴールまで行っちゃおうぜ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。午後にはウルルちゃんたちの迷宮探索もありますし、早く抜けられるに越したことは無いですしね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "よーし、次はどんな魔法を使おうかな~♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "相変わらず終始『ガンガンいこうぜ』なアミアに苦笑しつつ、俺達は残りの迷宮を抜けるために歩き出した。\nその後も俺とノートで戦線を支え、アミアがでかいのを放つという構図は崩れず、次々と現れるモンスター群を片っ端から屠ってゆく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "『レーヴァテイン!』焼き尽くせー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ある時は焼き尽くし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "裁きの雷を食らえー!『ジャッジメント!』",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ある時は吹き飛ばし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "押しつぶせー!『グラヴィティ・プレッシャー!』",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ある時は押し潰し。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "砕け散れー!『アブソリュート・ゼロ!』",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そしてある時は粉々に砕きながら、恐ろしいほどの数のモンスターを、ほとんど一撃で倒していく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あはははー楽しいー♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まるで古代魔法のバーゲンセールだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアは魔道師でありなが近接を好む事で有名だったけれど、ノートという良質な前衛と組むことで迫る敵を片端からなぎ払う強力無比な固定砲台へ変貌するらしい。\nいや、確か神族って攻撃魔法はどちらかというと苦手な部類にはいるんじゃなかったっけ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミちゃんは、回復魔法なんかの補助魔法が苦手な代わりに、攻撃魔法が大好きですから……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "さあ次はどいつだー!吹き飛ばされたい奴からかかってこーい!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "というかこの子は産まれてくる種族を間違えてるんじゃなかろうか。下手な魔族より魔族らしい戦い方してるぞ。\nそんな感じにノートとアミアが次々と敵を殲滅してくれたお陰で、思っていた以上にあっさりとゴール目前までたどり着いてしまう。\nというか今回俺あんまり役に立ってないな。一応指揮は取っているけど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もうここまで来ちゃったな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふう、堪能した堪能したー。余は満足じゃー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミちゃんが楽しそうでなによりです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なーんか間違ってる気がしないでもないけどなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思う存分大暴れできたのでホクホクのアミア。まあ俺としても午後もウルル達と迷宮に潜らないといけない分、体力を温存するに越した事はないけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず、もうすぐゴールとはいえノートもアミアも油断せずにな。昨日も最後の最後で巨大なのが出てきたから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね、まだ気を抜いちゃだめですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はーい、最後まで全力全壊でいくよー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの方はなんだか微妙にずれている気がしないでも無いけど、まあいいや。\nとにかく今はモンスターの奇襲に注意しようと一歩踏み出した瞬間、ノートの声が響く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミちゃん、姫くん、上です!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なっ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートの声に反応して上を見た瞬間、上から液体のようなものが大量に降り注いだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺はとっさに飛びのいたが、アミアは反応が遅れた。このままでは思い切りあの液体を被ってしまう、そう焦った瞬間、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミちゃん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "きゃ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアをノートが突き飛ばした。\nおかげで、地面に倒れたながらもなんとかあの液体を浴びずにすんだものの、その代わりノートがその液体を浴びてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃあっ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "お姉ちゃん!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ノート!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃ……いやあ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "液体というより粘液状のそれから抜け出そうともがくノートだが、まるで意思があるかのように粘液は形をかえノートを離さない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やあんっ。こ、これ絡み付いて……は、離し……きゃぁん!へ、変なところ触らないで下さい!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "まさかスライム!?うわっ、すっごいレア!こんなのまでいるんだ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いや、感心してる場合か!?早くノートを助けないと",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "突如出現したモンスターに無駄に関心するアミア。その間にもノートはスライムに飲み込まれていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひゃう!やだ、き、気持ち悪いです!ひ、姫くん助けてぇ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "待ってろ、すぐに助けるから!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ダメだよお兄ちゃん!迂闊に近づくとお兄ちゃんも飲み込まれるよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なっ!?じゃあどうすればいいんだ、このままじゃノートが",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "大丈夫、お姉ちゃんに危害が及ぶ事は無いから",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "は?なんで?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だって、スライムって生物は食べられないもん。食べるのは繊維とか金属とかそういうのだけ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?ちょっとまてそれって……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっ……ふ、服が!?な、なんですかこれー!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "しれっと言い放つアミアの言葉に青ざめつつ振り返ると、ノートの戦闘服がスライムの密集している場所から少しずつ溶かされていってるのが見えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "げっ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ね、言ったでしょ、心配無いって",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ちょ、ちょっと待って!い、いやー!姫くん見ないでー!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いやー、存在自体は知ってたんだけど、まさかこの目で見られるとは感動だね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "言ってる場合か!と、とにかく早くノートを助けないと、色々と大変な事になるだろ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ……ん!い、いや……そ、そこ……だめっ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "おお、本当だ……これは色々とやばい……ごくり",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なにやら入ってはいけないところまでスライムが進入してしまっているのか、スライムの動きにあわせてやたら色っぽい声を上げ始めたノートから必死に視線を逸らす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、どうすればいいんだ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "んー、この手のモンスターは剣とか聞かないしね。一番手っ取り早いのは……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういって少し考えた後、アミアは杖を指差しながら言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "攻撃魔法で燃やしちゃう事かな?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ひっ!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "アミアの恐ろしすぎる提案にノートが青ざめる。当たり前だ、この状態でスライムに火をつければノートも一緒に火だるまになる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "却下だ!もっと穏便な方法は何か無いのか!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "んー、一応食べるものが全部無くなれば勝手に帰っていくけど……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そ、それも却下ぁ!あ、アミちゃん!お願いだから真面目に考えて!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "アミアは、ノートの言葉に仕方ないかと今度こそ真面目な顔で考えて、やがてポン、と手を打った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、そうか!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "手があったのか!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "スライムは火というか熱が嫌いなんだよ。だからお姉ちゃんに火属性を付加すれば!えい、『ファイヤーエンチャント!』",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "きゃっ!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そういって、魔法名と共にノートの身体に杖を向ける。するとノートの身体が赤い光を放った。それと同時にスライムが苦しみはじめる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おっ、効いてるみたいだぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "当然。何せ一番強力な奴使ったからね!ほーれ、お姉ちゃんの身体は熱いぞー早く離れろー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そうして数秒後、ついに耐え切れなくなったのかスライムがノートから離れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "へへーん、やったあ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "作戦の成功にガッツポーズを取るアミア、しかしその油断が足元をすくう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "っておい!こっちに来るぞ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?嘘!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ノートを離れたスライムが、あの見た目からは想像の出来ない速度で床を滑るように移動する。そして咄嗟の事で身動きがとれなかったアミアに跳びかかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちょっ!?まって、まって、まって!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あーもう!油断するから!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃん……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ひぅ!こら!変な所入ってくるなー!こ、こんな奴ら魔法で!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういって魔法を発動しようとするアミアだが、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひゃうん!ちょ、ちょっとまって!そ、そこはだめっ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まるでそれを妨害するかのようにスライムが蠢く。それを見て、色々とボロボロなノートが説明してくれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ……凄くぬるぬるして気持ち悪いんです……あんな状態じゃ魔法なんて使えませんよ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "確かに。もし魔法が使えればノートだって自力で脱出する事はそう難しいことじゃなかったはずだ。\nそれが出来なかったのはつまり、あの状態では精神が著しく乱されるせいで魔法が発動できないということ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっ……そ、それいじょうは、むりっ……あ、やん!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "先ほどのノート同様、スライムに全身を舐め回されて、悩ましげな声を上げ始めるアミア。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちょ、ちょっとぉ~!み、見てないで助けてよお姉ちゃん!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なみだ目になって助けを求めるアミアだが、ノートはぷいっとそっぽを向いてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ボクの時にすぐに助けてくれなかった罰です、ちゃんと反省してください",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ひうっ!あ、あやまるからー!ちゃんとあやまるから!だ、だから助けてー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ただでさえ露出の多いアミアの衣装は、既にスライムによってボロボロにされてしまっていた。見えてはいけないところまで見え始めてしまっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さ、さすがにこれ以上はやばいんで、助けてやってくれノート……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、ヤバイのは主に俺なんですが。まあ、何がとは言いませんけど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ご、ごめんなさーい!助け……ちょ、そ、そこは本当にだめー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "もう、仕方ないですね……えい、『ファイヤーエンチャント』",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "アミアの必死の叫びに、ノートは先ほどのアミアと同じ方法でスライムをアミアから引き剥がす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "う、うぅ……もう、お嫁にいけないよぉ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ようやくスライムから開放されて、ぐったりしているアミア。さすがにちょっとかわいそうだなと思うが、今はアミアから引き剥がしたスライムの方が重要だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ノート!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、分かってます!『炎の矢』!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "今度は俺に狙いを絞ったのか、こちらに跳びかかろうとするスライムだが、それより早くスライムの身体に炎の矢が直撃する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "乙女の怒りを思い知ってください!\n死んじゃえええええええぇ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "直後炎の矢はスライムの内側で爆発、欠片一つ残さず蒸発した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うぅ、酷い目にあった……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "本当です……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "突然の不幸にへたり込む二人。なんというか、本当にお疲れ様で……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "と、とにかく怪我とかは無くてよかったな……うん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "こ、心の方が重症だよー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まあ、確かにその通りかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "と、とにかくもうすぐ出口だ。このまま一気に行っちゃおう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい……でも、その……服、どうしましょう……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "うっ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "スライムに襲われた二人の服装は、既に衣服としての機能を発揮できないほど酷い状態になっている。アミアにいたってはほとんど裸だ。\nさっきから懸命に二人の方を見ないようにしているわけだけれど、このままの状態で迷宮を行くのは結構きつい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "と、とにかく迷宮の出口まで走ろう……外に出たら俺が何か着るものを持ってくるから……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう言うと、俺はなるべく二人の方を見ないように先頭になって歩き出す。俺の意図を察してくれたのか、二人が後ろから付いてくるのが気配で分かった。\nそしてこの後、迷宮脱出までわずか数十メートルの間、俺は振り返りたいという欲求を無理やり押さえ込み、何とか迷宮の出口に到着することに成功する。\nいや、なんか最後の最後でどっと疲れたよ……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"アミア",
"ノート"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 024201_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ウルル、オペラさん!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "養護室の中に入ると、二人の姿はすぐに見つかった。\nウルルはベッドの上でオペラさんにしがみつき、ガクガクと震えている。それは迷宮の中と同じ、泣きじゃくる幼い子供のようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まっすぐに二人のもとへと歩いていけば、オペラさんはすぐに気付いたらしく顔を上げる。ウルルはまったく気付いていないのか、震えているばかりだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルルは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく改善しているように見えないウルルの姿に、不安になって聞いてみる。オペラさんは大丈夫、と微笑んでくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "外傷を負ったわけではありませんから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そうですか……でも、すみません。ウルルを、こんな目に遭わせてしまって……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "気にしないで下さい。白鷺さまがウルルさまを守ろうと身体を張ってくれたことは知っています\nそれに、白鷺さまがすぐに引き返してくれましたからこそ、この程度ですんでいるんですから。すぐにいつものウルルさまに戻りますよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう言ってもらえると、少しは気が楽になります",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、ウルルさまのためにも、あまり気にしないで下さい。そもそもこれは、私たちの責任ですから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "少し寂しげなオペラさんの言葉に、俺は思わず首を傾げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの……どういうことですか、それ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そうですね。白鷺さまにはお教えする日がいつか来るのかもしれません……\nですが、今日はまだ聞かないでもらえませんか……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "言いながら、悲しげにウルルを見るオペラさん。その姿に、俺は何も言えなくなった。いや、言うべきではないと思った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……分かりました。今はまだ聞かないでおきます",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったくもう。本当に優しいですね、白鷺様は。美少女の秘密ですよ。普通は無理やりにでも聞き出して、後日脅してそれはもういかがわしいことをするための手段に!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "しません!\nまったくもう。あんたウルルの従者でしょうに。主人を襲わせようとしてどうするんですか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえいえー。それはもう完膚無きまで少しの歪みもブレも存在せず完全無欠の従者でございますー。だからこそ言ってるわけですから\nウルルさまを少しでも早く大人にして差し上げたい……ああ、なんて美しい忠誠心!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……その前にあなたが大人になりなさい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うっわー、さりげなく酷いこと言いますねー、この唐変木\nだってぇ、初めてはぁ、かなーり痛い、とか言うじゃありませんかぁ。オペラ、それを考えただけで怖くて怖くてぇ\nそんな痛い思いさせられたら、その場で相手の人ぶっ殺しちゃうかもしれませんしぃ♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そっちかよ、おい!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ダメだ……やっぱりこのメイド、本当にダメだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、と",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "疲れたように項垂れる俺の前で、オペラさんはウルルを抱きしめたまま、そっと立ち上がった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん?あの、何を……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "癒すのは、守った者の特典です。傷つけてしまった者に、そんな資格はありませんから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう微笑むと、オペラさんの手からウルルが預けられる。まだオペラさんだと思っているのか、ギュッとしがみついてくるその身体は震えたままだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "後はよろしくお願いしますね、白鷺さま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?あの、本当にどういう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "悲しみに暮れるお姫様を絶望から救い出すのも、やっぱりヒーローの特権であり義務です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それって、まさか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。後は白鷺さまに、まるっと全部お任せしますのでがんばってくださいね~♪いわゆる一つの丸投げって奴です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ちょ、ちょっと待ってくださいよ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "残念ながら待ちません。それではお邪魔虫はこの辺にて退散しますので、後は若い者同士でおほほのほ~。男を見せろ白鷺姫!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "冗談そのものの口調でウルルを押しつけ、そのまま出口へと行ってしまうオペラさん。が、部屋から出る直前で立ち止まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルルさまを、お願い致します",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "真剣な、ウルルを誰よりも慕う家族としての顔で俺を見つめながら、オペラさんは頭を下げた。そして今度こそ本当に、養護室を後にする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん……いったい何を……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "冗談のように押しつけていったけれど、違う。今の冗談は、あくまで俺にウルルを任せるための苦肉の策だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "傷つけてしまった者に、そんな資格はありませんから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ついさっき、オペラさんの口から流れた言葉だ。あっさりと流していったけれど、本当に大切な何かがこめられていたようにも感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさか、ウルルが見させられたトラウマに関係してるのか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんとなくそんな気がした。当然憶測でしかないけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にい……さま……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "不意に、ウルルが俺を呼んだ。慌てて振り返れば、今にも泣き出しそうなウルルが、俺にしがみつきながら見上げている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルル……大丈夫か?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その小さな身体を抱きしめながら、そっとベッドの上に腰を下ろす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あの……オペラ、は……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺にウルルを任せて出て言ったよ。お姫さまを救い出すのは、ヒーローの特権だってさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言いながら、俺はウルルに優しく微笑みかけた。少しでもこの少女が安心できるように。俺を頼ってくれるように。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま……\nお願いです……にいさまは行かないでください。ウルルのそばにいて下さい……\nウルル、いい子でいますから……もうしませんから……一緒に……一緒に……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "おい、ウルル?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その瞳からポロポロと涙が落ちていく。ウルルはその声を震わせながら、より強く俺を抱きしめた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま……にいさま……にいさまぁ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "まるで俺のすべてを求めるみたいに、その身体を押しつけてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お願いです、にいさま……一つになって下さい……このままじゃダメなんです……\n怖くて……怖くて……あの光景が、忘れられないんです……\n一人にしないで……一緒にいて……一つでいて……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルが今俺に求めていること、それはもう分かっていた。だけど本当にいいのか、そんな疑問と不安が頭をよぎる。\nだけど、この腕の中で泣いている少女の顔を改めて見た時、俺は思ってしまった。\nこの子を、放っておきたくない。ウルルを抱きしめてあげたい。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 024205_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "もう既に深夜を回り、当然の事ながら人気など皆無な寮の玄関をこっそり覗く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だ、大丈夫、誰も居ない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい、それじゃこのまま部屋までいっちゃいましょう……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "さすがにもう深夜を通り越して早朝と呼ぶべき時間。そんな時間に帰ってきた事がばれたらルアンさんにしかられそうなので、静かに玄関を移動して部屋へと向かう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "大丈夫か?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい……その、まだ、そのちょっと違和感があって……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そ、そうか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルの言葉を互いに意識してしまい、暗闇で分かるぐらいに真っ赤になる。\nあの後俺達は、そのまま養護室で寝てしまいそうな誘惑を必死で振り切り、夜の学園から女子寮へ帰ってきた。\nいくらなんでもあの状態のまま朝を向かえ、養護の先生にでも見つかったら大騒ぎどころの話じゃない。\nなので事後のまどろみをなんとか払いのけ、出来うる限りの証拠隠滅を行い、やっとの思いでここまでたどり着いた。\nいや、血の後がはっきりと残ってしまったシーツを見たときは本気で青ざめたが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んん……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さすがに初めての直後にここまで移動しないといけないウルルを見ると申し訳無い気持ちになってしまう。\nただでさえ男と違って女は色々と大変だ。そしてここに来てこの階段、俺は周囲を見渡し誰もいない事を確認すると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルル……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんですか、にい……きゃあ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺はウルルを下から抱え上げた。いわゆるお姫様だっこ状態という奴だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あわわ、声が大きい声が!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ご、ごめんなさい……で、でもなんでいきなり……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、その、なんていうか見てられなくて……嫌、だったか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "い、いえ!全然です!じ、実はちょっと辛かったんで……ありがとうございますにいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ。ウルルは軽いから、これくらいはお安い御用だよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "互いに小声で笑い、ゆっくりと階段を上っていく。一旦ここでウルルを下ろすべきかと思ってウルルに目配せした。\nその目が降りたくないと語っていたので、俺はそのままの状態でウルルの部屋の前まで移動する。\n正直、恥ずかしくないといえば嘘になるけれど、がどうせ誰も見ていないんだからと自分を納得させる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん……さすがにもう寝てるよね?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "た、多分……でも、どうだろう。オペラだから……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "オペラさんだもんなー……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あのオペラさんなら、ウルルさまのためと一晩中起きていてもなんら不思議は無い。俺はウルルをそっと下ろすと、恐る恐る鍵を開けた。\nそして玄関に入ってきたときと同じように、ゆっくりと扉をあけ。ウルルと一緒に中に入る。\n電気も消えているし、ベッド上には誰か横になっているのが見える。どうやらオペラさんは眠っているようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "電気も消えてるし……オペラ寝てるみたいです……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ほっとしたようにウルルが呟き、俺もそれに同意しようとした瞬間、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うふふふふふ~",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "うあぁっ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ひうっ!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "突如部屋の電気がつき、何故か背後からオペラさんが現れる。そして、満面の笑顔で言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お帰りなさいませウルルさま、白鷺さま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オ、オペラぁ!?あ、あれ!?ね、寝てたんじゃないの!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "主人より先に眠るメイドが何処にいましょうか!このオペラ=ハウス!眠る時はウルルさまの寝顔を堪能してからでなければ眠れません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "最初の方は完璧だったんだけどな……途中から何かおかしいですね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "で、でも、あのベッドの上で寝てるのは誰!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "オペラさんのベッドには、確かに誰かが寝てるように見えたけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、あれは適当に枕を丸めて作ったダミーです。お二人を驚かそうと思い作っておきました",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "また、そんな無駄な事に労力を……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "申し訳ありません。何しろお二人があまりにも帰ってくるのが遅いもので暇だったんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ぬぐ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それを言われてしまうとまったく反論が出来ない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ところで白鷺さまぁ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "は、はいなんでしょう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "少女に大人の階段を上らせた挙句に朝帰りなどかましてくれちゃった気分はどうですか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ぶっ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オ、オペラ!?な、なんで!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、何でも何もこの状況で別の可能性を考え付く方がいらっしゃるのかどうか、逆にお尋ねしたいのですが……\nそれに、ウルルさまのそのぎこちない足運び、まさに少女から大人の女性になられた何よりの証拠です。よーし、明日は竜族一同でお赤飯パーティーですね!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そ、それだけは、やめてー!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "なんというか、オペラさんはいつも通りだと苦笑するものの、ふと気がついてしまった。オペラさんの目の下に、うっすらと隈があるのを。\nどうやら眠らなかったというより、ウルルが心配で眠れなかったという事か。\nこのやりとりだって、きっといつも通りのウルルに戻ってくれた事が嬉しいから、いつも以上にテンションが高いのだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ありがとうございますオペラさん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "何か言いましたか白鷺さま?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いえ、なにも",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "小さくお礼を言って、俺は改めて時計を見た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわ、もうこんな時間か。これじゃ寝るに寝れないな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほ、本当ですね……でも、凄くねむ……ふわぁ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "うふふふー、白鷺さまったらがんばりすぎですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いえ、あのなんというか……すみません",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そういうオペラさんだけれど、ウルルのアクビを見た後で自分のアクビをかみ殺したのを俺は見逃さなかった。やっぱりオペラさんも眠いのだろう。\n俺は少しだけ考えて、ある事を思いつく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "昨日の一件もあるし、今日のところは休むなり遅れていくなりしてもいいんじゃないかな?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?本当ですか?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "まあ確かに。あの後トリアさまにも会いましたけど、ウルルさまの事を気にかけていらっしゃいましたから、それぐらいは許されるかと",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "さすがに俺は休めないけれど、ウルルは眠っちゃったらどうだ。学園長には俺から伝えておくから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の提案にウルルは暫く悩んだが、やはり眠気には勝てないのか、静かに頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう、ですね。今日だけはそのお言葉に甘えさせてもらいます……オペラ、一緒に寝てくれる?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "はい、喜んでウルルさま。たとえウルルさまが乙女でなくなっても私はウルルさまといつまでも添い寝して差し上げますよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "も、もう!オペラったら!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そんな微笑ましいような、何か微妙に違うようなやり取りに苦笑しながら、俺は今日の学園の準備を始める。\n実のところ俺自身も相当眠いけれど、それでもなんとか我慢する。後で食堂が開いたらコーヒーでも貰ってこよう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃ……おやすみなさい、にいさま",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ、おやすみウルル",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いつも通りのYシャツに着替えたウルルが布団の中に潜りこむと、オペラさんがその横に腰掛ける、どうやら本当にウルルが寝てから眠るようだ。\nそしてやっぱり相当に眠かったのか、オペラさんに頭を撫でられながら、ウルルはあっというまに眠りについてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、お言葉に甘えて私も眠らせてもらいますね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そういって会釈するオペラさんに頷いて、オペラさんが着替えられるように部屋の外に向かう。\nとりあえず食堂で時間を潰すかなどと考えながらドアのノブを掴む。と同時に、とても優しい声でオペラさんが言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "本当に、ありがとうございます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その声に振り向くと、そこには優しく微笑むオペラさんがいる。俺は何も言わずに頷くと、ウルルが起きないように静かに部屋を出た。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 024301_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "白鷺さま……お時間ですよ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そんなオペラさんの優しい声に起こされるのもすっかり慣れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んーっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は大きく伸びをしようとして、そこで引きつった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はわわぁ……にいさまぁ……そこはダメですよう……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルル?あれ、なんで俺のベッドに……しかもどういう夢を見ている、おい!\nって、まさか昨夜のまんまなのか、これ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "夜、寝ぼけて俺のベッドに潜り込んできた時の光景を思い出した。\n朝になれば戻っているものだと思っていたけれど……どうやら俺が甘かったようだ。よりにもよって、この暗黒メイド拳に見られてしまうとは。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んもう、白鷺さまったらあ。言ってくださればこのオペラ=ハウス、色々と気を遣いましたのにい♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "うわー。すっごい目が楽しそう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ゆうべはお楽しみでしたね♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "楽しんでません!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さあて、この誤解、というか捏造決めつけを覆すのにどれくらいの日程と労力がいるのか。それが問題だ。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 035801_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "登校時、注意をしていたフォンの襲撃はなかった。馴れ合いを消すと言ったフォン。けれど、あの思い出を消すなんて簡単にはできるはずがない。\nたとえどれだけの覚悟を決めたとしても、昨日の今日で襲ってくることはないだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なあ、ヴェル、紅、ちょっと相談なんだけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "休み時間、俺は昨日から考えていたことを二人に相談してみた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "特訓?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "フォンに対抗するためにか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ。昨日のフォンは本気だった。今の俺じゃあ、いざという時にウルルの盾にもきっとなれない。それくらいの差がある\n気休めでもいいんだ。とにかく何かをしておきたい。少しでも自分にプラスをしたい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "デイルとの戦いで使ったカウンターじゃダメなのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、ダメだった。初めて会った時に、初見で受け止められたよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの技を初見で!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あの子を嘗めたらダメよ。魔族と竜族、両方の長所を持ち、その戦闘センスも実戦で磨き続けた。魔王の血族でもないくせに私と並んで称されてるのは伊達じゃないのよ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "嫌というほど思い知らされたよ。多少の小細工でどうにかできる相手じゃないってこともさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それでもやるの?ヒメだからこそハッキリ言うけれど、今からどんな特訓をしたところで、あの子に対抗出来る程に力をつけるのは不可能よ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ああ。それでも何もしないままよりはいいと思う",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく。こういう時の姫は絶対に退かないんだよな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ほんとよね。まあ、そんなところがかっこいいんだけど♪",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "さらっと思いっきりのろけたなあ\nだがまあ、あたしは構わない。あたし自身の訓練にもなるからな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ヒメが本気で願うことを断るなんて私はありえないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "助かるよ。早速今日の放課後でいいか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あたしは問題ない",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ごめんなさい。私は、放課後ちょっと母様の所に顔を出さないといけないから、それが終わったらすぐに行くわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "デイルとあそこまでやれた最大の理由は、特訓での自信だ。実際に自分の力を上げたというよりも、ノート達を相手にここまでやれたんだという自信。\nだからもう一度、俺はそれを手に入れたい。フォンを相手に退かない自信を。\n俺は、初めて戦った時のフォンを思い浮かべると、右拳を握り締めた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 036201_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "雨もすっかり上がり、綺麗な夕焼けに照らされ始めた丘の上。俺と紅の特訓は続いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく。まさかそんな使い方に持っていくとはな。もうカウンターでもなんでもないだろう、これは",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうだな。ちょっと違うと思う\nけれど、ただのカウンターじゃフォンには通じない。だったら、これくらいが丁度いいんじゃないか\n一度見ているからこそ、引っかかってくれそうだし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはそうだけど、フォンの方もビックリだろうな。まさか、あの技がって",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ふと思いついた、新しいカウンターの使い方。カウンターというのはどうかとも思うし、使える場面は限られる。\nけれども、これなら俺個人の能力はそれほど高くなくても問題ない。相手を倒すための技でなく、仲間を守るためとすれば充分ありだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめんなさい。遅くなっちゃった",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そんな中、待望の人物が姿を見せる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "雨がなければもう少し早く来れたんだけど……もう、ほんとなんなのかしら、さっきの雨\n二人は大丈夫だった?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ああ、咄嗟に森に逃げたからな。さすがにあの中での行動は無理だし",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "思ったよりは早くやんでくれたんで助かったよ\nそれより、早速で悪いんだけど手伝ってもらっていいか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、やろうとしていることをヴェルへと説明する。途端にヴェルの表情が唖然としたものに変わった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……それ、とんでもないフェイクね。さすがにちょっと言葉無くなったわ\nでも、それが決まった時の顔を思い浮かべると、面白そうではあるわね。きっと叫ぶわよ、そんなのありえないです!って",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そして、その状況を思い浮かべてか、クスクスと笑うヴェル。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいわ、それじゃあ見せてもらおうかしら\nでも……紅は大丈夫?なんだか歩き方……というか、下半身の動きが悪いように見えるけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "さ、さすがに目ざといというか……まあ、理由は……なわけですが。紅がたちまちその顔を朱に染める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いや、大丈夫だ、うん……そ、その、気にしないでくれっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ふうん?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルは小首を傾げると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫ならいいわ。早速始めましょ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "愛用の鎌を手に、俺達の反対側へと向かう。\nが、途中すれ違い様、紅にしか聞こえないような声で呟いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おめでと",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "なっ!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "瞬間、夕焼けすら比較にならない程濃さをます紅の顔。ヴェルはニッコリと笑ったままだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……う、うん……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の返事は妙にしおらしくて可愛らしかったけど、それがどういうことなのか、ヴェルの言葉が聞こえなかった俺には分からなかった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 036205_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "午後の授業もとっくに終わった放課後。陽も傾き、すっかり茜色に染まった教室に、俺は一人で残っていた。\nヴェルや紅には少し調べるものがあるからと先に帰ってもらった。ここにいるのは本当に俺一人だけ。\n俺はポケットから小さなメモを取り出すと、広げて中身を確認する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大切なお話があります。放課後、教室に一人でお待ちいただけませんでしょうか",
"speaker": "可愛いメイドさんより"
},
{
"utterance": "昼間読んだものと同じ内容。特に間違いも変更もない。だとすれば、そろそろ来てもおかしくない。\n窓から外を見下ろせば、中庭を歩く生徒達が数人。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえば、フォンと初めて会った日も、こうやって上から中庭を見下ろしたっけ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの時は、図書室の方の渡り廊下からだったけど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "すみません、お待たせしました",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "やがて、聞き慣れた声と共に扉が開いた。\n窓から目を離し振り返れば、そこには待ち望んだメイドさんの姿があった。彼女はそのまま、俺の前へと歩いてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大した待ち時間じゃないんで問題無しです。それよりも、ウルルは大丈夫なんですか?一人にしてしまって",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。ヴェルさまと白川さまに送っていただきました。ノートさまとアミアさまとも校舎前で合流されていたようですので、問題ないかと",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "確かに。いくらフォンでもその面子相手じゃなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "魔界と神界の最強が二人。それにサポート役で人族と神族のトップクラスが二人。さすがに無理だろう。俺だったら瞬殺されるレベルだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、大切な話っていうのは……このタイミングですし、フォンとウルルのこと、ですよね?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ご名答です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "俺の質問に、オペラさんはニッコリと笑顔を浮かべた。隠すつもりもごまかすつもりもなく、すべて話す、ということなんだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "他のみなさんにも、いずれは話さないといけないと思ってはいるのですが……今はまだできません。白鷺さまの胸中に収めて下さい",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……理由は聞かせてもらってもいいですか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、それはもう。どうせこの話を聞いてもらえれば分かることですから。ただ……ただ、その前に一つお願いがあります",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オペラさんは言うが早いか、俺に思い切り抱きついてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オ、オペラさん……!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オペラさんの、肉付きのいい身体が俺に押しつけられる。な、なんだかすごくいい香りがして……柔らかくて……小さく、奮えて……。\n……奮えて……?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん?もしかして、怯えてるんですか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の身体にしっかりと抱きつくオペラさん。いや、それは抱きついているというよりも、怖くてしがみついている、という感じだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "怖いんです……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いつもの、俺の知っているオペラさんのものとは思えない声。酷く怯えきったそれは、紛れもなくオペラさんの本心だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "このことを白鷺さまに話すことで、ウルルさまは白鷺さまを失うことになるかもしれません……\nウルルさまは、本気で白鷺さまに好意を抱いています。ですがその方を、私が引き離してしまうのかもしれない……\nそうなればきっと、ウルルさまは笑顔ではいられなくなります。それは、ウルルさまを失うのも同じこと……\n私は、ウルルさまをより苦しめてしまうのかもしれない……ウルルさまを失ってしまうのかもしれない……ウルルさまを守れないのかもしれない……\nウルルさまが、また家族を失ってしまうかもしれない……それが、たまらなく怖いんです……\nですから、お願いです!たとえこれからの話を聞いたとしても、ウルルさまから決して離れないで下さい!ウルルさまを守ってさしあげて下さい!\nタダで、とは言いません!白鷺さまの心を縛るのですから、か、代わりに……っ\n代わりに、私自身を捧げます!私の心も!身体も!そのすべてを捧げますから………で、ですから、どうか、ウルルさまを!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それは、代償というよりも、むしろオペラさんが求めているかのようだった。\nウルルを守るために。そして、これから話をする自分の心を守ってほしい。そう求めているかのような。\n強く強く俺にしがみつきながら、怯える自分をさらけ出しているオペラさん。それは俺の知っているオペラさんではなく、まったくの別人のようだった。\nいつも笑って、人をからかい、だけどなんでも出来てしまう頼れる人。強くて、どんな不可能でも可能にして、そしてみんなを安心させてくれる人。\nそうやって、いつもみんなを助けていたはずのオペラさんが、今は自分を助けてほしいともがいている。それは、俺にとっても信じられない光景で。\nだからこそ、こんなにも弱いオペラさんを放ってなんておけるはずもなく。\n気がつけば俺は、その身体を強く抱きしめていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"可愛いメイドさんより",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 036402_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "学園から寮へと続く道。それを俺達はただ歩いていた。\n一言の会話すらなく、ただまっすぐに歩いていく。\nオペラさんとの行為が終わって、俺達はどこか気恥ずかしい空気に包まれながら、二人並んで歩いていた。\n離れず、けれどくっつきすぎず。\n結局、ウルルに関する話はまだ聞けていない。けれど、いずれは話してくれるだろうという確信はあった。だから俺から聞くこともなく、黙って夜道を進む。\n少し冷たい夜風は、火照った身体を冷ますには丁度いい。なんといっても、さっきの行為のせいで、胸の奥がやたらと熱く昂ぶっている。\nやがて寮の前まで来たところで、不意にオペラさんの足が止まった。彼女を取り巻く空気が寂しげなものに変化する。\nああ、ついにか。そう思ったところで、オペラさんは静かに夜空を見上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "滅界戦争における竜族の結末……ご存じですか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "夜空に昔を投影しているかのように口を開くオペラさん。けれどそれは昔を懐かしがっているものではなく、避けたがっているように聞こえた。\n竜族の結末。それは当然知っている。なんといっても、裏からとはいえ唯一人族への援助をしていた種族でもあるのだから。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……好戦的だった竜王と竜王妃が戦死して、休戦派が台頭。他種族との話し合いに応じた……でしたよね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうです。ですが、竜王さまも王妃さまも、決して争いを好んでいたわけではありません。あくまでも竜族全体のことを考えていらっしゃったんです\n戦争終結後の竜族の影響力、それを少しでも高めておくことを",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "当時、人族の勇者の訴えはまだ広く知られていなかった。勇者自身も戦争の黒幕を見つけ出すに至っておらず、戦争は混迷の一途を辿っていた。\nどの世界も疲弊しきっていたが、中でもその種族的特徴から個体数の少ない竜族は、このままでは滅亡してもおかしくない程に消耗していたという。\n結果、種族内では他種族と話し合い休戦への道を探るべきだ、という声が出ていたが、当時の竜王はそれを一蹴した。\nそして竜界は、特に相性の悪い魔族による大規模侵攻を受け、更に大打撃を被る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんな時です。とある人族が数名の仲間と共に、戦争を終わらせるための協力を求めてきたのは\n戦争を起こし、その裏で富と名誉を得ているものがいる。その黒幕を倒し、この戦争に終止符を打ちたい、と。後に語られる人族の勇者さまです\nですが、圧倒的に追い込まれていたこの状態で引けば、竜族は戦後も魔族と神族に下に見られかねません\n竜王さまは、竜族の誇りにかけて戦い続けることを決められました。最後の一人となっても戦い、竜族の存在を全世界の歴史に刻み込むのだと\nそれは、種族の滅亡を意味します。誰もがそれを知りながら、それでも名誉のために、竜族はその命を散らす覚悟を決めました",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それが、竜王と竜王妃の死によって覆った……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、その通りです\n最終的には勇者さまの手を取ったことにより、結果的にではありますが他種族とも肩を並べることができるようになりました\n竜族は滅亡を回避し、その名誉すらも守られた。竜王さまと竜王妃さまの死によって……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "当時、勇者の声を聞く者はまだ少なかった。だがそんな勇者の手を最初に取ったのが竜族だったと言われている。\n結果、竜族は戦争を止めた大きな要因の一つとなり、勢力的には上だったはずの魔族や神族とも互角の立場を勝ち取った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "皮肉な話ですね……竜族の名誉を誰よりも願った竜王の死が、その名誉を守ることに繋がってしまうなんて……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな俺の言葉に、けれどオペラさんは小さく首を振る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それは、違うんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……違う?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。竜王さまの死が名誉を守ったのではなく、竜王さまが死ぬことで種族を、名誉を守れるようにと、そう持っていったんです\nこのままでは決してさけられないであろう竜族の滅亡。ですが、それをただ一つさけることの出来る手段がありました\nそのためにどうしても必要だったのが、竜王さまと竜王妃さまの死だったんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんの言葉は冷徹だった。まるでその感情を押し殺しているみたいに。\nそして、その冷たい言葉が、俺に一つの考えをもたらす。絶対にありえない、一つの解答を。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさか、竜王と竜王妃は戦争で死んだんじゃなく……\n竜族自身に、殺された……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オペラさんは夜空を見上げたままだった。だから表情は分からない。だけど、その夜空の暗さと静けさが、そのまま表情を表わしているみたいだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ご名答です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そしてその言葉の先にある、この解答の終点。それは決してあってはいけない答え。ありえるはずのない答え。だけど俺には、それしか思いつかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、お分かりみたいですね。さすがは白鷺さま、と言うべきでしょうか\nそうです。竜王さまと竜王妃さま。竜界の、竜族のことを常に考えていた素晴らしい王でした。竜族の誰もが尊敬し、愛していたお二人でした\nその偉大なるお二人を……\nウルルさまは、ご自分の手で殺めたのです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんは、まるで俺の口からはその名前を出させないというように俺から言葉を奪うと、そのあり得ない解答を自ら言い切った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけど……いえ、確かにさっきのオペラさんの説明が本当ならそうとしか考えられませんけど……でも……!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "偉大な指導者を失った竜族。けれどそれでも崩れることなく、そのまま一丸となって戦争の終結に動いた竜族。それは、誰もがついていった一人の指導者がいたから。\n偉大なる最後の金竜。ただ一人生き残った王家の血を継ぐ者。誰からも愛され、尊敬される竜王姫。\nウルル=カジュタがいたから。\n竜王と竜王妃を殺せる者。その後の竜族を率いていける者。そんな決断をできる者。そんなの、ウルル以外にいるわけがない。\nだけど、それでも、あのウルルが……自分の、両親を……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの時のウルルさまのお気持ちは、私なんかには理解できないでしょう\nウルルさまも、竜王さまと竜王妃さまを慕っていました。優しく、強く、尊敬できるご両親として、ご自分を愛してくれた父と母として……\nですが、あのままでは間違いなく竜族は誰一人残ることなく死んでいた……\nウルルさまは、それはもう私などでは遠く及ばないほどに苦しみ、悩み抜き、そして、ただ悲しい結末にしかならないだろうその問題に、答を出されました\nすべての竜族を守るために、父親と母親という何よりも大切なお二人の命を、その手で奪ったのです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それはきっと、ウルルにとって一番悲しい答えだろう。何よりも大切な二人と一族の命運とを天秤にかけ、竜族の未来のためにも一緒に死ぬことも許されず……。\nそれがどれだけ辛いことなのか分からないのはオペラさんだけじゃない。俺もだ。むしろ、分かる人がどれだけいるっていうんだろう。\n自分の両親と大勢の仲間達。そのどちらかを選べと言われたなら……俺の両親と、ヴェルやノートやウルルや紅やアミアやデイルやフォンやオペラさんや……。\nそんなの、選べるわけがないだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "竜王さまも竜王妃さまも、笑顔で『そうか、なら頑張れ』と言い残して逝かれました\nお二人の弔いや、他世界との話し合い。それらが終わってもウルルさまは一度も泣くことなく、ただ笑っていました\nあの小さな身体に竜族のすべてを背負い、そして言われた言葉を、私は今でも忘れることができません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あのね、オペラ。ウルルはね、泣いちゃいけないんだよ\nだって……ウルルはとうさまとかあさまに、こんなに酷いことをしたんだもん。悲しんだりする権利、ないんだよ\nウルルはね……ウルルは……笑ってなくちゃ……\n笑って……なく……ちゃ……いけないの……\n笑って……酷いことをしたんだって……胸を張って……いなくちゃ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だからこそ私たち竜族は、ウルルさまにすべてを捧げ、愛し、守るんです。尊敬し、信頼し、共に歩むんです\nもちろん竜族のすべてがウルルさまの行ったことを知っているわけではありません。その大半が、ウルルさまによって竜族は救われたんだ、くらいの認識です\nそれでも、私やバリアリーフのようにすべてを知る者も、知らない者も、ウルルさまへの忠誠は微塵も揺らぐことはありません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "自分達のために大切なものを切り捨てたウルル。だからこそ、今度は自分達がウルルを守るのだと団結した竜族。\nウルルという少女の本当の強さを、俺は知った気がした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白鷺さま",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そして、オペラさんが振り返る。そこに笑顔を浮かべながら。その先に来るであろう質問、その答をすでに知っているかのように。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これが、竜族の、ウルルさまの抱えている裏の部分。暗い闇のお話です\n白鷺さまは、この事実を知って、ウルルさまをどう思われますか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……なんていうか……強いですよね。ウルルが竜族に慕われている理由、頂点に立っている理由、すべて納得しました\nけれど……それでもウルルは、やっぱりウルルだと思います。俺のことをにいさまと呼んで慕ってくれる、可愛らしいみんなのマスコット。そのウルルです",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "これからも……ウルルさまのことを託してもよろしいですか……?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "俺が断ると思います?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の答えに、オペラさんは本当に嬉しそうに笑顔を見せた。\n暗い夜空に一際大きな光をくれる銀の月。その輝きすらも霞んでしまいそうな、そんな笑顔を。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうですよねー。白鷺さま、代償として私の乙女を食べちゃったんですから、断れませんよねー",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "間違ってないけど、その言い方やめて下さいっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でもー、結構痛かったんですよぉ。200年以上も大切に守ってきた私の乙女、いかがでしたかぁ?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "っていうか、そうだそうでしたこの人オペラさんでした。一瞬ですべてを引っ繰り返して下さいましたよほんと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ただ、一つ聞いてもいいですか?フォンのお母さんに関する話について……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そうですね。それに関してもお話ししておくべきですね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんは再び空を見上げると口を開いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "以前お話したバーストブレスの話ですが、すべて事実です\n生け贄により敵を確実に殲滅する殺戮兵器。これはウルルさまの命令により完全に破棄されました\nですがこの兵器には、開発途中のものがもう一基あったんです。竜王さまの命によって内密に進められていた、二つ目のバーストブレスが……\nフォンさまのお母様がどこでその情報を知ったのかは知りません。ですが彼女は、残されていたもう一つの方を調べるために動いていました\nそしてその存在を、彼女は家族のために魔界へと送ろうとしていたんです\n例え開発途中で放置されたにせよ、条約違反の兵器が存在していることは事実。知らなかったなんていう言い訳は通じません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "確かにその通りだ。たとえ一つを破棄していたとしても、それは他世界の目をごまかすためであり、その裏でもう一基を作っていたと言われれば何も言い返せない。\n少なくとも、秘密裏に作られていた二基目が、実際に存在していたのだから。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それに、兵器の内容が内容です。あれほどの非人道兵器を作っていたとなれば、他世界と危険なバランスの上でどうにか共存していた竜界はどうなってしまうのか\nそれほどの機密を盗もうとした彼女を、私たちは許すわけにはいきませんでした。これからの竜界のために\nですが、当時のウルルさまに、これ以上命を奪うという重荷を背負わせるわけにはいかなかった。私たちは、極秘で彼女を捕え、処分したのです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それが、今回のフォンの決意の原因、ですか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい\nとはいえ、私たちは何も間違ったことをしたとは思っていません。軍事機密に手を出せば、どの世界であっても同じような処分となったでしょう",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それは、まさしくオペラさんの言う通りだ。最も手を出してはいけない機密。それに手を出せば、どの世界であれ厳しい処分が下される。\nフォンに納得しろということは確かに無理だろう。けれど、竜族にだって非があるとは言い切れない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "残念ながら、フォンさまに理解していただくのは無理だと思います。それが感情というものですから……\nフォンさまはこれからもウルルさまを狙い、そしてお母様の仇を取ろうとするでしょう\nですがウルルさまは、その金竜としての力を……竜王さまと竜王妃さまの命を奪ったその偉大な力を封じてしまいました。もう誰かの命を奪うためには使わないと\nそしてそれは、私たち竜族一同の願いでもあります。ウルルさまに、もうあの時のような苦しみを背負わせない、という\nフォンさまにその罪を咎められるのは、ウルルさまでなく、ウルルさまに守られた私たちであるべきなんです\nもう二度と、ウルルさまにあんな悲しい力を使わせてはならないんです……\nウルルさまを託されて下さると言った白鷺さまにだからこそお願いします\nあの力を、二度と誰かを傷つけるためにウルルさまに使わせないで下さい。ウルルさまに、これ以上罪を背負わせないで下さい\nウルルさまのすべてを、守って差し上げて下さい",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "微笑みの中にある真摯な願い。それがどれだけ大切な願いなのか、こうしてその目を見ているだけでもよく分かる。\nそしてその話を聞いた今、それは俺の願いにもなった。\nだから俺ははっきりと頷き返す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "任せて下さい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな決意の言葉と共に。\n満足そうに、またニッコリと笑うオペラさん。その笑顔は俺への信頼の証のようにも見えて、誇らしく感じた。\nウルルの過去に関する話。だからこそ、他のみんなにも簡単には話せない。大事なものを失ったウルルが、また大切な絆を失ってしまうかもしれないから。\nだけどオペラさんは、俺には話してくれた。それが、今は本当に嬉しくて、胸を張りたいと思える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "例えこれからどのような未来に向かったとしても、白鷺さまになら安心してウルルさまを託すことができます\nですから白鷺さま。最後に一つ、『竜の祝福』を知っておいて下さい",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "竜の……祝福、ですか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。これをどう捉えるか、それは白鷺さま次第です。聞かなかったフリをするのも正直ありです\nですが、もしこの力が必要になる時があるのなら、その資格を持つのは白鷺さまだけです\nもし私の手がウルルさまへと届かない時があったなら、その時はよろしくお願いします",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "微笑みながら言うオペラさん。その目がまるで未来を視ているかのようで、俺はただ頷くことしか出来なかった……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 036404_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "観客など誰もいない闘技場。静まり返ったその場所に、けれど二人の少女が向かい合うようにして立っていた。\nどちらも小柄だが、一人は赤く長い髪の少女。もう一人は金色の短い髪の少女。\nフォン=テルムとウルル=カジュタ。魔界と竜界、それぞれで名の知られた少女達。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "呼び出しに答えてくださってありがとうございます。本音を言えば、大勢に囲まれることも覚悟していましたから",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ウルルは竜族の王です。フォンさんの怒りを、この身体で受け止める義務があります\n知らなかった、なんていう言葉で逃げるわけにはいきません",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "昼休みの前、フォンは既にウルルにその姿を見せていた。オペラがウルルから離れる時間、すなわち座学授業中、窓の外から。\n自分との決着を望んでいる。それを察したウルルが昼休みに教室を空けたうちに、フォンはウルルの席にへと手紙を入れておいた。\n『放課後、闘技場にて』\nその裏でとある少女による行動があったことなど、フォンもウルルも知りはしない。二人は、ただそれぞれの決着をつけるためだけに、この場所にいた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、なんでなんですか?なんでいきなりこんな……\nフォンさんが、ウルルに復讐したいっていうのは分かります。だけど、なんでいきなりこんな風に……っ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "復讐なんかじゃありませんよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "え?違う……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だってそうじゃないですか。常識から言えば、フォンの行動のが間違ってます\nたとえ母親が処刑されたからといって、軍事機密に手を出したのならそんなのは当然。罰せられて当たり前。何も間違ってません\n処刑されてしかるべき行為をしたから処刑された。そんなのは分かりきったことで、お母様は殺されるべくして殺されたんです。まるで運命みたいに\nいえ、そうです。お母様が殺されたのは運命だった、そういうことです\n魔族のお父様と恋に落ち、竜族を裏切った時点で決まった、運命\n運命は誰にも変えられません。どんなに守ろうとしても、守りたくても死んでしまうように。決まっているものは変わらないんです\nだとすれば、お母様を殺されたフォンが竜族に刃を向けるのも運命だとは思いませんか?\nそこには、フォンの気持ちも、周囲のみなさんの気持ちも、無意味なんです。ただそうなるって決まっている未来への道\nフォンは、シャルちゃんの死でそれを知りました。フォンが辿り着くべき運命も。だからこうして刃を向けるんです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "少しの迷いもない笑顔で語られたその理由に、ウルルは目を見開いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "運命だからって、そんなのおかしいです!そんな理由でフォンさんは戦いを望むんですか!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ええ、そうです。母親を殺された娘がその仇である竜族を嫌い、復讐を望む。当たり前の運命です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そんなの、そんなのおかしいです!そんなのがフォンさんの運命だなんて、誰が決めたんですか!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "さあ……誰なんでしょうね。フォンたちの、すべての生きる者たちの運命を決めているのは\nもしかしたらフォンたちの知らない世界がまだ別にあって、そこの方々が決めているのかもしれません\nですが、そんなのはどうだっていいです。大事なのは、今ここでフォンとウルルさんが戦う運命があるということです\nそれでは、始めましょう!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンの背中に、赤い六枚の羽が開く。それこそは魔族の力の象徴にして、魔力の増幅器。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "六枚!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "その枚数に、ウルルも思わず驚きの声をあげる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "竜族の王女であるあなたに手は抜きません。最初から全力でいきます!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "両手に持った赤い刃、ハーケンを手に、一気にウルルの間合いへと飛び込んだ。\n近距離は完全に竜族であるウルルの間合い。が、そんなもの関係ないとばかりにフォンは武器を振り上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "速いっ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "その踏み込みの速さに驚きながら、ウルルは気鱗を展開、防御に回った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "甘い!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "え?きゃああっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だがフォンの一撃は、ウルルの身体をたやすく吹き飛ばした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "忘れないでください。フォンは竜族と魔族の両方の特性を持ってます。魔族の破壊力と竜族の腕力、生半可な気鱗で防げはしません",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "全力で張った気鱗だったのに……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "身体の芯に食らったかのようなダメージに顔を歪めながら、ウルルはどうにか立ち上がる。だがその瞬間、目の前にフォンが出現していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "手は抜きません!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "再び振り下ろされる二本の刃。もうかわせるタイミングでないことを悟り、ウルルは全力でその右拳を放つ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "かわせないならあっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "激突する刃と拳。だが勝ったのはフォンだった。ウルルの小さな身体が再び空を舞い、地面へと激突する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あうっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "『破壊の爆炎!!』",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そこへ更なる追撃。フォンの体内で制御され練りこまれた魔力が、その言葉によって具現化する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だ、だめぇっ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "発生した大爆発が空気を揺るがし、地面を吹き飛ばす。その爆炎に、まるでピンポン玉のようにウルルの身体は吹き飛んでいた。\nそれでも、直前で強引に跳んだおかげで、どうにか直撃だけはさけている。魔力防御の極端に低い竜族。上位破壊魔法の直撃は、それだけで死に繋がりかねない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こんな……強いなんて……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "圧倒的なまでの実力差だった。竜族と魔族の長所、それを徹底的に磨き上げたその戦闘力は、今のウルルではどうしようもないほどの差がある。\n魔族のトップクラスとトリニティの一学生。この差を埋めるには、恐らく奇跡とでも言うべき力が必要だろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "で、でも……立たなきゃ……にいさま……みたいに……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "全身を襲う打撲のような痛み。それでもウルルはどうにか立ち上がる。\nどんなに絶望的な差があっても、ここで諦めるわけにはいかない。竜族のトップとしての責任が、そして最後まで戦い勝利を掴んだ姫の姿が、ウルルをまだ突き動かしていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうしてです?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "が、そんなウルルにフォンは尋ねる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あなたは竜族最強の金竜の血族。ですが、どう見てもその力を使っていない\nまさかその力無しでフォンと互角に戦えるとでも思っていましたか?でしたらフォン、心外です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "その言葉に、フォンは拳を見下ろした。確かに、本来のウルルなら、金竜としてのウルルの力なら……そんな言葉が脳裏をよぎる。けれど……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だめ……あの力は……もう……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルは首を左右に振って、その考えを消し飛ばした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これが、今のウルルの全力です",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "その小さな身体をふらつかせながら、けれどフォンからその目をそらすことなく、ウルルははっきり言い切る。そこには、確かに強い決意があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……手を抜いてる、というわけではないみたいですね。とはいえ、何か策があるわけでもなさそうです。使わずに死んだら意味ありませんし\nでしたら、こちらも遠慮無く!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンは、手にしていた二つの武器の柄を一つに合わせる。長く凶悪な刃と化したそれを全力で回転させながら、破壊力そのものと化した魔力を集中させた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダブル!ハーケン!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "遠心力と竜族の力によって繰り出されるその一振りに、六翼によって増幅された破壊の魔力が合わさったそれは、紛れもない必殺の一撃。\nすでに真っ直ぐ立っていることすら難しいウルルに、それをかわすことはもう不可能だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ……う……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "どうやら、自分はまだ生きているらしい。それが最初の感想だった。\nけれども、身体にまったく力が入らない。それどころか今も抜けていってるように思える。完全に麻痺しているのか、痛みも何も感じない。\nいや、そもそも自分はなんでこんなことになっているんだろう。記憶がバラバラで、意識も定まらない。\nウルルは地面の上に、まさに粗大ゴミのように転がっていた。\n自分の状況を確認したくても、指先の一つも動かない。視界も霞み周囲の様子すら見ることができない。\nただそれでも、幾度も闇の底に落ちかける意識だけは、必死に呼び戻していた。今ここで落ちれば、本当にもう目覚めない。本能がそう叫んでいた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にい……さま……オペ……ラ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "けれど、それが限界だった。ブツン、と、何かのスイッチのようにウルルの意識が落ちる。漆黒の世界が、ウルルの意識を塗りつぶした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "完全な直撃、でしたけれど、気鱗を貫ききれませんでしたか",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そんなウルルの前に、フォンがゆっくりと歩いてくる。\n勝敗は決したと言っていい。けれどフォンは、まだ気を抜いてはいなかった。最後を見届けるまで終わりじゃないことを、フォンは知っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "すべてを振り絞っての気鱗が、かろうじて命をつなぎ止めた。その生命力には素直に感服しましょう\nですが、これで本当に終わりです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "動けないウルルに、わずかながらの距離を取り、フォンはそのハーケンを振り上げる。\n仮にウルルが最後の力を振り絞ったとしても、この距離では為す術がない。ここから放つ一撃で確実に終わらせる。\n終わらせられるはずだった。\nけれど、なぜだろう。そのたった一振りが振り下ろせない。振り下ろそうとすると、自分の中の何かが問いかけてくる。本当にいいのかと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今更何を……いいんです、いいに決まってるじゃないですか……!\nこうすることがフォンの運命!フォンは元々、こうしたかったはずなんですから!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "竜族のことを恨んできた。憎んできた。否定してきた。自分は魔族だと信じ、言い聞かせてきた。\nこの世界に来て初めて会った時……白鷺姫との戦いを邪魔されたあの時だって、何の遠慮もなく殺そうと思ったはずだ。\n自分がそうすることが運命だったはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルル=カジュタ!ここで死ぬのがあなたの運命だったんです!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "自分の中のすべてを振りきり、フォンは叫んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいえ、違います!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "だがそれを、目の前に割り込んだ女性が否定する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラ=ハウス!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンの中で起こったわずかな葛藤。けれどそのわずかな時間が、今ウルルの運命を変えていた。\n振り下ろされたフォンの一撃。そこから発せられた破壊の波を、オペラの張った魔法障壁が弾き飛ばす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルルさま!?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そしてオペラは、すかさずウルルを抱き上げる。想像以上に酷いダメージ。このままでは、フォンのとどめがなくても確実に危険だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひどい……まさかここまで……\nですが、今ならまだ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラの身体が、優しげな光を放つ。それはウルルの身体をも包みこむ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無駄です。そこまで傷つけば、治癒魔法でも間に合いません。リバウンドがくるだけです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "甘くみないで下さい\n私のラビットフォーム……この形態は魔法に関する能力を最大限に引き上げます。当然ながら、治癒魔法の治癒力も……\nリバウンドの発生する寸前までかけ続ければ、完治は無理でしょうけれど……命を繋ぎ止めるくらいなら……っ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その身の全魔力を治癒力としてウルルに注ぎこむ。ほんのわずかでも治癒力が足りなければ危険だ。オペラは強くウルルを抱きしめる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "させると思いますか!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "うくっ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "フォンの振り下ろした刃が、オペラの背中を切り裂いた。\n気鱗を使うことすらも無視して、今自分の持てるすべての力をウルルへと注ぐオペラ。それは完全に無防備な状態だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "な!気鱗すら張らず、あなた、死ぬつもりですか!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "今の最重要はウルル様の命です……あなたに構っていられる余裕はありません……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "苦しげなその声が、フォンの心を逆なでする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふざけないでください!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あ、ぐ!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "再び振り下ろされるフォンの刃。けれどオペラは、自分の身体を盾にウルルを守る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "な、なに無駄なことを!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "繰り返されるフォンの攻撃。けれどその一つとしてウルルに届くことはなかった。無防備なはずのオペラの背中が、まるで鉄壁の盾のように守り通す。\n真っ赤な血しぶきを上げながら、それでもオペラは、そのすべてをウルルへと捧げる。\n自分を守ろうなんていう考えはどこにも無かった。その頭には、もうウルルの笑顔しか写っていない。\nあの可愛らしい笑顔を、もう一度浮かべさせること。それだけしか考えられない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "邪魔です!フォンが狙っているのは竜族の王女の命!どきなさい!\n運命は覆らないんです!無駄なことをして、自分の命すらも捨てるつもりですか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "信じられないとばかりにハーケンを振り回すフォン。だがそれでも、オペラは倒れない。屈しない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "運命だのなんだの……フォンさまの言っている意味は分かりかねます……\nですが……もしここで誰かが死ぬ必要がある……なら……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "自らの腕の中で気を失っているウルルの姿をオペラは見つめていた。なぜだろう、自然と笑顔が浮かんでくる。\nこの小さな身体で、あまりに重い罪を行ない、竜族のすべてを背負った少女。\n自分には泣く権利もないと、無理やりに笑っていた少女。そんな少女のすべてが愛しくて、自分のすべてを捧げようと誓った。\n戦争では自分も多くの命を奪った。他世界からは恐れられた。だけどそれでも、この少女の笑顔を見てると、自分にはまだできることがあると思えた。\nこんな小さな少女が、自分を、みんなを救ってくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "必要がある……なら……私が、なります……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "な!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンさまが失ったものの引き換え……に……私がなり……ます……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "な、何を言って……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "オペラが何を言っているのかがフォンには理解できなかった。\n自分の中にある何かが、音を立てて砕けたような気がした。\n自分が今何をしようとしていたのか、それが分からなくなった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルルさまは、ここでは死にません。きっと白鷺さまたちも来てくれます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "う……あ……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ですから、フォンさまが奪える命は私だけ。それで終りにしましょう",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "少しの怯えもなく、ウルルを守るために本心から言ってのけたオペラ。その姿に、フォンは初めて恐怖を覚えた。\nオペラに対してではなく、オペラ=ハウスという稀代の戦士にここまで言わせる、ウルル=カジュタという少女に。\n彼女の持つ、自分の知らない何かに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うあああああああああああああ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "気がつけば、フォンは再びハーケンを一つに繋ぎ、振り上げていた。\nその恐怖から逃げるようにただ叫び、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダブル!ハーケン!!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そして、全力の一撃を振り下ろす……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"フォン"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 036505_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "学園長室の中は、思った通り重苦しい空気に満ちていた。\nウルルが中に入ると、トリアは席から立ち上がり、前へと進み出る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わざわざ足を運んでいただきすまぬな、竜姫殿",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "いえ、問題ありません。理由の方も、想像はついていますから……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そうか……\nまずは、謝罪をさせていただく。魔族の、それもウチの呼び寄せた重鎮により、今回のような事態となったこと、本当に申し訳ない\n謝罪をしてもしきれぬことなのは分かっているのだが……",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "暗く沈んだトリアの表情は、こうなることを止められなかった自分に対する責めも含まれているように見えた。\nだがウルルは、そんなトリアの謝罪に対して首を振る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フォンさんの行動は、全部自分の責任です。ウルルは、自分がどれだけ甘かったかを思い知らされました……\n常に周囲に頼り切って、任せて、何も知らないで……フォンさんは、むしろウルルの被害者です。ウルルがこんなにも甘い考えで竜族を率いていたから\nウルルのためにフォンさんを追い込んでしまいました……ごめんなさい……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "竜姫殿……いや、こちらの方こそすまない……",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そんなことありません!ウルルさまは常に私達竜族のことを考えて下さっていましたわ!\nその両肩にどれだけ重いものを背負って下さっていたか!どれだけ私達のために苦しんで下さっていたか!\nそれは、オペラさんだって同じですわ!私達は、ウルル様のためにいつでも命を投げ出せますの!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "それは、バリアリーフにとって、竜族にとっての確かな本音だっただろう。だけどそれでも、それが本心だと分かっていても、ウルルにとっては納得できなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとう、バリアリーフ。だけどそれでも、ウルルは逃げちゃいけないんだよ\n竜族王家の最後の一人として、ウルルはキッチリとすべてを受け止めないといけないんだ",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルル様……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "トリアさま",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルはトリアと正面から向かうと言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "一つだけ、お願いを聞いていただけませんか",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "お願い?無論、ウチに出来ることならなんでも言っていただきたい\n竜族と魔族の関係のためにも、全力で応えさせていただく。だが、いったい何を……?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ウルルの口調に強い決意のようなものを感じたトリアは、そう答えながらも訝しげに首を傾げる。\nウルルは頷くと、少しも迷うことなく言い切った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "改めて決着を付けたい。そうフォンさんに伝えてもらえませんか",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウ、ウルルさま!?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "バカな!竜姫殿、今ご自分が何を言ったのか分かっているのか!?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアにバリアリーフ、二人は同時に目を見開くと叫んでいた。だがウルルは、そんな二人の剣幕を余所に平然としている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もちろん、本気です。今のままでは、ウルルも、フォンさんも、どちらも中途半端に因縁を残してしまいます。これは、竜族と魔族の関係にも影を落としかねません\nそれに、フォンさんは、ウルルが生み出してしまった竜族の歪みそのものです\nだからこそウルルには、竜族の王女として、その歪みと、フォンさんと決着をつける義務があります",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "だから、フォンともう一度戦うと?だが、それではメイド殿が……",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "学園長の危惧されている通りです、ウルル様!オペラさんはその命をもってウルル様をお守りしました!\nそれはウルル様に生きていてほしいから!ウルル様が竜族に必要なお方だからですわ!\nそれを無にするなんて……!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "ううん、違うよバリアリーフ。オペラはね、ウルルにチャンスをくれたの\n誰かに守られ続けたままの、ただの赤ん坊でしかなかったウルルに、オペラはもう一度チャンスをくれたんだよ\n本当の竜族の長として、正面から立ち向かう為のチャンスを",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "それは……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "だから、ウルルは戦います。逃げずにもう一度。今度こそ、ウルルのすべての力をもって",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "それが何を意味するのか、バリアリーフにも分かった。その表情が悲しげなものに変わる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私では、ウルル様のお気持ちを変えることはできませんのね……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "ごめんね、バリアリーフ。でも大丈夫だよ。ウルル、勝つから\nオペラのくれたこのチャンスと命、両方守ってみせるから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "笑顔でそう述べるウルルに、バリアリーフは今度こそ言葉を失った。ウルルをとめられない自分への悔しさを浮かべつつ、黙って俯いてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "トリアさま。お願いできますか?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "一つ尋ねたいのだが、フォンは今行方をくらましている。なぜその伝言をウチに頼まれる?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "フォンさんのことですから、ウルルの気持ちを理解した上で、トリアさまに頼んでいるんじゃないかなって思ったんです\nウルルからの伝言があったなら、ここに伝えるようにって",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……なるほど。そこまで読まれた上で、か\n本気、のようですな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアの確認に、ウルルは少しも迷うことなく頷いた。トリアはそれから少しだけ思案すると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "確かに承った。必ず伝えよう",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そう言い切った。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ウルル",
"バリアリーフ",
"トリア"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | 046604_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "さて、と。とりあえずどうするか。終わったと思ったら、どっと疲れが出てきた\nよく考えたら、俺、まだ病み上がりみたいなものなんだよな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく。狙われてたのはフォンとウルルさまだったんですから、とっとと逃げれば良かったんですよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そんな風に笑顔で嬉しそうに言われても困るんだけどな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そんなことはありません。別にフォンは……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ウルルはとーっても嬉しかったですよ。にいさまに守ってもらえて♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そっか。ウルルはいい子だな、よしよし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへへー",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "…………あの……フォンにも同じものを……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あー、そうか。とりあえず学園行かなきゃな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですよ。多分、みんなも待ってます",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "昨日が昨日だったんで忘れかけてたけれど、今日は普通に平日だ。俺達は疲れ切った足に力を活をいれて、どうにか立ち上がった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "むぅー……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "どうかしたのか、フォン?なんだか不機嫌そうだけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんでもありません……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "きっと、お腹が空いてるからですよ。お腹が空くと、人は怒りっぽくなっちゃうんです\nウルルは、とおーーーーーーーーーってもお腹が空きましたあ♪",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "満面の笑顔と共に走り出すウルル。その無邪気な姿に、俺もフォンも、ただ笑うしかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく。本当にウルルはウルルだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "何を言ってるんですか。それを求めて命がけだった人が",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ああ、そうだな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……本当に、ウルルはウルルのままだ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にしても、姫先輩の方こそこれからは面倒な事になると思いますよ。なんといっても竜王さまです\nヴェルさまとノートさん。場合によっては紅さんなども、きっとこのままでは終わりません",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ニンマリと楽しげなフォンに、昨日の夜の騒ぎを思い出し、思わず引きつる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いやまあ、その片鱗は昨日既に……\nでもまあ、先のことは後で考えるさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう笑ったところで、前方でウルルが思い切り手を振っているのに気がついた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま~、フォンさ~ん、遅いですよ~。ご飯なくなっちゃいます",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "今はとりあえず、あの笑顔を見られるだけで充分だ\nそのためにも、俺達も朝食を食べる必要があると思うんだけど、どうだ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そうですね。今はとにかく、朝食にしましょう\n久し振りに、おにぎり食べたくなってきました",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ウルルの笑顔に釣られるように、俺達も笑顔で歩き出す。前にいるウルルを追いかけて。\n俺達のよく知っている、ウルル=カジュタを追いかけて。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ウルル",
"姫",
"フォン"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | EP01_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "またここか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "戻ったか。さて、今回の未来はどうだった。お気に入りにはなったか?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "再び戻った、この不可思議な白黒の世界。そして、目の前にいるローブの人物に、俺は思わず身構える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうした。また随分と過敏な反応だな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "……いや違う。声も雰囲気も気配も、そのすべてが違う。\nさっきの扉の向こうで、俺達を引っかき回してくれたあの少女……ミヤとは違う。同じようなローブをまとってはいるけれど、やっぱり別人だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "カミシア、だったよな\n……あのミヤとかいう奴に、扉の中で色々と世話になった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "何……?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアが、小さな驚きを含んだ言葉を発する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ミヤが未来世界に、直接干渉したというのか!?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "直接どころか殺されかけたぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはちょっと違うよ、白鷺くん。情報は正しく伝えて下さい\n白鷺くんは殺せないって、私、ちゃんと言ったじゃない",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "唐突に響き渡る声と共に、ミヤがその姿を現わす。隠すつもりがないのか、もうローブすら着ていない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ミヤ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "待て",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "思わずつめよりそうになる俺を、カミシアが制す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "貴様、どういうつもりだ……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "明らかな不満を込めたカミシアの言葉。なるほど、どうやら本当にこいつは関わってなかったみたいだな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうしたもなにも、私もゲームの参加者ですから。特に問題はありませんよね",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "ニッコリと、一切の悪気を否定するかのような笑顔で答えるミヤ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ルールの通り、白鷺くんを直接殺そうとはしてませんし",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "待て、今のはどういうことだ!ゲーム!?ルール!?お前達はなんの話をしてる!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まさか、という考えが頭の中をグルグルと回っている。だけど、到底それは信じられるものじゃない。信じたくない。\nまさか、俺達の未来そのものが、ゲームにされているなんて。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それは……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "言葉の通りだよ。これはゲームなんです。私と、えーと……カミシアちゃん。二人の存在そのものをかけた\nもっとも、そのゲームの結末は、そのままこの世界……皆さんの世界の未来になるんですけど",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "けれどミヤは、それを当然だとばかりに、あっさりと肯定した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ミヤ、貴様!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "えへへ。まあ、これくらいはいいじゃないですか\nだけど、あんまり細かいルールを剪定者に言ってしまうわけにはいかないので、そのあたりは内緒です",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "存在をかけた?どういうことだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そのままの意味ですよ。私かカミシアちゃん、どちらか負けた方の存在が消滅しちゃうんです。だからもう必死なんですから、私たち",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "そうは言うものの、その口調からは必死さは感じられない。まるで、自分の勝利が決まっている。そんな感じだ。\nそれに存在が消滅するって、そんなことが……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……そういえばお前、さっき『この世界』って言ったな。『皆さんの世界』って。なんだそれ。まるでお前達とは違う世界、みたいな言い方じゃないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな俺の疑問に、ミヤは感心したように言う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "少し驚きました。今のでそこに気付いちゃうなんて\n確かにまあ、これ以上の情報は与えない方がよさそうだね。それじゃあ、今回の結果確認と行きましょうか。カミシアちゃん、お願いします",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "……本当に、どこまでもふざけた奴だ……\nでは、聞こう。お前はたった今、二つ目の扉の向こう、『ウルル=カジュタ』に導かれし未来を終えた\nさて、どうだった\nお前にとって気に入った未来だったなら、今の扉を確定にしてもいい",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "前回と同じ、妙に落ち着いたその言葉がしゃくに障る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "前回と同じだ。断る\n最後がどうであれ、オペラさんとシャルが死んだんだぞ!オペラさんに至っては、そこのミヤに殺されたのも同じだ!\nしかもウルルとフォンまで狙ってきた。ゲームだ存在だ別の世界だ?ふざけるのもいいかげんにしておけ……お前達、いったい何者だ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……ミヤ。貴様、そこまでの干渉を……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "許されてる範囲内です。なんだったら、カミシアちゃんも干渉すればいいんじゃないですか?\n白鷺くんに簡単な説明をするだけで、他には一切の干渉無し。何を狙っているのかは知らないけれど、あんまり放置しすぎると手遅れになっちゃいますよ",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "本当に口惜しそうに吐き捨てるカミシア。カミシアはそのまま俺を見ると、俺の質問には一切答えず言葉を繋ぐ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なら、三つ目だ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "説明には答えない、そういうことか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "次は最後の扉『ノート=ルゥム』だ。この扉を見終えたなら、お前は選ばなければならない。この世界の未来を",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "本当に勝手だな……人を勝手に巻き込んでおきながら、こっちの質問には知らんぷり\nいいだろう、行ってやる\nだが憶えておけよ。今回だって、すべてとはいかなかったけれど、そこのミヤが直接出てくるくらいには変えることができた\nお前達の目的なんか俺は知らない。できるかぎりの抵抗をして、そして俺が望む通りの未来に辿り着いてやる!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "目の前にあるのは最後の扉。銀色の女神の名のつけられたその扉の把手を握ると、俺は一気に開いた――。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、です。カミシアちゃんが執着するだけあって、本当にいい駒ですね",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "貴様、また干渉するつもりか……?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "もちろんですよ。だって、私の存在がかかってるんですから\n一応、まだ残っていますし。干渉力も",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "とはいえ、直接攻撃までしたんだ。もう大したことは出来ないだろう",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "はい。さすがに直接攻撃はもう無理っぽいなって\n白鷺姫。本当にいい駒です。でも、私の駒の方が強いですよ",
"speaker": "ミヤ"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"ミヤ"
] | 04_Tiny Dungeon BoD | EP02_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "姫。今、寮の外でミリオって人から預かったんだが……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ミリオさんから……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "夕飯も終わり、そろそろ眠り始める人達が出てきてもおかしくない時間、紅に差し出された手紙を受け取り、その封を切る。\nミリオさんらしい、いかにも生真面目な筆跡だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "丘で待つ。戦闘用の装備にて、一人で来られたし",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "……間違いない、ノートの件に関してだろう。\n神族の王妃であると同時に、ノートの母親であったルアンさんとは違い、ミリオさんは神界の未来を憂う立場だ。そう簡単に納得なんてできるはずもない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "かなりできそうな神族だったが、ノートの関係者か?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "神界のNo2だそうだ。ルアンさんの代わりに今の神界を収めてるらしい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そんな人が姫になんの……って、例の件しかないな。何が書いてあるんだ……?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "一人で来いってさ。話したいことがいっぱいあるみたいだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ルアンさんか、ノートに相談した方が……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、招待されてるのは俺一人だし。ここで誰か呼んだら、多分二度と信用してもらえなくなりそうだ\n遅くなると思うから、紅は先に寝ててくれ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は言うと、しまっておいた剣を取り出す。いつもの特訓用じゃない、戦闘用の剣だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……くれぐれも、無茶だけはしないでくれよ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "心配そうに俺を見つめる紅に、俺は笑顔で頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もちろんだ。それじゃあ、ちょっと行ってくる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "無事で済むとは思っていないけれど、それでも絶対に逃げるわけにはいかない誘いだ。愛用の剣をしっかりと握り締め、俺は寮を後にした。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ミリオ",
"姫",
"紅"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 012508_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "土の曜日は午前中で授業が終わる。放課後、俺はノートとアミアと共に図書室へと足を運んでいた。\n昨日の実技授業。ヴェルや紅、デイルのおかげでうやむやにはなったけれど、俺は完全に負けていた。\n教科書通りの動きで、予想も出来ていたのに、それでもどうにもならなかった。\n確かに、戦いは常に一対一で行なわれるわけじゃない。俺ももう少し複数相手に対する戦い方を学んでおくべきだろうと、ルゥム姉妹に頼んで同席してもらったわけだ。\n幸い、アミアも新しい魔法の解析をしたかったらしく、二つ返事で引き受けてくれた。\n図書室の蔵書は多すぎて、慣れてる人がいないとちょっと手が出せないから本当に助かる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえばさあ、今日、妙に学園中が騒がしくなかった?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あ、はい。ボクのクラスも、なんだか妙な噂話で盛り上がってました",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "妙な噂話?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。なんでも、怪しい人族が現れたらしいっていう……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なんかねえ、昨日、街の方に、あからさまに怪しい人族の男が現れたんだって。なんか、厳つい顔した、いかにも、って男らしいんだけど\nで、人族っていうことで魔族のゴロツキが二人、その人族にケンカを売って、あっ、と言う間にのされちゃったとか",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "魔族をあっさり倒す人族って……確かに怪しいな。何者だいったい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかもねえ、その去り際のセリフが『お前らなんかと一緒にいられるか!』だったとかで",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "……何か、やばいフラグ立てていってないか?それ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "聞いただけでも怪しいって思っちゃいますね、その人……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "でしょう。いやあ、これだけのレベルはひっさしぶりだよねー。なんかわたし、ワクワクしてきちゃった",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういえば昨日、帰りにシャルが言ってたな。広場の方でケンカがあったらしいって。それのことか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "この世界に人族が訪れるなんて珍しいですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "人族は、基本的に人界から出たがらないしなあ……あ、悪いノート。その本取ってくれるか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、はい。この戦術書ですね\nこの本だったら、一緒に読むと、もっと参考になる歴史書ありますよ。取ってきましょうか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんなのあるのか。ごめん、頼んでいいかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、喜んで",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "嬉しそうに笑って、本棚の方へと向かってくれるノート。実はさっきから同じようなことが何回か発生しているのだが、嫌な顔一つせずに行ってくれるのが本当に助かる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほんと、お姉ちゃんって尽くすタイプだよねえ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ほんとだな。つい頼みすぎちゃいそうで困る。気をつけないと",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう?気にしないでいいと思うよ。むしろお姉ちゃん、お願いされたがるタイプだもん\n逆に、まったくお願いされないと不安になっちゃうんじゃないかなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういうものなのか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "姫くん、お待たせしました",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな話をしていると、本を手にしたノートが、とてとてと戻ってきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "この本のですね……あ、このページです。この部分に、実際にその戦術が使われた時の状況が詳しく書かれてるんです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ニコニコと、嬉しそうにページを捲って解説をしてくれるノート。そしてその後も……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの、よかったらお水もらってきましょうか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あ、じゃあ頼む",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい\n読み終わった本、戻してきますね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あ、ああ、助かるよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい♪\n姫くん、肩凝ったりしてませんか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "え?ああ、いや、そんなでもないかなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですか。読書してると、目の疲れから結構きちゃうんですよね。少しでも辛かったら言って下さいね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアの言う通り、ノートは少しでも俺の役に立ちそうなことを自分で探しては、その度に動いてくれる。\nなんていうか、健気で本当にいい子だなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ていうか、お姉ちゃん、まんまお兄ちゃんのお嫁さんだよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?ええ!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "お兄ちゃんのために、かいがいしく動いてさ。いやもう、お兄ちゃんの幸せ者ぉ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いや、本当実感してます",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "べ、別にあの、そんなつもりじゃなくて……ただ姫くんの役に立ちたいなあって……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なんだったらさ、わたし、離れてよっか?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ア、アミちゃあん……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんなアミアのからかい攻撃を受けながらも、しばらく勉強を続ける俺達。ノートのおかげでかなりいい勉強が出来た。\nでもほんと、ノートっていいお嫁さんになりそうだよなあ……。\n王女様って感じはあまりしないけど。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"アミア",
"ノート"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 012701_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "無心で剣を振りながらも、今日の素振りはいつもより力が入ったように感じるのは、やっぱりラーロンとの一件のせいだろうか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……よし、ノルマ終了っと",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "最後にひときわ強く木刀を振り下ろし、そう呟く。いつもと同じ回数をこなしたはずなのに、今日はまだ身体を動かし足りない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お疲れ様です。精がでますね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "え?ああ、ノートか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう少し素振りを続けようかと思ったところで、いつからいたのかノートが話しかけてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "飲み物とタオルです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ありがとう、助かるよ。でも、いつの間に?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "結構前からいましたよ?姫くんずっと集中してたみたいだったので声をかけませんでしたけど",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "全然気がつかなかった。俺って集中すると、周り見えなくなるからなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめん、全然気がつかなかった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ、いいんですよ。ボクも邪魔しちゃ悪いかなって思って気配を消していたので\nむしろ、終わるまでずっとあの集中力を保っていられるなんて、さすがですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そういって微笑むノートに少し照れたように笑う。自分としては大したことじゃないと思っていても、やっぱり褒めてもらうのは嬉しい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとう。そういえば戦闘服って事はもしかして?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、はい。もしお邪魔でなかったら手伝わせてもらおうかなって思って。今日の姫くん何だかいつもより気合入ってたから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あ、やっぱり分かるか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートは、俺の言葉にくすりと笑うと頷いてみせた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、姫くん分かりやすいですから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "う、反論できない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ラーロンくんとの件は心配ですけど、姫くんが決めてしまった事に口出しはできませんから\nだから、ボクはボクなりのやり方で姫くんを助けます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そういって再び微笑むノートに思わず見惚れてしまう。まったく、本当にこの子は。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そっか、ありがとう。じゃあ一つお願いしようかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そういって武器を構えた俺に、ノートも武器を構える。そうして、二人での訓練が始まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふぅ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日はこの辺にしておきましょう。これ以上は明日に触ります",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうだな、さすがに疲れたよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートの言葉に同意して、木刀を下ろす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけどさすがだな。教え方も分かりやすいし、ノートは案外教師とかにも向いてるかもな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ、ボクなんてまだまだですよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そこまで激しい打ち合いをしたわけではないのだけれど、素振りの後だった、ということもあってか俺の息はすっかり上がってしまっている。\nそれに引き換えノートは汗一つかいていない。さすがだなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おや、白鷺様にノート様。こんな時間まで鍛錬ですか?",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "あ、ミリオさん",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな会話をしていたことろで、丁度寮の中からミリオさんが顔を出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、日課の鍛錬をノートに手伝ってもらって\nミリオさんの方はルアンさんと?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、ルアン様に神界の現状についての報告に来たのですが、予想以上に時間をとられてしまいました",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そうだったんですか、お疲れ様です",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はは、この程度で根を上げていたら神界の宰相は勤まりませんよ。滅界戦争の頃からこんな事を繰り返していたので、もう慣れっこになってしまいましたから",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "何だろう。満面の笑顔でそう言って笑うミリオさんから湧き上がる、この苦労人のオーラは。\nきっと滅界戦争の頃から今と同じようにあちこちを走り回っていたんだろうな。その顔はすでに達観した者の顔になっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえばミリオさんは滅界戦争経験者でしたね。その辺の話も結構興味あります",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はは、私の話は聞いていてもそれほど面白いものではないですよ。ルアン様やトリア様と違い、地味な戦いが多かったですからね",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そういって笑うミリオさんだが、ノートがいやいやと慌てて首を振って答える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "謙遜しすぎですよ、ミリオさん。それにトリアさんやお母さんと比べたら大抵の人が地味って事になっちゃいます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "確かになあ。何ていうか、あの人達は存在そのものが規格外だし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そもそも生ける伝説、と言われるくらいの扱いをされているのだから、当時の暴れっぷりは推して知るべきだろう。\nもっとも、規格外の存在ならば俺の隣にいるお方も充分規格外なのだけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "本人はああ言ってますけど、ミリオさんは神族中でもトップクラスの戦闘力と指揮能力を持っているんですよ\nなにせ第2次魔界侵攻作戦の際は、その腕を買われて最年少で前線指揮官に抜擢されたぐらいですから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "第2次魔界侵攻作戦って歴史の教科書にも載ってるやつか!?あの、魔族側をあと一歩の所まで追い詰めたっていう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "歴史書にはいくらかオーバーに載っているだけですよ。実際あの戦いは、神族側にも多大な被害が出たので結果的には痛み分けに近かったですから\nそれでも懐かしいですね。あの頃は私も若かったですからね、色々と無茶をしたものです",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "さらっと言ってのけるミリオさんに思わず絶句する俺を見て、ノートが苦笑する。\n普段の立ち居振る舞いからただ者ではないと思っていたけれど、まさかここまでだとは思わなかった。\nというか、一体その経歴の何処に地味な要素があるのか教えていただきたいのですが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ミリオさんはその戦闘力もそうですけど、その本領はやはり高い指揮能力ですね\n第2次魔界侵攻作戦の際も、魔王城にあそこまで近づけたのはミリオさんが指揮をとっていたから可能だった、って言われるぐらいですから\n戦士としての強さより、指揮官としての強さ。それがミリオさんの最大の特徴ですね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "指揮官としての強さ……その言葉に思わず反応してしまう。考えてみれば俺の周りには戦闘力こそ規格外な人達が多いけれど、そっち方面での強さをもった人は少ない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "指揮官としての……強さか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それはここ最近強く意識するようになった事だ。戦闘力ではみんなに逆立ちしても敵わない俺が目指すのは、どちらかというとそっちの方なんじゃないだろうか、と。\n一瞬考え込んでしまった俺にノートが首をかしげる。そんな俺を見てミリオさんは何かを感じたのか、一つ頷くと話しかけて来た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふむ、そういえば以前アミア様に聞いたところによると、白鷺様もどちらかといえば私と同じタイプのようですね",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "興味がありますか?実際に戦う事とはまた違った強さというものに",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "ミリオさん?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そういって微笑むミリオさんの言葉に、俺はほとんど意識せずに頷いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "は、はい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですか、なるほど",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "その言葉に満足したのかミリオさんは少しだけ考え、再び頷くと俺をまっすぐに見て語る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なら、もしよろしければ今度簡単にお話をしましょうか。私の経験からくる指揮官のあり方について",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "ほ、本当ですか!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。もっとも仕事がありますのでそれほど時間はとれませんが。私がこちらにいる間に2・3回程度なら可能でしょう",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "是非お願いします!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "願ってもない申し出に頭を下げて礼を言う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "良かったですね姫くん。ミリオさんの話はきっと役に立つと思いますよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はは、あまり期待されても困りますけれどね。今後の励みになれば幸いですよ",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "本当にありがとうございます。でも、なんで急に?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "突然の申し出に歓喜しながらも、つい疑問を口にしてしまう。しかし、ミリオさんは軽く笑いながら言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "勉強熱心な若者を導くのも大人の役目ですよ。それに、以前のお詫びも兼ねていますから気にしないでください",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "お詫び?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "一瞬何のことかと考えたが、なるほど、以前ノートとの件を問い詰められた時の事か。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "では、今日はもう遅いので、またの機会に",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "はい、お疲れ様です",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートに続いて俺も別れの挨拶をすると、ミリオさんは寮の外へと出て行った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにしてもびっくりしたなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふ、それだけ姫くんがミリオさんに気に入られているって事ですよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうだと嬉しいけどな。話が聞ける時が楽しみだよ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思わぬ所で出来た繋がりに、俺は内心でガッツポーズをとった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ミリオ",
"姫",
"ノート"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 022903_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……よし、こんなもんか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "日課の夜の訓練中、木刀をひときわ強く振り下ろして俺はそう呟いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうですね、明日もありますし、あまり無理はしない方がいいと思います",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日も一緒に訓練につき合ってくれていたノートからタオルを受け取り、礼を返す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、デイル戦の時と違って大掛かりな訓練が出来たわけじゃないから、いまいち不安だけど、それでも出来ることはやれたかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。今の姫くんが実力を100%発揮できれば、きっといいところまで行くと思いますよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートの言葉に笑顔で答えるものの、やっぱり不安はぬぐえない。\n実際ラーロンと俺とじゃ実力は天と地ほど離れている。しかもデイルの時とは違い、ラーロンはこっちを全力で潰すつもりでくるだろう。\nそれでもなぜだろう。不安とは別の感情も確かに存在している。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちょっとだけ楽しみでもあるんだよな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "今まではこうして誰かと戦える機会なんて、大きなイベントの時ぐらいだったから\nこうして真正面から、全力でラーロンと戦える事を楽しみにしてる自分がいるのも確かなんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "くすっ、姫くんらしいですね\nでも、明日はラーロンくんとの模擬戦以外にももう一つ重要なイベントあるのを忘れちゃダメですよ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートの言葉に、もちろん、と頷く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫、放課後にヴェル達と作戦会議は済ませたし、必要そうなものも買い込んだから\nまあ、さすがに作戦内容まではノートには話せないけどな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふ、明日の午前中は敵同士ですもんね\nたとえ姫くんと戦うことになっても、ボクは油断も容赦もしませんから。気を抜いちゃダメですよ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それは本気で恐ろしいな。とりあえず出会わない事を祈ってるよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "実際、いくらヴェルがいるとはいっても、ノートと戦ったらこっちの被害もただではすまない。\nまあ、それはノート自身にも言えることだから、おそらく正面対決を避けてくるだろうとは思うけど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くん、ノートちゃん。調子はどう?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "あ、お母さん",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな話をしている時、玄関からルアンさんがひょっこりと顔を出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "丁度、今日はこの辺で切り上げようと思っていたところです",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あら、そうだったの。差し入れを持ってきたのだけどちょっと遅かったかしら?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そういって差し出されたボトルにはどうやら飲み物が入っているようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いえ、助かります",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ありがとう、お母さん",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ふふ、娘の恋路を応援する為だもの、これぐらいお安い御用よ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ぶっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お母さん!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "突然そんな事を言い出すルアンさんに、思わず噴き出してしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くん、ノートちゃんてば恥ずかしがりやだから、もっとぐいぐい引っ張ってあげてね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "え、いやあの……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "も、もう!怒るよお母さん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あらあら、怒られちゃいました。なのでお母さんはこの辺で退散しますね\n後は若いお二人にお任せしますから、あんまり遅くなり過ぎないように部屋に戻ってくださいね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そう言いたい事だけ言って、ルアンさんは笑顔のまま寮の中へと戻っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふう、ごめんなさい姫くん、お母さんが変なこと言っちゃって",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、もう大分慣れたよ、ルアンさんの言動にも",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう苦笑しながら答える。\n昔から人族の俺や紅に対しても分け隔てなく接してくれる人ではあったけど、ノートとの一件を報告してからは、特に向こうから話しかけてくれる事が増えた気がする。\nそれに、ノートとそういう関係と見られて、嫌なはずがない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、良い人だと思うよ。いつもノートやアミアの幸せを一番に考えてみるみたいだし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ちょっと行き過ぎの所も多いのが困っちゃいますけど",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "まあ、確かに親馬鹿だという点は否定出来ない。何せ神界を放り出して娘の為にトリニティ寮の管理人をするぐらいなのだから。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、ボクとアミちゃんの自慢のお母さんです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そっか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "少し照れながらも笑顔で答えるノートに、俺も笑顔を返す。やっぱり仲良し親子だなルゥム一家は。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルアン",
"姫",
"ノート"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 023204_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "放課後、俺達はすっかり訓練の定番となった丘にやってきていた。言うまでも無く真眼の訓練をするためだ。\n今日の放課後から訓練を始めるなら、陽が沈まないうちの方がいいとノートに言われて、授業の終了後すぐに向かった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "と、言ってもそれほど仰々しい事をするわけじゃありませんけどね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうなのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだよ。真眼は簡単に言えば状況把握能力の強化だから、やること自体はすっごい地味だよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まあ、だからこそ長続きする人が少ないんだけど、と続けるアミアになるほどと納得する。\nノートとアミア以外のみんなにも真眼の事を話したところ、手が空いている時は協力してくれると言ってくれた。\nしかし、今日はルゥム姉妹以外のメンバーに予定が入ってしまい、こうして三人だけで丘にやってくることとなった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうですね、まずは理論的なお話をしましょう。真眼がどういうものか正確に把握してないといけないですから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、よろしく頼む",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の返答にノートは笑顔で頷き、説明を始めてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、ざっくりとですけどこんな感じで分かりましたか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "な、なんとか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートの説明を一生懸命頭に叩き込みながら、何とかついていく。\nいや、ノートの説明が下手というわけじゃない。実際、ノートはところどころ身振り手振りを交えながら、丁寧にかなり噛み砕いて説明してくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ理論的な話は分かりにくいところも多いけど、やってみると自然に分かってくるもんだよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そうだな。まずは動いてみて、頭より身体で実感したい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね、それじゃあ早速始めましょうか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、頼むよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう言って俺は立ち上がると、ふと気になった事を聞いてみる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえば、ノートとアミアは真眼を使えるのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "教える身でありながら恥ずかしいんですけど、ボクもまだ訓練の最中です。まだまだ使えるといえる立場ではありませんね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートが覚えるのに苦労するとなると、俺でもちゃんと覚えられるのか心配になってくるな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わたしは理論的には覚えてるけど実践は無理。そもそも訓練方法からしてわたし向きじゃないんだよね\nだから途中で挫折しちゃった",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そう言って、小さく舌を出すアミアにらしいなあと苦笑する。\n確かにまあ、どう考えてもこういった地味な訓練はアミア向きじゃあないな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほどね。それじゃあ少なくとも俺は挫折しないようにがんばろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "冗談まじりにそう言って、俺は改めてノートに向き直った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はぁ……はぁ……け、結構きついな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まだ初日ですし、仕方ないです\nこの訓練は集中力をずっと維持してないといけないので、精神的にも結構疲れますし",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "訓練を始めて1時間あまり、俺はすでにバテバテになっていた。\nアミアが言った通り訓練自体は非常に地味なんだけれど、常に集中力を要求され続けるのは精神的にくるものがある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふう……よし、それじゃもう一度いこうか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そろそろ休憩をした方がいいんじゃないですか?さっきも言いましたけど、この訓練は精神的に疲労します。なるべく小刻みに休憩をとった方が効率がいいですよ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それはそうなんだけどさ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートの言うことも分かるけど、やっぱり一度乗ってくると、その流れを断ち切りたくないという欲がどうしても出てしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱりもう一戦……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう、そんなふらふらじゃ逆効果だよ、お兄ちゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "訓練続行を提案しようとした瞬間、一体いつの間に接近したのかアミアに軽く背中を押された。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おわっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それほど強く押されたわけではないのだけれど、疲れていたことと不意を突かれたこともあり、思い切り前につんのめった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くん!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そしてそのまま、正面に立っていたノートに、文字通りに胸に飛び込む勢いで突っ込んでしまう。\nていうか、事実胸に飛び込んでしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おぶっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃっ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "突然ブラックアウトする視界と柔らかな感覚に驚く俺の背後から、アミアのはしゃいだ声が聞こえてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よしっ、狙い通り!お姉ちゃん、ナイスキャッチ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?ええ!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "さあ、今お兄ちゃんは無防備だよ!その溢れ出る母性(胸)を使ってお兄ちゃんの疲れを癒してあげるんだ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "何を好き勝手な事を言ってるんだと、ツッコミと共にノートから離れようとしたところで、ノートは俺の予想を上回る行動にでた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えっと……こ、こう……?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートのその両腕が、俺をぎゅっと抱きしめてくる。俺の顔が、その豊かな膨らみの中へと埋まった。\nノートの胸に触れるのは初めてじゃないけど、やっぱり柔らかいな……それに温かい……。\nこの適度な弾力がまた気持ちよくて、このままずっと抱かれていたくなる……。\nって、ちょっとノートさん!?これはその色々とまずいのでは!?主に俺が!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さっすがお姉ちゃん!分かってる!男心をがっちりとつかむその天然ぶり!\nそこに痺れる憧れるぅ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "えへへ、そ、そうかな?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、全然ほめられてないから!全然褒めてないから!!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ついでにその男心を惹き付けまくる豊満な母性の象徴!\nそれが欲しいよ!妬ましい!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "先ほどとはうってかわった心底うらやましそうな声に、なんだか涙が出そうになる。\nまあ、こうして胸に抱かれていると実感できるけど……。\n本当にどこで差がついたルゥム姉妹!\nって、そろそろ本気で離してほしい。理性的な意味もあるけれど、何よりこの状態だと呼吸が出来ないので本気で苦しい。\nていうかむしろまずい。死ぬ。このままだとノートの胸に抱かれたまま幸せに窒息してしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あれ?姫くん?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "まずいと思いつつも、ノートの柔らかさにまあそんな死に方も悪くないかもな、と思ってしまった俺はもうダメかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、もしかしてだけど、お姉ちゃん……その状態だとお兄ちゃん息できないんじゃ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "……\nきゃあああああ!姫くーん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "薄れ行く意識の中、俺が最後に聞いたのはそんなノートの悲鳴だった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"アミア"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 023903_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "週末、学園は休日。本当はテンションも高い最高の位置になるはずなんだが……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺のテンションは床をつきぬけ、完全にグロッキー状態だ。正直動きたくもない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、頭が痛い……気持ち悪い……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "理由は言うまでもなく、昨日の学園長とルアンさんの酒盛りだ。\n結局朝方近くまで延々と酒を流し込まれ、本気で死に掛けたところでようやく解放された。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くそ……今日はこれまともに動けないな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ちなみに紅はといえば俺と同じで結構酒が残ってるはずなのに、朝からやりたい事があるからと出かけてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "学園の図書室って言ってたっけ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアの話だと、最近図書室で紅が何かを調べているのを良く見かけるらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "何か覚えたい技でもあるのかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そういうのがあるのなら言ってくれれば手伝うのに水臭い。\nまあ、今日に関しては俺に気を使ってくれたのかも知れないけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うう、やっぱ動けない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "痛む頭に手を当てそのまま目をつぶる。\nどうせこのまま動けないんだ、寝不足もあるしここはおとなしく眠ってしまおう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "き、気持ち悪い……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "体調は最悪だが、やはり寝不足なこともあってか、俺の意識はゆっくりと闇に沈んでいった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃんどう?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "うん、顔色はまだあんまりよくないけど、良く眠ってるよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "まどろみの向こうから聞こえる声に、ほんの少し意識が浮上する。\n良く眠ったおかげか、多少頭痛が引いたようにも感じられた。\nそれにやけに寝心地がいい。こんないい枕で寝たかなあ……こんな風に適度に柔らかくてほのかに温かい枕で……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ん?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、ちょっと待て、温かい?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "え、ノート?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "聞き覚えのある声にゆっくりと眼を開けると、\nそこには、何故かメイド服で俺を見下ろすノートの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "何だ……夢か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "へ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "だってノートがメイド服で膝枕なんて……夢としか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "未だ寝ぼけて、朦朧とした頭でそんな事を呟く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くすっ、寝ぼけてる姫くんもかわいいです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "でも、なんか妙に膝枕の感覚がリアルなような……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そこまで呟いて、ようやく俺の頭が覚醒し始める。頭の下のこの感触、いくらなんでもリアルすぎないか?それにこのノートの声……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もしかしてこれ……夢じゃない?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "眠いならまた眠っちゃっても大丈夫ですよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "その優しげな言葉に、俺の意識が完全に覚醒する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ!?こ、これどういう状況!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、まだダメですよ無理に動いちゃ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうは言うものの、この状況で驚かない奴はいないと思う。この幸せな状況……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あはは、お兄ちゃん驚きすぎ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ん?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そして聞き覚えのある声がもう一つ。俺はそちらに視線を投げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ア、アミアまで!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あは、お目覚めですか?ご主人様",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そこにはノート同様メイド服を着込み、無駄に優雅に挨拶するアミアがいた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、本当にどういう状況?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本気で状況が分からず困惑する俺に、アミアはいつも通り人懐っこい笑顔を向ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃんに、お母さんとトリアちゃんから伝言だよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "学園長とルアンさんから?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん。さすがに昨日はやりすぎた、すまん。だってさ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まあ確かに昨日は色々とシャレにならなかったからなあ。\nでも、謝るぐらいなら初めからやらないでほしい、と思ったのは秘密だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、そのことが今の状況とどう関係が?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの、昨日ボクたち姫くんの事を助けられなかったので、せめてものお詫びに二日酔いの姫くんを看病しようと思ったんです\nそしたら、あのお母さんが……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "どうやらルアンさんに何か吹き込まれたらしく、顔を紅く染めるノート。\nまあ、この状況を見れば大体予想はつくけれども。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど……それでメイド服と膝枕なわけか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "用意したのは……オペラさんあたりか?いや、ちょっとアレンジ入ってるからルアンさんのお手製かも……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "は、はい。これで看病すれば姫くんだって一発で元気になっちゃうからって……それでその、どうでしょうか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "顔を赤らめてたずねてくるノートに、俺は笑顔で答える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとう、最高の特効薬だよ。だいぶに楽になった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですか、良かったです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートにこんな形で看病してもらって、しかもこんな笑顔を見せてもらって気分が良くならないはずがない。\nこればっかりは、ルアンさんに感謝かな。まあ、昨夜の件と合わせたら相殺だろうけど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あちゃーもしかしてわたしお邪魔だった?\nだったらちょっとあっち行ってるよ?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ん?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "妙に楽しそうな声に俺とノートがアミアの方を向く。\nそしてこの顔である。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いやあ、いいもの見せてもらっちゃった。もうわたしおなかいっぱいだよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ふえ!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "俺達の行動を観察し、ニヤニヤと笑顔を浮かべるアミアの姿が。つまりは、今のやり取りをずっと見られていたというわけで……俺とノートの顔が再び赤くなる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "一応わたしもメイドさん補正がかかってるはずなんだけどなー\nやっぱりお姉ちゃんとお兄ちゃんのラブラブ補正の前には霞んじゃうか",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "妙に楽しそうにそういうアミア。\nさすがに、このままやられっぱなしでは男して情けない。こうなったら死ばもろとも。反撃させてもらおう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんな事は無いと思うけどな。アミアも充分かわいいじゃないか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "普段と違って、なんていうか女の子らしさが前面に出てて、すっごくかわいいぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えーと、いや、わたしなんてお姉ちゃんのおまけみたいなものだし。そんな褒められるようなことは。あんまりなかったりするかなーなんて?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "普段言われてなれてないからか、真っ赤になって照れるアミア。うん、こうして見るとアミアもさすがノートの妹、充分可愛い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんな事ないよ、アミちゃんだって充分かわいいよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そして俺の意図を察したのか、それともただの天然か、ノートが俺に続いてアミアを褒める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?そ、そうかな……?本当に似合う?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ああ、ばっちりだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、ばっちりです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "戸惑うようなアミアの声に即答すると、アミアの顔がさらに赤くなる。\nいや、本当に可愛いな。ノートとは違った感じの可愛らしさがある。アミアも普段からもう少し大人しくしていれば、結構な人気者になれるだろうに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うう、でも改めて、そう言われるとなんか恥ずかしいー!うわっ、やばい、めっちゃ照れる!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あはは。どうだ、少しは俺達の気持ちが分かったか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "くう!謀ったなお兄ちゃん!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いやいや。可愛いのは冗談抜きで本当だからさ。事実しか言ってないよ、俺もノートも",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "顔を赤くして本気で恥ずかしがるアミアをノートと一緒に笑っているうちに、気分の悪さは大分薄まっていた。\n俺はノートの膝に埋もれたたまま、改めてノートを見上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとう、おかげで大分楽になったよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それなら良かったです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あーでも、ものは相談なんだけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい?なんですか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "小首をかしげて尋ねてくるノートに、俺は自分でも顔を赤くしてるのを自覚しつつ口を開いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もうちょっと、このままでいてもらっていいか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もちろんです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな俺の言葉に、ノートは満面の笑みで答えてくれた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"アミア",
"ノート"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 024201_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "はっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まだまです!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "うわっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートの攻撃を読みきれず、俺はバランスを崩して倒れこむ。\nこの時間はいつもは日課の素振りをしていた時間だが、今は真眼会得のための訓練がメインになっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメ、大丈夫?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "すいません、強く打ちすぎちゃいましたか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はあ……はあ……大丈夫、ちょっとタイミングを間違えただけだから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まだ訓練を始めて数日はとはいえ、やっぱり難しい。\n戦闘中に考える事や注意を払う事が多すぎて、どうしても動きが単調になってしまう。それじゃたとえ攻撃が読めたところで意味が無い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今日はこのくらいにしておきましょうか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうよ、ちょっと根詰めすぎよ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや、まだまだやれるよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日はノートだけじゃなくて、ヴェルも手伝ってくれている。せっかくだしもうちょっと続けたい。\nせめて何かキッカケがつかめる程度には。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くん、真眼の習得に焦りは禁物ですよ",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうよ、最初にノートも言ってたじゃない、真眼は一朝一夕でなるものじゃないって。今のヒメはちょっと焦りすぎよ\nまだ、初めて数日なんだから、もうちょっとじっくりと気長にやらないと",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや、分かってはいるんだけどさ、ここまでまったく手ごたえがないと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "真眼にたとえわずかでも近づいている。その手応えがあまりにもなさ過ぎて、真眼を使えるようなるという実感がどうしても湧かない。\n今やっている特訓が、すべて無駄なんじゃないかとすら思えてしまう。\nなるほど、もしかしたらこれこそが真眼の習得の最初の壁なのかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だからごめん、あともう一度だけ頼む",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の熱意に負けたのか、ノートは嘆息すると小さく頷いてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ただし、これが最後ですよ。これ以上は何があっても続けません。いいですね?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "分かった、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "不安そうにこちらを見るヴェルに大丈夫だと笑顔を返し、俺は立ち上がった。\n訓練が終了し、姫が風呂へ向かうのを見守りながら、ヴェルはノートに尋ねた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どう思う?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "よくないですね……真眼に拘りすぎて少し基本が疎かになってます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "やっぱりそうよね……最後の訓練の時、いつものヒメなら充分に避けられる攻撃に直撃してた\n訓練での疲労があったとしても、直撃はないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルの言葉にノートが頷く。\nノートにも、今日の姫は普段の姫らしくないミスが目立ったように見える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "真眼を習い始めた人が陥りやすいミスです。真眼に拘りすぎてそれ以外のことをおろそかにしてまうんです\n真眼はいわば、突き詰めれば基礎と基本を極めた先にある境地といえます。だから基本や基礎を疎かにする人には決して使えません",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "でも、それって言葉で言っても多分伝わらないわよね……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はい。真眼を学ぶものが、自分で気がつかなければいけない事です",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それは、真眼の最初の壁と呼ばれるもの。実際、これに気づけずに挫折してしまう者は決して少なくない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫くんの物事に対するひたむきさは、時には何事にも変えがたい武器になります。けれど、今はそれが悪い形で出ちゃってますね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "せっかく矯正した、例の悪癖が再発しないと良いけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そうですね、それが今は一番心配です",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートとヴェルは心配そうに、姫が向かった先へと視線を向けた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"ヴェル"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 024403_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "歓迎会も無事終わり全員が寮に帰る中、俺と紅の二人はシャルを送っていくために、クラインズポットの前で皆と別れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "楽しかったかシャル",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "うん、ありがとう紅ママ!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "手をつないで前を歩く紅とシャルを見守る。なんだか最近紅とシャルの仲がやたらといいな。なにかあったのかな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうだ紅ママとパパ!真名って知ってる?",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "マナ?いや知らないな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あたしも聞いた事がないな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "聞いた事無い単語に俺と紅は顔を見合わせる。何だろう、神族特有の言葉かな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "真名っていうのは、シャルっていう、お母さんがつけてくれた名前とは違うもう一つの名前だよ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "もう一つの名前?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん、生まれてくる時にもらえるとっても大事な名前\nだから家族とか恋人とか、本当に大切な人にしか教えちゃいけないの",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "どうやらやっぱり神族特有のものみたいだ。それも、相当に大切なものらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それでね、えっとね。今はお母さんに絶対に誰にも教えちゃダメって言われてるから、教えられないんだけど\nシャルがもっと大きくなって、紅ママと同じぐらいになったらパパに聞いてもらいたいの。シャルの真名",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "神族にとって真名というのは本当に大事なものなんだろう。俺達人族にとっての儀式兵器、みたいな位置なのかもしれない。\nそしてその大事なものを、今はダメでも大きくなったら聞いてほしいと言ってくれてる。それはつまり……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "真名は大事だから家族や恋人にしか教えられない……ああ、そういうことか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、あたしもなんとなく分かったよ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "シャルは俺のことを慕ってくれている。\nその俺に、大きくなったらその真名というのを聞いてほしいという事は、多分そういうことなんだろう。\n家族や、恋人にしか教えられない……という。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく、シャルはおませさんだな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ふふん、今はまだまだだけど、すぐにおっきくなって紅ママみたいになるんだから\nそう、紅ママやノートママみたいにこんな感じに!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "シャルの成長した姿か、なんだがあんまり想像しずらいな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おい、姫。娘の成長を夢見る父親みたいな顔になってるぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "はっ!?いかんいかん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それでねそれでね、おっきくなったら大人なデートするんだよ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "また凄い単語出てきたな\nちなみにシャルのイメージする大人なデートのイメージってどうんな感じなんだ?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "えっとね、えっとね、一緒に街をまわって公園に行って、沢山遊ぶの",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "はは、それじゃ今とあんまり変わらないな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あまりにも健全すぎる無邪気なシャルのイメージに、俺と紅は噴き出してしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "むっ、これから凄いんだよ!大人なんだよ!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "ほう、聞かせてもらおうか",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺達に笑われたのがよほど悔しかったのか。想像力を振り絞るようにシャルの顔が赤くなる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "二人っきりでベンチに座ってね、それでね、それでね",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "なるほど。シャルの想像しているのはこんな感じか。\n広場のベンチに二人で並んで座り、そっと寄り添い合う。\nそのまま静かに見つめ合い、顔を近づかせ、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "キ、キスするの!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "そして唇を重ね合う……。\n大人の、というよりも、むしろ恋人同士のデートだな。確かに女の子にとっては、誰もが夢見るシチュエーションかもしれない。\nそれに、シャルなら大きくなればかなりの美人になりそうだし、きっといい相手が見つかるはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それは凄いな、すっごく大人だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、驚いたよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でしょ?えへへへ!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "顔を赤くして、嬉しそうににやけるシャル。なんだろう、パパとしてはかなり複雑な気持ちだ。\nそんな気持ちが顔に出てしまっていたのか、紅は俺を見て、ニヤニヤと笑っていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"シャル"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 024503_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ウルル、何の用だろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "夕食の終わり際にウルルに言われた、見せたいものがあるから後で部屋に来てほしい、という言葉。\n俺は、その約束を果たすため、ウルルの部屋へと向かっていた。\nそしてウルルの部屋の前に辿り着くと部屋番号を確認する。なんといっても、ここで間違えたら洒落にならない。悲鳴をあげられ間違いなく変態扱いだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よし、大丈夫だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "間違いない事を確認してノックしようとした瞬間、中から雄叫びのような声が響いてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、ダメですウルルさま!かわいすぎます!愛らしすぎます!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "お、オペラ!?め、目が怖いよ!というか鼻息も荒いよ!?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ、駄目です辛抱たまりません!ウルルさまああああああ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え!?きゃああああ!!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……開けたくないなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "中から聞こえてくる声だけで、その状況が容易に想像できてしまうのが恐ろしい。俺は無駄と知りつつも何度かノックをしながら声を掛けるけれど、返事は無い。\n一瞬このまま帰ろうかと思ったものの、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、ウルルさま!ウルルさまあああああ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "きゃあー!誰か助けてー!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……はあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は中から聞こえてくる悲鳴にため息をついて、ドアノブを握った。\nさすがにこれで帰ったら寝覚め悪いよなあ。\nそして、そんな諦めと共に、ゆっくりと扉を開く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だ、大丈夫か、ウルル……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そして、やっぱり後悔した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、にいさま!た、助けてください!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ、やっぱりウルルさま最高ですー!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あまりに予想通りすぎるその光景に、思わず目を覆いそうになる。ほんと、どうしてこうなった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、なんでこんな状況に?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "み、水着をにいさまに見てもらおうと思って試着してたら、オペラがー!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "あ、うん、了解大体把握できた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、なるほどそれで後で部屋に来てほしいと誘ったのか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だって、目の前に水着姿のウルルさまですよ!我慢できるわけがないじゃないですか",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それが当然みたいに言わないでよ!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "私たち竜族にとって当然です!必然です!完璧です!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "あ、うん。なるほど、それも了解。納得。だってオペラさんだし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま助けてー!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "オペラさんの腕の下でじたばた暴れるウルル。暴走したオペラさんを俺にどうにかできるとは思えないけれどそれでもさすがに捨て置けない。俺は意を決して前にでた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ストップですオペラさん!それ以上はいけない!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "が、その直後。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "むっはーやっぱりウルルさま最高です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ぶっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "どうやらウルルが暴れた拍子にオペラさんの手に水着が引っかかったらしい。ウルルの水着の肩紐がずるっと下にずれる。\n当然、その下からこぼれ出すのは桜色の……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いやああああ!にいさま見ちゃだめです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ああ、なみだ目のウルルさまも最高です!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オ、オペラさん!ストップ、ストップ!それ以上は危険ですから!色々危険ですから!お願いだから正気に戻ってください!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お、お願い正気に戻ってオペラー!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "暴れれば暴れるほどあられもない姿をさらしてしまい。完全になみだ目になっているウルル。それを救出するのに、俺が相当な労力を使ったのは言うまでもない。\n本当、誰かなんとかして下さい。あの竜族。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"ウルル",
"姫"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 024603_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "よし誰もいない。このまま寮に戻ろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そうね!誰かに見つからないうちに帰りましょう",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "すっかり日が暮れてしまった学園の敷地内を、こそこそと移動する。\nさすがにこの時間じゃ誰もいないと思うけれど、万が一見つかって残っていた理由を問われても答えられるはずがない。\nヴェルといちゃいちゃあんなことしてました、なんて……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あ、悪い……ちょっと速かったか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ううん、大丈夫。これぐらい我慢できるわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そう言ってもやっぱり少しきつそうだ。女の子は男と違って初めての後は大変だろうし。\n本当ならしばらくベッドなり何なりで休ませて上げるべきなのに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめん、場所が場所だっただけに、休んでる暇もなくて\nヴェルは初めてだったんだから、もっと場所を考えるべきだった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "けど謝る俺にヴェルは優しく微笑んでくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいのよ、これは私が望んだ事だもん\nこの痛みだって、ヒメと結ばれた大事な証。そう思えば全然苦じゃないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "笑顔のままでそう言ってくれるヴェル。けれど俺が無理をさせてしまったのは変わりない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "じゃあ、せめて",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……あ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺はヴェルに腕を回すと、そっと肩を抱いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "気休めにしかならないと思うけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ううん、ありがとう。私、今、凄く幸せよヒメ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そのまま身体を預けてくるヴェルの重みと体温を感じながら、俺はヴェルと一緒に門へと向かっていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うんうん、女を気遣うその姿勢。ますます高感度アップだぞ、婿殿",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "は?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "突如聞こえた非常に聞き覚えのある声に、俺達はぎぎぎと音を立てながらゆっくりと振り返った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おお、おお、我が娘ながら一丁前に女の顔になってからに\n嬉しいやら寂しいやらで、複雑な気分だねえ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そこには、予想通りの人物が、さも当然ように立っていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "か、かかかかかか母様!?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あ、ああああの!こ、ここここれは!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく、よりにもよってここで卒業するとはな。チャレンジャーすぎるぞ\nちょっとこの先が不安だ、変なプレイにはまったりするなよ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "し、しないわよ!というか、なんで母様がここにいるのよ!?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ははは、何年お前の母親をやってると思ってるんだ、お前の行動なんてお見通しだ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "いや、いくらなんでも普通この状況は予想できないと思うんですけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあでもこの人に常識は通用しないからなあ、本当にヴェルのすべてを把握してそう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ま、なんにせよおめでとう。良かったなヴェル",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "あぅ……あ、ありがとう",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "婿殿もうちの娘が世話になったな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "は、はい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いつものふざけた雰囲気から一転、学園長は母親としての顔でそう語った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ま、でも学園の規約違反をしたのは事実だからな、学園長としては許してやれんぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "が、それも一瞬。すぐに学園長としての姿に戻る。正直、酒を飲んでいた時と同一人物には思えない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "う……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっぱりそうなるのね……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まあ、今回は反省文で勘弁しといてやる。ヴェル、近いうちに婿殿と一緒にウチに届けに来い",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "分かったわよ……今回は悪いのは私だし",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "わかりました……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん素直でよろしい。それでは、今日はもう帰っていいぞ。あんまり遅いとルーにゃんが心配するだろうしな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "は、はい、すいません",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかし反省文か……いったいどういう内容で書けばいいんだ?理由が理由だけに本当のことを書くわけにもいかないし……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おお、そうだ。反省文には『行為』の内容を最初から最後までちゃんと詳細に書くんだぞ。じゃないと提出を認めないぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "はい!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "か、母様!!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "その理由を正直に書けとおっしゃいますか!?いくらなんでも無理というもの。\nいきなりとんでもない事を言い出した母親に、ヴェルがさすがに声を荒らげる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ははははは",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そんなヴェルの怒声など何処吹く風で、学園長は笑いながら去っていった。\nいや、冗談ですよね、うん。多分、きっと、おそらく……。\n冗談であって下さい、お願いします。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"トリア",
"ヴェル"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 024704_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "休日の朝、特に予定も無く暇をもてあましていたら、ノートが声を掛けてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "すいません、突然の買い物に付き合ってもらっちゃって",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、俺も予定が無くて暇だったから\nそれに最近は気が滅入るようなことも多かったし。いい気分転換になるよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう言ってもらえると嬉しいです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あ、ノートママ発見です!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "きゃっ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なんだ、シャルじゃないか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "こんにちは、パパとノートママ!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "うん、こんにちは。これから遊びに行くところ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうだよ!今日はみんなで新しく出来たお菓子屋さんに行くんだ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "へえ、そうなんだ。でもあんまり食べ過ぎるなよ。ダルマさんみたいになっちゃうからな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あー、女の子にそんな事言うなんて、パパはデリカシー無い人だー!\n女の人にそういう事を言っちゃダメなんだよねー、ノートママ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "ふふ、そうですね。デリカシーの無いパパはダメですよね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "何か本気でグサってきたぞ……これが父親の苦悩ってやつなのか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ぷっ、姫くんたら",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "こうして話してると、俺とノートと、シャル、本当に家族みたいだな。\nそんな風に苦笑していると、ノートは少し悲しげな顔を浮かべて呟いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "子供ですか……ボク、ちゃんと産めるのかな?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "子供がどうかした?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、いえ!何でもないです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "よく聞き取れなかった呟きを聞き返してみれば、ノートは慌てて両手を振った。なんだろう、ちょっと気になるな。\nけれど、そんな俺の不安を吹き飛ばすように、シャルが笑顔で俺に抱きついてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、パパとノートママの子供ならここにいるよー!",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "はは、そうだったな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう笑いながらシャルの頭を撫ぜる。幸せそうに撫でられ続けるシャルの顔には、未来への不安なんて欠片も無い。\nそれを見ていたら、漠然とした未来に不安を抱いていた自分がバカらしくなってきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうだね、シャルちゃんはボクと姫くんの子供だね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "それはノートも同じだったらしい。さっきの悲しげな表情はどこかに消え、そこにはいつもの優しい笑顔があった。\n大丈夫。こんな風に、ずっとみんなで笑っていられる未来を、俺達は目指すんだから。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"シャル"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 035601_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "朝から降り続いていた雨は、放課後になって寮に辿り着くと同時にやんだ。\nいつの間にやら窓の外には、朝とはまるで違った景色が広がっている。\nなんとなく損をしたような気になりながらも、俺は窓を閉じると、紅に尋ねてみた。\nあの少女以外の、もう一人の怪しい人物についてを。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ゲンさんだと?姫、まさかお前は、あの人を疑っているのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……紅を助けてくれたことには感謝もしているけれど、怪しい、という点では、かなりなもんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "確かに悪い人には見えなかった。紅を助けてくれたことも感謝はしている。\nだけどなぜだろう。あの人に対する不審感がどうにも消えない。今この世界にいる怪しい人物。それで検索をかけてみると、間違いなくその頂点にあの人がいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺達は、あの人の種族と名前くらいしか知っている情報がないんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう一つあるだろう。あの強さ、だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……そうだな。強い。それも圧倒的にだ。けれど、あれだけ強い人族だったら、もっと名前が知られているべきだろう\n少なくとも俺は、魔王の血族を正面から圧倒する人族を初めて見た",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの人は武力だけじゃない。その内面も充分に強い人だ。助けられた時、あたしは充分に知った。裏で何かを企むような人じゃない",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あの人がこの世界に現れたタイミング。そしてあの異常な強さ。俺は、あの少女以上に、ゲンさんを注意するべきだと考えてる……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "馬鹿な!あの人は人族だぞ!人族が、いったい何を理由に今回の事故を起こす必要がある!神族と魔族を対立させて、どんな得がある!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……俺達人族は、ずっと蔑まれてきた。だからこそ、その復讐……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふざけるな!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺の言葉を、今まで聞いたこともない激しい声が、遮った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "見損なったぞ、姫!\nお前こそ、あの人の強さに対する嫉妬か?どうせ証拠も何もないんだろう?\nお前が言ってるのは、全部机上の空論だ。あの人を無理やり犯人に仕立てあげたい、お前の妄想だ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅、お前は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "待たれーい!待たれい!待たれい!待たれーい!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……はい?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……オペラさん?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺達を包んでいた険悪な空気は、唐突に入ってきたオペラさんに、見事吹き飛ばされていた……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それであの……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あたしたちは、なんで正座させられているんでしょうか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "それはもちろん\nケンカはやめてぇ!私のために争わないでえ!!のために決まっているじゃありませんか\n廊下にまで響いていましたよ、白川さまのお怒りの声。あんなものを聞いてしまったら、そりゃあ正座に決まってるじゃないですか\n正座ですよ正座。せいざー",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……最近人界の本か何かにはまりましたね?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "どぎくうっ!!\nえっとぉ……たまたま読んだ本に、今人界は、正座と土下座が熱い!なんて特集読んでいませんよぉ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "人界の情報誌入手するにも、もう少しまともな本、読んで下さい……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "しゃら~っぷ!いいですか!ケンカなんてしてしまうのは心が乱れている証拠です!\nそういう時は正座です!とりあえず正座!正座正座正座!\nと、この本にも書いてあります",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんも、結構影響受けやすいな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そもそも正座なんて、人界でもあたしたちの故郷くらいでしかまともに使われない座り方なのに、オペラさん、大丈夫なのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そっとオペラさんの方へと視線を送ると、オペラさんは、なんて落ち着く座り方でしょう……なんてニコニコしていた。\n正座に初挑戦であの笑顔……やっぱり凄いな……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おち、つけただけ、で……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "凄い……な?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おおおおおちつけ私っ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "どうやらダメみたいだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、そりゃそうだろうなあ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そ、そうです、こんな時こそ素数を数えて落ち着くのです\nメリーさんが一匹、メリーさんが二匹、メリーさんが三匹……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いやそれ、素数じゃないし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひゃっはー!!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……どう思う?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……随分爽やかな顔だな。ついに悟りの境地にでも達したか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや待てよ?あの爽やかさはむしろ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、気絶してる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほんと、王道展開好きな人だなあ、オペラさん。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無理です!無理無理!絶対無理!\n正座?アホですか!あんなんで心落ち着くわけねーだろ、おい!あんなのただの拷問です!!ざけんな人界!!\nまったくもって不愉快です、あーもうこうなったら、ウルルさまに正座させてぷるぷるしてるところ愛でるしかないじゃないですかあ♪",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "気がつけば、オペラさんはスキップなどしながら去っていってしまった。\nあとでウルルの悲鳴が聞こえてこないことを祈ろう。\nでもまあ……、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさんと正座のおかげで、頭は冷えたかな。悪い、ちょっと性急すぎた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……いや、あたしの方こそ、ちょっと意固地になっていた。すまなかった",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "実は結構効果あるんじゃないかな。正座って。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"姫",
"紅"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 035902_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ウルル",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "寂しげな顔を浮かべるウルルに、俺は出来るだけ明るく声をかけてやる。その気持ちを鼓舞するように。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺の呼びかけに、ウルルは微笑んだ。けれども、その顔から寂しさは消えていない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……アミアか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……はい。アミアちゃん、ああ見えてすっごく友達想いですから、絶対に気にしてるなって……\nだけど……いざ来てみたら、なんて声をかけていいか分からなくて……どう元気づけてあげたらいいのか……分からなくて……\nウルルも、経験あるから分かるんです……。自分のために誰かが死んじゃうって、本当に辛くて、悔しくて、悲しくて……\n謝りたいのに謝れない。どんなに自分を責めたって、もう何も戻ってこない……\nウルルが何を言ったら、アミアちゃん、元気づけられるんでしょうか……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そう言って、ウルルは再び視線を逸らしてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それは誰だって同じだよ。今のアミアに何を言ってあげればいいのかなんて分からない\n元気づける行為が、逆に責めてるように感じてしまうこともあるからな……\nだからまあ、そういう時は、許してあげるしかないと思う。もう戻ってこない誰かの代わりに、今生きてる俺達が……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま……\nにいさま、アミアちゃんのこと、お願いしてもいいですか……?\nきっとにいさまの方が、今のアミアちゃんの力にはなれるから……だから、アミアちゃんのこと、お願いします……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……分かった。アミアのこと、任されたよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい、お願いします",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ウルルは俺に頭を下げると、自分の部屋へと戻っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミア、いるか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "扉を軽く叩きながら声をかけてみる。もしかしたら、ベッドの中に潜り込んで泣いているかもしれない。\nただ呆然と、誰の声も耳に届かず、外を眺めているのかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ、お兄ちゃん?どうぞー、入ってきていいよー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "けれど返ってきた言葉は、思った以上に明るく元気だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どしたの?お姉ちゃんだったら外に出てるけど\nていうか、こっちに帰ってきてから部屋に戻ってきてないんだけどね\nやっぱりさ、相当ショックだったみたい。だからほら、なんだったら、お兄ちゃんから元気づけてあげてよ。今それできるの、きっとお兄ちゃんだけだからさ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ニコニコと笑顔で言うアミア。でもなぜだろう、その笑顔が、やたらと空虚に見えるのは。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もうちょっと待っててくれれば、お姉ちゃんも戻ってくると思うんだよね。ベッドの上にでも座って待ってて",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ぽんぽんと、自分のベッドを叩くアミア。本当に、こういうところは姉妹なんだなあ。\n二人とも、責任を背負いすぎだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミアは悪くない。それだけは言っておくぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え……?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "俺の言葉に、アミアの顔が固まった。無理に作り上げた、仮面の笑顔が。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺が言っていい言葉じゃないのかもしれない。だけど、これだけは間違えてほしくないから、ハッキリと言っておく。シャルのためにも\nアミアは絶対に悪くない。アミアがシャルを助けたいって思っていたように、あの時、シャルだってアミアのことを助けたかったんだ\nだからシャルは、あんな行動をした。自分がしたいことをやって、そしてアミアを助けたんだ\nシャルは本当に凄いことをしたんだ。だから、それを褒めてあげてくれ。シャルのおかげだって、胸を張ってあげてくれ\n自分を責めて、助けられたことを悔やんで……シャルの行為を否定したりはしないであげてくれ\nアミアは、絶対に悪くないんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "優しく微笑みかけながら、俺の本心を言葉にする。アミアは驚きにその顔を固めたままで、俺を真っ直ぐに見つめていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほんっと、お兄ちゃんってさ……お人好しだよね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "やがて、呆れたように笑みを浮かべるアミア。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "自分だって辛いくせに、それガマンして、わたしを元気づけようだなんてさ\n……うん、分かってるんだ。ここでわたしが落ち込んじゃったら、シャルちゃんの行為を否定しちゃうんだってこと\nわたしはいつものわたしらしくして、シャルちゃんがしてくれたことをしっかりと肯定しなきゃ\nわたしがシャルちゃんに言うべきセリフは『ごめんなさい』なんかじゃない\n『ありがとう』なんだって\n分かってるんだ……分かってるんだよ……?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "必死に笑顔を浮かべようとして、それでも堪えきれずにアミアの表情が歪む。\n涙だけは流さない、と必死に耐えて、アミアは俺に抱きついた。その顔を隠すように、俺の胸へと埋めてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "分かってるんだけど……怖いんだ\n友だちが……大切な人が……いきなり死んじゃった。わたしの代わりに……わたしをかばって……\nどんなにね、笑おうとしても、この事実がわたしを襲ってくるの。ちょっとでも気を抜くと、すぐにわたしを包み込んじゃうの……\nわたしが死ねばよかったのにって、なんでわたしが生きてるの?って……\nどんなに逃げようとしても、逃げられる場所がないの……\n助けて……助けてよ、お兄ちゃん\nわたしさあ、笑っていたいんだよ。シャルちゃんのためにも、シャルちゃんと一緒に笑っていたいんだよ\nだけど、このままじゃ笑えない……笑えなくなっちゃう……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その逃げ道を求めて、俺にしがみつくアミア。\nアミアは今、自分を許してくれる人。そのすべてを受け入れてくれる、そんな場所を求めている。\nこれからも笑っているために、今、自分が生きていることを認めてくれる場所を求めている。\nそして今、アミアが逃げ込めるその場所は、俺の中にしかなかった……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ウルル",
"姫",
"アミア"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 036306a_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "きろ……",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "微睡みを吹き飛ばすかのように、身体がゆっくりと揺れている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はや……きない……だぞ……",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "耳にしっくりとくる優しげな音が、身体にゆっくりと染みこんでいく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とうに……こく……しらな……",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "少しずつ掬い上げられていく、俺の意識。周囲の景色が、徐々に明るくなっていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、もういいから起きろ!!",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "はい!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "耳元で突如発生した爆発。今までの優しい微睡みはどこへやら、俺は飛び起きていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こ、紅?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく、いつまで寝てるつもりだ。もう朝食食べてる時間はないぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "慌てて時間を確認。確かに、すぐにでも着替えて出ないとかなり危険度の高い時間だ。なんていうお約束的状況。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ああ、そうだな。すぐに準備を……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そこまで言って、俺は紅を見た。\n昨夜、俺が戻ってきた時には、紅はすでにベッドの中に潜って寝てしまっていた。\n昨日、俺が部屋を出てから本当に大丈夫だったのか……こう見えても、紅は普通の女の子でかなり脆いところがある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なあ、紅……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ん?どうかしたのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、その、な……えーと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なるほど、昨日のことか",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "言い淀む俺を見て察したのか、紅が苦笑する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "見ての通りだ。吹っ切った、とまでは言わないが、落ち込んでいたところでシャルが喜んでくれるはずもない。とりあえずは、いつも通りのあたしでいることにした",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……そうか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いつも通りの笑顔で言う紅。だけど、だからこそ何か……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、なんだ。もし何かあったらさ、たまには、俺に甘えてくれたっていいんだぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それで、着替えを見られたり、胸を揉まれたりしてしまうわけだな、あたしは",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "すいません。本当にすいません。過去の事とはいえ謝ります……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はは、冗談だ。あれは、無防備すぎるあたしにも責任があるからな\nそれじゃあ、玄関で待ってるからな。急いで来てくれよ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そう言って、部屋を後にする紅。けれど俺は見てしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……でも、そうだな。たまにはそんなのもいいかもしれない……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "部屋を出る時の、寂しそうな紅の顔を……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"?",
"紅"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 036401_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "うう……もうお婿にいけない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すっかり夜も更けた時間。オペラさんやフォンの色々と素敵な薬の力もあって、どうにか熱は下がっていた。\nさすがにかなりの汗をかいたので、それを流すくらいは、とどうにか許可を得、俺は風呂へとやってきていた。\n……まさか本当にされてしまうだなんて……それも反応しちゃうだなんて……ぜ、全部ヴェルの指が悪いんだっ。\n男って、本当に情けない生き物だよな……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は溜息をつくと、シャワーの前に立つ。\n出来ることなら湯船に浸かってじっくり休みたいけど、今日はあくまで汗を流すだけだ。また熱が上がっても困るしな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "すっごくお疲れみたいですね。それじゃあ、綺麗にしちゃいましょう\nお背中流しま~す",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "ああ、うん。頼む……って、ええ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "非常に聞き覚えのある可愛らしい声に、俺は慌てて振り返った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、前の方からがいいですか?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そこには、メイド服に身を包んだ可愛らしい竜族が一人。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ウルル?な、なんでここに!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。にいさまが長湯してしまわないように、見張りにきましたー♪\nあと、お疲れのにいさまを少しでも癒せるように、お身体洗っちゃおうかと",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "少しも動揺せずに笑顔を浮かべて言うウルル。いや、聞きたかったことは確かにそれなんだけど、そういうことでもなくてだなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、あの、な。女の子が男の身体を洗うっていうことはその……お、男にも色々あったりするわけなんだよね。これがほんと\nどんなに頑張って抑えても、心の野獣さんとか、生理現象とか、いろんなものが顔を見せちゃうわけだよ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "大丈夫です。にいさまの怪獣さんでしたら、さっき見せてもらいましたから\nいきなりだったらビックリしちゃうところですけど、今はもう心の準備バッチリです\nその……今はまだ可愛らしいみたいですけど……えへへぇ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "顔を赤らめながら、チラチラと俺の腰の方へと視線を送るウルル。あれ?俺は今立ってて、ウルルと正面から向かい合ってる。しかもタオルはこの手の中に……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃああああああ!痴漢ーーーーー!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま、それ、女の子のセリフですよぉ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "み、見られてることに男も女も違いはない!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまり、あの……ウルルも見せれば一緒、ということですか……?\nに、にいさまにならその……いいです、けど……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "いや、そういう意味じゃない!\nとりあえずすぐ出るし、ちゃんと洗えるから、ウルルは外出ててくれ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ダメですっ。ウルル、最近にいさまのお役に全然立ててないから、今日くらいはって、心に決めてきたんですから\nだから、素直に座って下さい",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "あ、この笑顔はダメだ。絶対に引き下がらないって時の、頑固モードだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……そ、それじゃあ、背中だけ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふう……仕方ない。せっかくの好意でもあるんだし、背中だけでも洗ってもらうか。\n俺はウルルに背中を向けると、その場に大人しく座りこんだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、失礼しまーす。痛かったりしたら言って下さいね",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "俺の背中を、丁寧に、優しく洗い始めてくれるウルル。俺のことをちゃんと考えてくれてるんだろう。結構気持ちいい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、にいさま……自分を傷つけることが目的のトレーニングじゃ意味ありませんよ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "最近のにいさまを見てると、たまに思うんです。にいさま、自分をいじめたがってるんじゃないかって\nシャルちゃんについて……自分をいじめたいんじゃないかって……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "そんなウルルの意見に、すぐに、まさか、という言葉が脳裏に浮かぶ。笑いながらそう言って、否定しないと、と思う。\nだけど、言葉にはならなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラも言ってました。にいさまは、自分の無力さを分かってるから、今回のことの責任を取るなんてことは言い出さない\nそれは、結果を変えられたかもしれない力を持つ人だけが許される言葉だって\nそれを分かってるから、にいさまは絶対に言わない。でも、だったら、その自分の無力さに対する怒りは、どこにぶつけたらいいんでしょう……\nウルルも、戦争の時に色々ありました。だから、にいさまの気持ちが少し分かります\n何もできなかった自分が、あの結末を変えられなかった自分が憎くて、悔しい。だから、もっともっと、痛めつけてやりたい。その責任をとらせてやりたい……\n今のにいさまのトレーニング、そんな意思が感じられて……見てて辛いです",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "自分を傷つけることが目的、か……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "無力な自分が許せないなら、強くなって、そんな自分を消しちゃいましょう。それが一番の復讐です",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "……そうだな。よく考えてみたら、確かにそれが一番の復讐だ。俺自身が強くなって、弱い自分を完全に否定してやる……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま……強くなって下さい。にいさまが望む通りの力で、強くなって下さい\nヴェルさまやノートさま、ウルルなんかよりもずっとず~っと、強くなって下さい",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "心からその日を待っている。ウルルの言葉には、そんな願いを感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、もちろん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、そんなウルルの願いに、素直に頷いていた。\n前を向いてるつもりだったけど、やっぱり背負ってしまってたみたいだな。\nウルルの言う通り、俺は俺に出来るやり方で、俺の力で強くならないと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、にいさま。お背中終了です",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "背中に、優しくお湯がかけられていく。泡と汚れと疲れとを、優しいお湯が洗い流していく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、それじゃあ……次は前の方、いきますね……?",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "にいさま、こちらを向いて、足をその……開いて下さい……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "い、いや、そっちはいいから!背中で充分ですから!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ダメです。にいさまのすべてを綺麗にしてきて下さいって、オペラも言ってましたから\nですから、力尽くでも洗っちゃいますよお!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ち、ちょっと待った!待ってください!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "抵抗する俺の身体をしっかりと掴むウルル。どんなに小さくても相手は竜族。俺が抗えるはずもない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ~い!",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "ち、ちょっと待ったあ!!",
"speaker": "姫"
}
] | [
"ウルル",
"姫",
"?"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 036603_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "やっぱりいない、か……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "誰もいないもう一つベッドを見ながら、俺は静かに呟いた。\n紅が何も告げずに姿を消してから、今日で三日目。まだ三日というべきなのか、それとももう三日というべきなのか、俺には分からない。\nけれど、紅が何も言わずに一日以上俺の前から消えるなんて、今まで一度もなかった。\n俺が紅を抱いたことで、紅の中の何かを変えてしまったのかもしれない。何かを傷つけてしまったのかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅……本当に、なんで……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "この学園で共に頑張ってきた、もう一人の俺。かけがえのない、俺の相棒。\nその姿がないことが、その声が聞けないことが……今はこんなにも心細い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……とにかく、ガマンだな。それが俺にできる、唯一の抵抗だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの紅が俺をおいて消えるわけがない。みんなはそう言ってくれた。俺もそうであると信じたい。いや、信じて待つ。\n俺はベッドから降りると、着替えに手を伸ばした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、お兄ちゃんおはよー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "姫くん、おはようございます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートにアミアか、おはよう。今日は随分と遅めだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "丁度食堂にいた二人に挨拶しながら、俺は同じテーブルに着く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "き、今日はボクが寝ぼけたんじゃないですよ。アミちゃんがお寝坊したんですから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "お姉ちゃん、いくらお兄ちゃんの前で恥ずかしい自分を見せたくないからって、そこまで必死にならなくてもいいと思うんだけどなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あうう……だってだってぇ……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ちなみに、お兄ちゃんとしては、お姉ちゃんみたいにボケボケな子、どう?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いや、普段はけっこうしっかりしてるし、時々見せてくれるドジッ子属性は結構おいしいと思うけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?\nほ、ほんとですか、姫くん!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "うん、本当",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え、えへへぇ♪",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "なんなんでしょうねえ、この変化は。神界の銀月といえども、所詮は一人の女ですなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミちゃんだって、好きな人が出来ればこうなっちゃうはずです\nあ、そういえば姫くん。紅ちゃんからは、何か……?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "いや、まだ何も",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですか……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "うーん。あの几帳面な紅さんにしては珍しいよねえ。でも、まだ三日だし",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そうですね、まだ三日です。紅ちゃんのことですから、絶対に連絡ありますよ。だから、姫くんが紅ちゃんの場所、守っていてあげて下さいね",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんなノートの言葉が本当に嬉しくなる。\nそうだ。俺が紅の居場所にならなくちゃ。ここを守っていなくちゃ、だよな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ。紅の奴が帰ってこないはずないもんな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうそう。その意気だよ、お兄ちゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "よし。元気も出てきたところで、とりあえずは腹ごしらえといきますか。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"アミア",
"ノート"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 037001_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "それで、私のところに来たの?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルの部屋。そこにはヴェルとフォンが休んでいる。\nゲンにやられた傷は大分癒えたが、そのダメージは大きく、まだ完全に抜けきっていない。そのため、大事を取って、こうしてまだ休んでいた。\n俺は、そんなヴェルの元を尋ねると、これからの自分の行動についてを話した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ……まだ完治してないのに、その……悪い。身体、大丈夫か?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、もう平気。まあ、激しい動きとかしようとすると、まだちょっとふらついたりもするけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "なら良かった。ほんとに、無理はしないでくれよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまり、ヒメは悩んでるわけ?本当にそれでいいのか。それとも……って",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ああ……さすがに事が事だ。本当に、これでいいのかってさ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "嘘ばっかり",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その返信に驚く俺に、ヴェルはニッコリと笑った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だって、もう決めてるんでしょ。行くこと",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "う…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "心の中を読まれているようで、思わず言葉を失う俺。いや、違うな。ヴェルは最初から、俺を信じて、俺を分かってくれているんだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほら、正解。でも、やろうとしてることがことだもの。背中を押して欲しいって思っちゃう気持ち、分かるわ\nその役に私を選んでくれたこと、ありがとう",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ほんと……ヴェルには敵わないな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さて、っと。それじゃあ、行きましょうか",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "言うと、ヴェルはベッドから降りようと身体を動かす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、おい、行くってどこへ?まだ治りきってもない身体で……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あら、そんなの一カ所しかないじゃない\nそれに、本当ならそれをお願いしに来たんでしょ?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "……なんていうか、本当にヴェルには敵わない……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私の状態を見て、やっぱりやめようって気を遣ってくれたんでしょうけど、そんなの私とヒメの間には不必要よ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや、それは本当にありがたいんだけれど、でもまだフラつくんだろ。大丈夫なのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "んー、そうね……それじゃあ……\nご褒美……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルは言うと、そっと目を閉じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメがご褒美くれたら、きっと動けちゃう。私の身体、そういう風に出来てるから\nだから、はい",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "小さな桜色の唇が、俺を求めるように軽く突き出されている。\nヴェルの瑞々しい唇が、俺を求めて小さく震えている。\nその唇が欲しい、という欲望は、とてもじゃないけれど抑えられそうにない。俺はそっと、反対側のベッドを見た。安らかに眠っているフォンの姿が見える。\n……うん、今なら……。\n俺はそっと、ヴェルの唇へと自分を重ねた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ほんの数秒。短い時間ではあったけれど充分だった。ヴェルの体温が俺の中へと入り込み、俺を身体の奥底から熱くさせる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え、えへへへ……\nヒメのご褒美、もらっちゃった\nうん。これで元気百倍よ。思いっきり頑張っちゃう",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "うん。頼りにしてる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートのこと、助けてあげなくちゃね\nそれで、フォンはどうするのかしら?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "う……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "え?もしかして、起きてたのか!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あうぅ……せっかく気を利かせて寝たふりをしているんですから、ヴェルさまも空気を読んで下さい!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あら、これでもちゃんと感謝してるのよ。おかげで、ヒメの唇ゲット。えへへぇ\nというわけで、私は行くわ。あなたは?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "……その……フォンの力が必要、というのなら……まあ、少しくらいでしたら力を貸すのは別に……あの……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンの力も貸してほしい。今の俺には二人の力が必要だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そ、そう素直に言われてしまうと、さすがにあの……\nし、仕方ありません。ヴェルさまの思い人である姫先輩が、そうまでして頼んでくるのですから\nと、特別ですよ?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ああ、ありがとう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うふ♪\nそれじゃあ、行きましょ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そ、その前に着替えますから、姫先輩は出ていって下さい!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あ、悪い。すぐ出てく",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ひめぇ。私、まだ身体重いの。着替え、手伝ってくれる?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルさま!姫先輩!さっさと出て行かないとダブルハーケンぶち込みますよ!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "分かってる!分かってるから一分時間をくれ!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は逃げるように、その部屋を飛び出した。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"フォン",
"ヴェル"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 047704_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "広間に先にまた現れた通路。そこを少し走ったところで、背後から地響きのような揺れが響いてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "向こうは始まった、か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あのゲンの強さは本物だ。真名を得た今のノートでも、どれだけやれるか。\nそれでも、今の俺の役目は紅を取り戻すことだ。俺はノートを信じて、ただそれだけを考える。\nそして、俺と紅の再会の場が見えてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "悪い。随分と待たせただろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は広場に入ると、目の前の少女にへと向かって言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうでもない。むしろ、驚いてるんだ",
"speaker": "少女"
},
{
"utterance": "そして目の前の少女は、俺へとそう笑いかけてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お前が一人で、真っ直ぐここに来てくれたことをさ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "当然だろ。お前を連れ戻すのは俺の役目なんだ。他の誰にもやらせるわけがない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだな……だけど、どうだ?連れ戻すなんて言わずに、むしろ姫の方こそあたしの所に来ないか?\nあたしの力は見ただろう。今のあたしは、あのノートとだって、憑依兵器とだって戦える",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、見たよ。お前とノートの戦い。正直驚いた\nあの紅が、あんなに弱くなってるなんて……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "姫……?何を言ってるんだ。あたしはあんなに……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "魔装陣、だったっけか。アミアが調べてくれたよ\n自分の身体と心を痛めつけて、強引に力を得る禁術。俺も強くなりたいと思う。でも、違うよ……それは決して強くなんてなっていない\n俺は弱いよ。俺の周りにいてくれる誰よりも弱い。でも、それでも、俺はおれの力が欲しい\n俺は、俺のままで強くなりたい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "姫……\nあたしだって……出来るのなら、そうしたかった……\nだけど……それじゃあ時間がかかりすぎる\nそれで力を手に入れても、その時にはきっと……お前はもう、あたしの手の届かない所にいる\nお前の隣に……いたいんだ。お前に必要とされたいんだ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いればいいだろう。俺はいつだって紅が必要だ。お前がいてくれたから、お俺は今ここに立ってる\nなのに、なんで俺から遠ざかっていこうとするんだよ、紅",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お前の隣にはもういるんだ。あたしが決して敵わない相手が\nでも……分かったよ姫。お前が来てくれないなら、あたしがお前を奪う",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その右手に刻まれた六芒星が、翠の輝きを放つ。\n紅を縛り付ける呪縛の光を放つ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だったら、俺はお前を取り返す。その、力の形をした妄執から取り返す",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺と紅、互いに互いを求め合う二人の人族が、今同時に剣を抜いた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"少女"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 047710_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "笑わせてもらった礼だ、先手は譲ってやるぜ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "いいんですか?そんなサービスして。後で後悔しても知りませんよ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "はっはっは!じゃあ俺に後悔させてくれよ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "豪快に笑うゲンを前に、ノートは愛用の魔力剣を取り出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "へえ、いいのか?貴重な先制攻撃のチャンスにそれを使っちまって",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "はい、試したいことがあるので",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "魔力剣は、持ち主の魔力を使って刀身を形成する。一度固定してしまえば滅多なことでは折れることもなく、魔力を浪費することもない。その切れ味が鈍ることもない。\n例え折れたとしても、持ち主の魔力を使うことで、すぐに蘇る。その威力は持ち主が注ぎ込める魔力量と制御力に比例するが、持ち主次第でまさに最強の武器になる。\nそして、今その魔力剣を持っているのは、神界最強の銀月ノート=ルゥム。彼女の魔力と制御力によって生み出される刃は、まさしく最強といっていい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう、そいつもいい剣だな。ま、俺の根性刀にはおよばねぇがな",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンは感心したように笑いながら、自らの件を誇らしげにかざした。それはノートの魔力剣と同じ、刃のない非実体剣。\n恐らくは、あれがゲンの儀式兵器。あの剣の恐ろしさは、ヴェル・フォンとゲンの戦いでよく知っている。\nノートは一切の油断を捨てて、魔力剣の刀身を形成する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "刀身形成……圧縮、圧縮、圧縮、圧縮!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "もし自分の考えが正しいなら、いつも通りに刀身形成を行っても、ゲンの間合で形を保つ事が出来ない。形成している魔力そのものが霧散してしまう。\nだから意識的に大量の魔力を使用して、限界まで圧縮することで、普段以上に強固な刀身を形成する。\nゲンの能力は、ヴェルの必殺の一撃ほどの魔力すらも瞬時に霧散させた。けれどすべての魔力が一瞬で消滅したわけじゃない。\n集められるだけの魔力を集め、徹底的に圧縮させれば、数秒の間くらいは持つはずだ。\nもし自分の考えが間違っているのなら、ゲンの剣にどれだけの力があろうとも、その刃ごと叩き割れる。それくらいの威力はあるはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "それを見てゲンが感心したように声をもらす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "行きます!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートは改めて剣を構えると、全力でゲンに向かって踏み込んだ。\nほぼ一瞬で縮まる間合にに、ゲンは冷静に根性刀を展開。並の戦士なら確実に終わるその一撃を、軽く受け止めて見せた。\nしかし、ノートもそれにさして驚きもせず、そのまま連撃を加える。\nそして数合の打ち合いの末、鍔迫り合いへと持ち込んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いい踏み込みだ!それに一撃の重さも申し分ないが……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "魔力によって形成された刃越しに、ゲンがにやりと笑う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "残念だが武器が悪いぜ!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンの気合一閃、魔力で形成されたノートの刀身がガラスの様に砕け、霧散する。\nノートはすかさずバックステップで距離をとると、ゲンの追撃を辛うじてかわす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "5倍以上の魔力を追加して、いつもと同じ大きさに圧縮形成したのに、たった数合打ち合っただけでこれですか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "再び柄だけに戻ってしまった魔力剣を見ながら、ノートは軽く嘆息する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、本気で悪くなかったぜ。その武器の相性が俺と最悪なんだ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "あれだけの魔力密度で形成した刃がこうも容易く砕け散る。それは、ノートの考えの正しさを証明していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ、予想はしてました。でもこれで今、予想が確信に変わりました",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートは魔力剣をしまうと、あらかじめ用意しておいたもう一本の剣……魔力剣ではない普通の剣を構える。\n愛用の魔力剣と比べれば強度的に心許ないが、それでも神族王家に伝わる最高位クラスの剣だ。魔法強化されたその刀身は、並大抵の剣とは比べものにならない。\nゲンの根性刀が相手でも、そう簡単には負けないはずだ。ノートは剣を構えつつ、改めて思考する。\n一つ目の確認は今ので終わり。予想通りと言って間違いない。後は、あの力が剣のものなのか、ゲン個人のものなのか……そしてどの程度の範囲まで効果を及ぼすのか……。\n剣のものだとすれば、恐らく効果は触れたものだけ。それなら強化魔法や付加魔法で限界まで強化し、遠距離からの攻撃でどうにかなる。\nけれど、もしゲン個人のものだとすれば、その範囲次第では打つ手がなくなる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "アミちゃん!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートは剣を構えながら、油断無くアミアの下へと移動するとコンタクトを行う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?あ……分かった、お姉ちゃん!えい!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "言葉にするまでもない。アミアはそれだけで理解し、ノートにありったけの強化魔法をかける。\nゲンの能力を考えれば、確かにアミアは攻撃面では戦力になりえない。しかし、だからこそ支援に全力を注ぎ込む事が出来る。\n脚力、腕力等の肉体強化は勿論の事、動体視力などの神経系にいたるまで、今のアミアの力で使える、あらゆる強化魔法がノートにかけられる。\n更に、武器や防具に至るまで属性を付加。ゲンは明らかに戦いを楽しんでいた。だからこそ、こういった支援にも一切の邪魔をしない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンが再び感心したように声を上げる。それと同時に、先ほどとは桁違いの速度でノートが踏み込んでくる。\n本来これほどの強化魔法を一人にかけるのは効率が悪い。強化魔法は見た目以上に魔力を消費するからだ。\nその上、強化魔法の重ねがけは、かける側とかけられる側両方が相応の実力者でなければ、その力を使いこなせずに自滅するだけ。\n神族王家の魔力保有量とルゥム姉妹の能力。そしてなにより互いの事を完璧に理解してる二人だからこそ可能な、限界を超えた強化魔法の重ねがけ。\nしかし、それだけの強化を行ってもゲンに攻撃は通らない。身の丈を超える根性刀のリーチと、それを高速で振るうゲンの実力がノートに接近すら許さない。\n魔力霧散化と根性刀の破壊力。それに頼るだけの戦士ではなく、ゲン本人の実力も、充分に四世界トップレベルだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここ!です!『風よ羽ばたいて!』",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "しかし、アミアが強化魔法の維持に全力を注いでくれているおかげで、ノートはこの状況でさらに魔法を行使できる。\nゲンはその可能性を忘れていた。ノートは限界まで強化された状態から、加速魔法を使ってさらにもう一段階加速してみせる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なにっ!?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "なまじある程度打ち合い、ノートの速度に慣れてきた所での不意打ちに近い再加速に、さすがのゲンも行動が遅れる。\nこの一撃は通る!そう確信した直後、だがノートは驚愕した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "かけられた魔法が霧散する感覚。その身体にかけられていたあらゆる強化と付加の魔法が、一気に消失した。\nなまじ限界まで強化していただけに、その力を失ったギャップに反応が鈍る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "惜しかったな!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "その結果、回避行動を行ったゲンにわずかだが攻撃が届かない。\nノートは驚きで動きが止まるのを何とか堪え、振り下ろされる根性刀を間一髪でかわすと、再び間合の外に離脱した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、強化魔法まで範囲内では霧散させられるんですか……本当にやっかいです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ほお……こいつをこうも早く見切りやがるか。ただ力が強いってだけじゃねえわけか",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "もう間違いない、これは確実にゲン個人の能力だ。触れた相手なんかではなく、一定空間内の魔力の霧散化。\nそれも攻撃魔法だけでなく、魔法から、破壊力から、強化魔法等の支援魔法まで、魔力で生み出されたあらゆる物に効果を及ぼす。\nその範囲は半径2~3メートルくらいか。それほど広くないようだが、決して狭くもない。\n魔法による遠距離攻撃であっても、近距離攻撃であっても、その間合いに入った瞬間霧散していく以上、魔力を使った攻撃はまったく意味がない。\nかといって、一切の強化無しの攻撃が、あのゲンに通じるとは思えない。それだけの技量を、この戦士は持っている。\n魔力という存在を無くし正面から戦うなら、その時に比べられるのは単純な戦士としての技量。恐らくゲンは、竜族とすらも正面から戦える。\nそして、あの根性刀から繰り出される攻撃は、竜族の気鱗すらも……いや、霧散できるのが魔力だけとは限らない。下手すれば、気鱗すらも……。\nそこまで考えて、ノートはふと違和感に気がついた。\n根性刀。\nゲンの所有している、あの大剣。自分と同じ非実体剣であるあの剣は、なぜ霧散しない?\n実際に打ち合ってみて確認した。あの剣も、魔力によって刀身が形成されている。にもかかわらず魔力霧消化空間内でもその形を保っている。\n霧散する魔力を使用者で選別している?いや、無理だ。魔力はあくまでも魔力。使用者による差はない。\nだとしたら……。\nノートは油断無くゲンを睨みつけると、剣を握り締める手に力を込めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう一度、限界まで加速します!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ノートは再びの要請に、アミアは再び強化魔法をかけ直す。今の状況はアミアにも当然分かっていた。けれどその不安を、ノートの力強い言葉が吹き飛ばした。\nアミアにとって、ノートはノート。信用すべき、最愛の姉だ。その言葉を疑うなんて絶対にありえない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "分かった!行くよ、お姉ちゃん!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "全身を駆け巡るアミアの強化魔法を感じながら、ノート剣を構える。\nこれは一種の賭けだ。この仮説が正しい証拠は何処にもない。けれど試してみる価値は充分にある。\n魔力無しでの戦いでは、ノートは絶対にゲンには勝てない。ただの戦士としての技量なら、それだけの差がある。\nだからノートは、信じた。自分の勘を。そして何より、自分を信じてくれた白鷺姫という人間を。彼の信じてくれた自分自身を。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はっ、何度やっても無駄だ\nお前だって分かってるんだろう?たとえどんなに加速しようとも、一撃の瞬間お前は元の速度に戻る。悪いが、次はその隙を突かせてもらうぜ!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンの言った事は全て正しい。ノート自身も同じ手が通用しない事は分かっている。けれどそれでも、ノートは信じていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これで、今度こそ勝ちます!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "だからノートは、少しも迷うことなく、ゲンへと向かって再び踏み込んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "忠告はしたぞ?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "突きの構えをとるゲン。ノートの一撃を回避し、カウンターでノートを串刺しにする気だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "行きます!『風よ羽ばたいて!』",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "その姿を見ても、ノートは少しの動揺も見せない。むしろ突きの構えを取る瞬間に訪れる一瞬の隙に、再び文字通り飛ぶように加速する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はっ、馬鹿の一つ覚え……じゃねえな。何も考えず同じことを、今のおまえがやるわけがない",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "少しも揺らぐことのないノートに、さすがにゲンも理解する。ノートはやけくそになったわけでも、投げやりになったわけでもない。\nそれが何かは分からないが、確固たる自信と目的をもって行動している。だとすれば、全力をもって応えるのが礼儀だろう。\nゲンの問いにノートは答えない。全ての力をこの一撃に込めるように、その剣を握り締める。\nしかし結果はさっきと同じだった。魔力霧消化空間に入った瞬間、すべての魔法が無効化され、通常時の状態に戻る。\nゲンはノートの踏み込みを回避すると、そのままノートの背後へとに回りこんだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "伸びろ!根性刀!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "叫びと共に根性刀へと魔力が流れ込んで行く。それはそのまま刀身へと変わると、その長さを増していった。\nだが、そのまま突きのモーションへと入る瞬間、ゲンは視界の隅に紅い魔力光を見た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "レーヴァティン!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その直後、迷宮内に響く声と同時に、炎によって形作られた巨大な剣が、ゲンに振り下ろされる。\nその行動にゲンは一瞬だけ訝しんだ。自分に攻撃魔法は一切効かない。効かない以上、傷をつけるどころか隙を作ることすら出来はしない。\nアミアはその事を身をもって知っているはずだ。にもかかわらずなぜ今ここで、レーヴァテインを使うのか。\nだが、自分に魔法攻撃が効かないのは絶対だ。なら、気にする必要はない。ゲンはそのまま渾身の技を放った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くらえ!こいつが星穿ちだ!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "言葉と共に突き出される根性刀。魔力によって長さの増した刃が更にその長さを増し、ゲンの力と技によって、まさに必殺の一撃と化してノートに迫る。\nだがその瞬間、アミアのレーヴァテインが魔力霧散化の間合いの外側へと振り下ろされた。炎がそのまま巨大な火柱と化し、ゲンの視界をさえぎる。\nなるほどな、と思わずゲンの口元が緩んだ。炎によって視界を遮り、その一瞬をついてこちらの攻撃をかわす。\nこの炎がなければ、ゲンの刃は確実にノートの身体を貫いていたはずだ。そして今自分は、ノートの姿を見失っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "宣言通りボクの勝ちです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんな言葉と共に、ノートが炎を突っ切ると踏み込んでくる。全力での大技の直後だ。さすがのゲンも、すぐには自由に動けない。\nそれでもさすがというべきか、ノートの剣をかわそうと横に跳ぶ。\nが、ノートの目的は、最初から攻撃にはない。そんなゲンの腕に、必死で組み付いた。ゲンの口から、驚きを含んだ言葉が漏れる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……なるほど。こいつに気付いてたか",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンの言葉に、ノートは自分が賭けに勝ったことを確信した。\n魔力を利用して刀身を伸縮させる根性刀を、魔力霧散化空間内でゲンが振るっていた。それはつまり、霧散化させない条件があるということ。\n魔力による区別は無理。使う魔法による区別も無い。なら、自分の魔力剣とゲンの根性刀とで違うところはどこなのか。\n答えは一つ。ゲンが握っているということだ。ゲンの腕が触れているもの。それは魔力の霧散化から解放される。\nノートの手には、いつの間にか魔力剣が握られていた。刃を形成していない、柄だけの状態。\n本来なら、この間合でそれを使おうとしても魔力が霧散してしまうため完全に無意味だ。\nだが今、ノートはゲンの腕を掴んでいる。\n自分の考えが正しいのなら、この状態でなら魔力剣を形成できるはずだ。ノートは、持てる魔力のすべてを、魔力剣へと注ぎ込んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はああああああ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "制御なんて必要ない。ただ力を。すべての魔力を力へと変えて、目の前の戦士へと叩きつけろ。\nそんなノートの思いに応えるように、手にした柄から魔力の刃が伸びる。\n光り輝く魔力の刀身が、真っ直ぐゲンへと迫っていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちぃ!!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ほぼ零距離で行われたそれを、ゲンに避ける術は無かった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"アミア",
"ノート",
"ゲン"
] | 05_Tiny Dungeon BfY | 047711_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ふあぁ~~~",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "廊下を歩きながら、大きなあくびをする。隣を歩く紅が、苦笑しながら訪ねてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "また随分と大きなあくびだな。眠れなかったのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、どうにも夢見が悪かったのか、眠りが浅かったみたいでさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんだろう。昨日あの時、寮の前で何かを見てから、どうにも引っかかるものがある。\n俺はそれを知っているのに、だけど思い出せない。分かっているのに分からない。そんなもどかしさが。\n結局、その違和感は昨夜から消えることなく、そのせいか今一つ熟睡できずに今に至る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえば、何か寝言で呟いてたみたいだな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "寝言?俺、何か変なこと言ってたか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……そ、そんなことあたしに言わせるつもりなのか?この、すけべ……\n言えるわけ……ないだろう。あんな……恥ずかしい……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "えーと、あの、紅さん?俺、本当に何言いました?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いつもなら聞き流すんだが、さすがにその……あれは……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "真っ赤になって顔を逸らす紅。\n俺も男だ。紅みたいな美少女と一緒で何も思わないとはさすがに言えない。普段は抑えているものの、よからぬ願望を夢で見たとしても否定はできない。\n……少なくとも、朝食の時の紅は普通だったし、そこまで失望レベルなことじゃないと信じたいところだが……。\nこの反応、無理に聞こうとすると余計傷つける可能性もあるし……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "な、なあ、紅……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんて、冗談だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "とりあえず、内容は聞かないにせよ不快な気持ちにさせた謝罪を、と口を開くと同時、紅は笑顔であっけらかんと言い放った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……は?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あまりよくは聞き取れなかったんだが、カミなんとか、とか、扉がどう、みたいなことを言ってたな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、その……冗談?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "時々着替えを見られてるお返しだ。たまには姫の方が恥ずかしい思いをしたっていいだろう",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "可愛らしく、舌を出して見せる紅。あー、これは一本取られたか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……いつも大変申し訳ありません",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は改めて頭を下げると、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ。わざとじゃないのは分かってるからな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "微笑んだままそう返してくれた紅と一緒に教室へと入っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメ!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あうっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "と同時、中から飛び出してきた何かに、再び廊下へと吹っ飛ばされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメ、おはよう!大丈夫!?私がいない間に誰かに襲われたりしなかった!?されたなら言って!すぐに後悔させてくるから!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺を地面へと押し倒し、思い切り抱きついているヴェル。それはまるで、もう離さないと言ってるみたいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、あの……現在進行形で、ヴェルに襲われてます……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "衝撃にぐわんぐわん響く頭とチカチカする視界。そして、俺の胸へと押しつけられている、なにやら柔らかな固まり。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメだぁ。ヒメの体温……あったかぁい……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "って、なんだか変なスイッチ入ってないか、ヴェル!?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、おい、ヴェル!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへへ。ヒメ大好き\nヒメの匂いも、ヒメの体温も、ヒメの感触も、ヒメの味だって全部大好きなんだからぁ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "思いっきり甘えた声をあげながら、その頬を俺の頬へ、まるで子猫のようにスリスリとこすりつけてくるヴェル。\n俺にしても、ヴェルの体温とか匂いとか柔らかさとかが思いっきり感じられて、男として当然嬉しいんだけれど、同時にやばい。\nなんといっても、ここは学園の廊下。それも、朝の通学時間。すなわち衆人環視の中にあるわけで……。\n事実、ちょっと周囲を見てみるだけで、とんでもない数の視線が俺達を取り囲んでいるのが分かる。\nヴェルは完全に没頭してしまっているのか、まったく周囲の状況が分かっていないみたいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、あの、ヴェル?その、俺の方も幸せと言えば幸せなんだが、とりあえず今の状況をだな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ん~、ヒメの匂いに包まれていくみたい……しあわせ♪",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ダメだ、もはや何かに取り憑かれてしまってる。これはもう、ちょっと強引に引きはがすしか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、廊下の向こうから姫の大群がやってくる",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "紅の、そんな一言で、ヴェルの意識が返ってくる。\n……いや、戻ってきてくれたのは素直に嬉しいんだけれど、もうちょっとまともな呼びかけはなかったですかね、紅さんや。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえずだ、ヴェル。周囲を見てくれ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の言葉に、キョロキョロと周囲を見回すヴェル。\nそしてようやくその状況に気がついたのか、ぼん、っと一瞬でその顔を真っ赤に染めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こ、こほん",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "と咳払いを一つ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "き、昨日は大丈夫だったかしら、ヒメ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いや、せめて離れてから言わないか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だ、だって離れたら、ヒメのぬくもり感じられなくなっちゃうじゃないっ\nだ、だけどこのままだと恥ずかしいし……\nうえ~ん。この選択究極すぎる~",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "えっと……とりあえず今は離れて、また二人きりの時にでも、というのでは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "このままでは埒が明かない。俺はとりあえずの妥協案を出す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "また、二人きりになってくれる?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ならない理由がない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "また、ぎゅ~っ、てして、すりすり、ってしてもいい?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "嫌がる理由がありません",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "分かった……今はなんとかがまんする……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まだすこぶる不満そうな顔をしながらも、ヴェルはどうにか離れてくれた。\nいやまあ、俺も結構残念だったりはするんだが……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうかそうか。嫌がる理由がないんだなあ、姫はぁ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……えーと、紅さん?目が笑っていないのですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "こうして、明らかにいつもと違った俺の一日が幕を開けた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 011001_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "今ヒメが一番やらなければいけないこと、それは真眼の精度を上げることね\nアミア相手にはかなりものだったみたいだけれど、今度はノートやデイルを相手にするわけだし",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "確かにな。アミアの体術や剣捌きも相当なものだったが、あくまでも魔導師としては、だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ。本物の剣士相手にどこまで通じるか、と言われるとさすがにな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "放課後、俺達は丘の上へと集まると、一週間後の試合に向けて、早速特訓を開始していた。\nたかが一週間でどれだけのことができるか、という不安はあったが、されど一週間だ。\n幸いなことに、アミア戦で俺には真眼という技ができた。\nいきなりあそこまでの先読みが出来るのは、真眼使いとしても前例がない、とノートは言っていた。\n俺の中で聞こえていた声のおかげ、とも思ったけれど、今は考えないでおこう。とにかく、あの技を使えるということが大事だ。\nあとは、その精度をもっと高めさえすれば、多少なりとも戦いになるはずだ。\n今のまま、俺が足手まといのままじゃあ、三対三にはならない。三対二になってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だが、姫は今までの蓄積があるからな。体力はかなりのものがあるし、腕力だって低くはない",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ええ、きっちりと基礎を鍛えてきた結果だわ。一番急激な向上ができない部分だもの、そこが問題ないのは安心できる",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "どうやら、俺の地道な努力はそれなりに意味があったらしい。それが分かっただけでも頑張ってきた甲斐があるものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だから今やるべきことは、とにかく真眼を使っての実践訓練\nデイルやノート相手でもある程度は反応できるように、とことん付き合ってあげるわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "もちろん、あたしもだ。チーム戦である以上、一対一でやれるとも限らないからな。複数相手の時も想定する必要がある",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "本当なら、紅だって自分の技を磨きたいはずだ。なのに俺の特訓を優先してくれる。\nヴェルだって、相手がノートである以上楽観視はできないはず。近いレベルにいるからこそ、誰よりもそれを分かっているはずだ",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "二人とも、本当にありがとう。悪いけれども、頼む",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お礼なんていらないわ。ヒメを最強にすること。ヒメの望みを叶えること。これこそが、私の存在意義だもん",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あたしとお前は一蓮托生みたいなものだ。気にするな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "言いながら、それぞれの武器を手に取る二人。本当に、俺は仲間に恵まれてるな。\n俺も二人に応えるように、剣を構える。\n模擬戦まで一週間。二人に報いるためにも、少しでもいいから強くなってやる。\n俺は固い決意と共に、特訓を開始した。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 011302_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "寮へと戻って来た頃には、陽はもう沈みきっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちょっと遅くなっちゃったわね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "特訓で結構汗もかいたし、こういう時は早めに風呂に入りたいもんだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうか。姫が入れるのは、女子が全員入った後だから夜遅くになるんだな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だったら、私と一緒に入る?私だったら、ヒメとなら構わないから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "恥じらいながらも期待するような目で俺を見るヴェル。いや、男としては非常に魅力的なお誘いなんですが、この寮内でそれはさすがに。\n見つかったら、ルアンさん怒るだろうし……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、ありがたいけれどさすがに遠慮します……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……メチャクチャ未練がましそうだな……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そりゃあまあ俺だって男なわけだし、ヴェルくらいの美少女相手ともなればなあ……そう思うくらいは勘弁して下さい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、確かにな。これで興味持たない方が男としてはむしろ危険か",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だったら、私がヒメにあわせて入ろうかしら♪",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルだって汗かいてるだろ。女の子らしく清潔に",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はぁい。ヒメに汗臭い、とか言われたくないし、早めにはいっちゃいます",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そうだな。すまないが、あたしたちは先に入らせてもらうよ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、そうしてくれ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんなことを話しながら、俺達は寮の中へと入っていった。\nとりあえず汗は拭いて着替えないと。身体は冷やさないようにしないとな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ、まだ起きてたのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "日課の素振りも終えて、やっと入れるようになった風呂から出てみれば、紅がまだ起きていた。\nベッドの上にちょこんと腰を下ろしながら、何かの本を読んでいたみたいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅だって特訓で疲れてるだろ。待ってなくてよかったんだぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、いや。ちょっとな、試合のことで色々と話しておきたかったから",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "持っていた本をパタンを閉じて脇に置くと、紅は自分の隣の位置をぽんぽん、と叩いた。ここに座れ、という意味らしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほどな。まあ、俺も色々確認したいこととかあるしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は言われるままに、紅の隣へと腰を下ろした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……姫、いい匂いがする……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "まあ、風呂上がりだしなあ。でもそれを言ったら、紅のがよっぽどいい匂いすると思うぞ\n備え付けだし同じシャンプー使ってるはずなのに、なんで女の子だとこんなにいい匂いになるんだろうな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ば、ばか、変なこと言うな。姫、まるで変態みたいだぞ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そう顔を赤らめながらも、あまり嫌がってる感じはしない。\nこうやって照れてる姿を見ると、紅もやっぱり女の子なんだということを強く感じるな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、それで、だ。来週のチーム戦なんだが、どう戦う?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅は顔を真っ赤に染めたまま、強引に話題を変える。これ以上引っ張ると俺も変な気持ちになりそうだ。それに乗らせてもらおう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヴェルとノート、互いに大砲を持ってるようなもんだからな。この大砲をどう封じるか、が最大のポイントだろう\nどちらも、一人で残りの二人を倒せる力を持ってるからな。自由にさせたらあっという間にケリがつく",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だったら、大砲には大砲をぶつけるしかない、か?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺と紅、デイルとアミア、どっちも相手の切り札を抑える力はさすがにないだろうな\nだったら、切り札同士でぶつかってもらうしかない\nその間に、デイルかアミア、そのどちらかを俺と紅で倒せればいんだが……デイルなら、俺達二人に対する時間稼ぎくらいはやってみせるだろう\nそれに今回は、アミアも魔導師としての役割に徹すると思う",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "デイルに足止めされてる間にアミアの魔法、か。確かに、デイルを相手にしてるところに、この前のレーヴァテインだったか?あれはきついな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あのクラスは制御しきれないせいでデイルも巻き込みかねないからな、さすがに使わないと思う。けれど、それなりの大魔法は使われるだろうな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "優秀な盾役がいれば魔導師は化けるからな。後方で好き勝手に魔法を使われたら、ノートを抑えてるヴェルまで危なくなる",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ。だからこそ最初に俺達が狙うべきなのはアミアだろうな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "遠距離から飛んでくる魔法に意識の一部を持って行かれるだけでも、接近戦は厳しくなる。俺の真眼も、満足に集中できなくなるだろう。\nそれに、接近戦に関してはデイルよりも遥かに与し易いはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ただまあ、もしものことを考えてだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その先を言おうとしたところで、不意に、肩に何かが寄りかかってきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "考えるまでもない、紅の身体だろう。俺は尋ねながら横を向くが、\nその途端、ぽす、っと俺の膝の上に紅が落ちる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、おい紅?どうかした……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ん……すぅ………すぅ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その口からもれるかすかな寝息に、俺は言葉を止めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……疲れてるのに、俺を待っててくれたんだもんな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の膝の上で静かに眠り続ける紅。その寝顔は安らかで可愛らしい。思わずジッと見入ってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり美人、だよなぁ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヴェルやノートと比べたって、決して見劣りしないと思う端正な顔立ち。人族でさえなければ、かなりの人気者だったろうに。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……でも、それはそれでなんか腹立つな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "学園の男子に囲まれ笑顔を浮かべている紅。その絵は、どうにも俺を苛立たせる。\n男としての我儘、と言われてしまえばそれまでなんだけれども……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……こらぁ……そこはだめだぞ、姫ぇ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "って、おい。いったいどんな夢見てるんだ、紅!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "唐突に出てきた俺の名前に、思わず硬直してしまう俺。けれどそれは余程楽しい夢なのか、紅の表情は嬉しそうに笑っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……こっちなら……いいよ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いったいどっちだ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんとなく桃色な想像をしてしまいそうな寝言に、俺の顔が熱くなる。\n本当に、どんな夢を見ているのやら。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でもまあ、いつも苦労かけっぱなしだよな、お前には",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ただでさえ嫌われている人族で、剣技や身体能力も決して優れているわけじゃない。その上魔法も使えない。\nそんな俺とずっとコンビを組んで、ずっと俺を支えてくれてる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "本当なら、年頃の女の子が男と一緒の部屋、なんてのもありえないんだよな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それだけでも、どれだけのストレスを溜めてるんだろう。なのに決して切れたりすることなく、一緒に前へと進もうとしてくれてる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ありがとうな、紅",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルルやオペラさんと知り合って、ヴェルが追って来てくれて、そしてノートやアミア、デイルとも仲良くなった。ここにきて急激に環境は変わりつつある。\nだけどそれはやっぱり、紅がここにいてくれたからだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "う、ん……あたしも、だぞ、姫……むにゃ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……起きてるんじゃないだろうな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あまりにもピッタリの寝言に思わず苦笑する。\nとりあえず、今夜は俺もこのまま寝ることになるのかな。\nそれはそれで役得のような気もするけれど……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 011304_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "はあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思わず口からこぼれた嘆息に自ら苦笑しながら、俺は久方ぶりに一人で登校をしていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、まあ完全に自業自得なんだけどさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな事を呟きながら今朝の事を回想する。\nあの後食堂に行った後も色々大変だった。相変わらず恥ずかしがって顔を合わせてくれない面子と、それとは裏腹にべったりくっついてくるヴェル。\n周囲の女子達は何事かとこそこそ話を始めるしで、朝食の味など全くわからなかった。\nそしてようやく朝食を終えたら終えたで、部屋に戻った俺に、何故か部屋にいたカミシアがとどめとばかりに一言。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無節操に手を出すから、そういう事になるんだよ、パパ♪",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "輝くような満面の笑顔に、俺は完全に膝を屈してしまった。\nちなみに、その後カミシアは膝をつく俺を見ながら。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、私は別にママが何人いてもかまわないんだけどね",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "等と、何故か妙に楽しげに続けていた。俺が言うのも何だがそれはそれでどうなんだろう。\nちなみに朝食の後、他のみんなはやはり面と向かって話すのは恥ずかしいらしく、紅も含めて、先に学園に登校してしまった。\nヴェルだけは残ろうとしていたが、オペラさんに女性だけで重要な話し合いがあると、半ば無理矢理連行されてしまった。\nまあ、そんなわけで、本当に久方ぶりの一人きりの登校となったわけだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "実際いつ以来だろうなあ、一人で登校するの",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "紅と同室になってからはもちろんだが、それ以前も一人で登校するという事は殆ど無かった。基本、俺と紅は一緒の行動が当り前だったし。\n最近は仲間達が増えたおかげで忘れがちだが、一人になるとどうしても、人族がどういった見方をされているか意識してしまうからだ。\nと、そこまで考えたところで聞き慣れた声が、後ろから投げかけられた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よっす、姫っち。今日は一人かい?珍しいな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ん?ああ、デイルか。おはよう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うい、おはようさん",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "振り返ると、デイルが手を挙げてこちらに追いついてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで?姫さん達はどうしたんだよ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "いや、それがさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "首をかしげながら訪ねてきたデイルに、今朝の事をかいつまんで説明すると。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はは、そりゃ災難だったな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そういって笑われてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "笑い事じゃないぞ!こっちとしては大問題",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、悪い悪い。ただまあそれだけ姫っちが好かれてるって事だから、同じ男としてはうらやましいと思ってな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "まったく、人ごとだと思って",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、そう拗ねなさんなって",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "実際デイルの言うとおり、これだけ他のみんなに慕われているのは嬉しいのは事実だ。\nでもこのままって訳にはいかないし、なんとかしないとな。具体的にどうすればいいかは皆目見当がつかないけれど……。\nちなみに、デイルには昨日の夜、カミシアと一緒に直接説明をしにいった。\nカミシアは多少渋ったが、さすがに夜の女子寮に男であるデイルを入れる訳にはいかなかったので、しかたない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういや、前の扉の話で思い出したんだけどよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ん?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "一体どれだけの人間が過去の事を思い出したんだろうな?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "あ、そういえば……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "確かにそうだ。デイルに言われて始めてその事に思い至った。\n俺達はカミシアの力によって過去の扉の記憶を呼び起こされたが、実際カミシアの力がどの程度まで及んでいるのかを確認してはいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んー普通に考えれば、過去の扉でミヤやゲンの起こした事件の関係者かな?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、姫さん達はともかくとして、俺様も記憶を取り戻してるしな\nけど、そうすると学園長や管理人さんはどうだ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "確かに過去の扉では二人とも、かなり事件に深く関わってるけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それを言うなら先生もそうだ。しかし昨日の様子を見る限りでは三人とも記憶が蘇ったふうには見えなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それを考えると事件に関わってるって前提は違いそうだな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "だな。だとすると、他に条件にあたりそうなのは?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もっと単純に姫っちと関係の深い人物の記憶が蘇ったってのはどうよ?\nカミ子がいうには姫っちは剪定者なんだろ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "みたいだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だったら、姫っちが基準になって記憶の引き継ぎが行われてもおかしく無いと思うぜ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "確かにそれは一理あるかもしれないな\n実際記憶が蘇ったメンバーは全員、一緒に事件を解決した仲間達ってイメージが強い",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の言葉にデイルも頷くが、何か気になることがあるのか、少し首をかしげながら腕を組む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んーとなると、一つだけ気になる事があるんだよな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ほれ、一人残ってるだろ?事件に深く関わっていて、かつ姫っちとの関係も浅く無い人物が一人",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "……あ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "デイルの言うとおりだ。記憶が蘇ったのが俺の仲間と呼べるメンバー達なら、もう一人確実に仲間と呼べる人物が残っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうか、フォンはどうなったんだろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そゆこと。フォンちっちは記憶が蘇る条件を満たしているけど、あの場にはいなかった",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "それどころか、カミシアが力を使ったとき、フォンは学園世界にすらいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もし、カミシアの力が世界の外まで届いてなかったとしたら",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、フォンちっちは記憶を取り戻していない可能性があるんだよな\n俺様はそれが心配だったりするのよね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "確かにそれは俺も不安になる。フォンは出会いこそ誤解によってぎくしゃくしたが、最終的にはどの世界の扉でも仲間と呼べる間柄になっている。\n特にウルルの扉では、より深く関わっただけに記憶も鮮明に残っている……。\nそう、より深く……フォンと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "って、何を思いだしてるんだ俺は!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "どうした、姫っち?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "あ、いやいや何でも無い!うん、なんでも無いぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "いきなり挙動不審な態度をとった俺にデイルが首をかしげるが、幸いな事にそれ以上深くは追求してこなかった。\nそれにしても、こんな時にあのシーンを思い出すなんて……いや、決して嫌なわけじゃないんだが……今朝の件といい、もうちょっと空気を読もうぜ、俺の記憶。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、何にせよフォンとも色々あったからな、ちゃんと記憶を引き継いでいてほしいな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだな、俺様もそれがいいと願ってるぜ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "本当に、出来ることなら、フォンの記憶が戻っていてほしい。それは俺個人としてはもちろんだが、彼女自身の為にもだ。\n母親の件、そして竜族との確執。そのすべてが解決した後の、あの明るい笑顔を、また見たいと思う。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"姫",
"カミシア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 022003_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "あ、紅さんおはよー",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "おはようございます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、おはよう",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その日の朝、食堂に向かったノート達は、丁度同じタイミングで食堂に入ってきた紅を見かけ、声をかけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これから朝食ですか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、さっき姫をたたき起こして来たところだ。まあ、十中八九、二度寝してるだろうけどな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あはは、相変わらずお兄ちゃんは朝に弱いね",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "何も知らないアミアが無邪気に笑うが、ノートはどこか含みのある笑顔を紅に向ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、きっと疲れてるんですね。紅ちゃんは大丈夫ですか?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あ、ああ、あたしは平気だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "軽く顔を紅潮させる紅に、ノートは笑顔になった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それより、早く朝食を取りに行こう",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうですね、混み始める前に取りに行っちゃいましょう",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "先に席確保してくるよー\nあ、紅さんも一緒に食べるよね?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "席を確保するために駆け出そうとしたアミアが、振り返りながら問いかけてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、もちろんだ。席確保頼んだぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "おっけー!まかせて!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "紅の言葉に笑顔を見せて、アミアは元気よく駆けてゆく。\nその短いやりとりだけで、ノートもアミアも、紅が昨日とは違い、悩みを吹っ切っている事を理解した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、ボクたちも行きましょうか",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そうだな、今日の朝食はなんだろうな?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だから、ノートもアミアも紅に何も聞いてはこない。紅にとってもそれはありがたく、二人に強い友情と信頼を感じる事が出来た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとう",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "♪",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そんなノートに小さな声で礼を言う。聞こえていないのかそれともあえて聞こえないふりをしたのかはわからないが。\n紅の言葉の後のノートはの表情はとても嬉しそうにほころんでいた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"アミア",
"紅",
"ノート"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 022401_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "んーやっぱり、紅ママの胸はずるいと思うんだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "あ、こらやめろ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "休日の朝、いつもなら朝食の時間が終わるぎりぎりまで惰眠をむさぼる所だが、今日は辺りの騒がしさに意識が浮上した。\n一体何ごとだと僅かに瞼を開けると。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "目の前には楽園が広がっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ、一体何をどうしたらこんな風に……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、そうか?あんまり意識した事はなかったんだが……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "それは勿体ないよ。紅ママの体のスペックが完全に発揮されれば、パパだってイチコロだよ?ほら、こんな風に",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "だ、だから揉むな!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "覚醒前で完全にまとまらない頭でぼんやりと、どこか微笑ましいやりとりを観察する。二人とも朝から元気だなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あはは、紅ママは可愛いなあ……ん?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "と、そこまで考えた所でカミシアと目があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん?どうし……え?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その視線を追って、紅もこちらに気がつく。二人の動作がぴたりと止まった。\nそんな状態でも俺の脳みそは本格起動に入っていない。いや、いつもより早い時間に起きてしまったのだからその辺は勘弁してほしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーと……姫?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ん、おはよう紅",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ああ……おはよう\nあれ?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "なんだか前にもこんな事があったな等と考えた所で、紅が事態に気がついたのか、その顔が引きつっていく。\nそれを見て幸か不幸か、起動の遅い俺の脳みそもようやく稼働を始めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?あれ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふ、おはようパパ。起きてるならもっと早く言ってくれればいいのに",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "二人して硬直している所に、何故かやたら楽しそうなカミシアの声が聞こえてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちなみにどう、この下着。結構お気に入りなんだ。紅ママもこういうのもっと着るべきだよね、こんなエッチな身体してるんだから",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "か、カミシア!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "というか、この子どうしてこうも堂々としていられるんだろうか、なとど現実逃避気味に考えながら、紅をいじる楽しそうなカミシアの質問に殆ど無意識で答える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、うん、二人とも可愛いと思う……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "な!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "は!?俺は今一体何を!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言った後に我に返り、自分の発言を振り返って頭を抱える。\nええいカミシア、そのにやにや笑いをやめろ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、そんな事よりいつまで見てるんだ!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "え?そんなの私たちの着替えが終わるまでに決まってるんじゃない?ね?パパも最後まで見たいよね?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、そんなこと…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そこで黙るなあああ!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "もはや涙混じりの紅に全力投球の枕を殴られ、俺はいつもどおり布団の中へ待避することになった。\n言っておくが、別に残念だなんて思ってないぞ。絶対思ってないからな。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 022801_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ふう、ようやく逃げ切った",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "大聖堂の椅子に腰掛けて、デイルは軽く嘆息した。姫と別れた後も大世界杯のチーム勧誘に追いかけ回されて、さきほどようやく振り切ってここに逃げ込んだところだ。\nさすがに普段から人があまりこないエリアだけに、ここは今日の学園内では珍しく静かな雰囲気で、静謐な雰囲気を保っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いつもの俺様だったら、もうちょい適当にチームも選んだんだけどねえ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "誰ともなしにそう呟く。たしかに少し前のチームなら、適当にクジでも引かせて決めたかもしれない。\nしかし、今のデイルは姫と友人になり、彼らの近くにいることを楽しいと感じている。だから、勧誘をわざわざ断って逃げるという面倒な選択肢を選んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、今の姫っちと戦ってみたいって気持ちも結構あるんだけどな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "思わず苦笑しながらそんなことを呟く。\n今回の扉での対決が有耶無耶になってしまったこともそうだが、本来姫の領分は一対一よりこういった集団戦にこそ有るとデイルは思っている。\nだから、今回の大世界杯のようなイベントこそ、姫は本領を発揮する。そんな姫の全力と戦うのも面白いかもしれない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここにいたかのか。探したぞデイル",
"speaker": "???"
},
{
"utterance": "ん?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そんな思考を遮る様に、大聖堂の扉が開く。一瞬また勧誘に来た生徒かと思い、逃げ出そうとも考えたが、相手を確認して安堵した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんだ、お坊ちゃんか",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "なんだとはなんだ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ああ、悪い悪い。ちょいさっきまで鬼ごっこしてたから、警戒しちゃっただけで。深い意味はないよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ふん、この私を前にしてそのような態度を取るのはお前ぐらいのものだな",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "そこに立っていたのは、意外な事にラーロンだった。普段から魔族至上主義の彼が、神族が主に利用する大聖堂に来た事を、デイルは不思議に感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んで、どうしたんだ?お坊ちゃんが大聖堂にわざわざくるなんて珍しすぎて雨が降るぜ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "今日は学園中が騒がしくてかなわんからな。考え事もろくにできん",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "なんだ、俺様と同じ目的じゃん",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "今日は学園中が騒がしく、落ち着ける場所と言えばここくらいのものだ。もっとも、ここに来るくらいなら、さっさと帰った方がいいので、理由が無ければ立ち寄らないが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん?でも最初に入ってきたとき、探したぞとか言ってなかったっけ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "それも理由の一つだ。貴様に頼み事があって探していた",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "話を聞く限り、何か用事があってデイルを探していたらしいのだが。\nデイルはそこら中の生徒に追い回されて行方がしれず、結局今日は諦め、休憩がてら大聖堂に立ち寄った所で偶然みつけたらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふーん。で、頼み事ってなによ?お坊ちゃんが俺様に頼みって珍しくね?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そうわざとらしく聞き返すが、デイルには何となくラーロンの頼みがわかっていた。\nというより、今日に限って言えば、頼み事といえばイベントに関係する事以外はあり得ないだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、小者揃いのこの学園の魔族の中で、数少ない私が認める力の持ち主だ。そんなお前に折り入って相談がある",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ふっ、ありがとさん。魔王の血族に言われるとやっぱ悪い気はしないねえ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "相変わらず物言いは尊大だが、なぜだかデイルはその物言いに、いつものラーロンとは違うものを感じた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "来週の大世界杯で、私と同じチームになってほしい",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "その答え自体は予想通りのものだったが、その言葉にデイルは先ほど感じた違和感の正体に気がつく。\nそれは眼だ。\n目は口ほどにものを言う、と言うが、事実その通りで、デイルは相手の目をみてその真意を探ることに長けていた。\nだからこそ気がついた。今日のラーロンは普段のように他者を見下す目ではなく、何かの決意のようなものを固めた、真剣な目をしていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "悪いなお坊ちゃん、既に先約がいるんだわ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "しかし、それでもデイルは努めていつも通りに振る舞い、ラーロンの反応を見る。\nいつものラーロンなら、その言葉に暴言の一つでも吐いて、好き勝手な理論でデイルを勧誘しただろう。\nしかし、ラーロンはデイルの言葉に動揺した素振りは見せない。むしろデイルの言葉を予想していたかのように言葉を返す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それの先約とは、下郎Aか?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "な~んだ、わかってんじゃん。ま、そういうことだから、またの機会にしてくれると俺様ありがたいぜ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "飄々とした態度のデイルに、いらついた様子も無く、相変わらず真剣な瞳をデイルに向けたままラーロンは少しだけ考えるように悩むと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今回の大世界杯、私には決着をつけなければいけない相手と、確かめなければならない事がある……",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ほう……?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "だが、遺憾な事に私一人では、目標を立って征するのはいささか難しい。だから力を貸してほしい",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "その、決着をつけないといけない相手ってのは、もしかしなくても姫っちのことかい?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "普段とは違う言動に驚きながらも、デイルはラーロンに訪ねると、ラーロンはしっかりと頷いてみせた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "悪いが、だったら、なおのこと手伝えないな。それはお坊ちゃんだってわかってた事だろ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "友人は裏切れない、そう口には出さずに告げるが、ラーロンはそれでも引き下がらない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうしても駄目か?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ああ、悪いけどね。他を当たって――",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "やっぱり今日のラーロンはいつもと違うな。そう思いながら再び断りの言葉を口にしようとしたとき。\nデイルは信じられない光景を目の当たりした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "頼む……力を貸してくれ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "!!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "あのプライドが高く、自尊心の塊の様な男が、頭を下げたのだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お坊ちゃん……",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "どうしても確かめたい事がある。絶対に負けたくない相手がいる。あいつらに勝つためにはお前の力が必要だ\n……頼む",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "頭を下げた状態で発せられる言葉は真剣そのもので、そこに嘘偽りが無い事をデイルは悟る。\nそもそも、この男がごまかしやその場しのぎで頭を下げるわけはない。だからこそ、今のラーロンがどれほどの決意の元にこうして頼みに来ているか、デイルは改めて理解した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ふぅ、まいったねえ、俺様こういうノリは結構嫌いじゃないのよね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "いやあ本当に参った、と頭をかきながらデイルは楽しそうに笑い両手を挙げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいぜお坊ちゃん、あんたの勝ちだ。正直そこまでやられちゃあ、こっちも断れないぜ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "……礼を言う",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "そういって差しだデイルの手を、ラーロンはしっかり握り礼を言う。そんなラーロンに、本当に楽しそうにデイルは返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よせよお坊ちゃん、調子が狂うぜ。それに実は俺様も考えてたのよね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そこで言葉を切り、今度は真剣な顔で小さく笑いながら。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "全てを出し切った白鷺姫との、全力の戦いをな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "胸中で姫に謝罪しながらも、デイルは面白くなってきた展開にワクワクしていた。そんなデイルを見てラーロンもある決意を固める。その刹那。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "面白そうですね、その話一枚かませてもらえませんか?",
"speaker": "???"
},
{
"utterance": "なに!?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "一体いつからいたのか、夕焼けに染められた大聖堂の暗がりから、ゆっくりと人影が現れた。\nその姿は。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フォンちっち!?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "今日編入してきたばかりの、竜魔の紅刃その人だった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"???",
"ラーロン"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 022905_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "大世界杯が始まってから、数時間。それぞれが優勝を目指して本格的に動き出した頃。\n学園長室には三人の人物が、あるマジックアイテムをつかって状況を見守っていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "中々に盛り上がってきたな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そうね、みんな元気が良くてうらやましいわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "パパたちは無事に拠点を確保出来たみたいだな。さすがパパたちだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "その三人とは、今回の大世界杯の運営委員長でもあるトリアとルアン。そして何故か、暇だと突撃してきたカミシアを加えた三人だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにしても、便利なマジックアイテムだな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そうだろう?今日の為にわざわざ調整した特注品だ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そう自慢げに、トリアは机の上に広げられた地図のような物を指さす。\nしかしその地図は普通の地図ではなく、地形や建造物が立体的に表示されている他、各生徒達の位置情報まで表示されている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "この、お人形みたいなのがそれぞれ生徒さんなのよね?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ああ。生徒の他にも、エネミーを担当してる教員やゲストも表示されてるぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そういって指さす先には、確かにオペラをデフォルメした人形が、生徒達を追い回している。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無駄にハイテクだな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "まあ、作るのにそれなりに金が掛かってるからな。しっかり有効活用しないと勿体ない",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "それに関しては、トリアがマジックアイテム作製を依頼した工房に、あれやこれやと無茶な要求を突きつけたからだったりする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず今日はウチらの出番は無いからな。ここでゆっくり生徒達の奮闘を観戦するとしよう",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そうね、ここからなら、みんなの活躍が一目瞭然だもんね。ふふ、ノートちゃんとアミアちゃんはどうかしら",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "お、パパ発見だ、ノートママも一緒だぞ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "本当?どこどこ?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "こうして、トリア達に見守られながら。大世界杯は序盤を終えようとしていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルアン",
"カミシア",
"トリア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023605_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "あははははははは、どうやって切り抜けるかと思ったが、まさかそんな手でくるとはな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "学園長室のマジックアイテムを使い、状況を見守っていたトリアが、姫の奇策を見て爆笑していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "また、無茶な作戦をするなあ、パパは。もしミリオが攻撃を防がなかったらどうするつもりだったんだか",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "まあ、ミリオくんならきっと護ってくれるって事を計算にいれての行動だと思うけど。さすがにびっくりしたわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "いやあ、久々に腹の底から笑ったぞ。まったく本当に婿殿は見ていて飽きないな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "もう、笑い過ぎよトリアちゃん。ミリオくん達がせっかく頑張ってくれたのに",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "気持ちはわかるけどな。まさかエネミーに寮を護らせることで離脱するなんて、他に誰も思いつかない",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "今回の奇策はエネミーが全て神族で合ったことと、姫が神族がルアンの事をどれほど慕っているか知っていたからこそ可能だったことだが。\nそれでもあの土壇場で普通は思いつかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにしても、方法は奇抜だったが。まさかミリオ殿に目をつけられて損害無しで逃げ切るとはな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ええ、それに関しては素直に賞賛できるわね。実際ミリオくんに狙われて損害が無かったパーティーは殆ど無かったものね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "大体最初の一手で混乱させられて、それを立て直す暇すら無かったパーティーが多かったな。うん、さすがパパだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "事実ミリオは殆どの拠点を廻っているが、無傷でミリオから逃げ切るか、もしくは迎撃したのは、全体で片手で数えられる程度しかいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そういえば、損害無しどころかミリオ殿を追い返したパーティーはどうしてる?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "相変わらず、安定してるとしか言いようが無いかな。メダルも順調に集まってるし、首位圏内から動いてない",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "トリアの言葉に全員がある拠点に注目を集める。それは数ある拠点の中でも、唯一室内に設けられた拠点だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "デイルくんのところのパーティーね。さすが激戦区の拠点を制圧しただけの事はあるわね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ああ。正直あそこは人材も指揮官も一級がそろってるからな。間違い無く優勝候補だ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "多分、パパたちにとって最大の壁になるだろうな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "トリア達の注目している拠点は、学園内の中庭にある入り口から入れる地下迷宮の広場に存在する拠点だ。\n地理的にも、防衛のしやすさにおいても群を抜いているため、スタート直後の拠点制圧合戦では激戦区となった。\n実際スタートから数十分、最終的な主が決定するまでに何度も制圧と解放が繰り返された。\nしかし、デイルのパーティーは最適のタイミングで一つ前のパーティーを撃破し、その後は一度も再制圧される事無く、拠点を守り抜いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、本格的に戦闘が起こる頃だな。婿殿やデイルたちはどう動くかな?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ふふ、そうね贔屓はいけないけど、やっぱり見てて面白いのはその二チームだものね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "どんな過程を通ろうと最終的に優勝するのはパパに決まっているがな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そんな話をしながら、三人は再びマジックアイテムに視線を落とした。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルアン",
"カミシア",
"トリア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023610_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "中庭での戦いの一部始終を、学園長室からマジックアイテムを使って見ていたトリア達は、意外な結末に驚きを隠せずにいた。\n理由は単純で、バリアリーフがやられたからだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさかバリアリーフがやられるとは意外だったな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "ええ、いくらデイルくんやフォンちゃんがいる、ラーロンくんパーティでもね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ぬうう、あいつめデイルやフォンちゃんを仲間に引き入れたからって調子にのって!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "先ほどの戦闘によって、バリアリーフが獲得したメダルとレアメダルがラーロンのパーティーに移動し、暫定一位の座にラーロンパーティーが躍り出た。\n姫を応援していて、かつラーロンが嫌いなカミシアに取ってみれば、それは機嫌を損なうのに充分すぎる理由になった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "しかし、逆にいえば、あのバリアリーフを倒せる可能性を持つ数少ないパーティーの一つであったことは確かだな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そうね。彼女を他に倒せるといえば、パッと思いつくのは、ノートちゃんたちのいる姫くんのところと、三階級の有力パーティーぐらいだものね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "順当とと言えば順当か\nまあ、バリアリーフの奴、かなり楽しんでたからな。あからさまな罠に飛び込んだり、あえて誘いに乗ったりな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "実戦ではこの通りに行かないだろうな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "でも、ルールがあるイベントだからこそ、デイルくんもわかっててこの作戦を立てたんだと思うわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そうだな、バリアリーフなら必ず乗ってくる。正面から挑んでくるという保証の元にたてた作戦だろう\nまあ、それでも見事と言わざるを得ない戦いだったな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そうね、これは相応の評価をすべき戦いよ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ぬぐぐ、パパたちを差し置いて目立って……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "大世界杯のエネミーの中でも群を抜いた強敵であるバリアリーフから勝利をもぎ取ったことによって、トリアもルアンもラーロン達のパーティーをかなり評価していた。\nカミシアも気にはいらないが、これがどれ程の偉業かは理解しているし、ルール上の結果なので文句はそれ以上言わなかった。\n当然のことながら、内心は穏やかでは無かったが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "パパたちは今どうしてるんだろう?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ん?婿殿たちか?そういえばしばらく見てなかったな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "確か丘の方に向かったんじゃなかったかしら?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "おかー、おかーっと……あ、いたいた",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ルアンの言葉に、丘へと続く道を視線でなぞる。そこには未だ全員が健在な姫のパーティーがいた。\nしかし、ほっとしたのもつかの間。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアはあることに気がついてしまい、思わず声を上げてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "パ、パパー!逃げて!そっから早く逃げてー!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そんな事をこの場でいっても無駄な事はわかっていたが、言わずにはいられなかった。\nなぜなら姫達のパーティーに、今まさに災厄が降り注ごうとしていたのだから。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルアン",
"カミシア",
"トリア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023614_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "昨日はトリアとルアンが生徒達を見守っていた学園長室では、今日はオペラとバリアリーフが常駐していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、始まったな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ですね。泣いても笑っても今日が最後です、一体だれが優勝するのでしょうね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさんはまだわかるのですが、何故あなたまで居るのでしょう。部外者カミシア",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "机の上のマジックアイテムを見ながら、そう話すカミシアに、バリアリーフが突っ込みを入れる。\nしかし、バリアリーフの言葉をものともせずに、カミシアははっきりと言葉を返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫だ問題ない。学園長には許可をもらってある",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "いえ、そういう問題じゃ無くてですね……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "まあまあ。細かい事を気にしていてもしかた無いです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "細かいことでしょうか?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "そんな事よりパパはどこだろう?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "バリアリーフの疑問を置き去りにしたまま、カミシアはマイペースに姫達を探す。\nするとカミシアより先にオペラが声を上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ウルルさま発見です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え!どこですか!どこにいるのですかウルルさまー!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "一番部外者の私が言うのもなんだが、この面子で本当に大丈夫なんだろうか?",
"speaker": "カミシア"
}
] | [
"オペラ",
"バリアリーフ",
"カミシア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023702_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "地下迷宮内の広場に設置された拠点の争奪戦は昨日以上の激戦区となった。\n三十分間の戦闘禁止もあり、この場所の入り口で数多くのパーティーが待機して拠点の確保を狙ったが、結局今日もこの拠点を確保したのは昨日と同じパーティーだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふん、仕掛けてくるのは雑魚ばかりだな",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "仕方有りません、相手が弱いと言うよりフォンたちが強すぎるんですから",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "くく、それもそうか。はーはっはっはっ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "うふふふ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "前から思ってたけどよ、お坊ちゃんとフォンちっちって意外と仲いいよな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "実に楽しそうに笑う二人に、苦笑しながら突っ込みを入れるデイル。現状圧倒的なポイント差で独走するこのパーティーには、どこか余裕めいた雰囲気が流れていた。\nその余裕にはちゃんと理由はある。それはラーロン達のパーティーが、拠点から動く必要は無いという安全策を、唯一とれるパーティーだからだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにしても、ずいぶんと二位と差がついてしまいましたね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "まあ、ぶっちゃけ今の俺様たちは自分から動く必要がねえからな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "こちらが何もせずとも、有象無象の輩がメダルを運んできてくれるのだからな。実に気分がいい",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "たとえポイントがゼロだろうと、フォンたちを倒せば一発逆転どころか、一位になれますからね\nこちらが何もしなくても次々と挑戦者が現れるわけです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンの言うとおり、ラーロン達は基本的に自分達を倒そうと狙ってくる他パーティーを、拠点から動かずに迎撃するだけでいい。\nそれがどれほど有利か言うまでも無く、今の所損害らしい損害も無いまま、倒したパーティーから次々とメダルが手に入るという好循環になっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、つっても、一回負ければそれで全てが終わっちまうから油断は禁物だぜ。敵は他のパーティーだけじゃ無くて、エネミーもいるんだからよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "正直トリアさまやルアンさまと戦えば、フォンたち程度一瞬で壊滅させられます。ちょっとでも気配を感じたら、逃げるが勝ちですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "同感。正直あの二人が攻めてきたらガン逃げ安定だぜ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "いくらこのパーティーでも、トリアとルアンを相手に出来る程ではない。\n昨日はバリアリーフを倒しているが、あれは計算し尽くされた作戦と、しっかりとした前準備あっての事だ。\nだからデイルはかなりの広範囲を索敵することで、少しでもトリア達がこちらを目指している事がわかった場合、すぐにでも逃げ出せるよう準備していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "エネミーもだが、例の件はどうなっているんだ?今日もスパイを送り込んだのだろう?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ん?ああ、姫っち達のパーティーか",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "昨日送り込んだスパイの報告によると、今日の午前中は丘側の拠点を制圧してポイント貯めつつ、頃合いを見てフォンたちに仕掛けてくるみたいです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ラーロンの質問に答えるように、フォンが応える。\nスパイとは、昨日フォンがヴェル達に戦闘を仕掛けた際に潜り込ませたメンバーで、恐らく最大の障害になるであろう姫達を監視する役目を帯びている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちなみに丘に向かう姫っち達を、今日送り込んだスパイがしっかりと確認してる\n今日は丘に近づいた辺りで、見つかっちまったけどな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "見つかった?そいつから情報が漏れた可能性は無いのか?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "見つかりはしたけど、捕まる前に何とか逃げ出せたらしくてな。情報が漏れた心配は無いってよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "しかし、ヴェルさまやノートさまたちがいるのに、良く逃げ切れましたね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "まあ、あいつはガチ戦闘は苦手だけど、隠密行動と逃げ足に関しては二階級トップクラスだからねえ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そんな人材を良く見つけてこれましたね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "見つけてきたっていうか、一階級の頃からのダチでさ\n戦闘って意味じゃ目立たない奴だけどよ、諜報活動やらせたら右に出るもんはいねえからよ、早いうちから声かけといたんだよね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "相変わらずお前の人脈の広さには驚かされる",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "実際このパーティーの殆どは、デイルが階級や種族を問わずに優秀なものを集めた結果できあがっている。\nラーロンやフォンも含めて癖の強い面子も多いが、デイルはそれを良くまとめている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今の所は万事順調といったところでしょうか?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "順調にいきすぎて、ちょいと不安になるくらいにな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "なんだデイル、何か気になる事でもあるのか?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "少し考えるように呟いた言葉に、ラーロンが首をかしげる。その疑問にデイルは軽く首を振ると、言葉を返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んーいや。気になるって程じゃないんだけどよ、どうにも姫っち達の行動が読めないなと思って",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そうでしょうか?慎重派な姫先輩のパーティーらしい動きだと思いますけど?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "まあな。けど、どうにもテンプレ過ぎるような気もするんだよなあ\n朝見た感じ、姫っちはガチで優勝を狙ってる。それも俺様達と決着をつける形でな。にも関わらず初手が丘ってのはどうにもずれてる気がしてな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "確かにフォンの言うとおり、姫は慎重派だが。ここぞという時には驚く程大胆な手を使ってこちらを驚かせてくる。\nそれを考えると優勝を狙っている割には消極的すぎるような気がする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "しかし、スパイはそう報告してきたのだろう?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "それ、それもちょっと気になったんだよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "と、言うと?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "さっき、上手く行き過ぎって言っただろ?俺様的には、正直今回のスパイは失敗すると思ってたのよ\n何たって、あっちには白姫さんがいるんだぜ?\nある程度の期間気がつかないならともかく、最後まで監視を継続できて、あげく無傷で帰還なんてのは話ができすぎてると思わね?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "言われてみれば、昨日は最後まで見逃していたにも関わらず、今日はすぐに発見されるっていうのも少し妙ですね\nいくら昨日とはスパイが監視を始めた際の状況が違うとはいえ、ここまで早く発見出来るなら昨日の時点で気づいていてもおかしくありません",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "フォンの言うとおり、姫達のメンバーを考えると、ここまで順調に作戦が推移するのは逆に不自然に感じてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "待て。ということは、まさかとは思うが私達は……",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "姫先輩達が意図的に流した偽情報を掴まされた可能性がありますね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "俺様の考えすぎならいいんだけどよ、相手は姫っちだ。警戒して、しすぎるって事はねえと思うな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そうですね、万が一に備えて迎撃の……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "デイルの言葉にラーロンとフォンが頷き、近くにいたパーティーメンバーを集め説明を始めようとした刹那。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "な!?爆発だと!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ちっ、しまった!遅かったか!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "突如入り口付近で爆発が起こり、敵襲を告げる声が入り口の方から響き渡った。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"フォン",
"ラーロン"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023703_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ああ、ウルルさま!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ちょっと!なんなんですのこの展開!あり得ませんわ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "姫パーティーとラーロンパーティーの攻防、その一部始終を見ていた学園長室の竜族組は、ウルルの脱落に阿鼻叫喚していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ、全く持って納得出来ません!こんな序盤でウルルさまがリタイアなど!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "責任者ー!責任者はだれですのー!!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "うるさいなあ……まあ、気持ちはわからなく無いが\nあのゴミパーティーが、パパのパーティーに損害を出したかと思うと……ぐぬぬ、なんだか腹が立ってきたぞ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアはカミシアで、暴れる竜族二人をみて呆れつつも、ラーロンが活躍するのがよほど気に入らないのか、ご機嫌が斜め気味だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "というか、今後ウルルさまが出ない大世界杯など見る価値があるのでしょうか!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ありえませんわ!まったくもって価値ゼロですわね!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "なればこそ、ここはトリアさまに直談判してでも、ウルルさまの復活をー!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "際限なくヒートアップする二人に引きずられてイライラし始めたカミシアの耳に、なにやら聞き慣れない音が聞こえる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん?なんの音だ?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "部屋の隅に設置されているアイテムから発せられる音に首をかしげるが、相変わらずウルルが脱落した事にショックを受けている二人の耳には届いていないようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "音!音なんてどうでもいいです!あ、でもウルルさまの発生させる音なら大歓迎ですよ、具体的に何とはいいませんけど",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そうですわ!いま重要な事はウルルさまが脱落したことに……あら?この音は魔力通信の音?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "おや、言われてみれば",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ようやく音の発生源に気がつき、部屋の隅へと視線を向ける。どうやら、部屋の隅に置いてあるのは、魔力通信気らしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "魔力通信機?なんでこのタイミングでそれが鳴るんだ?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "これは、ひょっとすると当たりかもしれませんわね",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "トリアさまが言っていた件ですね。なるほど、さすが優秀ですねミリオさまは",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "おい、なんの話をしているんだ?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "疑問に首をかしげるカミシアの言葉に耳を貸さず、二人は話を進める。\nその様子は、先ほどとはうって変わって真面目そのものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "一体何なんだ?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "その様子を見ながら、カミシアはただ首をかしげるしかなかった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"バリアリーフ",
"カミシア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 023705_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ただいまぁ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふう……やっと着いたか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "疲れを思い切り声に乗せながら部屋へと入る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お帰りなさい、パパ、紅ママ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "それを、俺達の後から入ったカミシアが、出迎えの言葉で迎えてくれる。そのまま、俺達の荷物を受け取ると、部屋の隅へと持って行ってくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "悪いな、カミシア……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すまない……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そのまま、ドサッ、と思い切りベッドの上に倒れ込む俺と紅。凄まじい勢いで疲れと睡魔とが襲ってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー……もう今日は立ちたくない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ベッドで横になれるって、なんて素敵……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "うっわ、二人とも撃沈\nでも、頑張って夕飯は食べた方がいいと思うよ、パパ。回復のためにも栄養とらなくちゃだし、寮長言ってたじゃない。ごちそうだって",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ごちそうかぁ……そう言われると、なんとか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "重い。まるで鉛の固まりみたいだ、俺の身体。それでもなんとか、俺は身体を起こした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅はどうする",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ああ、行く……みんなも来るだろうし、こういうところは意地を張らないと",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "どうにかベッドから降りる俺達。確かにまあ、このまま寝てしまうのはちょっと行儀も悪い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ま、回復は美味いものから、だよなやっぱり",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今夜ばかりは体重気にしないぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅ママ、この身体で気にしてたのか?もし他の女に聞かれたら、その場で友情失うレベルだぞ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "きゃうんっ。こ、こらカミシアっ。人のウエスト、つんつんするなぁ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "なら、おっぱいなら……ごめんなさい。そこはパパだけだったな、触っていいの",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、その通りだけど改めて言うな、こらぁっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺なら自由に触っていいんだろうか。その魅力的な膨らみに対し、そんな感想を抱きつつ、ドタバタと騒ぐ二人を見守った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほら、二人とも、飯行くぞー",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん。ご飯っ、ご飯♪",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ああ、こらカミシアっ、逃げるなぁ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ほんと、親子みたいだなあ……っていうか、元気だな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まだまだ、だったな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "昨日と今日、二日間の戦いを改めて思い起こす。\n三至宝がいて、速度に長けた紅がいて、魔法においては最強のアミアがいた。\nにも関わらず、ラーロンやデイル相手にはギリギリ。学園長やルアンさんに対しては、ヴェルとノートに任せて、ただ見ていることしか出来なかった。\n三階級の狙撃チームには本当に手こずった。ミリオさん達から逃げることしかできなかった。\nラーロンやデイルには裏をかかれたし、オペラさんの罠がある森で戦えたのはただの運だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……本当に、弱いな、俺は",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日勝てたのは、みんなのおかげだ。俺はまだまだ力が足りない。\n圧倒的なまでのゲンの力。あの強さを見るのはもう何度目だろう。\n前の扉で、ヴェルとフォンすら容易くあしらい、この扉でもミヤがいたとはいえ、仲間ほぼ全員で挑んで、どうにか引き下がらせた程度。\nそして今回、あのミリオさんすらも……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "勇者は一人ではなれない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんなのは分かっているつもりだ。みんながいなければ、自分一人では何もできない。\nけれど、だからこそ疑問が浮かぶ。この言葉を言ったゲンという勇者に対して。\nだったら……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だったら、なんであなたは一人なんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "戦争終結者、勇者ゲン。その正体を知る者は誰もいない。知っていたはずの者すら、もう覚えていない。\nあの戦争の中で何があって、何を求めて一人でいるのか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "勇者、か……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まぶたが重い。意識が飛び飛びになっていく。どうやら本当に限界らしい。\n俺は考えるのを諦めると、素直に目を閉じた。意識が落ちていく。視界が黒く染まる。\nゆっくりと、ゆっくりと俺は、眠りの世界へ落ちていった……。\n姫が完全に眠りにつき、静まりかえった部屋の中。カミシアは静かに起き上がった。\n紅を起こさないように布団から出ると、そのまま姫のベッドへと向かっていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "パパ……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアは、ベッドの脇にしゃがみ込むと、姫に囁きかけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫だよ、パパ。パパはきっと強くなるから\n私が、パパの可能性を見せてあげるから……\nそのための魔法を、磨いてきた……パパのためだけの、魔法を……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "小さく微笑み、姫の頬に軽くキスをする。余程疲れているのだろう、姫はまったく気づくこともなく眠ったままだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "むう。可愛い娘のほっぺちゅーに起きないなんて、ちょっぴりムカツキ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアはふて腐れた顔で姫の頬を数回つつくと、ニンマリと笑ってみせた。\nそしてそのまま、姫の布団の中へと入っていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うん、あったかい……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そのまま、布団の中で姫の身体にピッタリと寄り添うと、静かに目を閉じた。\nそうして、トリニティ建界以来最大のイベント、大世界杯の夜は幕を閉じた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 033703_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "んー……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "窓の外から差し込む陽は高い。どうやらもう昼近くのようだ。\nさすがに、ここ二日の疲れはそう簡単には抜けないらしい。まだ少し頭が重い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お・は・よ・う、パパ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ちょっと艶っぽい口調で、カミシアが俺を呼ぶ。身体は少し幼いけれど、年齢そのものは可能性の世界にいただけに相当だ。こういう口調をされると、ついドキッとする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ああ、おはよう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっぱり、まだ意識が重い。もう少しくらい寝直してもいいかもしれない。\n大世界杯を目標に行っていた特訓。その疲れも、大世界杯が終わった気の緩みのせいか、一気に出てきたみたいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ。まだ眠いの?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ああ……できればもう少し寝ていたいな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだね。私はパパともっとこうしていられるなら大歓迎だから、寝かせてあげたいかな\nだけど、お昼くらいに食堂でみんなと話すんじゃなかった?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "みんなと……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "霞がかった頭の中で、昨夜の会話が思い出される。ああ、そういえばそんな約束があったような……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう、だな。だったらもう起きないと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう認識した途端、頭の中の霧が急速に消え始めた。そうしてスッキリし始めた頭が、やっとそれを確認する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……カミシア?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "おはよ、パパ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "俺の布団の中に一緒にいる、裸のカミシアを。\n俺にピッタリと身体を押しつけ、頬をわずかに赤らめながら微笑んでいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お前、なんでそんな姿で俺の布団に!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "入った時は服着てたんだけど、昨日の夜は少し暑かったから、脱いじゃった。下着も穿いてないけど……見たい?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "恥じらいの中にイタズラめいた笑みを浮かべ、布団をめくり上げようとするカミシア。俺はそれを慌てて止めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいの?だって、パパの男の人、ちょっと期待してるみたいだけど\n固いの、ずっと私に当たってる……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "それは男にとっての生理現象なんですっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は飛び上がるようにして布団から抜け出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫、まだ寝ているのか?そろそろみんな……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そして、見計らったようなタイミングで部屋へと入ってきた紅。その視線が、思い切り俺の男性部分へと向かう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃあああああっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "普段中々聞けない、紅の可愛らしい悲鳴が響く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いやその、これは決して淫らなものではなくてですねえ……男としてはどうしようもない、人体のメカニズムといいますか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そそそうだよなっ。分かってる、うん、分かってるぞっ\nべ、べべべ別に、は、初めて見るっわけじゃ、ないしっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "真っ赤になった顔をそらしつつ、でもチラチラとこちらを見てくる紅。\nどう動いていいか分からず固まっている俺。\nそして、そんな俺達を、相変わらず裸のままで笑いながら見ているカミシア。\nさて、俺はどうすればいいのでしょうか……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 033801_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "朝、静かに扉が開く。音を立てないようにゆっくりと開いたそれは、二人の少女を中へと送り込み、やはり音を立てないようにゆっくりと閉まった。\n長い黒髪をポニーテールにまとめた制服姿の少女と、長い金髪を揺らす、まだ少しだけ幼い少女。紅とカミシアだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだ起きてないよな……?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "大丈夫だ。朝食に出る前と変化はない",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "二人は、姫が寝ているのを確認するようにベッドを見るが、起きている形跡はない。ホッと胸を撫で下ろし、足音を立てないよう気をつけてそこへと向かう。\nなんの疑問も抱かず、ただ静かに眠り続ける姫。紅は緊張に湧き出る唾を嚥下し、視線を下半身の方へと運んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "では、いくぞ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "互いに顔を見合わせ頷くと、カミシアが姫の布団をそっと剥いだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "う、うわっ。こ、ここここれ、が……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "おー、さすがパパ。凄い\nにしても、何を驚いているんだ紅ママ。実物見たことあるだろうに",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、それは確かにそうなんだが、その……朝の生理現象というものはさすがに慣れてなくて……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ヤった翌朝とかに見たことないのか?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ヤ、ヤったとかそういう下品な言葉はダメだぞ、カミシアっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だったら、パパの熱くて固くて太いのが、もう屹立しなくなるまで紅ママの身体で受け止め続けた翌朝、とかに見たことないのか?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ななななななななっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "真っ赤になる紅ママ、かわいいなあ\nほら、それよりも色々試さなくていいのか?パパ、起きてしまうぞ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、そうだな。そ、それじゃあ、その……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "カミシアに急かされ、紅はそっと、姫の下半身の塔へと指を伸ばす。が、あと少し、というところで止まってしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これ、本当に触って平気、なのか?さ、触った瞬間にその……ふ、噴火しちゃう、とか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "うーん、どうだろうなあ。私は紅ママと違って男性経験がないから、そっちは分からんなあ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ニヤニヤと笑いながら言うカミシアに、紅は少し泣きそうな顔になった。が、追求するのは諦めたらしい。指先に力を込めると、更にそっと伸ばしていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ひっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ちょこん、と指先が塔の先端へと触れた。噴火はない。ただ姫の熱い昂ぶりが、固い感触と共に指先から伝わってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわ……固い……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ちょんちょん、と数回触れてみる。それは少しも衰える気配を見せず、強情なまでに天を突いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もうちょっと思い切って触ってみたらどうだ?紅ママ、パパの握ったり咥えたり挟んだりしたんだろう?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "なっ!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ぼんっ、と湯気を立てながら紅の顔が真っ赤になる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、そそそそんな、はしたない、こと……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "まさか、したことない、とは言わんよなあ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアのニンマリ笑顔に、紅は言い逃れができないことを悟った。顔の熱がぐんぐんと上がっていくのが分かる。\nこの扉だけではなく他の扉での世界。その記憶も経験も持っている紅にとっては、当然のことながら、握ったりも咥えたりも挟んだりも経験済だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にしても、パパの本当に凄いな。男っていうのは毎朝こんなになるわけだ。大変だろうに\n確かに、一人ででも処理しないと苦しくてたまらんだろうなあ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "一人で!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "仕方ないのだ。さすがに毎日女に身体を求めるわけにはいかんからな\nまあ、ヴェルママやフォンちゃんあたりなら、毎日でもどんとこーい、なんだろうが",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ま、毎日……あれを、毎日……\nいや、あたしとしても決して嫌なわけじゃないけれどでも、恥ずかしいというか心臓がどうにかなってしまいそうというか……\nで、でも、男の人には必要、なんだよな……?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "必要も必要。なんといっても生理現象だからな。食事や睡眠と一緒で、なければいけないものだし\nなんだったら紅ママ、今、手でしてあげたらどうだ?ほら、こんなにパンパンでガチガチなわけだし",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "手で……?今……?あたしが……?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "カミシアに言われ、改めてそれへと視線を送る。ドン、とそびえる三角形に、その実物の映像が脳裏に浮かんだ。\n正直に言えば、あれをもう一度直視できるかというと自信がない。気分が高まっている時ならまだしも、平常時にはさすがに……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "で、でも確かに、出した時の姫、気持ちよさそうだったし……本当に、それで楽になるなら……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "姫がそれで喜んでくれるなら……紅は自分にそう言い聞かせると覚悟を決めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、その……失礼、します……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "恐る恐る手を伸ばすと、そっと姫のズボンへと手をかける。\n顔が熱い。恥ずかしさが上昇しすぎて、湯気が出てしまっているんじゃないだろうか。\nこの下着の中に、姫の……あれ……が。\nあの、固くて大きくて熱くて……自分をあんなにも切ない気持ちにさせた、あの……まるで姫自身みたいに激しくも優しい、あれが……。\n紅は、その手を震わせながら、小さく唾を飲み込んだ。\nなんだろう……なんか騒がしいなあ。それに、掛け布団がなんだか涼しい……。\nなのに、なんだか下半身のあたりから妙な熱気を感じる……。\n俺は、本能の訴えに飲み込まれるように、ゆっくりと目を開いて……。\n開いてみたら、凄いことになっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "おはよう、パパ♪",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "二人とも、いったい何をやって……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あうはわわわわわわああああああああ!!\nなんでもないーなんでもないんだー!あたしは何も知らない!ツンツンとかしてないぞ!だからといって、トントンなんかもしてないからな!\nててて、手でやってあげたら喜ぶだとか、スッキリさせてあげたら喜ぶかななんて考えてないんだ本当なんだ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "大丈夫だよ、パパ。紅ママは、パパのことを思って、パパのために頑張ろうって思っただけだから",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "大慌ての紅と正反対に、やたらと落ち着き払った笑顔を浮かべるカミシア。うん、なんとなく把握した。把握したくなかったけど把握したぞ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅、お前……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまりは、俺の生理現象をジックリと眺められていた上に、嬉し恥ずかしな行為をしようとしていたわけで……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "し、失礼する!下で待ってるからな、姫!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あ、待て紅ママ!パパ、ご飯早く食べないと間に合わないよー",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ドタバタと凄まじい勢いで部屋を出て行った紅と、楽しそうに追っていったカミシア。\n後に残されたのは、ズボンとパンツを脱がされかけ、男性特有の生理現象によって煌めいている俺自身。\nなんだ、この状況。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……俺、もうお婿にいけない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "泣きそうな声で、俺は呟いていた……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 034001_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "休み時間、廊下を歩いていた俺は、そこで二人の姿を見かけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "丁度いいな。話をするなら今か\n先生、オペラさん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "呼びかけに振り返る二人の下へと、俺は真っ直ぐ向かっていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白鷺さま、珍しいですね。お一人でこんなところ……まさか、これからどなかたといけないことをなさるために場所探し!?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "生徒白鷺、男女の仲に口を挟むつもりはありませんが、TPOはしっかりとわきまえなさい。私、もしもの時は擁護しませんわよ",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "……あの、基本的に真面目な生徒でいるつもりなんですが、二人の中の俺は、いったいどんなキャラに……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いやですわもう。そんなことを乙女の口から言わせようだなんて……あ、申し訳ありません。私、もう乙女じゃありませんでしたね。白鷺さまのおかげで",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いや、その……それは否定できないわけですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまりは、こういうことを多くの女性相手に行っている人物だ、と想定していますが何か?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "口答えしてすみませんでしたっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "遊びでそういう関係になっているわけじゃない、と自分に言い聞かせたところで、関係ない人から見ればそうだよなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、わざわざ声をかけたということは何か話があるのでしょう?言ってごらんなさい",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "あ、はい。その、ウルルのことなんですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それを早く言いなさい!ウルルさまのことならば、世界の滅亡よりも最優先です!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "まったくですよ、白鷺さま。もっと空気を読んで下さい。ウルルさまのお話となれば、私、お手洗いすらガマンします",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "……本当にトイレなら、早く行ってきてくださいね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "この二人、やっぱり竜族なんだなあ、とつくづく理解した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それでオペラさん。ウルルの夢の件について先生は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "場合によっては学園の協力も必要になる場合がありますから、もちろん伝えてあります",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ウルルさま……あの小さな身体で夜な夜な襲ってくる悪夢と戦い続けなくてはならないなんて、かわいそうすぎます!\nできることなら今すぐにでも替わって、その悪夢を根底から粉砕してさしあげたい……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "この人なら、夢を相手にしてもやってしまいそうだから本当に怖いなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "実は、その夢のことなんですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、昨日ウルル本人から聞いた話を二人に話す。\nもしあの夢からウルルを解放するなら、俺自身がその時の話を知らないといけない、そう思ったから。\nそして、その当時のことを知っていそうな知り合いなんて、この二人以外にはいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "言いにくいことだとは思います……ですがそれでも、教えてもらえませんか。ウルルが、両親を……手にかけた時のこと……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本当なら、俺が聞いていい話じゃない。けれど、それを聞かなければ、知らなければ、かけてやる言葉すら思いつかない。\n何も知らない、ただの知ったかぶりのかける慰めなんて、むしろ逆なですることにしかならないんだ。\nオペラさんと先生は、難しそうな表情で顔を見合わせていた。きっと、竜族にとっても最大のタブー。ウルルのことを敬愛しているからこそ、難しい判断だろう。\nそして二人は決断を下した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白鷺さま。この話を外部の方にするのは、恐らく、これが最初で最後です。白鷺さま以外の方がこれを知ることは永遠にない。これを誓って下さい",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "もしその誓いが破られることがあれば、その時には、私自らの手で、生徒白鷺を滅さなければならなくなりますわ。それでもよろしくて?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "それは脅しでもなんでもない、完全な本心。俺は覚悟を決めると、ハッキリと頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "分かりましたわ。とはいえ、正直なところ私達からもお教えできることはそれほど多くありません",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "あれは、竜王様が全竜族による徹底抗戦を決めた翌日でした。部屋から姿を見せたウルルさまが、竜王様とお話をされたい、と仰ってきたのです\n戦時中、それも追い込まれていた時です。ゆっくりとご家族での話をする機会などほとんどありません。ウルルさまも、当然それを理解されていました",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ですが、そんなウルルさまの突然の申し出。私達は、徹底抗戦を決められた直後だったからこそ、最後の語らいをされたいのではないかと考えたのですわ\n竜王様にお伺いを立てたところ、なんの問題もなく許可され、ウルルさまはご両親の待たれる部屋へと入っていったのです\n当然ながら、親子の語らいを邪魔するなど無粋の極み。入り口の警備は厳重でしたが、中に警備の者は入っていきませんでしたの",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "最後の決戦前の親子三人での最後の語らい。それの邪魔はさすがにできない。それは仕方ないことだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですが、ウルルさまが中に入られて三十分もしない頃でした",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "部屋の中から、ウルルさまの泣き叫ぶような悲鳴が聞こえてきたのですわ\n無論、入り口の警備についていた者はもちろん、その声を聞きつけた者全員が駆け付け、部屋の内部へと突入いたしました。その中には私も、オペラさんもおりましたわ",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "そして私たちが見たのは、その両腕を真っ赤に染めて立ち尽くす、ウルルさまの姿でした\n床に倒れたご両親の遺体の前で、ただ呆然と立ち尽くしていたのです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "何が起こったのかは、すぐに分かりましたわ。ですが、なぜそんな惨事が起こったのかが分かりませんでしたの\n私達は必死にウルルさまに呼びかけましたわ。ですが、相当なショックだったのでしょう。一切反応はなく……\nやっと返ってきた反応は\nまったく感情のこもっていない、暗い笑みだけだったのです……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "私は、あれ以上にゾッとする笑顔を、未だに見たことがありません\n本当に空っぽな、ただ形だけの笑み。無というものがどれほどおぞましいものなのかを思い知りました",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "結局、その直後にウルルさまは気を失い、私達が真実を知ったのは、目を覚まされてからでしたわ\nあれほどに愛されていたご両親を、私達のためにその手にかけ、にも関わらず笑顔を浮かべ続けるウルルさまのおいたわしいことといったら……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "幾筋もの涙を流されながらも笑顔を浮かべ続け、気丈にもすべての罪を受け止めると言い放ったウルルさまは、まさしく竜族の王でした",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "私達がお教え出来ることといえばこのくらいですわね……あの時、あの部屋でどのような会話がかわされ、そしてあの結末と繋がったのかは、もう誰にも分かりませんわ\nあれだけのことをご自分の手でなされたのですからショックも相当なものでしょう。ウルルさまご自身も覚えていなくて当然ですわね",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "むしろ、それで良かったのかもしれません。もし明確に覚えていて、それを繰り返し夢に見ていたなら、心の方がもたないでしょうから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "確かにそうだ。今は、その中身が分からないからこそ、うなされているレベルですんでいる。\nもし見ているものが、その瞬間だったとしたら……。\n俺は最初の扉でノートを殺した。もしあの瞬間ばかりを何度も何度も見させられたとしたらどうなるか……。きっと、堪えきれずに泣き叫んでいるだろう。\nウルルは、あの時の言葉を思い出したいと言っていた。そのすべてを受け入れたいと。だけど……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "殺された人が、死ぬ寸前に殺した人に残す言葉って、なんでしょうね……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "人によって様々だとは思いますが……まず、まともなものではないでしょうね",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "怒り、嘆き、苦しみ、呪い……大体は、そんな重い負の感情ですわね……",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "戦争での出来事を思い出しているのか、先生もオペラさんも、自嘲するような笑みで言う。命を奪う、奪われるっていうことはそういうことなんだろうな……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"オペラ",
"姫",
"バリアリーフ"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 034102_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ふう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう何度目になるか分からない溜息と共に寝返りをうつ。\nどうすればウルルを元気づけてやれるのか、どんな言葉をかけてやればいいのか。昼間からずっと考え続けているものの、どうしても答えが出てこない。\nせめて気休めになるようなものでいいから何かないかとも思うのだけれど、ウルルの背負った過去の大きさの前には、無責任な言葉としか映ってくれそうにない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "パパ、まだ考えてるの?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアか。ああ、どうにも思いついてくれなくてさ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だったら、お風呂にでも入って考えてきたら?ここでボーッとしてるよりは思いつくんじゃないかな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "え?あ、もうそんな時間か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "気がつけばもう夜も遅い。いい考えも浮かばず、ずっと考え続けていたんだな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "確かに、ここで横になってたからっていい考えは浮かびそうにないよな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんだったら、背中流してあげようか",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ありがたい話だけれど、あとで紅に説教されそうだから遠慮しとくよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ぷう。せっかくの親子の語らいタイムなのになー",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "可愛く頬を膨らませるカミシアに苦笑しつつ、俺は部屋を後にした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー……にしても、キッカケすらも思いつかないとはなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "オペラさんと先生から聞いた当時の話。それは、あの事件がウルルにとってどれだけ重いものかを改めて思い知らされただけだった。\nあれだけ重い過去を、気楽に払拭できるような慰めの言葉がそうあるわけもない。\n二人はウルルのことなんか恨んでないさ。こう言ってやれれば一番なんだろう。けれども、それを信じさせてやれる根拠がない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "信じていた娘にいきなり殺されて、それを笑顔で恨んでないとか、いったいどんな菩薩だよなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "娘だから、の一言ですませるにはあまりに根拠が薄すぎる。\nとりあえず、このまま考えていてもいい考えは浮かびそうにない。風呂でサッパリしながら、今度は違う方向で考えてみよう。\n俺は溜息とともに、風呂場へと入っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あれ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "誰もいないはずの脱衣所。にも関わらず、目の前に半裸の美少女が一人。\n小柄な身体を隠す、可愛らしくも小さな下着が、惜しげもなく晒されている。\nあまりに予想外の光景に、男として目を背けるという選択肢は頭の中から抜けていた。\n発育的にはまだまだだけれど、それが、背徳感を更に強めている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あんまりジッと見られると、恥ずかしいよ、お兄ちゃん……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あ……わ、悪い、すぐ出て行くからっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "慌てて出て行こうとする俺を、けれどアミアが引き留める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今はまずいよ、お兄ちゃん……まだ起きてる人多いし、そんなに慌てて出ていくところ、もし他の誰かに見られたら……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そ、それは確かに……で、でも……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "べ、別に、お兄ちゃんだし、いいよ。ほら、もう全部見せ合っちゃった仲だし……\nって、うん、そうだ。恥ずかしがったって仕方ないじゃん。もう全部見られちゃってるんだしさ。一番恥ずかしいとこの奥まで",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "開き直ったかのごとく、顔を赤らめながらもいつもの笑顔を見せるアミア。とはいえ、言ってることはかなり過激だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そもそも、今は俺の入れる時間だぞ。なんで今頃",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、あははは……時間は分かってたんだけど、すぐに入ってすぐに出ちゃえば間に合うかなあ、って\n実は、デイルから魔法を教えてほしいって頼まれてさあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "デイルから?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん。世界杯の時に、色々痛感したんだって。それで、わたしも色々教えてもらうって交換条件でOK出したんだけど、ちょっとノっちゃって",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "気がついたらこの時間?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うん。結構汗かいちゃったし、女の子としてはやっぱり綺麗にしておきたいじゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "魔導師が、そんな汗かくような技術を剣士に教わるっていうおかしさに気づいてくれ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "魔導師の場合、体術とか剣術とかは普通後回しなんだけどなあ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でもほら、チーム戦の時とか狙われたし、自分を守る技術はしっかり会得しておけってミリオもいってたよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ミリオさん、苦労しただろうなあ、アミアの師匠。\nにしても、さすがデイルというべきか。こんな時間まで修行しておきながら、見るかぎり、アミアの身体に傷一つ残してない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "も、もう、お兄ちゃん、そんなに見つめるのは反則だよ。さすがにちょっと恥ずかしいかなぁ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "あ、わ、悪いっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんな気はなかったのだけれど、つい凝視してしまっていたみたいだ。俺は慌てて視線を逸らした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんだったらぁ、一緒に入っちゃおっか。それなら時間の節約にもなるし",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "一緒にって、さすがにそれはまずいだろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "べ、別にそこまで恥ずかしがる仲じゃないじゃん。もうぜ~んぶ見せ合っちゃった仲なんだよ。今更じゃないかなぁ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "顔真っ赤にして言う台詞かっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "真っ赤にしなくちゃ言えるわけないじゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "言われてみれば至極ごもっとも。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うん、決めた♪お兄ちゃんと一緒に入ろうっ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "決めたって、お前っ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さあ、お兄ちゃんも早く脱いだ脱いだー。わたしも見せたげるから、お兄ちゃんもそのすべてをさらけ出すのだっ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ああ、こら!やめろっ、パンツ下ろそうとするなあ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "わたしのパンツも脱がさせてあげるから。これでおあいこだよ♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういう問題じゃなーい!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……奮闘むなしく、俺の心は思い切りアミアに蹂躙されました。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……なんでこんなことに……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう、女のわたしの方が恥ずかしいんだよ。こんな美少女との混浴なんて、むしろ喜ぶべきだと思うんだけどなあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そりゃ、男としてそういう気持ちがあるのは否定しない。ていうか、アミアの方こそもう少し慎みを持ちなさいっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なるほど、お兄ちゃんは清楚で恥ずかしがり屋なタイプが好き、と。だったら、わたしもモジモジ恥ずかしがった方がいいかな\nえ、えへへ……あんまりこっち、見ないでね……わたし、おっぱいちっちゃいし……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "さっきの脱衣所での脱がしっぷりといい、どっちが本当のアミアか分からなくなるんですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は諦めたように言うと、苦笑した。こうなったらもう仕方ない。開き直ろう。\n確かにまあ、許可付きとなれば、男として喜ぶべき状況だ。そもそもアミアとは、もうそういう関係にもなっているわけで……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あんま気にしなくていいと思うよ。どっちも本物のわたしだし\nでもお兄ちゃん、入ってきた時なんだか難しそうな顔してたけどどうかした?色々と溜まっちゃってるなら、言ってくれればわたしが……えへへぇ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの言うようないやらしい悩みじゃありませんから大丈夫。できることなら視線を俺の下半身から外してくれ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あれ?気づいてた?いやあ、やっぱり生命の神秘といいますか、それ凄いよねえ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "それだけ熱心な視線を向けられたら、誰だって気づくと思うぞ。まあ、俺だってアミアのそういうところに目がいっちゃうしな、異性への興味は仕方ないと思うけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "アミアの、凄く小さいけれどわずかに膨らんだ胸とか、下の、全然邪魔するもののない綺麗な縦スジとか、結構ヤバイ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃんの方こそ、結構目がエロスだよねぇ。実はお姉ちゃんよりもわたしみたいな身体が好みだったり?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "別に嫌いじゃないぞ。まあ、もう少し欲しいところだけどなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "むう。好きで成長しないわけじゃないというのに。こんな身体に誰がした、ちくしょうめいっ\nきっと、わたしの分のおっぱいまで、お姉ちゃんが持っていっちゃったんだよ。返済を要求するっ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "まあ、スタイルのいいアミアとか、まったく想像できないので、これはこれでよかったんじゃないかとも思うけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、お兄ちゃん。いったい何悩んでるの?わたしでよければ聞いたげるよ?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そんな会話の中で、不意にかけられた俺の心を読んだような言葉。俺は思わず顔を上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃん、顔に出やすいからね。お風呂場入って来た時も、難しそうな顔してたし",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "これでも、さすがは王女というべきなのか。結構人の心の機微に敏感なんだよな。俺は素直に白旗をあげた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "一つだけ、聞いていいか。その、アミアにとっては凄く不愉快になる質問だとは思うんだが……それでも必要なんだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の口調に真剣さを感じ取ったのか、アミアは茶化すことなく黙って俺の話を聞きに入った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "最初の扉で、その……俺は、ノートを殺した。アミアやルアンさんが、ノートを助けたかったことも知ってた。だけど、殺した\n……その時、俺をどう思った……?やっぱり、憎かったよな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "恐る恐る尋ねる俺に、けれどアミアは呆れたようなジト目を向けてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、これだからお兄ちゃんは……この前も言ったよね。わたし、嬉しかったって\n自分が苦しむのを知ってて、なのにあんなことしてくれた。だからわたし、お兄ちゃんに初めてをあげるくらい好きになったんだよ\nそれをさ、どうやったら憎かった、なんて思っちゃうのかなあ。そう思われたわたしの方がショックだよ、もう",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "いや、でも……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でもも何もなーい!お兄ちゃんはもうちょっと、自分のやってきたことに胸張るべきだね。てゆーか、張れ\nいい?もう一度言うから、今度こそ絶対何があっても忘れないよーに!\nお兄ちゃんがどれだけ苦しんだか、わたし、ちゃんと分かってるよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "心からの笑顔で言われたそれに、偽りや強がりなんて少しも無かった。紛れもない本心だと思った。\nむしろ、それを疑った俺の心の方が、よっぽどおかしい。そう思える言葉だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そっか。悪い、本当に変なこと聞いた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だから、自然と浮かんでしまう笑顔で俺も返す。そして、それと同時に浮かんだものもあった。\nもしかしたら、もしかするのかもしれない。あまりに危険な考え方だけど、でもそうであってほしいと思う。\nいや、きっとそのはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうな、アミア",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ううん。わたしの言葉が少しでもお兄ちゃんの役に立ったならいいよ\nなんでしたらぁ、心だけでなく身体の方もスッキリさせていきます?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ニヤリ、と笑いながら、俺を誘うかのように悩ましいポーズを取るアミア。はっきり言って、全然似合ってない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "…………ごめん。その、色々と萎えた……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さっきの質問よりよっぽど不快なこと言ったー!!ちっぱいにはちっぱいなりの良さがあるのにこんちくしょー!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "今の返答を言うのに俺がどれだけ心の中で苦しんだかも分かってほしいなあ……なんて思ったりもしたけれど、さすがにそれは口にできませんでした。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"アミア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 034104_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ぐ!ああ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "どうした白川?その程度か?ウチはまだぴんぴんしてるぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "戦闘が始まってしばらく経ったが、紅は苦戦を強いられていた。\n速さが最大の武器である紅にとって、避ける余地すらない広域魔法は天敵と言ってもいい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わかっていた事だけど……強い!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ふふん、当たり前だ、これでも伊達に漆黒の戦鬼などと呼ばれてはいなかったからな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "それでも、速さを生かしてなんとか直撃を避けているが、トリアに近づく事すら難しく、攻撃を加えるチャンスすらつかめない状態だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、おしゃべりはこの辺にして、そろそろ再開と行こうか!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "トリアが宣言したと同時に、強い魔力光が生まれる。それだけで自分を一撃で屠れる威力を篭めた魔法がくると判断出来た。\n紅は即座に身体強化魔法を再発動、自身の速さを最大まで上げて対抗しようとするが。\nトリアの魔法名と共に出現した巨大な腕は、紅の想像を遙かに上回る大きさをしていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "空を覆うような巨大な鉄槌が振り下ろされる中、紅は即座に避けきれないと判断すると、瞬時加速を行い、なんとかその範囲外から抜け出す。\nしかし、その結果、再びトリアとの距離が離れてしまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうした?逃げ回ってるだけでは勝てないぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "わかっています!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "トリアの言葉に、接近出来ないならと刀を一度鞘に収めると。\n魔法名の発生と共に、風によって編まれた不可視の刃をトリアへと叩きつける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふっ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "だが、それがトリアに届く直前、トリアの前に巨大な鏡が出現する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "鏡は紅の疾風を受け止め、さらに自身に紅を写すと同時に砕け散り、直後にそこから発生した光が紅に襲いかかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あああ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "肌が焼かれる感覚に戦慄しながらも、紅はどうにかその範囲から転がりだす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、割とガチなウチと戦ってここまで戦えるっていうのは、結構凄いことなんだが……少々決定力不足かねえ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "速度を使っても接近出来ず、魔法戦に持ち込めば力の差は歴然。正直心が折れそうになる。\nしかし、それでもここで倒れる訳には行かないし、諦める事なんて絶対出来ない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだ!まだです!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅は自分に言い聞かせるように叫ぶと、ボロボロの身体をふらつかせながらも立ち上がり、構える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お、さすが婿殿のパーティーにいるだけの事はあるな。根性がある",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "当たり前です、同じ部屋で毎日姫をみてますから",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうだ、姫だったらこんな状態でもきっと立ち上がる。自分の身体が動くうちは絶対に諦めない。あいつはそういう奴だ。\nそしてその仲間である自分がこんな所で立ち止まる訳にはいかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、いい目だ、この状況でまだ勝機を見いだしているな、そうこないと面白く無い",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "確かに勝機はある。だがしかし、それが失敗すれば間違いなく自分は負ける。だからうかつには使えない。\nしかし、このままではじり貧なのは確かだ。ここは使うしか無いのか……。\nそう思った直後。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今はまだその時ではありません!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "闘技場の入り口から、何故かラビットフォーム状態のオペラが、声を上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "お、オペラさん!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "突然の乱入者にトリアと紅も驚き、一時的に戦闘が中断される。\nオペラは古代兵器と戦っていたはずだが、何故ここに居るのだろうと言う質問を投げかける直前、その答えにオペラ自ら答えてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、巨大ゴーレムをさっくり片付けて来たので、これより戦線に復帰します",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう言ってオペラは視線をトリアに送る。自分がこの場の戦闘に関わっても大丈夫かと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう、援軍か?別にウチはかまわんぞ?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアは面白そうににやりと笑うと、あっさりとそれを了承した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "というわけでトリアさまの許可も下りましたので、これより白川さまに加勢させていただきます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラはそう言うと、ラビットフォームのままこちらの横に立つ。それだけで本当に頼もしいと紅は感じた。\nしかし、本格的に戦闘を始める前に一つ確認しておかなければならないことがある。さきほどの、「今はまだその時では無い」とは、どういう意味だろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます、オペラさん……でも、さっきのはどういう意味ですか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、あれですか?白川さまが切札を切ろうとしていたのが何となく雰囲気でわかりまして",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の質問にしれっと答えるオペラに、思わず声を上げてしまう。具体的に何故わかったのかは全くわからないが、さすがと言うべきか妙な説得力がある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダメですよ、白川さま。切札は最後に切ってこその切札です。ここという時まで取っておきましょう。だからこそ、切札は切札たりえるのですから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "は、はい",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に動揺しながらもしっかり頷く。確かに行き当たりばったりで切札を切って、それが失敗したら目も当てられない。\n追い詰められていたとはいえ、勝算も無しに切札を切るのは自殺行為だと、オペラの言葉で気づかされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、そろそろ再開してもいいか?",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "あ、はい。大丈夫です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "こちらの事を見てそう訪ねるトリアに、軽い調子で言葉を返すオペラ。\n互いに再び構えを取る中、紅はオペラにもう一つの疑問を投げかける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ところでなんでオペラさんはラビットフォームのままで?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "恥ずかしながら、ゴーレムに割と痛い一撃を貰ってしまいまして。回復魔法を自分にかけたばかりなんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え、ということは",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に紅ははっとする。考えてみれば、いくら英雄クラスのオペラといえど、あの古代兵器と一人で戦って無傷で済むはずがない。\nそれどころか、かなり苦戦したはずだ。にも関わらず目立った外傷が無いという事は、かなりの回復魔法を自身にかけた事になる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぶっちゃけ、リバウンドでふらふらです。ですので、戦闘要員としては当てになりません。だから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そこで言葉を切った直後、魔力光が紅とオペラを照らす。\nその直後足下に巨大な魔法陣が生まれ、そこから牙を思わせる炎が湧き上がり、文字通り紅とオペラを噛みちぎらんばかりに両側から迫る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "マジックシールド!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "しかしそれに対して、オペラは魔法防御発動。紅のそれとは比べものにならない出力の防御障壁が炎の牙を受け止めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "護ってくれたオペラに礼を言い、紅は一気にトリアに向かって駆け出す。その背中にオペラがすかさず手をかざす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そしてさらに!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "筋力と脚力を強化する付加魔法によって、ただでさえ速い紅の身体がさらに加速する。それによってかなり離れていたはずのトリアとの距離が、ほぼ一瞬でゼロになった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほほう",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "その動きに感心したような声を上げるトリアに、剣をたたき込む。その一撃もこれまでとは違い、格段に重くなっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですので、私はサポートに徹しさせていただきます。お役に立てずに済みません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "十分です!これなら勝機が見えます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に心からの感謝を返す。\n実際に、今まで近づく事すら難しく、近づけたとしても決定打になり得なかった攻撃が、トリアに届いただけでも十分だ。\n特に防御魔法をオペラが担当してくれるなら、紅は攻撃に専念出来る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、気合いが入ったところで次行くぞ!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "しかし、さすがトリアと言うべきか、接近された状態から、踊るように鉄扇を振って紅を弾く。そこから流れるように攻撃魔法を発動させる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "体が軽い!これなら!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "迫る不可視の斧に対して、紅は風の回廊を発動。空気の壁を蹴りながら空中に逃れ、立体的な動きで、災禍の斧をかわしてゆく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう!今のを避けるか!やるな白川!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そんな紅の動きを見て、トリアが感心したように声を上げた。\nオペラのサポートが有るとはいえ、かつて滅界戦争中数々の敵を屠ったトリアの得意魔法を避けるとは並大抵の事ではない。\nならばこれはどうだと、再び魔力光が周囲を照らした瞬間。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぬ!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "オペラの魔法がトリアの動きを拘束し動きを止める。紅に注目していて、いつの間にか隠密魔法で姿を消していたオペラを見逃していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今です白川さま!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "駆けろ!隼!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの声に、このチャンスを逃すものかと紅が魔法を放つ。これでダメージを与え続けて自分も突撃すれば、さすがのトリアといえど攻撃が通るはずだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふ、この程度でウチを拘束したつもりとは笑わせる",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "しかし、拘束されながらもトリアは不敵に笑うと。\n魔法名と共にトリアの周囲から吹き出した雷が、風の隼とオペラを撃ち抜いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラさん!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "とっさに魔法防御は発動したらしいが、盛大に吹き飛ばされたオペラを思わず見てしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほれ、よそ見している暇は無いぞ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そんな隙をトリアが見逃す筈もなく、オペラが攻撃を受けたことで緩んだ拘束魔法から一瞬で抜け出すと、すぐさま次の魔法を発動させる。\n魔法の発動と同時に巨大な魔法陣が出現、まさに紅蓮の猟犬と呼ぶに相応しい、炎によって形作られた巨大な猟犬が解き放たれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あまりの威圧感に紅の体がこわばる。炎の爪が振りかぶられ、あわや直撃という瞬間、再びオペラの声が響いた。\n身体に喝を入れるかのようにたたき込まれた付加魔法にはっとなり、紅は全力で地面を蹴ってぎりぎりで炎の爪を回避する。\nそしてバックステップをしながら、連続で魔法を発動。\n速度強化の恩恵もあり、ほぼ一瞬で繰り出された五連の刃に四肢と首をはね飛ばされ、猟犬は炎へと返って行った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、一筋縄ではいきませんね……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "どうにか危機を脱し、オペラの横に立ちながら、考える。\n勝機があるとすれば一つだけ、切り札を切るしかない。しかし、一人だけの力では切り札も不十分であり、もし失敗すれば自分は疲労で動けなくなるため、負けが確定する。\nだが、オペラがいる今の状況なら、もしかしたら可能かと紅はオペラに訪ねてみる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん、一瞬でいいです。さっきかけて貰った加速強化の魔法を重ね掛けできませんか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "可能ですけど、本当に一瞬だけですよ?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "構いません",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅はオペラの言葉に満足して頷いた。可能であることさえわかれば、後は自分を信じてかけてみるしかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん~そろそろ手も出し尽くした頃か?なら、一つ最後の試練といくか!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そう覚悟を決めた直後、トリアがにやりと笑って鉄扇を広げると、舞うように魔法陣を描いた。\nそれと同時に今まで以上の魔力光が闘技場を照らす。まだ魔力光だけにも関わらず、周囲の温度が確実に上がるのを紅は肌で感じた。\n炎舞。\n滅界戦争中、トリアが好んで使い、多大な戦果を上げた必殺魔法。ひとたびトリアが戦場で炎をまとって舞い踊れば、その地には草木一本残らないとまで言われていた。\nそれを見て、滅界戦争経験者である、オペラが目を見開いて驚く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "げっ!?まずいですよ!!トリアさまったらこのあたり一帯を消し飛ばすつもりですか",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "事実、全力で放てば確かに周囲一体を吹き飛ばす事が出来る程の威力を持っているが、トリアは軽く笑ったあと言葉を返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "安心しろ、ちゃーんと手加減はするから。そうだな\nせいぜい、この闘技場が吹き飛ぶぐらいだろう……てなわけで、止めてみろ白川!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "その言葉と同時にトリアの舞が激しくなり、それと共に周囲から一気に炎が吹き出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無茶苦茶だ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そんな光景に、思わず叫んで締まった紅に、トリアはやはり楽しそうに問う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、どうする!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "もはや、迷っている暇は無い。さすがのオペラでもあの攻撃は防げない。ならばトリア本人を直接後攻撃して、発動を止めるしかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こうなったら、やるしかないです!オペラさん!よろしくお願いします!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "わかりました!白川さま!お願いします!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "決意を篭めてそう告げると、オペラはしっかりと頷き、それと同時に魔力光が生まれる。\nさあ、正念場だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "何を企んでいるのか知らんが!時間切れだ!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアの言葉通り、吹き出す炎はその勢いを強め、紅達へと迫る。\nそんな中、トリアを正面に見据え、紅は二刀を抜き放つと。自身の切り札である術式を発動させた。\n神速\n二刀を使い周囲の魔力を限界まで集め、それを全て加速につぎ込む事で誰にも捕らえられない速度を得る、紅の必殺技だ。\nしかし制御が難しい上に消耗も激しく、身体にかかる負荷も他の魔法の非では無い。故に一度の戦闘で使えるのは一回限りだ。\nつまりこのチャンスを逃すことは出来ない。\nだから",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "スピードエンチャント!連続発動!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラの強力を得て、神速にさらなる加速を加える。ただでさえ負荷が強い神速に加速魔法を重ね掛けして、身体がもつかどうかは賭だった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここ!だああああ!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "強化魔法の負荷で軋む体を動かし、燃えさかる炎の中、一直線にトリアの元へと駆け抜ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なにっ!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そして瞬きにすら満たない一瞬の時の中、全ての炎をかいくぐり、紅はトリアへ肉薄する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあああああああ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "馬鹿な!",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "さすがのトリアも、まさかあれほどの速度で一直線に炎を突っ切ってくるとは思わなかったのか、反応が一瞬遅れる。\nそして紅は、その一瞬にもてる全ての力を叩きつけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "炎舞の発動がとまりました……白川さま!?大丈夫ですか!?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "なんとか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "力を使い果たして、へたり込む紅に、オペラが駆け寄る。本当に全ての力を使い尽くした。正直立ち上がることすらきつい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、いくらトリアさまの意表を突くためとはいえ、身体への負荷を度外視しすぎです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "実際、疲労や魔力の消耗だけでなく、強化魔法による負荷も少なからず有る。そんな紅を心配そうに見つめるオペラに、紅はなんとか笑顔を返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "学園長に一撃をいれるには、あれぐらいの速度じゃないとダメでしたから",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その言葉にとりあえず納得してくれたのか、オペラは少しでも疲労が抜けるように、紅の身体へ弱めの回復魔法をかけ始める。\nその途中で倒れたトリアも起き上がる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あいたたた……まったく、最後の最後で油断してしまった",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "そう悔しそうに呟くトリアだが、その言葉にはどこか楽しげな響きが混じっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まさか、ウチの動体視力を超えるスピードで、真正面から突っ込んでくるとはなあ",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "さすがと言うべきか、かなりの力を叩きつけられたにも関わらず、トリアは思った以上に平然としていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "真正面からだったのは、速度が速すぎてまっすぐ以外の方向へは行けなかったんです",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ははは、そういうことか。まあ、結果的にそれがウチの意表を突くことになった……うん、合格だ\n実際水晶玉も壊れているしな",
"speaker": "トリア"
},
{
"utterance": "トリアは楽しそうに笑うと、合格だと紅に告げた。その顔に掛け値無しの賞賛の色があることに紅は気づくと、立ち上がって、深く頭を下げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます!",
"speaker": "紅"
}
] | [
"オペラ",
"トリア",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044805b_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ダメね遅いわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "くっ!わかってはいたけど、なんて堅い防御だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ふふ、滅界戦争時代、旦那様の親衛隊隊長の地位に居たのは伊達じゃないのよ?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "戦闘が始まってしばらく立ったが、紅は苦戦を強いられていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こと防御に関する事なら誰にも負けない自負はあるわ。さあ、私を突破して見事水晶玉を破壊できるかしら?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "その言葉通り、今まで数え切れない程の攻撃を繰り返してきたが、堅い防御に阻まれ、結局まともな一撃は一度も入ってはいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こんどこそ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "それでも速さを生かして、果敢に攻め込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だめね!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "なっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "死角に回った程度で安心しちゃダメよ。見て無くても気配で充分わかるわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "死角を狙い、高速で接近したにもかかわらず、まるで全てを見通す様にルアンは確実に紅を捕らえる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!\nきゃあ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "今回も完璧だと思ったタイミングで踏み込んだ一撃が、こともなげに防がれたどころかカウンターに魔法を入れられてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "へえ、今のカウンターを回避出来るなんて。やっぱり紅ちゃんはいい目を持ってるわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "正直回避するだけで、いっぱいいっぱいです",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ルアンさんの言葉に苦笑しながら、距離を取る。今の一撃もカウンターを避けられたのは殆ど偶然のようなものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、ちょっと決定力に欠けるかしらね?\nもう一歩、壁を越えればきっと、もっと強くなれるわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "壁を越える……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "仕切り直しの雰囲気の中、ルアンから送られた言葉を反芻するように呟く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ。実はこれだけの時間、私と戦い続けていられる人って、そうそういないのよ?胸を張っていいわ、紅ちゃん",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "いえ!まだまだです!本当に胸を張るのはルアンさんを越えた時です!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ルアンの言葉に浮かれそうになる自分の心に喝を入れ、再び踏み込む。\nそうだ、ここでルアンを倒してこそ、胸を張ってみんなの前に立てるというものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "再び踏み込んだ紅の前に現れた巨大な鏡に攻撃をたたき込み、砕こうとするが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の攻撃が当たった瞬間鏡は砕け散り、紅の攻撃がそのまま衝撃となって返ってくる。\nこれは攻撃した威力をそのまま相手に返す、防御魔法だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "幸い紅自身のパワーがそれほどなかったため致命傷になり得なかったが、それでもかなりの衝撃が紅を襲い、後ろに勢いよく吹き飛ばされた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、さすが姫くんと一緒にいるだけのことはあるわね。しっかりと芯の通った強い心をしているわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そうだ、姫だったらこんな状態でもきっと立ち上がる。自分の身体が動くうちは絶対に諦めない。あいつはそういう奴だ。\nそしてその仲間である自分がこんな所で立ち止まる訳にはいかない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにその目。これだけ攻撃を弾かれても、まだ勝機を見いだしている目ね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "確かに勝機はある。だがしかし、それが失敗すれば間違いなく自分は負ける、だからうかつには使えない。\nしかし、このままではじり貧なのは確かだ。ここは使うしか無いのか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今はまだその時ではありません!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "突然の声に、驚きつつ大聖堂の入り口を見ると、こちらに駆け寄ってくる、何故かラビットフォーム状態のオペラの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あら?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "お、オペラさん!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "突然の乱入者にルアンと紅は驚き、一時的に戦闘が中断される。\nオペラは古代兵器と戦っていたはずだが、何故ここに居るのだろうという質問を投げかける直前、その答えにオペラ自らが答える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、巨大ゴーレムをさっくり片付けて来たので、これより戦線に復帰します",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう言って、オペラは視線でルアンに問いかけた。自分がこの場の戦闘に関わっても大丈夫かと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、援軍というわけですね。私はかまいませんよ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "すると、さすがと言うべきか、ルアンは軽く微笑むと、あっさりとそれを了承した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "というわけでルアンさまの許可も下りましたので、これより白川さまに加勢させていただきます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう言うと、オペラはラビットフォームのままこちらの横に立つ。それだけで本当に頼もしいと紅は感じた。\nしかし、本格的に戦闘を始める前に、一つ確認しておかなければならないことがある。さきほどの、「今はまだその時では無い」とは、どういう意味だろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます、オペラさん……でも、さっきのはどういう意味ですか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、あれですか?白川さまが切札を切ろうとしていたのが何となく雰囲気でわかりまして",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の質問にしれっと答えるオペラに、思わず声を上げてしまう。具体的に何故わかったのかは全くわからないが、何故か妙な説得力がある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダメですよ、白川さま。切札は最後に切ってこその切札です。ここという時まで取っておきましょう。だからこそ、切札は切札たりえるのですから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "は、はい",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に頷きながらも確かにと納得する。行き当たりばったりで切札を切って、それが失敗したら目も当てられない。\n追い詰められていたとはいえ、勝算も無しに切札を切るのは自殺行為だと、オペラの言葉で気づかされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、そろそろ再開しましょうか?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "あ、はい。大丈夫です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "こちらの事を見てそう訪ねるルアンに、あっさりと言葉を返すオペラ。\n互いに再び構えを取る中、紅はオペラにもう一つの疑問を投げかけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ところでなんでオペラさんはラビットフォームのままで?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "恥ずかしながら、ゴーレムに割と痛い一撃を貰ってしまいまして。回復魔法を自分にかけたばかりなんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え、ということは",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に紅ははっとする。考えてみれば、いくら英雄クラスのオペラといえど、あの古代兵器と一人で戦って無傷で済むはずがない。\nそれどころか、かなり苦戦したはずだ。にも関わらず目立った外傷が無いという事は、かなりの回復魔法を自身にかけた事になる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぶっちゃけ、リバウンドでふらふらです。ですので、戦闘要員としては当てになりません。だから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "くす、オペラさんも来たことですし、今度は私から攻めてみようかしら?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "その言葉とほぼ同時に、魔法陣が上空に展開。そこから次々と光の楔が紅達に向かって降り注ぐが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "マジックシールド!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "その全てをオペラが発動した防御結界が受け止める。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "護ってくれたオペラに礼を言い、紅は一気にルアンに向かって地面を蹴る。その背中にオペラがすかさず手をかざした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そしてさらに!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "筋力と脚力を強化する付加魔法によって、ただでさえ速い紅の体がさらに加速する。それによってかなり離れていたルアンとの距離が、ほぼ一瞬でゼロになる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "へえ、さすがオペラさんね。いい補助魔法だわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "その動きに感心したような声を上げるルアンが展開した防御魔法に、剣をたたき込む。その一撃もこれまでとは違い、格段に重くなっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですので、私はサポートに徹しさせていただきます。お役に立てずに済みません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "十分です!これなら勝機が見えます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に心からの感謝を返す。\n実際、今まで近づく事すら難しく、近づけたとしても決定打になり得なかった攻撃がルアンに届いた。まずはそれだけでも充分だ。\n特に筋力強化をオペラが担当してくれるなら、その分の魔力を紅は攻撃に回すことができる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、ならこれはどう?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "体が軽い……!これならいける!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "しかし、そこはさすが滅界戦争経験者と言うべきか。すかさず紅から距離を取ると、ほぼ一瞬で拘束魔法を組み上げ、紅に向かって放つ。\n光によって編まれた鎖が、まるで意志を持つかのように、紅に襲いかかる。\nそれを空中を蹴りながら立体的な機動で回避していく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今のを全部避けるなんて、素直に賞賛に値するわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そんな紅の動きに、ルアンも心からの賞賛を送る。\nオペラのサポートが有るとはいえ、正確無比な事で有名なルアンの魔法を完全回避するのは、並大抵の事ではない。\nならばこれはどうだと、再び魔力光が周囲を照らした瞬間。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私を忘れて貰っては困りますね!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いつの間に!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "オペラが突如ルアンの背後に現れる。紅に注目していて、いつの間にか隠密魔法で姿を消していたオペラを見逃していた。\nしかし、そこはルアン。とっさに防御魔法を発動、それを使ったシールドチャージでオペラを吹き飛ばそうとするが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "その行動を読んでいたオペラの防御破壊魔法によって、ルアンの盾はあっさりと砕け散る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今です白川さま!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "はい!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの声に、このチャンスを逃すものかと紅が加速魔法を全開で一気に接近する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いい連携です。でも、まだまだです!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "しかし、そんな状況でもルアンは余裕を崩さずに笑うと、直後に周囲を魔力光が照らした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "なっ!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いったいどれほどの魔力が篭められているのか、目が眩むほどの魔力光が大聖堂を照らすと、その中心でルアンの声が響く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まずいです!白川さま!離れて下さい!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの声に反応して、反射的に地面を蹴り、ルアンから距離を取る。\nその刹那。数瞬前に紅がいた場所を、光が撃ち抜いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "惜しかったですね。これが私の切札。攻勢防御結界・エンジェルハイロウ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "あれは厄介ですよ、白川さま。あれは滅界戦争でルアンさまが好んで使った術式です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ルアンから距離を取りオペラの横に着地した紅に、オペラがルアンが発動した魔法について説明する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "攻勢防御結界の名の通り、近づく敵を自動迎撃することで結界内の人物を護る、非常に前傾姿勢な結界です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それは滅界戦争時代、ルアンを英雄へと押し上げたオリジナル魔法だ。\nその性能は前述したとおり、術者の周囲を囲む光の輪が近づく物を自動迎撃することで術者を護る、まさに攻勢防御という名にふさわしい性能だ。\nエンジェルハイロウを発動させ戦場を駆けるルアンには、誰もが美しさと強さ、そして畏怖を覚えたという。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、あの時オペラさんに止めて貰わなかったら、光に撃ち抜かれてたわけですね",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "攻撃は最大の防御、とはよく言ったものでしょう?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "そう言って微笑むルアンを見ながら、紅はあれをどうすれば突破出来るか、必死で頭を働かせた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれを突破するには、自動迎撃の反応速度を上回るしかありません……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "迎撃速度を上回る……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その言葉に紅は一つの勝機を見いだす。ずっと温存していた切り札だ。\nしかし、一人だけの力では切り札も不十分であり、もし失敗すれば自分は疲労で動けなくなるため、負けが確定する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、これが最後の壁よ。この結界を突破して私の水晶を破壊できるかしら",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "だが、いまオペラがいる状況なら、もしかしたら可能かと紅はオペラに訪ねる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん、一瞬でいいです。さっきかけて貰った加速強化の魔法を重ね掛けできませんか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "可能ですけど、本当に一瞬だけですよ?しかも身体への負荷が相当なものになると思いますが……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "構いません、あたしの武器はスピードです。そのスピードにかけてみます",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に満足して頷く。可能であることさえわかれば、後は自分と自分の速度を信じて飛び込むだけだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、来ないのかしら?ならこちらから行きますよ!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ルアンからは、紅達が攻めあぐねているように見えたのか、余裕を崩さずに攻撃魔法を発動、ルアンの周囲かに大量の槍が生成される。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白川さま、幸運を!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "それを見て、もはや猶予が無いと紅が目配せすると、オペラは頷き、作戦を実行してくれた。\nオペラの強化魔法が発動すると同時にルアンの槍が放たれる。紅はそれを回避するように地面を思い切り蹴り、空中へと踊り出た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "空から攻める気ですか!",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "紅の行動を無駄だと言わんばかりのルアン。それと同時にエンジェルハイロウが、紅の接近を関知して大量の光を飛ばす。\n紅はそれにかまわず、空中を蹴りながら、ルアンの真上まで移動する。そこでオペラの魔法が消え。大量の光が紅を撃ち抜こうとした刹那。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?消え――",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "紅は切り札を切り、瞬間移動にも見える超高速移動を慣行、瞬時にルアンの真横に着地する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これで!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "しまっ!?",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "さすがのルアンもまさかあれほどの速度で空中から紅が急降下してくるとは思わなかったのか、反応が一瞬遅れる。\nそして紅は、その一瞬にもてる全ての力を叩きつけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "エンジェルハイロウの発動がとまりました……白川さま、大丈夫ですか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "なんとか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "力を使い果たして、へたり込む紅に、オペラが駆け寄る。本当に全ての力を使い尽くした。正直立ち上がるのも辛い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、いくら自動迎撃を突破するためとはいえ、身体への負荷を度外視しすぎです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "実際、疲労や魔力の消耗だけでなく、強化魔法による負荷も少なからず有る。そんな紅を心配そうに見つめるオペラに、紅はなんとか笑顔をかえす。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "自動迎撃とルアンさんの二つを突破するには、あそこまでしないとダメだったんです……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その言葉にとりあえず納得してくれたのか、オペラは少しでも疲労が抜けるように、紅の身体へ弱めの回復魔法をかけ始める。\nその途中で倒れたトリアも起き上がった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あいたたた……ちょっと、エンジェルハイロウを過信しすぎちゃったわね。やられたわ",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "さすがと言うべきか、かなりの力を叩きつけられたにも関わらず、ルアンは思った以上に平然としていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、まさか、単純なスピードのみで自動迎撃を振り切って、さらに私に攻撃を当てるなんてね",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "殆ど博打みたいなものでしたけど、なんとか成功しました",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ここぞというときに運を味方につけるのも立派な才能の一つよ。胸を張りなさい、あなたは神王妃ルアン=ルゥムを倒したのだから",
"speaker": "ルアン"
},
{
"utterance": "ルアンは、紅の言葉にやさしく微笑むと合格だと紅に告げた。その顔には掛け値無しの賞賛の色があることに紅は気づき、立ち上がると深く頭を下げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、ありがとうございます!",
"speaker": "紅"
}
] | [
"ルアン",
"オペラ",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044806b_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "はあ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "くっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "高速で振われた鞭を、瞬時加速を使ってぎりぎり回避する。それに対してバリアリーフが感心した声を上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふむ、避けましたか、やりますわね",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "はぁ、はぁ……わかってはいたことだが、強い……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "バリアリーフと紅の戦闘は、戦闘経験が圧倒的なバリアリーフに傾き、紅は苦戦を強いられていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、あなたも中々の者ですよ。私の鞭からこれほどまでに逃れ続けるなんて\n担任として誇らしく思いますが、まだまだ詰めが甘いですわよ",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "担任と生徒という事もあり、バリアリーフは紅の癖などを把握しているのも苦戦を強いられている理由の一つでもある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "先生の振う鞭の内側に入れない!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅は得意の速度を生かした戦闘スタイルを崩さず、なんとかバリアリーフに接近を試みるが、自由自在に鞭を振うバリアリーフに翻弄されていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、次は私からいきますわよ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "甘いですわ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "ぐっ!ああ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "さらに鞭のリーチと橋の上という限られた空間も、紅を苦しめていた。\nただでさえリーチが長いバリアリーフの攻撃を避けようとしても、橋の上ではどうしても避けきれずにダメージを受けてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いかに速く動いたところで、この場所はスペースに限りがある。いささか私の方が有利ですわね",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "動きを読まれてる……決定打を貰わないようにするだけで精一杯だ……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "私の生徒だからというのもありますが、生徒白川、貴方の動きは少々素直すぎる。いかに速くてもそれでは捉えること自体は難しくありません",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "紅自身もバリアリーフの戦い方をある程度熟知しているおかげで、何とか今まで致命的な一撃は受けていない。\nしかし、小さなダメージは確実に蓄積している。このままではいずれ避けることが出来なくなる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なら!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "無駄ですわ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "ならばと魔法戦をしかけてみても、バリアリーフは鞭でその全てを打ち落とす。もともと威力の高い攻撃魔法に乏しい紅には、バリアリーフの鞭を突破して当てるのは難しい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ、接近できず、魔法も通らないか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "これが授業であれば、手加減無しの私とここまで戦えることは賞賛に値しますわ",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "状況を打破できずに思わず歯がみする紅に賞賛を送るバリアリーフだが、紅は頭を振る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、これは実戦です!どんなにいい動きをしても最終的に勝たなくちゃ意味が無い!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その通りですわ\nふふ、さすが生徒白鷺と共に戦う者達の一人ではありますね。瞳に強い意志を感じます。いったいどのような勝機を見いだしているのでしょうね?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "まっすぐに前を見据える紅の瞳に、バリアリーフは微笑みながら思わず呟いてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くす、自分で実戦などと言っておいて、生徒の成長にワクワクしてしまうのは、職業病ですわね\n生徒白川、さきほどあなたはどんな優秀な動きをするものでも、勝たなければ意味が無いと言いましたね?それは逆もしかりです",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "その問いに紅はしっかり頷いて答えを返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どんなに無様にあがこうと。最終的に勝ちをつかみ取ること!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "はい、その精神を忘れない者ほど、戦争ではしぶとく生き残るものです",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "確かに勝機はある。だがしかし、それが失敗すれば間違いなく自分は負ける。だからうかつにはつかえ無い。\nしかし、このままではじり貧なのは確かだ。ここは使うしか無いのか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今はまだその時ではありません!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "突然の声に、驚きつつ橋の入り口を見ると、何故かラビットフォーム状態のオペラが立っていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "お、オペラさん!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "突然の乱入者にバリアリーフと紅は驚き、互いに動きを止めてしまう。\nオペラは古代兵器と戦っていたはずだが、何故ここに居るのだろうと言う質問を投げかける直前、その答えにオペラ自らか答えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、巨大ゴーレムをさっくり片付けて来たので、これより戦線に復帰します",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そう言ってオペラは視線でバリアリーフに問いかけた。自分がこの場の戦闘に関わっても大丈夫かと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、援軍の到着というわけですか。少々厄介な方ですが、私はかまいませんわよ?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "というわけで、バリアリーフの許可も下りましたので、これより白川さまに加勢させていただきます",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "そういうと、オペラはラビットフォームのままこちらの横に立つ。それだけで本当に頼もしいと紅は感じた。\nしかし、本格的に戦闘を始める前に、一つ確認しておかなければならないことがある。さきほどの、「今はまだその時では無い」とは、どういう意味だろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます、オペラさん……でも、さっきのはどういう意味ですか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ、あれですか?白川さまが切札を切ろうとしていたのが何となく雰囲気でわかりまして",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅の質問にあっさりと答えるオペラに、思わず声を上げてしまう。具体的に何故わかったのかは全くわからないが、何故か妙な説得力がある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダメですよ、白川さま。切札は最後に切ってこその切札です。ここという時まで取っておきましょう。だからこそ、切札は切札たりえるのですから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "は、はい",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に頷きながらも確かにと納得する。行き当たりばったりで切り札を切っ、てそれが失敗したら目も当てられない。\n追い詰められていたとはいえ、勝算も無しに切札を切るのは自殺行為だと、オペラの言葉で気づかされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、そろそろ再開いたしましょうか?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "あ、はい。大丈夫です",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "こちらの事を見てそう訪ねるバリアリーフに、あっさりと言葉を返すオペラ。\n互いに再び構えを取る中、紅はオペラにもう一つの疑問を投げかける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、所でなんてオペラさんはラビットフォームのままで?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "恥ずかしながら、ゴーレムに割と痛い一撃を貰ってしまいまして。回復魔法を自分にかけたばかりなんです",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "え、ということは",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に紅ははっとする。考えてみれば、いくら英雄クラスのオペラといえど、あの古代兵器と一人で戦って無傷で済むはずがない。\nそれどころか、かなり苦戦したはずだ。にも関わらず目立った外傷が無いという事は、かなりの回復魔法を自身にかけた事になる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぶっちゃけ、リバウンドでふらふらです。ですので、戦闘要員としては当てになりません。だから",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "いきますわよ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "オペラが言い終わるより速く、高速の踏み込みから放たれた鞭が紅達に迫る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "マテリアルシールド!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "ありがとうございます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "しかし、それをオペラが防御魔法を発動することで防ぐ。それに礼を言って駆け出す紅の背中に手を向けると、さらにオペラが魔法を発動させた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そしてさらに!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "筋力と脚力を強化する付加魔法によって、ただでさえ速い紅の体がさらに加速する。それによって距離はほぼ一瞬でゼロになった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "支援魔法ですか。相変わらず厄介ですわね、ラビットフォーム",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "その動きにバリアリーフが感心したように声を上げる。しかしさすがと言うべきか、紅の放った一撃は、紙一重で見切られ、空を切ってしまう。\nそうして、すぐさま来たカウンターを回避するために、紅は後ろに大きく跳ぶ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ですので、私はサポートに徹しさせていただきます。お役に立てずに済みません",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "充分です!これなら勝機が見えます!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に心からの感謝を返す。\n実際に今まで近づく事すら難しく、近づけたとしても決定打になり得なかった攻撃が、バリアリーフに届いただけでも十分だ。\n特に筋力強化をオペラが担当してくれるなら、その分の魔力を紅は速度に回すことができる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、しかし多少の支援が入った程度、私は倒せませんわよ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "体が軽い!これなら!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "しかし、そこはさすが滅界戦争経験者と言うべきか、上がったこちらの速度にバリアリーフはすぐさま対応してくる。\nバリアリーフの鞭が、まるで意志でもあるかのように紅に襲いかかる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほう、今のを避けますか。一気に動きか良くなりましたわ",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "しかし、紅は鞭を避けるために風の回廊を発動。立体的な機動を取りながらバリアリーフに迫る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "橋の上じゃ動きに制約がある。でもだったら、橋以外の場所も使って、立体的に戦えば!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そんな紅の動きに、バリアリーフも心からの賞賛を送る。\nオペラのサポートが有るとはいえ、滅界戦争時代もバリアリーフの鞭を完全回避した者は数えるほどしかいない。\nならばこれはどうだと、ふたたび鞭を振うバリアリーフの背後にオペラが迫る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "白川さま、バリアリーフの動きを止めます!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラが突如バリアリーフの背後に現れた。紅に注目していて、いつの間にか隠密魔法で姿を消していたオペラを見逃していた。\nしかし、さすがにバリアリーフも伊達では無く、迫り来る拘束魔法を紙一重でよけてオペラに鞭を振う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう簡単には、掴まりませんわ!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "それでも隙は出来た!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "だが、一瞬でも意識が紅から外れればそれで良い。紅は刀に風の力を宿らせると、一気にバリアリーフの鞭の内側に跳びこんだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!\nなるほど、いい判断です!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "そうして、紅の刀がバリアリーフの体を捕らえるが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダメだ!浅い!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "とっさに気鱗を使って威力を減殺され、決定打には至らない。しかも攻撃直後の隙に、バリアリーフが仕掛けてくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ならこれならどうです!",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "白川さま!離れて下さい!",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラの声によって、とっさに瞬時加速を発動。自身を吹っ飛ばす勢いでぎりぎり鞭の射程外へと逃げ出す。\n直後、一瞬前まで紅がいた空間が、高速で振われた鞭によって覆い尽くされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "相変わらずすばらしい速さです。殆ど密着状態から鞭の連撃をかわすとは",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "大丈夫ですか?",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "はい。なんとか",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "それにしても相変わらず、バリアリーフの鞭は厄介ですねえ",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "オペラの言葉に、紅も頷く。あの鞭は実際に戦ってみると、想像以上に厄介だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんとか接近しても、浅く入れば気鱗に防がれます\nでも、もう一度接近できれば……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "さあ、どうしました?もう諦めてしまいましたか?",
"speaker": "バリアリーフ"
},
{
"utterance": "そういって構えをとるバリアリーフを見ながら、紅はあれをどうすれば突破出来るか必死で頭を働かせ、一つの可能性に思い至った。ずっと温存していた切り札だ。\nしかし、一人だけの力では切り札も不十分であり、もし失敗すれば自分は疲労で動けなくなるため、負けが確定する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "オペラさん、一瞬でいいです。さっきかけて貰った加速強化の魔法を重ね掛けできませんか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "可能ですけど、本当に一瞬だけですよ?しかも身体への負荷が相当なものになると思いますが……",
"speaker": "オペラ"
},
{
"utterance": "構いません、あたしの武器はスピードです。そのスピードにもう一度賭けてみます",
"speaker": "紅"
}
] | [
"オペラ",
"バリアリーフ",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044807b_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "廊下を、轟音を上げながら古代兵器が暴れ回る。その前にラーロンは立ちはだかり手をかざす。\nラーロンの魔法名の発声と共に、複数の火球が生まれ、それが次々と古代兵器に直撃する。\n爆炎が視界を埋める。普通の相手ならこれで砕けるはずだが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "があああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "これでもダメか!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "爆炎から咆吼と共に現れた古代兵器の装甲には、僅かな焦げ目がついた程度だ。\n足止めにすらならず、ラーロンに向かって古代兵器が、その巨体と同様に巨大な剣を振り上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お坊ちゃん!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ちぃ!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "それを見てデイルはラーロンに風の翼を発動、それによってラーロンの身体は風に押されて加速し、かろうじて剣をかわす。\nそこにすかさずデイルが魔法を打ち込むが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごあああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "結果はラーロンと同じでかなり力を込めたにも関わらず、動きを止めることすら出来ない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "げっ!ちょっとたん――",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "しかも、攻撃によって標的をデイルに変えた古代兵器の拳がデイルに迫る。\nそれに対し、今度はラーロンが防御魔法を発動。なんとか古代兵器の腕を受け止める、その隙にデイルも距離を取った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あっぶねぇ。サンキュなお坊ちゃん",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "礼などいらん。それよりも、こいつを倒す方法を考えろ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "だよなあ、ちょっとばかし堅すぎだぜこいつ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "とにかく今は考える時間が欲しい。ラーロンとデイルは互いに頷きあうと、周囲を派手に攻撃し、さらにそこに煙幕玉を放り込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐがあぁぁぁ……",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "発生した煙幕に、古代兵器が二人の姿を見失う。その間にすぐ近くの教室に身を隠す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私達の魔法では傷つけられん",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "かといって手持ちの武装じゃ、あの装甲は壊せないだろうねえ……",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ここが発見されるのも時間の問題だが、今は状況を整理できる時間がありがたい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、魔力を纏った剣程度では歯が立たん",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "あの装甲、どんな原理かはしらんけど、魔力を弾いて散らしちまうみたいだな",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そのようだな。そのおかげで魔法攻撃はかなり威力が落ちる",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "本来であれば、ラーロンの魔法ならばヴェルには劣る物の、トリニティではトップクラスなのだ。その本気の攻撃魔法に砕けないもの等殆どないはずだ。\nその魔法が一切効かないとなると、勝機はかなり限られる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とすると、あの装甲を撃ち抜くには、古代魔法クラスの破壊魔法を収束させた一撃が必要か……",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そんな器用な事が出来たら苦労はしない",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "そう呟くデイルに、無い物ねだりはするなと、ラーロンが首を振る。\n魔力を収束させて射出する等の技術は本来魔族ではなく神族の領分だ。魔力を細かく制御する術に乏しい魔族にはそう簡単に出来るものではない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それによしんば出来たとしても、あのばかでかい剣をかいくぐって、奴に隣接しないとならん。現実的では無いな",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "教室の外から轟音が聞こえる、確実に古代兵器がこの場所に近づいてきてる。\nその古代兵器が持つ剣は、古代兵器と同じ材質なのか、そちらの破壊もかなわなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや……そうでも無い、一つだけあの装甲をぶち抜けそうなのを知ってる",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "なに!?ならばなぜそれを早く言わん!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "どうするかと頭を悩ませるラーロンにぽつりとデイルが呟く。それを聞いたラーロンがデイルを責めるが、デイルは軽く首を振った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "気軽につ使えるもんなら、とっくに使ってるっての……まだ、研究中で発動までに馬鹿みたいに時間かかんだよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "それは、デイル曰くアミアと研究中の、神話級の古代魔法の一種であり、その威力ならばあの装甲を打ち貫けるかもしれないとのことだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それにお坊ちゃんが言ったとおり、射程ゼロの近接技だ……",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "だが、古代魔法であり、さらに研究中となれば問題点も多く、先ほどの発動時間や射程の他にも様々な問題をかかえているらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……そいつは複数回撃てるのか?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "いや、複数撃てるどころか、一発撃ったら魔力使い果たして俺様倒れる",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "発動に時間がかかり、射程ゼロの近接技という事は、発動中に誰かがデイルを守り続け、さらにその後は、あの剣をかいくぐって接近しなければならないという事だ。\nさらに一発限りで、その後のデイルは戦力にならなくなる。そうなればおしまいだ。\nその話を聞いてラーロンが声を荒らげてしまうのは、仕方ないことだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんだその扱い難さは!殆ど使い道が無いではないか!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "だからまだ研究中だって言ってるでしょうが!これから効率的にしてく予定だったんだよ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "実は大世界杯の際にバリアリーフに放ったライトニングバンカーは、この魔法の簡易版で合ったことがアミアと調べたときにわかっている。\nつまり、簡易版のライトニングバンカーですら、あの扱いづらさなのだ。こちらの魔法はその比ではない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どっちにしろ、まだ実戦でつかえるような代物じゃねえ。何か別の手を",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "……ちっ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "デイルの話に、ラーロンは少しだけ逡巡した後、舌打ちをして改めてデイルに訪ねる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その古代魔法とやら、準備が完了するまでにどれぐらいの時間がかかる?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ん?どうしてだよ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "いいから早く教えろ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "直立不動の無防備状態で四十五秒はかかる",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ならば、一分あれば余裕だな?",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "まあ、一分もらえりゃな……って、お坊ちゃんまさか!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そこまで聞いて、デイルはラーロンが何を言いたいかを理解した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私が時間を稼ぐ、その間にお前はその古代魔法の準備を始めろ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "無茶だお坊ちゃん、二人がかりでも逃げ回るしかなかったんだぞ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "無謀な提案に、デイルは慌ててラーロンを止めるが、もはや決意が固まったのかラーロンは教室の外へと向かって歩き出す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう思うなら手早く準備をすませろ\n他に方法が無い以上、こうする以外に手は無い",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "その言葉に決意が堅い事を理解すると、デイルもしっかりと頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わかったよ……お坊ちゃん、死ぬなよ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ふっ、誰にものを言っている",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "おっとすまなかったな、ラーロン=ハデラ様",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ふん、では行くぞ!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "あいよ!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "そう言って二人は一斉に教室を飛び出す。すぐ目の前まで迫っていたのか、古代兵器は目の前にいた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こっちだ、でくの坊!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ラーロンは教室を出ると同時に攻撃魔法を発動、古代兵器の注意を自分に引きつけると、そのまま走り出す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あああああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "その目論見は見事に成功し、古代兵器はラーロンを追いかけ始める。\nそれを確認すると、デイルはラーロンを信じ、その場で目を閉じ意識の全てを術式を組み上げる事に集中させる。\n未完成で研究中の魔法だけに、失敗すれば何が起こるかわからない。最悪暴走した魔力が自身を焼き尽くすこともあり得る。\nだからこそ、万全を期して全ての工程を呪文として詠唱しながら、一つ一つの工程を慎重にこなしつつ、少しでも速度を上げるために時には大胆に手順を省略する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "がああああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "ラーロンは、振り下ろされる攻撃を紙一重でかわしながら、強い魔力が集まっていくのを感じた。\nどうやらデイルが無事に詠唱に入ったらしい。あとはそれが完成するまでの間、自分がこのデカ物を抑えておければ勝ちだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちぃ!デカイ図体のくせに無駄に速い!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "しかし、さすがに一人では逃げ続けるだけで精一杯だ。古代兵器の力は凄まじく、破壊不可能な筈のトリニティの壁すらも傷つけながらラーロンに突進してくる。\n一発でも直撃をもらえば、自分程度簡単に肉塊に姿を変えてしまうだろう。そうでなくてもおそらく掠っただけで致命傷になりかねない。\nそれでも一切引かずに、威力の高い魔法を連発しデイルに意識を向けさせないように細心の注意を払う。\nいままで戦ってきてわかったが、どうやらこの兵器は魔力等を測定し、自身にとって最も驚異になり得るものを優先して破壊する特性があるようだ。\n故にデイルが古代魔法の準備をしていることを感知されれば、恐らくまっさきにデイルを潰しに掛るだろう、そうなったらラーロンには止める手段がない。\nだから、消耗を考えず、時にぎりぎりまで接近し、高威力の魔法を連発することで注意をこちらに向け続けさせる。\nデイルの詠唱に合わせ、デイルの体内の魔力が全て右腕に集中してく。この時点で制御を誤れば、暴走した魔力がデイルの腕を吹き飛ばすだろう。\nしかし、デイルは一切恐れずに限界ぎりぎりまで右腕に魔力を収束させる。\n轟音が響き、地面を打った古代兵器が生み出した衝撃波に吹き飛ばされ、ラーロンが地面を転がされる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ……まだ、まだだ!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "全身に痛みが走るが、それで立ち止まっては居られれないとラーロンは起き上がった。命をかけているのは自分だけでは無いのだ。ここで自分が折れる訳にはいかない。\nデイルはあえて言わなかったが、あれほどの大魔法にリスクが存在しないわけが無い。もし一瞬でも制御を誤ればデイルは自らの魔力に喰われるだろう。\nそんなプレッシャーと、いつ古代兵器に潰されるかもわからない状況で、それでもデイルは自分を信頼してくれている。その期待を裏切る訳にはいかないのだ。\nだからありったけの力を込めて、ラーロンは再び古代兵器を攻撃する。一瞬でもデイルに危険が迫り、その集中力を乱さないように。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あああああああ!!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "遠くで響く轟音とラーロンの声を聞きながら、デイルは必死に術式をくみ上げていく。少しでも速く、一瞬でも速く。\nそうして極限の集中力の中、ついに全ての工程が完了し、デイルの右腕が雷によって帯電する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "しゃあ!準備完了だ!!お坊ちゃん!!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "デイルの声にラーロンはようやくかと思いつつも、この状況で無事に術式を組み上げたデイルに、賞賛の言葉を胸中で送る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "私が時間を稼いだ貴重な一発だ!しくじるなよ!!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "そう叫んだ直後、ようやく古代兵器がデイルが発動させた古代魔法に反応した。\nしかし、それはあまりにも遅すぎる。\n古代兵器はすぐさまラーロンを無視して、デイルへと駆け寄ろうとするが、ラーロンはそこが好機だと、ありったけの魔力をつぎ込んで攻撃魔法を発動させた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぎゃああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "それと同時、古代兵器の足下に巨大な魔法陣が浮かび、その空間内の獲物を食いちぎるかの如く雷が生まれ古代兵器を捕らえる。\nもちろん、この程度では古代兵器を破壊することは難しいが、ほんの一瞬、デイルが懐に飛び込むまでの時間ぐらいは稼ぐことができる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "行くぜ!万物全てを打ち砕く雷神の鉄槌だ、しっかりと味わいな!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "やれ、デイル!!",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "言葉にかわさずとも、ラーロンの意図を察したデイルは、右腕に破滅の力を感じながら、一直線に古代兵器へと走り込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああああああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "そして、古代兵器がラーロンの魔法から抜け出すとほぼ同時に、その懐に飛び込み、その胸に雷を纏った右腕を打ち付けた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぎゃああああああああ!",
"speaker": "超古代兵器"
},
{
"utterance": "文字通り、俺様の全身全霊だ、ありがたく受け取りやがれ!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "デイルの一撃は轟音を上げながら古代兵器の胸部を砕いていき、内部に到達すると同時に膨張。\n最終的に轟音を上げながら、古代兵器を粉々に破砕した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "終わったか……",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "ラーロンの言葉どおり、もはやそこに有るのはバラバラになった古代兵器の破片だけだった。\nそれを見て、デイルが力を使い切ったとばかりにその場にへたり込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあ……めっちゃ、疲れた……俺様もうだめ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "何を馬鹿な事を言っている。目的地はすぐそこだ、休んでる暇なんぞ無い",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "しかし、座り込んだデイルをラーロンが一喝する。本来の目的を思い出せと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、今の一撃で俺様魔力空っぽなんだけど……あと、よろしくできね?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "くだらない事を言ってる暇があったら立て\n生徒を連れ帰ったら好きなだけだらけろ、だが今はまだだ",
"speaker": "ラーロン"
},
{
"utterance": "あーもう、人使い荒いぜお坊ちゃん。まあ、ここまで来たんだし、もうちょっとだけがんばりますか",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ラーロンの声に苦笑しつつ、それでもデイルは立ち上がる。よく見るとラーロンもボロボロだが、デイルはそれにはあえて突っ込まず、二人は目的地に向かって歩き出した。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"ラーロン",
"超古代兵器"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 0448082_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "ミリオによって連続で放たれた火球がフォンとアミアに迫る。しかし、フォンは動じる事無く踏み込んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "飛び込みます!援護を!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "うん、まかせて!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "頼もしい言葉と共に、防御魔法がフォンにかかる。それを確認すると、フォンは臆せずに爆炎の中を駆け抜ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はああ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ふっ",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そうして、一直線にミリオの元にたどり着くと、フォンは素早くハーケンを振り上げる。\nミリオはとっさに防御魔法を発動させているが、それにかまわずハーケンを叩きつけた。\n竜族の腕力で高威力の魔法攻撃を叩きつけられ、さしものミリオも防御魔法を砕かれ炎に飲み込まれるが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "その直後に後方に気配を感じる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フォンさん!それダミーだよ!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "くっ!またですか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "アミアの言葉にいましがた屠ったミリオがダミーだと気づき、すぐさま、迫る気配に従って振り返る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "しまっ!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "しかし、振り返った先には、既に雷を纏い、突撃態勢になったミリオの姿があった。\nまずい、このタイミングは避けられ無い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "しかし、すんでの所でアミアが防御魔法を発動。攻撃を止める事はかなわなかったが、かなりの威力が減衰する。\nそれによって直撃ではあったが、気鱗によってダメージを最小限に抑えることが出来た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "浅かったですね!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "きゃあ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "もっとも、それでも威力は十分で、フォンは軽々と後ろへ吹き飛ばされた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フォンさん、大丈夫!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ええ……アミアさんのおかげで助かりました\nそれにしても、厄介だ厄介だと思っていましたが、ここまで厄介だとは",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "互いに距離をとり、油断無く構えを取りながら、フォンがぽつりと呟く。\n事実、すでにこの戦闘が始まってから、かなりの時間が経つが、フォンとアミアのコンビはミリオに一度として有効打を当てたことが無い。\nさすが滅界戦争参加者だ、フォンとアミアを相手にして、平然としている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いえいえ、それはこっちの台詞ですよ。紅翼殿のパワーにアミア様の魔法力が合わさって実にやりにくい",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "それをこともなげに、流している相手に言われても、嫌味にしか聞こえませんよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "はは、実はこう見えて、内心では冷や汗をかいているのですよ。余裕を保っていられるのは若手に無様な姿を見せられないからという、つまらないプライドです",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そう言っているものの、やはり余裕な態度を保っている事には変わりなく、フォンとアミアはミリオを睨みつけながら再び構えを取る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふん、今度こそその余裕の顔を歪ませてあげます",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "期待しましょう",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "でも、どうする?正直互いに攻め手に欠けてるよね……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "互いに踏み込むタイミングを計っている中、アミアがぽつりと呟く。\n先ほどから、基本的にフォンが前衛を担当し、それをアミアが援護するという態勢を保っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ、ですが方針に変更はありません。フォンが前にでて戦っている間に、アミアさんがサポートしつつ作戦を考えてください",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "でも、二人で前に出た方が良くない?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ダメです。二人でようやく互角に持っていっている状態で、万が一にでもどちらかがやられれば、その時点でゲームオーバーです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "実際こうして未だ二人ともが無事な理由は、二人が役割に徹しているが故にだ。\nもし、どちらか片方が倒れれば、その時点で負けが確定するだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だから、出来るだけ慎重に行きます",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "さあ、相談は終わりでいいですか?",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "こちらの結論がでるまで律儀に待ってくれたのか、そう尋ねてくるミリオにフォンは言葉を返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ。空気を読んで待っていただいて、ありがとうございます",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "それでは行きますよ!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そういって構えをとるミリオ。\nいままで見たことの無い構えに、何をする気なのかと思った瞬間。\n手に持った突撃槍を、風魔法を使い高速で撃ち出すという荒技をつかって、こちらの意表をついてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なっ!?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "高速で飛来したランスを何とか弾き返す。自らの得物を射出するなどという珍妙な技に一瞬対処が遅れたが、なんとかダメージは受けずに済んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわ、なにそれ!?ちょーかっこいい!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ふふ、最近覚えた新技です",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そんな珍妙な技にアミアが瞳を輝かせるが、こっちはそれどころじゃ無い。今度はミリオ自身が強化魔法によって高速で接近してきたのだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "感心してる場合ですか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "はあ!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "素手の状態で殴り込んで来たミリオを、フォンはとっさにハーケンで切り裂くが、案の定それはダミーだ。\nそして、次の瞬間に感じた気配に従って前に跳ぶと、一瞬前に自分が居たところに、いつの間にか槍を回収したミリオが落下して来ていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく、次から次へと珍妙な技を",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そうでしょうか?アミア様には毎回かっこいいと評判なのですが",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "アミアさんがこうなった原因はあなたですか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "思わず、言わずにはいられないとフォンが叫びながら踏み込むが、次の瞬間ミリオは魔力光の発生と共に足を地面に打ち付ける。\nそれと同時に地面に魔力が伝わり、フォンの足をすくい取った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "足下をすくわれ倒れかけるのを、羽をつかってどうにかバランスを取る。それと同時に攻撃魔法を打ち込むが。\n甘い狙いの攻撃が当たるはずも無く、攻撃は失敗に終わる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お二人は強い、ですがそろそろ終わりです!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そうして、距離を取ったと同時にミリオの身体を強い魔力光が包む。今までに無い力の高まりに、フォンは思わず後退した。\nその直後。\n違う属性の攻撃魔法の連続発動。それらが四方八方からフォンとアミアに襲いかかる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちょ!?ミリオ。本気出しすぎ!?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ぐっ!このままじゃジリ貧です!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "すんでの所で、アミアとフォンは防御魔法を同時発動させ凌ぐが、このままではじり貧な事には変わりない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、だからどうするの!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "アミアの言葉に逡巡したフォンだが、正直に言えば、もう細かい事を考えるのは面倒になってきた。\nもともと、こういった小難しいことを考えるのはあまり得意な方では無い。行動はストレートに、それこそが任務を遂行するのに最も効率がいいのは事実だ。\nそう考えて、フォンは小さく笑うと、大きく息を吸い込み。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フォンが突っ込みますので、援護をお願いします!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ええ!?行き当たりばったり?ていうか、やけくそ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "今までの作戦を覆すような、作戦とも呼べない行動を提案する。\nそんなフォンに驚くアミアだが、ミリオはそんなフォンの言葉に楽しそうに笑った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、それでいいんですよ。停滞した状況を変えるのは、いつの時代も勇気ある一歩を最初に踏み出した者です\nそれが無茶だと、無謀だと言われようとも!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "あーもう分かった!こうなったらとことんやっちゃる!ついでに新魔法だって試してやるー!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ふふ、正直小難しいことを考えすぎました。フォンもアミアさんもこっちの方が性に合ってます!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "まさにそうだ。二人とも本来小難しい事を考えながらちまちま戦うタイプでは無いのだ。\nそれを負けられない戦いということと、相手が滅界戦争の英雄であるミリオであることで、難しく考えすぎた。\nもともと経験値や知力では勝ちようが無いのだ。ならばアミアもフォンも、最初から自身が最も得意とする戦いで攻めるべきだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "面白いですね、ならばそれを見た上で返り討ちにしましょう!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "これを見てもそう言っていられますか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "一体何を見せてくれるのかと、楽しそうなミリオを見据えて、フォンは駆け出す。\nミリオは当然迎え撃とうと身構えるが。\n直後、フォンの翼が炎に包まれるとそれが一斉に火を噴いた。それによってフォンの体は強引に前方に押され、爆発的な加速を得る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!?",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "はあああ!!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "さしものミリオも、そのような方法で強引に加速を得るとは思わなかったのか反応が遅れる。そこにハーケンが連続で打ち込まれ、ミリオは初めて体勢を崩した。\nそれとほぼ同時に、フォンの後ろでアミアが神話級の古代魔法・ブリューナクの準備に入る。研究の結果、大世界杯の時とは違い、格段に安定している。\nさしものミリオも神話級の一撃を食らえば、ただでは済まない。すぐさま妨害しようとするが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ダブルハーケン!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "それを許すほどフォンも甘くない。アミアに意識が移ったミリオに対し、必殺の一撃を打ち込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちっ!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "なんとかフォンの一撃を受けたものの、アミアの準備は完了していた。膨大な魔力を収束した一撃を、そのままミリオにたたき込んだ。\nミリオはとっさに防御魔法を発動した様だが、さしものミリオも神話級の一撃を正面から受止めるのは不可能だ。\n防御魔法が砕かれ、ミリオの身体が光に飲み込まれる。\n本来ならこの時点で勝利を宣言をしてもいいぐらいだが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう、何度も同じパターンに引っかかると思いますか!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "フォンは、倒れたミリオがダミーだとすぐさま看破すると、離れた位置に姿を現したミリオにハーケンを投げつけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これで終わりです!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "タイミング的にかわせるものでは無いはずだ。この一撃が入れば本当に勝利できるが、アミアはそれを見て焦った様に声を上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "違う、フォンさん!そっちもダミーだよ!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なっ!?しまった",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "私の勝ちですね",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "アミアの言葉通り、フォンが投げたハーケンとは別の場所にミリオが現れる。そしてそのまま槍を構えると、丸腰のフォンに向かって突撃を仕掛けてくる。\n最大のピンチにフォンは歯がみするが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "大丈夫!任せて!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "なに!?",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "アミアの呪文と共に発生した雷を含んだ竜巻はハーケンを飲み込み、ダミーに向かっていたフォンのハーケンの軌道を強引に捻じ曲げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とどめに出てくるミリオは絶対に本物!こんどこそこれで終わりだよ!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "完全にフォンに意識を向けていたこと、そして予想が不可能な軌道でハーケンが迫った事で、ミリオの反応が遅れる。その結果。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ!!あああああああああ!!",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "雷を纏い、高速で回転するハーケンの直撃をくらいミリオが吹き飛ぶ。その直後、何かが砕ける音と共にミリオの周囲に水晶の破片が散らばった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "がは……まさかあのような手でくると思いませんでした",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "膝をつきダメージに顔を青くしながらも、ミリオはそう言って二人に笑顔を向けた。\nこの瞬間、二人の勝利が確定した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あは、即興でやった合体技にしては上手くいったでしょ?",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "さしずめ、ダブルハーケンストームといったところでしょうか\nアミアさんのお手柄です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "いやあ、フォンさんがいなかったらミリオを追い詰められなかったと思うよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "互いに互いを賞賛し、手を叩く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ、フォンたち意外と相性がいいみたいですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "だね♪",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "そういって笑う二人を見て、ミリオは若手の成長を実感し、安堵の吐息を漏らした。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ミリオ",
"フォン",
"アミア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 0448092_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "校舎内の長い廊下を真っ直ぐに進んでいく。\n時折現れていたはずのモンスターの姿がいつしか消えていることに、フォンは気づいていた。それはすなわち、探していた英雄が、この先にいるだろう、ということ。\n冷や汗が背筋を流れていくのを感じるが、ここは引くわけにはいかない。他の英雄はともかく、この英雄は自分たちが倒さなければならない相手だ。\nだが、そのプレッシャーを同じように感じているのか、隣にいるアミアが不安げに言ってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ねえ、フォンさん?これからミリオを倒しにいくのに、わたしがコンビでよかったの?今のフォンさんだったら、一人での方が戦い易いんじゃ……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "当然、足手まといとなるようなら放置しますのでご安心下さい。ですが、そうはならないと判断したからこそ、ついてきてもらいました",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "それは、フォンにとって紛れもない事実だった。これから対峙するだろう英雄と戦うにあたって、自分が手に入れられる数少ない勝機の一つ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まず一つ、これだけは忘れないで下さい、アミアさん。あの、サン=ミリオという人は間違いなく化け物です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "いやぁ、強いのは分かってるけど、さすがにそこまではいかないんじゃない?お母さんとかトリアちゃんとかと比べちゃうとさあ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その思い込みは捨てて下さい。確かに、トリアさまたちと比べれば個人の攻撃力は相当落ちます。まあ、それでも充分英雄クラスですけれど\nですが、倒されないということに関しては間違いなく上です。一人で一部隊を殲滅できるトリアさまが、個人の戦いで倒し切れなかった。この意味はお分かりですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そう言い切ると共に、フォンは前方の壁を睨み付けた。その視線を察したのか、陰から一人の男が姿を見せる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの竜魔の紅刃にそこまで評価されている、というのは誇らしいものがありますね……少しこそばゆくもありますが",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "ミリオ!?いつからそこに……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "私はかなり臆病者なもので、気配を絶ち、奇襲をと思っていたのですが、さすがは紅翼殿。一撃を放つ隙すら見い出せませんでした",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "そうは言うものの、その口調は少しも残念そうでない。最初からそうなるだろうと分かっていたかのようだ。いや、恐らくは分かっていたのだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "臆病者とはよく言ったものです。言い替えれば、自ら敵のまっただ中へ飛び込むつもり、ということでしょう",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "はは。それこそ買いかぶりというものですね。ですが、その評価に匹敵するだけのものはお見せしましょう。これでも、前勇者の一人ではありますから",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "……ミリオ、本気だ。周囲の空気の色が変わった……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "その穏やかな笑顔とは裏腹に、周囲の空気が急激に密度を増していく。ミリオから発せられる気配が、その濃さを増したためだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "正直に言いますが、あの化け物にどんな攻撃を叩き込めば倒せるのか、フォンにはまったくイメージが湧きません",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "そんなのわたしも同じだよ。レーヴァテインですら受け止めそうだし……",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ですから、彼に師事していたあなたの力が必要になります\n彼は、今のフォンの戦い方を知りません。世界杯でも直接相対してはいませんし、途中からはゲンを追っていましたから\nですが、アミアさんは知っている。彼の力、行動、クセ、それを少しでも知っていることの優位性が、フォンたちが勝てる最大の武器です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "なるほどねー。それでわたしか",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "不服ですか?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "まっさか。充分すぎるくらいの理由だよ",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ミリオの力を知っているからこそ、自分がここに来るべきなのか悩んでいた。けれども、その理由が明確になるのなら話は別だ。\nアミアは、いつも通りの元気な笑顔と共に、その杖をミリオに向ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おっけー。今の神界のNO2を、将来の魔界と神界のNO2が乗り越える。最大に燃える展開じゃん",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "ええ。それぞれの世界の補佐こそが、フォンたちの使命です。でしたら、ここを乗り越えるのも、フォンたち二人の仕事でしょう",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ならば、その壁となることこそが私の役目ですね\nいいでしょう。世界も種族も身分すらも忘れ、勇者として全力で叩き潰させていただきます",
"speaker": "ミリオ"
},
{
"utterance": "できるものでしたら!",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "やってもらおーじゃん!!",
"speaker": "アミア"
},
{
"utterance": "魔・神・竜と揃った二人が、偉大なる神族に挑む。それは、種族の壁を越えた、これからの世界を見通すかのような一戦だった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ミリオ",
"フォン",
"アミア"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044809_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "淡い封印の光が、その扉から消えていく。\n地下迷宮、中層にある大広間。その扉の前に立ちながら、姫は小さく拳を握った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "みんな、やってくれたみたいだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その先へと進むことを拒んでいた光の壁。それが消えたということは、恐らくは地上の英雄達を、仲間が倒してくれたということ。\n俺はみんなへの感謝を胸に、その扉へと手を伸ばした。そして、ゆっくりと光の無くなった扉を押し込んでいった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "来たぞ、ゲン!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ、分かってるからそう大声出すなって。響いてかなわねえ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "俺の叫びに、奥の方からゆっくりとゲンが歩いてくる。そこにはいつも通りの笑みではなく、確かな驚きがあった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だがまあ、あの連中を全員、それもこの時間で倒すとはな……正直侮ってたぜ、お前のパーティー\nだが、そいつはあくまでもお前の仲間の評価でしかねえ。坊主、お前はどれくらいの力を俺に見せてくれるんだ?\n確かに、一人の力が勇者とは言えねえ。だからといって、個人の力が不必要なわけでもねえ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ゲンの言葉に間違いはない。けれども、その言葉に対する回答を俺は既に持っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あなたを倒せるくらいの力を",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……随分でっかくでやがったな。それも、ハッタリってわけでもなさそうだ\n俺の能力はもう分かってんだろ?魔法、魔力、気鱗その他色々、物理以外のあらゆる力を消滅させる。さあ質問だ。お前は俺にどう挑む?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "どうも何もないさ。俺はいつも通りに戦うだけだ\n確かに、あなたの力は驚異的だ。あなたの前には、魔族、神族、竜族、そして儀式兵器を持つ手練れの人族、すべてが叶わないかもしれない\nけれど、だからこそこれだけは言える\n全世界でただ一人、魔法を使って戦わない俺は、あなたにとって天敵だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "魔力や魔法による攻撃や強化はすべて無意味になる。竜族の気鱗すらも剥がされる。\n人族だって、儀式兵器がある以上は魔法を使っての戦いが基本。攻撃、防御、強化、そしてけん制。あらゆる戦いが、魔力や特殊な力を前提に組み立てられている。\n誰しも、身体にそれが染みついている。ヴェルの魔力を乗せた一撃。ノートの付加魔法による身体強化。ウルルの気鱗ありきの防御と攻撃。紅すらもが速度を上げている。\n今や、その力なしでの戦いはあり得ない。だからこそ、それを無効化されるゲンとの戦いは、すべてを乱されてしまう。\nあって当然の力を失えば、そこにあるのは裸の力。剣士として最高の力を持つゲンの前には通用しない。だから、最強。だから、無敵。\nけれど、俺にはそれがない。魔法がないことを前提の戦いしかしていない。魔法を使うという考えそのものがない。だから、乱されない。\n惑わされることなく、いつも通りの力で、ただその剣の腕だけでゲンと戦える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……くくくく。いい顔してるじゃねえかよ。自分を周囲を未来を、そのすべてを信じてる顔だ。自分が負けるなんてことは少しも考えちゃいねえ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "俺一人の力なんて信じていないよ。事実俺は弱すぎる。だけど、みんながくれたこの力なら、俺は信じてる。それだけのものを見せてもらってきた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いいだろう。俺が直接やり合う相手として認めてやるよ。正式に、勇者候補として見てやらあ!\nミヤ、そっちは任せるぜ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "その言葉に、ゲンの後ろに下がっていたミヤが前に出る。そして頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい、任されましたお父様\nたとえ過程がどうであれ、勝つのは私たちです。ここまで来たことは賞賛に値しますけれど、結果が伴わなければ、ただ無意味なだけです\n白鷺くんとお父様の戦い、邪魔はさせません。私たちは、こちらで男を支える女の戦いといきましょう",
"speaker": "ミヤ"
}
] | [
"姫",
"ミヤ",
"ゲン"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044810_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "剣を構えつつ、目の前の勇者と対峙する。それだけで凄まじいプレッシャーを感じる。勇者だから、特殊な力を持っているからじゃない。\nゲン、という偉大な戦士自体が持っている力だ。こうしているだけでビリビリとそれが感じられる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その前に、一つだけ聞かせて欲しい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……ミヤの奴から色々聞いちまったみてえだな。ああ、構わねえ。言ってみろ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "あなたは、勇者になったことを後悔しているんですか。大切な人を守れず、戦争終結を選んでしまった自分を",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "勇者、か。なあ、姫。お前は勇者って何か考えたことがあるか?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "何か?それは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は考えたことはなかった。ただてめえのやりたいようにやってたら、いつの間にかそう呼ばれるようになってやがった\nけどな、その役割を終えてから、ようやく考えられるようになった\n勇者ってのは……いや、少なくとも俺は、ただの奴隷だ。世界って奴の、な",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "奴隷?そんなわけないだろう。あなたは少なくとも自らの意思で、あの戦争を止めた!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そいつはどうかな。俺は、剪定者とやらに選ばれて、多くの期待を背負わされ、それに応えるために色々なもんを捨てちまった\n気がつけば、どっちも捨てられるはずのねえもんを天秤にかけられ、俺は言われるがままに、その天秤を傾けた\nそこに、俺の意思なんかねえのさ。選ばなくちゃならねえから選んだ。用意された選択肢をな\n俺の身体には、奴隷の鎖が巻き付いてるのさ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "あなたは、勇者になりながら、その存在を否定するのか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "勇者ねえ……なら姫、お前はなんだ。お前はいったい何になれる?\n新たな道を見いだしつつも、結局辿り着けずに俺と同じく奴隷で終わるか?それとも……\nおっし。おしゃべりは終わりとしようぜ。答えはよ、この戦いの結果次第ってやつだ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "ええ。俺が目指すものは変わらない。それをあなたに見せつける",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ!全力で見せつけてみろ!\nいくぜいっ!!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "恐ろしいほどの速さの踏み込みから放たれる一撃。それは、普通の戦士からすれば問答無用の必殺剣といえる威力がある。\n俺程度の剣士の力でさけられるものじゃない。\nだが俺は、\nその必殺の斬撃を受け止めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……どんな手品だ、こいつぁ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "今の一撃に自信を持っていたんだろう。それが受け止められたことに本心からの驚きをこぼしながら、ゲンが俺を睨み付ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "魔法だよ。カミシアが、俺一人のために組み上げてきた、世界に一つしかない魔法",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は言うと、視線を、後ろで控えているカミシアへと送った。ゲンが同じようにカミシアを見る。\nカミシアは、そんなゲンを見返しながら、胸を張って言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ミヤが結界術を磨き上げたように、私にも磨き上げた魔法がある\n未来への干渉術。未来の力をそのまま借り受ける魔法だ\n二十年後のパパが持っている力を、そのままパパの身体へと写し込んだ\nつまり、今のパパは、二十年後の自分自身の力を持っているというわけだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そうだ。俺の普段の努力を知っていたカミシアは、可能性の世界の住人となりながらも、ただ一つの魔法を研究し、磨き続けた。\n世界でたった一人、俺のためだけの魔法。俺と何らかの形で出会うことを信じて磨き続けてくれた魔法だ。\n俺と出会わなければなんの意味もない。ただ消えていくだけのその魔法を、カミシアは、俺を信じて磨き続けてくれた。\nだからこそ、カミシアは今俺と一緒にここにいる。この魔法の結果を、戦いの結果を見届けるために。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……聞いたこともなけりゃあ、考えたこともねえ魔法だ……だがまあ、分からなくもない。他の扉の記憶を全員に戻したのも、そいつの応用ってわけか……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "そうだ。発動した時点で力そのものはすでに移植されている。魔力の霧散化の影響など受けることもない\n一日限り、まさに一夜の夢だ。だがそれでも、今のパパの力はお前に決して劣ることはない!\nそれも、これから二十年もの間、パパが怠ることなく磨き上げたからこそ!パパが自らの努力によって手に入れた力だ!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "なんつーでたらめな魔法だよ……だが分かってんのか!?未来なんて不確かなところから借りるってことは、その力に達しなければ矛盾が起こる\nつまり、その場でお前は消滅するってことだぞ、姫!",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "バカを言わないでくれ。達するどころか、越えて見せるよ、俺は",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "毎日毎日、バカみたいに剣を振り続けた。勇者を夢見て、鍛え続けた。\n紅との組み手。ヴェルやノートと知り合ってからは、彼女達からも多くを学んだ。そしてこれからも学び続ける。\n今はこんなに小さな力が、それでも少しずつ積み重なり、二十年後にはこれほどの力になる。\n俺は、これだけの力を手に入れられる。それが嬉しくてたまらない。\nああ、そうだ。誰が止めてなるものか。俺はこれからも力を積み上げ続け、そしてこれ以上の力を手に入れてやる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さあ、勝負だゲン!あなたが、俺を縛るために世界が用意した奴隷の鎖だっていうのなら、俺はそれを引き千切る!",
"speaker": "姫"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"ゲン"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044812_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……たく……やってくれる、ぜ……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "その身体から大量の血を流しながらも、ゲンはその手に刀を握りしめ、俺を真っ直ぐに睨み付けていた。\n普通なら動けなくなっていて当然の傷。だがそれでもゲンの目からは、戦意が消えていなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はぁ……はぁ……まだ、やる気か……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ……当然だ。こいつに負ければ、俺は本当にすべてを失っちまう……\nたとえ何があろうとも……ミヤは守ってやらなきゃならねえ……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "あれだけの出血、たとえ意識があったとしても動けるはずがない。いや、すぐに止血をしなければ危険なレベルのはずだ。\nにも関わらず、ゲンはまだ戦おうとしている。ミヤを、自分の娘を守るために。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "守ればいいだろう。こんなところで、こんなゲームなんかでじゃなく、娘と一緒にいて守ってやればいいじゃないか!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだ。これだけの力を持っているんだ。本物の力を持っているんだ。俺なんかよりも、よっぽど確実に守れるはずじゃないか。\nだがゲンは、そんな俺の言葉に小さく頭を振った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……そいつは無理だ\nあいつはもう、俺のことを覚えてねえからよ……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "覚えてない?何を言って……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "剪定者ってのは、その未来の確定後、一つだけ褒美をもらえるのよ……今回もそうなんだろう、カミシア?",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "もう勝負はついたと悟ったんだろう。カミシアがゆっくりとこちらへ歩いてくる。そして、ゲンの前へと立った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ああ、そうだ。剪定者は未来の確定後、世界そのものから一つだけ特別な褒美をもらえる\n未来への干渉権。自分にまつわる未来そのものを一つだけ自由にできる\nもっとも、過去への干渉は許されないから、死者の復活などは認められないが\n……気にはなっていた。なぜ世界の人々はお前のことを忘れている?滅界戦争で共に戦った仲間はもちろん、書物からすらも消えている\nゲンお前、剪定者の褒美として、未来の自分の存在を、何かと引き替えにしたな……?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "あいつを失った俺にとって、欲しいものなんて特になかった。胸の中が空っぽになっちまってなあ、何をやっていいのかも分からなくなっちまって……\nだから俺は、力を求めた。死んだあいつが俺に願ったこと。沢山の仲間たちが、知り合った連中たちが、俺の肩に乗せてったもの……\nそんな期待ってやつを、これからもずっと、他の誰も犠牲にせず俺一人で叶えていける力をな。それが、あいつよりも世界を選んじまった俺の責任だと思ったからよ\nそして、ただの奴隷にしかなれなかった俺の、ささやかな抵抗だ\n俺は、未来の俺と引き替えに、あらゆる物理的以外の現象を相殺する\n未来の世界にある、ゲンって人族のあらゆる記録をもって、魔力や気鱗みてえな現象を相殺させてるわけだ\n過去じゃねえ。未来に生きてる連中のあらゆる記録から、俺は自分の存在を奪っていってるわけだ\n過去の記憶には限度があるが、未来の記憶は無尽蔵だ。俺が世界の誰かと会い続ける限り記憶は生まれ、そして俺の力となる",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "……あの霧散化能力は、そういうことか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "自分の存在との相殺……それはつまり……完全な忘却……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "大切な人の期待に応えるために、自分の存在と引き替えにした無敵の力。それはどれだけ重い力だったのか。強くて当り前だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、そうだ。例外はねえ。その結果として、ミヤの頭の中からも俺って不良オヤジの存在は消えちまったのさ",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "……じゃあまさか、今ここにいるミヤは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "例外、というよりもルールの適用外だな。時間って概念から外れた可能性の世界の住人に、俺の力は聞かなかった\nそこにいるミヤは、本物のミヤじゃねえ。そこのカミシアと同じ、可能性の世界のミヤだ\n本物のミヤは、神界の、親戚の家で幸せに暮らしてる\nだがな、たとえ本物でなくても、未来の可能性がなくなるってことは、そこでおしまいってことだ\nそこにいる可能性のミヤが死ねば、未来はそこで途切れる。結果的に、本物のミヤもそこで死ぬってわけだ……\n赤の他人がつきっきりで守る、なんてわけにゃあいかねえだろう?だから、俺がミヤを守るには、このゲームに勝つしかねえのさ\nまさか、自分の娘がゲームの対象になるとは思ってもなかったからなぁ……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "……他の手は、なかったのか?カミシアもミヤも守って、すべてを大団円で終わらせる手は!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言ったろう。俺は、奴隷なんだよ。奴隷が、世界ってご主人様が示したものと違う道を選べるか?\n姫。お前はすげえなあ、本当に。俺には見えなかった。見ようともしなかった。なのに見つけちまった。あるはずのない、第四の扉を\nそんなありもしねえもんまで生み出して、奴隷の鎖を引き千切りやがった。本当に、勇者になりやがった\nああ……なんで俺にはできなかったんだろうなあ……あの時選択肢は二つしかないなんて思い込みやがって……どちらも守る、なんて考えようともしなかった\n世界に、挑まなかった……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "だったら、今からだって挑めばいい。挑んで、鎖を引き千切って……未来を変えてしまえばいい!\nあなたは、勇者だ。他の誰にもできなかったことを、戦争の終結なんて凄いことをやり遂げた。この事実は絶対に変わらない\nだから、最後まで勇者であってほしい。今度こそ、新しい道を見つけて下さい……\n俺だって、三度も失敗した。大事な人達を三度も失った。この手で殺しもした!\nそれで、やっと見つけたんだ。この扉を\nあなたにだって、見つけられないはずが、ない。あなたも、選んでください……\n奴隷なんかじゃない。自分の意思で進む、勇者の選択肢を",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それは、今の俺の心からの願いだった。\nこのゲンという男を、勇者を、本当に認めてしまったからこそ、最後まで偉大であってほしい。そんな身勝手な願いだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……ったく。とんでもねえ勇者様だな。ここまで人をボロボロにしておいてよ……",
"speaker": "ゲン"
},
{
"utterance": "そして、そんな俺の身勝手な願いを、ゲンは小さく笑って、受け止めた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"ゲン"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | 044815_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "女性陣全員による騒ぎはいつしか大きくなり、やってくる生徒達が奇異の目を浴びせて校舎の方へと消えていく。\nおかしい。別におかしなことはなかったはずなのに、いったいどうしてこうなった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さて、俺はどうするべきか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "助けを求めるようにデイルとラーロンへと視線を送るが、二人はいつの間にやらコソコソと門をくぐり抜けようとしていた。\n……逃げるが勝ちを実践しやがった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おい姫",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "が、次の瞬間、誰かが後ろから抱きついてきた。この巨大な物体の感触には覚えがある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……お前、今何であたしを判断した……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……そりゃあまあ、ずっと一緒に戦ってきた相棒だからな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本気で言ってるか",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "もちろんだ。まあ、その大きな二つの膨らみが正答率を上げてくれたのは間違いないが",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……すけべ\nまったく、姫はいつもそうだ。結局は、あたしの胸しか見てない",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "別にそんなことはないんだけどなあ。俺としては、紅のそういうとことか他の誰よりも知ってるつもりだぞ\nそういう、甘えん坊で寂しがり屋で、すぐに拗ねてしまう可愛い子、ってところとかな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "この世界に来た時に知り合った、自分以外にたった一人の人族。未来も希望も見えないこの場所で、紅は常に俺を支えてくれた。\n年頃の女の子が、男と同じ部屋での生活なんて普通できるわけがない。\n俺よりも全然強いくせに、常に俺を見て、俺を気にかけてくれた。俺の隣にいてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "できればまあ、紅もさ、俺の本心とか見てくれないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本心?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "最初から最後まで、俺の隣にはお前、お前の隣には俺がいるってことだ\n違うか、相棒?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……あ、いや、その……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ニヤリと笑いながらの俺の言葉に、紅は顔を赤らめ俯くと、やがてしっかりと顔を上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "違わない、な",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そして、同時に笑い出す俺達。\nそうだ。この世界に来て、この学園で出会って、俺達の相棒は、俺達しかいなかった。\n俺には紅、紅には俺。この関係だけは、どれだけ大切な仲間が増えても変わらない。\n俺の相棒は紅だけで、紅の相棒は俺だけだ。他の誰にも渡せない、本当に大切な場所。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫、これからもよろしくな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "勇者であろうがなかろうが、きっと変わらないこの関係は、絶対に最後までこのままだ。\nだから、いこう。\nみんなと一緒に、互いを支え合いながら。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"?",
"紅"
] | 06_Tiny Dungeon BoS | EP02d_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "この世は、五つの世界と、四つの種族で出来ている。\n魔界。魔族と呼ばれる、魔力を破壊の力に使うことに長けた種族が住む世界。\n神界。神族と呼ばれる、魔力にて様々な奇跡を起こす種族が住む世界。\n竜界。竜族と呼ばれる、魔法が使えない代わりに、身体能力に長けた、女性だけの種族が住む世界。\n人界。人族と呼ばれる、魔力を生み出せない代わりに、様々な知恵にて乗り切ることに長けた種族が住む世界。\nそして、五つ目。学園世界、トリニティ。\n魔族、神族、竜族と、三つの種族がその知恵と力を結集し作り上げた世界。\n世界を守護する勇者を生み出す場所として、魔族、神族、竜族、人族。四つの種族が、その心を持って繋がろうとしている世界。\nけれど今は、まだバラバラ。\nその未来を求め、寄り添い続ける少年と少女達が、共に住む世界。\nこの世は、五つの世界と、四つの種族で出来ている。\n皇女は、見上げていた。\n学園世界の中心、大きな湖に浮かぶ巨大な城。それこそがトリニティの校舎。\nかつて、全世界を巻き込んだ凄惨なる戦争、滅界戦争。\nその戦争をきっかけとして作られた、勇者を育てるための学園、トリニティ。\n自らの力を信じ、未来と勇名と富とを求めて、この門をくぐる若者達。けれど当然ながらその門は決して広くない。\n勇者とは、世界を背負う存在。それを目指すからには、知、勇、武、すべてにおいて相応の力を求められる。\n無事に全課程を修了してこの門に背を向ける者達は、入学時の半数ほどだとも言われている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これが、トリニティ……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "その独特の黒髪は、他の種族には決してありえない。紛れもない人族の証明。\nその整った容姿には、まだ少し幼さが伺える。けれどもその二つの瞳には、真っ直ぐ突き進む強い意志の光があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "二年、か……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "そう呟きながら、皇女は一人の男性の顔を思い浮かべる。最後に会ってからもう二年。今ではもう少し大人っぽくなっているだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "てっきり、すぐダメ出しされて帰ってくるって思ってたんだけどなあ",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "その口元がわずかに緩む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "つまり、まだここで頑張ってるってことだよね。姫にぃ",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "当然それは、あくまでも、まだ在籍してるというだけだ。落第をしている可能性だって充分ある。下手をすれば、自分と同級生になる、なんていう可能性すらも。\n滅界戦争の原因となった上、貧弱な力しかもたない人族は、他の種族からすれば蔑みの対象。下手をすれば路傍の石だ。\nそんな環境で一人耐え続けるだなんて、どれだけの強い心が必要か。どれほど心細いことか。\n事実、今こうしている自分の横を通っていく連中のほぼすべてが、そんな視線を向けていく。蔑み、馬鹿にし、あざ笑っていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、もう大丈夫っ。これからは、あたしがいるからね",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "その顔に、自信に満ちた笑みを浮かべると、皇女は一歩を踏み出した。湖上に浮かぶ巨大な城。そこへと続く一本の優雅な橋。\n白鷺皇女。本年度唯一の、人族の新入生。\n二年前、周囲の反対を押し切り、その夢のために単身トリニティへと向かった兄を追い、今こうして同じ場所へと立っている。\n皇女は、その新しい舞台を踏みしめるかのように、一歩一歩、確かな歩みで進んで行く。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お前、人族か?",
"speaker": "?"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "不意に呼びかけられた声に思わず反応してしまったのは、その呼び声に一切の負の感情がなかったからだろう。\n蔑みも嘲笑も見下しすらもなく、ただの疑問だけが含まれた言葉。\n振り返ってみれば、そこには一人の、神族らしき少女がいた。\n小柄……と呼ぶにはまだ小さすぎる。むしろ子供、と言うべきだろうか。そうとしか見えない、けれども可愛らしさと綺麗さを兼ね備えた容貌の少女。\n一瞬、関係者の子供か、などとも思ったが、着ているのは紛れもないトリニティの制服だ。信じられないが、この少女もここの学生らしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう、だけど……あなたは神族……よね?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "ああ。カミシアだ、今日から正式にここの学生となる。まあ、今さらだがな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "正式、ということはどういうことだろうか。思わず皇女は首を傾げる。だが、それ以上に不思議なのは、目の前の少女が自分に対し普通に接していることだ。\n『人族』である自分に。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん?どうかしたか?空気を入れすぎた風船みたいな顔をして",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "それ、どんな顔……あ、その……珍しいな、って思って\n百歩譲って、多少親交のある竜族ならともかく、神族の子が、あたしが人族だって分かってて声をかけてくるなんて",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "皇女の疑問に、カミシアはしばし不思議そうに首を傾げると、やがて納得いったとばかりにポンと手を打った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、そういえばあったなそんな設定",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "いやあの、設定じゃなくてさ、メチャクチャ重要なことなんですけど。あたしたち人族にとっては、特に",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "確かに、それで随分と苦労をしてたな。だがまあ大丈夫だ。私はそんなこと気にしないし",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "気にしないって……なんか、不思議な子ね、あなた。こんなに気安い神族、初めて会った……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "そうか?なら安心しろ。私なんかよりもよっぽど気安くておかしな神族が丁度来た",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアは楽しげにそう言うと、視線で皇女を促す。皇女がその視線を追った途端、わっ、とざわめきが起こった。\n恐らくは新入生だろう、緊張気味の学生達、それも特に神族が何やら騒いでいる。まるで有名人でも見たかのように、キャアキャアと目を輝かせていた。\nいや、ように、じゃない。まさしく有名人を見たようだ。\n広がっていくざわめきの向こう。少し離れた場所から、鮮やかな銀髪の姉妹が真っ直ぐこちらへと歩いて来るのが見える。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの銀髪……ノート=ルゥム!?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "神族の第一王女。数百年ぶりに誕生した完全銀髪。その名前は人界においても広く知られている。\nしかもその強さは将来の神界を担うとまで言われている。戦士を目指す者にとっては、間違いなく憧れの存在だ。\nそして、一緒に歩いてくる小柄な少女はまず間違いなく、その妹、アミア=ルゥムだろう。\n噂では、その魔力は部隊の一つや二つ、軽々と焼きつくすとか。\nこうして離れた場所から見ているだけで、オーラのようなものをまとっているのが感じられる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さすがはトリニティ、っていうのかな。あんなビックネームが当たり前のように歩いてるなんて……\nにしても、なにあの容姿……噂なんかより遥かに綺麗じゃない",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "ルゥム姉妹以外にも、全世界に名を知られる存在が何人か在籍しているのは皇女も当然知っていた。\n学園生活を続けていれば、どこかで会うなり戦うことなりあるかもしれないと期待はしていたが、まさか初日から出会うとは。さすがに、少し興奮してしまっている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、ノートママだからな。だが、あの姿に騙されない方がいいぞ。ノートママの可愛らしさはその中身のどじっこぶりにあるからな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "え?なにそれ。どじっこ?ていうか、ノートママ!?ノート=ルゥムって、ひょっとして、あの歳でもう一児の母だったりするの!?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "まあ、三割ほど正しくて、七割ほど不正解だな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "どういうことよ、それ……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "まあ、気にするな。いずれ分かるかもしれないしな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "言って、さらりと流してしまうカミシア。どうやら、少なくとも今は教えてくれるつもりはないらしい。そうなれば、これ以上ツッコムのもはばかられる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まあ、いいか。その口ぶりだと、いつかは教えてくれそうだし\nそういえば、挨拶まだだったわね。あたしは……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "そこまで言った瞬間、\n学園のチャイムが高らかに鳴り響く。どうやら結構まずい時間のようだ。これから入学式の会場へと移動することを考えればのんびりはしていられそうにない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "名乗りの途中で悪いが、ちょっと急がないとまずい時間のようだな。とりあえず、続きは場所を移してからの方がよさそうだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そうね。さすがに初日から問題起こすのはさけたいわ。特にあたし、人族だし",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "人族が問題を起こした場合、その罪は大抵の場合通常より重いものにされる。しかも、そのマイナスは決して消えることなく積み重なる。\n皇女とカミシアは頷き合うと、一緒に走り出した。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"皇女",
"?",
"カミシア"
] | 07_Endless Dungeon | 010101_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "食事の後、日課の鍛錬も、風呂も終えて部屋へと戻った俺は、そのままベッドの上へと横になった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……剪定者のこと、考えてるのか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "横から投げられた質問に、俺は顔だけそちらへと向ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ。まさかさ、俺に続いて皇女までが、なんて夢にも思わなかったからな\n誰の未来がかかってるのかも分からない。皇女の命がかかってる可能性だって高い",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだな……自分の身内の命が、って思うと……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "今更ながら、思い知らされた。ゲンさんは、こんなプレッシャーをずっと受け続けながら戦ってたんだって……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "自分の負けは、守るべき相手の死に繋がる。それは、紛れもない勇者の重圧だ。自分の負けがみんなの希望の終焉を意味する。\n期待を、命を背負って戦うということの重さ。充分思い知ったはずだけれど、それでもやっぱり重い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なに。姫一人で背負う必要はないさ。あたしたち全員が姫の力だ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そう言う紅の表情は優しかった。その場で甘えてしまいたくなるほどに。\nそんな中、不意に響いたノックの音に俺達は振り返った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はい?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、あの……皇女、です。入っていいかな……?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "ドアの外から聞こえた、ちょっとおどおどしたその声に俺は紅と一瞬顔を見合わせると、ドアを開けるために立ち上がった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ご、ごめんなさい、いきなり……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "いや、全然構わないけれど、どうかしたのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えっと、あの、その、だから、えっと……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "指先をモジモジと絡めながら、恥ずかしそうに顔を赤らめる皇女。そんな皇女の姿を、俺は知っていた。子供の頃から何度も見てきたそのしぐさを。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "カミシアの方はいいのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だから俺は、苦笑しながら確認する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?あ、うん……その……むしろ、たっぷり甘えてこいって、部屋追い出された。鍵も閉められちゃって……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "カミシアらしいなあ。相手を思いやると、いつでもあいつは全力だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "紅、悪いけど、今夜皇女をこの部屋に泊めていいか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いや、それはもちろん構わないが、ベッドはどう……ああ、そういうことか",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "途中までいいかけて、そこで理解してくれたらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なんなら、あたしがカミシアの部屋に行こうか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ええ!?あ、あの、そこまではしていただかなくても……といいますか、今姫にぃと二人きりというのはさすがにそのぉ……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "ゆでだこみたいに真っ赤になりながら、両手をブンブンと振る皇女の姿に、紅はクスクスと笑い出す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ああ、分かった。姫、お姫様をしっかり守ってやるんだぞ\nそれじゃあ、あたしも今夜は寝させてもらおうかな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "言って立ち上がると、紅はその場で服を脱ぎ始める。って、さすがにそれはちょっとまずい!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おい、紅、ちょっと待て!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃあっ",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "え?………………あ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "自分が、俺の、男の前で平然と下着姿になろうとしていた事実にどうにか気づいてくれたらしい。その顔が、一気に赤く染まっていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫にぃ……やっぱり毎晩……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "い、いや、誤解だぞ皇女!これはその、話の流れからつい自然に着替えようとしてしまっただけで、普段はちゃんとだなっ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうそう!俺が風呂にいってる間に着替えてもらうとか、俺が日課の鍛錬やってる時とか、一旦廊下にでるとか!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まあ、紅は結構ガードが甘かったりするので時々やらかしてしまう時もあるけれど、基本的には恥ずかしがり屋で奥手なタイプだ。当然、自分から見せたりはしない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、それじゃあ廊下に出てるから、準備が出来たら言ってくれ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "紅の返答すら待たず、俺は廊下への緊急避難を行っていた。\n室内に戻れば、紅も皇女も、既にベッドの中へと入っていた。特に紅は、余程恥ずかしかったのか向こうを向いてしまっている。\nそんな二人に気を遣って、俺は静かに部屋の電気を消した。\nさてと、予備の毛布はあったはずだし、とりあえず俺はそれを床にでも敷いて……。\n皇女は、その気丈さとは正反対に昔から怖がりだった。けれど同時に強がりでもあって、それを必死に隠そうとする。\nだからこそか、本当に怖い思いをした時には、俺の側にいたがる。何かを言うでもなく、何かを求めるでなく、ただ側に、同じ場所にいたがる。\n夕方にあんな、自分の命にかかわるほどの恐怖を味わって、平然としていられるわけがない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……お兄ちゃん……?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "毛布の準備をしていたところで、か細い声が俺を呼んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうかしたか?別にどこにもいかないから、安心して寝てていいぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうじゃなくて……ごめんね、ベッド占領しちゃって……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "気にするなって。一応、ダンジョン内でのキャンプなんかも授業で経験あるし、そもそもこの世界の気温は過ごしやすいからな。毛布一枚あれば充分だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でも……あ、あたしなら平気だから、いいよ?その、一緒に寝ても……子供の頃は、よくやってたし",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "子供の頃と違うからなあ。さすがに一緒に寝るにはちょっと小さいだろ、そのベッド",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "という理由にしておく。妹とはいえ、さすがに若い女の子と一緒に寝るというのは、男として結構辛いものがある。\n夕方に見てしまった下着姿が自然と思い出される。皇女は、いつの間にかビックリするくらいに女になっていた。\nしかも、ずっと一緒にいたならまだしも二年も別れていたのだ。妹、という感覚よりも、女性、という感覚が今は出てしまいかねない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だからまあ、本当に気にせず眠っていいぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "少なくとも俺は、皇女にとっていい兄でいてやりたい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うん……あとね、その……ありがとう……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "それが、あの時のことを指しているというのはすぐに分かった。圧倒的な力を持つ敵。目の前に迫った死。そんな恐怖の中で、どんな思いを皇女は抱いていたのか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "兄が妹を守っただけだろ。当然のことに、お礼なんかいらないよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう、微笑みかけるように声を返す。ふとん越しに、皇女が微笑んだのが感じられた。\nそして、それから数分も経たないうちに、皇女は安らかな寝息を立て始める。\nそれほどの緊張を強いられていたってことだろう。俺は、そんな皇女の寝顔にそっと視線を向ける。\nそこには、確かに俺の知っている皇女の顔があった。成長はしたけれど、まだ幼さを充分に残している。俺の記憶の中にある皇女の表情を。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……おにい、ちゃん……すぅ……すぅ……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "俺の力になりたいと、こんな世界にまで追って来てくれた、たった一人の妹。\n守っていたはずの少女は、俺を守る立場に自分を変えて、今ここにいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ごめんな、皇女。二年も放置して……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ただ必死だった。この学園でもやっていけるように、とにかく強くなるために。\nただそれでも、俺の心の中に皇女はいたはずだ。だからこそ、俺は耐えられた。ここまで来ることが出来た。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、だからこそ……必ず守ってやるから……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "剪定者。そんな重圧から、きっと守る。皇女の存在が俺の心を守ってくれるから、俺は皇女を守ってみせる。改めてそう誓った。\n背中の向こうから、妹を守ろうとする兄の姿が感じられる。\n話でしか聞いたことのなかった妹の存在。そして、そんな妹のために兄でいようと頑張る男の子。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まったく……すこし妬けちゃうじゃないか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その姿が兄妹には見えなくて、紅は、布団の中で小さく笑った。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"皇女"
] | 07_Endless Dungeon | 010309_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "休み時間、廊下を歩いている途中で、不意にデイルにその提案をされた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "海?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "おうよ。みー子ちゃん達、まだ行ったことないだろ?入学早々、例の件とかでドタバタしたし、ここらで一暴れ、ってのもいいんじゃない?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "例の件、というのは間違いなく甲冑騎士、剪定者の件だろう。\n確かにまあ、みんなで大騒ぎ、っていうのも悪くはないな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "で、本当の狙いはなんだ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "更に四人も増えた美少女達の水着姿を堪能したい!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "……そういう正直なとこはデイルの美点だよな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "おうよっ。俺様常に、自分に正直に生きるって決めてるのよね",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "言っておくけれど、皇女に変な手を出したら……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "分かってるって。みー子ちゃんどころか、誰に手を出しても死刑宣告書へのサインも同じだからねえ\nだがしかーし!それでも立ち向かうのが男ってぇもんだ!\nというわけで、どうよ!",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "まったく。でもま、確かに悪くない提案だと思うぞ\nけど、元々いたメンバーはまだしも、新入生組は水着なんて持ってないんじゃないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でしたら、今のうちに話をして、放課後にでも揃えておいてもらったらいかがですか?",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "そうだな。今のうちならまだ間に合うだろ",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "ああ。とりあえずみんなに話してみるか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "海ですか。実はルル、行ったことないんです。今からとても楽しみです♪",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "って、おいっ。いつの間に現れて会話に混ざってた?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うふ。竜族ですから",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "頼むから、これ以上俺の竜族に対する認識を覆さないでくれ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "結構本心からの願いだったりする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、一階級の皆さんにはルルの方からお伝えしておきます。持っていない方は、本日中に水着を用意、と",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "ああ、頼む。他のみんなには俺の方から言っておくから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ルルウは、分かりました、と一言残し、そのまま立ち去っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……しっかし、ホントいつの間にいたんだろうな。まったく気配なかったぜ?",
"speaker": "デイル"
},
{
"utterance": "俺もさっぱり分からなかったな。あそこまで完全な気配遮断はそうないだろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それで近づかれて、あの巨大な斧を振り下ろされたら、それでもう終了だ。\n竜族としての身体能力より、注意すべきはあの戦士としてのスキルの方なのかもしれない……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"デイル",
"姫",
"ルルウ"
] | 07_Endless Dungeon | 020901_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "夜。明日の海水浴に関しては、ほぼ全員が了解してくれた。\nラーロンは予定が入っていたのでいない。\n明日は朝も早いし、みんな結構はしゃぐことになるだろうから、準備が出来次第寝てしまおう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なあ、姫",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "うん?どうかしたか紅",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……あたしの胸って、そんなにおかしいか?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……まだ気にしてたのか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あたしなんかより、ノートの方がよっぽど凄いし、オペラさんだって……\nいや、ニコだって、あの小柄な身体の分、比較すると凄いと思わないか?!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ベッドの上にいる俺に思い切り詰め寄りながら、本気で尋ねてくる紅。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だから、別におかしくもなんともないから大丈夫だっ。紅はそれでいいと思うから安心してくれっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本当か!?姫は、あたしの胸を見たいって思ってくれるか!?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "思う、ていうか今だって思ってる!だから自分のベッドにだなあっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "お父さまいらっしゃいますか?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "突然に響いたノックと、外から聞こえてきたリンセの声。それはまさしく、天の助け。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いるから入ってきていいぞっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そして助けてくれ、という思いを込めて、俺は返答した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お邪魔しま~\nあの、失礼した方がいいですか?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "俺と紅の状況を見て、顔を赤らめながら尋ねてくるリンセ。ここに至って、紅はようやく自分のしていることに気がついた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ。い、いやこれは違うんだ忘れてくれっ!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そのまま、後ろにはね跳ぶようにして俺と距離を取る。\n助かった。紅のあの胸は間違いなく凶器だ。思わず手を伸ばしたくなってしまう洗脳兵器だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、どうかしたのかリンセ?その格好、もう寝る準備してたみたいだけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。明日に備えて早めに寝るんだ~って張り切ってたんですけど\n張り切りすぎたのか、今度は全然眠れなくなっちゃいまして",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "えへ、と可愛らしく笑うリンセ。なんていうか、このお茶目さ。実に俺の娘だなあ、と思ってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、ニコとお話しようとしたら、明日の主さまとの貴重な時間を楽しむために拒否します、って言われちゃいまして",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "えーと……俺のところに遊びにきた?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい♪お父さまとお話していれば、きっとあっという間に明日の朝ですっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "それ、徹夜だろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "普通に布団に潜ってジッとしてた方がいいんじゃないか?ちゃんと寝ないと明日辛いぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "それは分かっているんですけど、私のお父さまへの愛が、お父さまの元へ行けと囁くんです\nなのでお父さま、構って下さい♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "って、お、おいリンセ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ベッドの上に座っていた俺の上に、覆い被さろうとしてくるリンセ。未来の俺は、どうやら本当に甘えさせて育てたらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はにゃっ!?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "が、沈み込む布団で思い切りバランスを崩した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "な!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その身体が、まるでボディープレスのように俺の上へと降ってくる。\nその胸が、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うああっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の顔へと降ってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃああっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ノートや紅ほどじゃないにしろ、決して小さいわけじゃないリンセの二つの膨らみ。\nそれが、思い切り俺の顔を押しつぶした。\nゴム鞠のような弾力と柔らかさとが、重力の力を借りて俺の顔へとプレスアタック。\nそれは地獄のような痛みと、天国のような柔らかさとを同時に俺へと与えてくれた。\n肉感のある弾力が二つ、俺の顔を包み込んでいる。これは正直……やばい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、や、お父さまっ、うごか、ないでっ\nひ、きゃうんっ!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "どうにか押しのけようと顔を動かしていたところ、何か突起のようなものをこすってしまった。同時に、リンセの身体がびくん、と震える。\nそして全身の力が抜けてしまったかのように、さらに強く、膨らみが押し付けられた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "んむっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はぁ……お父さま……そんなに私の胸、気に入ってくれたんですか……?\n苦しいんじゃないかなって思って、すぐどくつもりだったんですけど……\nお父さまがお望みなら……いいですよ……\nどうぞ、思う存分好きなだけ楽しんでください……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "その言葉は、まるで魔法の呪文のように俺の脳髄へと入り込み、俺の身体を支配した。\nこんな物体があるんだ。そう思いたくなるほどの柔らかな弾力。それが俺の顔を、全方向から包み込んでくる。\n温かくて気持ちいい。このまま包み込まれていたい。いや、むしろこの固まりを弄びたい。そんな情欲が湧き上がってくる……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ニコには負けますけど、私も中々だと思うんです……\nなんだったら、動きましょうか……?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "って。それ絶対にまずいだろう!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ひゃあっ!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "俺は、理性をフル動員してリンセの身体を押しのけた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そう簡単に、身体を男に預けるんじゃないっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "男にじゃありません。お父さまにです",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "より悪いだろうっ。親子なんだから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "父親を嫌いな娘なんていません♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ニッコリ笑って言い切るリンセ。そりゃまあ、娘に好かれて嫌がる父親はいないだろうよっ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まったく。いいから今日はもう戻って寝なさい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "むう……ちょっぴり不満ではありますが仕方ないです。お父さまにいいことしてもらえましたし、今夜は大人しく引き下がりまーす",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "楽しそうに答えながら、リンセはぴょこん、と床に降り立った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあ、お父さま、紅母さま、お休みなさい\nふふーん。ニコに自慢しちゃおー",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "機嫌よさげに部屋を出て行くリンセを見送り、俺は深く嘆息する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……やっぱり姫はおっぱい星人なんだな……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、いかにも呆れたように言うのはやめてください。今のは本気でやばかったんだ\nむしろ、助けてくれてもよかったんじゃないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "バカを言うな。あそこまで楽しんでいるお父さまを邪魔するほど、あたしは無粋じゃないぞ",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そういう紅の口調は、実に冷たい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でもな、紅。俺は悟ったよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あまり聞きたくないけど聞いておく。何をだ?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "……胸はやっぱり怖いな……。あれは確実に、凶器だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……ほほーう……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "その紅の一言は、氷河期みたいに冷たかった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 020903_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "俺と紅は、あれからリボンを見つけると一緒に砂浜の荷物置場へと戻ってきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ?\nさっきまで姿見えなかったんだけどな。戻ってきて寝ちゃったのか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "カニの入ったバケツがあるぞ。どうやらこれを捕ってたみたいだな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "シートの上で、気持ちよさそうに眠るウルルに、俺達は笑い合う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ?でもカニが捕れる場所って岩場の方じゃあ……?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さっきまで俺達がいた、というかその……いたしてた場所の近辺。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いやいや、もし見られてたならさすがに気配の一つも……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ウルル、周囲に気を遣うタイプだから、こっそり離れたということも……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺達は頷き合うと、その場から退散した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、ちょっと待て、紅。別に俺達がいた岩場とは限らない。反対側にも",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ……確かに。それに向こうの方が岩は多いから、カニとか捕るなら……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ああ。そもそも、もしウルルがあの岩場にいたなら、俺が紅を見つける前に気づいてたはずだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうだな。だったら安心か……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "俺達は、同時に安堵の息を吐いた。と同時に、さっきまでの行為を思い出す、顔を赤らめる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "や、やっぱり少し休まないか?その、今みんなの前に行くのは……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうだな……何かやらかしてしまいそうな気がする……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺達は、再び荷物置場の方へと足を向けた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "って、いつの間に……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "この子も神出鬼没だよなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "数分、といえる時間も経たずに戻ってきた俺達。けれどその場所には、一人竜族が増えていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほんと、幸せそうな寝顔だな……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "そうだな。寝てる時は見た目通りというか……綺麗な少女、ですむんだけれども……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……腹上死とか、その発想がわけわからない……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "ほんと、こうしてる限りは、男が放っておかないだろう美少女、なんだけどなあ……スタイルなんかもいいし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけどさ、こうしてると、やっぱり姉妹だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ああ……どういう理由があるのかは分からないが、姉妹っていうのは本当なんだろうな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "目の前で、一切の警戒無しに眠る二人の竜族。その安らかな寝顔に、俺達は見入ってしまう。\nが、その表情が途端に崩れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……どう思う?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思うも何も……そういう夢を見てるんだろうな、二人揃って……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "どんな夢を見ているのかが、その表情で一目瞭然。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヨダレまで垂らして……美少女台無し……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "夢の中でも捕食されてるのか……",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "この二人、一緒に寝かせたら実は危ないんじゃないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もう勘弁してぇ……",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "竜族だよな、やっぱり……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺達は心の底から納得した。\n強く生きろよ、ウルル。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ウルル",
"姫",
"紅"
] | 07_Endless Dungeon | 021006b_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "あれ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "洗濯物を片付けていたところで出て来た見覚えのないタオルに、俺は思わず首を傾げる。\n薄いピンク色のタオル……俺、こんなタオル持ってなかったよなぁ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、リンセのかっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう迷っていたところで思い出した。この前の訓練の最中に、リンセが貸してくれたんだ。それを洗っておいたんだった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "このままにしておくと、また忘れかねないしな。今のうちに返しておこうか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺はタオルを手に取ると、そのまま部屋を後にした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……と思ったはいいけれど……リンセの部屋ってどこだったっけか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さすがに新入生達の階には滅多に降りないからなあ。ここはあくまでも女子寮。好き勝手に歩き回るのはさすがにはばかられる。\nそれに、在校生達は俺のことをもう分かってくれてるけれど、新入生はほとんどが俺をまだよく思ってくれてない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "主さま、どうかしましたか?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ああ、ニコか。や、リンセに借りてたタオルを返そうかと思ってたんだけれど、部屋の場所を忘れてさ\nニコこそ、こんな所でどうかしたのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。丁度ヴェル姫の部屋に用があったので。なんでしたら、ニコの方から返しておきますけれど",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "いや、お礼も言っておきたいし直接返すよ。なんで、部屋まで案内してもらえると助かる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい。それはもう喜んで……ただその、主さまをお迎えできるようなものが何もないので……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ああ、そういうのは気にしないでいいよ。頼む",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "わ、分かりましたっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "恐れ多いとばかりに恐縮するニコに連れられて、俺は下の階へと降りていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここになります",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコに案内されて入った部屋は、当然ながら俺達の部屋と同じ作りだ。\n女の子の部屋だし、あまり見回すのも失礼だな、と視線を戻したところで俺は固まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "リ、リンセ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すぴー……すぴー……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ああ、寝ちゃってるのか?いくら元気なリンセでも、あれだけ集中して特訓してればな\n……にしても、なんでこんな格好!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "着替え中に眠ってしまったようですね……主さまの前ではしたない\n女性としてもありえない格好です。これでは、服がシワになってしまいますから",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "い、いや、そういう問題じゃあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "思い切り着崩れた服の合間から、これでもかと見える全身の下着。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、出直した方がよさそうだなこれは……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんというか、さすがに目のやりどころに困ってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの、大変申し訳ないのですが",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "実は、これからヴェル姫の部屋に急いで持っていかないといけないものがありまして。リンセの服を脱がせてあげてもらえますか",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "え……俺が?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。主さまでしたら、リンセも嫌がらないと思います",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "い、いや、さすがに女の子の服を……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すみません。それではよろしくお願いします",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺の話を最後まで聞くこともなく、ニコは部屋から去っていってしまった。当然のことながら、残されたのは俺一人。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……さすがにこれはまずいんじゃないか……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "このまま何もしないで逃げてしまう、というのも……いや、それだとニコからの頼みを無視した、ってことに……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あーくそ、もうヤケだ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "娘の服を脱がせて楽にしてやるだけだ!まずい点なんて何もない!そう、リンセは娘だ!娘なんだ!!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "と言い聞かせながら脱がせてみたけど、実は娘の方がやばいんじゃあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんとかここまでは脱がせた。ていうか、これだけ脱がせれば充分だよな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……お父さま……もっと……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……とんでもないタイミングで、とんでもないこと言い出すな、この子は……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なまじ容姿が抜群なだけに、思わずドキっとしてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちゃんと寝てるんだろうな、おい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すぴー……すぴゃー……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……可愛い容姿にあるまじき寝息だな、おい……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "とりあえず、あとは上に何かかけて……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……んみゃ……?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "その上に毛布をかけてやろうとした瞬間、突然にリンセのまぶたが揺らいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うみゅ……おとうさま……?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "まだ明らかな寝ぼけ眼で俺を見上げるリンセ。\n部屋には二人きり。無防備な美少女を下着姿にまで脱がせた男。かけてやろうと毛布を手に=毛布を剥いだ瞬間に見える。\nこれ、明らかにやばいのでは……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えっと……んにゅう……あれ……?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "幸いというか、リンセはまだ目覚めたとは言い難い。ここは申し訳ないけれども……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お休み、リンセ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は心の中でリンセに謝りつつ、その場から全速力で逃げ出した。\nリンセが、俺の存在を夢だと思い込んでくれることを祈りつつ……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ニコ",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 021103_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "……大丈夫か、ヴェル?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うううう……全然大丈夫じゃない……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "放課後、様子を見に訪れた学園長室で、ヴェルは白旗をあげていた。\n学園長用の立派な机に全力で突っ伏しながら、ヴェルは今にも死にそうな声で言った。\nその頭からは、ぷすぷすと立ち上る煙が見えるようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "迷宮試験のルールを変えたせいで、試験で使用する迷宮の管理や、解き放つモンスターのレベルと量など、全部一からやり直しになりましたからね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ああー……それは確かに厳しいな。モンスターが強すぎると一階級の生徒が対応できないし、弱すぎると三階級に有利になりすぎる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "迷宮のトラップも、複雑すぎると対応できなくなるし……もういっそのこと、全部ヒメを起点にして考えようかしら",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "姫先輩を前提で考えると、全生徒の八割は対応できないトラップ地獄になりますよ。まあ、それはそれで自滅してくれそうで楽になりますが\nフォンの目標は、あくまで姫先輩を一位にさせることですし",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "むう……本当なら、私の仕事なのよ、それ……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "いいじゃないですか。ヴェルさまはその分、ノートさんとの戦いに勝つことで素敵な一夜が過ごせるんです。できることならフォンだって……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "えっと……あの条件、やっぱりないとダメ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ダメよ!ないならヒメのパーティーとして、私試験参加するから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ですよねえ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ここまで学園全体で盛り上がっちゃったイベントを、俺が原因で潰すわけにはいかないしなあ……。\nいやまあ、ヴェルでもノートでも、ああいうことを出来るとなれば、男としては願ったり叶ったりではあるんですが……。\nなんか、また変な噂とかが広まっちゃいそうでなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず、現状で用意できるモンスターはリストアップしてありますから、この中からどれを、どう配置するか、を決めてしまって下さい",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "簡単に言ってくれるけど、何種類いるのよ、そのリスト",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あまりに強すぎるものと弱すぎるもの、特殊すぎる攻撃方法を持つものは省いてありますから、128種類です\nレベルだけではなく、その能力によってはレベル以上の強さを持つ場合がありますから、そちらもちゃんと考えて下さいね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "……えっと、今からでも試験の方、階級別に戻すっていうのは……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "やってもいいですけど、生徒からの苦情処理はヴェルさまがやって下さいね。場合によっては魔族そのものの評判を落としますから、適当はダメですよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "母さま、本当にこんな仕事やってたわけー!?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "トリアさま、ああ見えて実務面も優秀ですから",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あー、もう、いいわよ!やってやろうじゃない!いざとなったら私とノートで助けにいけばいいだけよ!!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はい、そうです。ちなみに、フォンは姫先輩とぬっくぬくデートの最中ですから呼ばないで下さいね♪\n大丈夫ですよ、姫先輩。モンスターなんかは全部フォンが瞬殺で撃退しますから♪",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あはは……いや、ほんと頼もしいんだけどさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "竜魔の紅刃がボディガードとか、安心感は半端無いんだけども、頼り切りたくはないなあ、やっぱり。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "できれば、俺にもちゃんと戦わせてくれよ。どうしても勝てない相手にはともかく、通常の試験で女の子だけに戦わせるっていうのはやっぱり嫌だしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "フォンのことを姫先輩が守ってくれるんですねっ。フォンを守ってくれる男の人なんて姫先輩だけですから\n姫先輩は、フォンにとっての白馬の王子さまですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "……うっとり笑顔でなにバカ言ってるのかしら、この死神さまは。守られるどころか血の海に沈める側でしょうに",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルさま、ご自分がバカ魔力好き放題されてるからといって、他のか弱い女性までが同じと思わない方がいいですよ",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "バカ魔力言うなあ!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ああほら、ヴェルもフォンもストップだ。それよりも、迷宮試験の準備が優先だろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "むきゅう……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ふう……姫先輩が言うのでしたらしかたありませんね。フォンもお手伝いしますので、モンスターの種類だけでも決めてしまいましょう",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "かくて俺達は、それぞれが持つモンスターの知識を教え合いつつ、大量のモンスターリストと格闘を始めた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"フォン",
"ヴェル"
] | 07_Endless Dungeon | 021201_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "お父さまっ、お迎えにあがりました♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "満面の笑顔と共にいきなりの強襲をしかけてきたリンセは、唐突にそんなことを言い出していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……お迎え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あー、もう、忘れた、なんて言わせませんよ。一緒にお風呂に入ってくれる約束じゃないですか",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……姫。随分と素敵な約束だな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "あ、紅母さまは今回は遠慮して下さいね。父と娘の親子風呂なんです",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "なるほど、姫、また押し切られたな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "呆れたとばかりにジト目で俺を見る紅に、俺はご名答、とばかりに苦笑した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "忘れてはいないけれど……いくらなんでも昨日の今日すぎないか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "善は急げ、思い立ったが吉日、旨い物は宵に食え、お好きな言葉をどうぞ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ああ……分かった。リンセは考えるよりも先に身体が動くタイプなんだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "むしろ、欲望に身を任せるタイプです",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ニコニコと笑顔を浮かべながら言うリンセ。それはあまりいい意味じゃないんじゃないかと思うんだがどうだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず、分かった。まあ、約束は約束だしな……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言っておくけどな、姫。一線は越えるなよ?",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "いや、リンセは娘だぞ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あたしの知ってる可愛い子に、カミシアっていう子がいるんだけどな",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "理性をフル活動してこらえてみせます",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、逃げるようにリンセと部屋を後にした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まさかこの歳で、あんなに成長した娘と風呂に入ることになるとはなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は湯船の中で呟きながら、そっと入り口の方へと視線をやった。\nさすがに脱いでる最中に目が合うのは避けたいところ。俺は先に入ってるとだけ残して、全速力で浴場内へと逃走していた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お父さま、お待たせしました",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "カラリ、と小さな音を立てて扉が開く。その中からは、一糸まとわぬ姿のリンセが現れる。\nその姿に、一瞬見とれかけてしまったものの、俺は慌てて自分を叱咤し我に返った。慌てて視線を逸らし難を逃れる。\nリンセは手早く髪をまとめると、洗い場へと向かっていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……思ってた以上にやばいかもしれない……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "考えてみれば、あの四人の遺伝子を受け継いでるわけで。綺麗なのは当然なんだよな。\nとりあえず、出来るだけ考えないように、見ないようにの精神で頑張ろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "失礼しまーす",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "それから少しして、そんな陽気な声と共にリンセは湯船の中へと身体を沈めた。\n俺の目の前の位置に、ニコニコと、心から楽しそうな笑顔で。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "完全に貸し切り状態ですね、ひろびろです。お父さまは、いつもこんな貸し切り状態なんですか?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "あ、ああ……この時間まで入れない分、広々と堪能させてもらってる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、ですよね。どんなに疲れてても、この時間まで待たないといけないのは、やっぱり厳しいかもです",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "リンセが楽しげに身体を揺らす度、その膨らみも揺れて水面に波紋が生まれる。\nタオルすら使わず、少しも身を隠そうとしないリンセ。\nそのスタイルはもちろんだけれど、水滴をまとって輝く銀色の髪に、滑らかな白い肌。本当に彫刻のような造形美だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だけど、今日はこの時間まで待った甲斐がありました。お父さまと、こうして裸のお付き合いができたわけですから",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "他の男子に知られたら、集中砲火を食らうの覚悟の状況だけどな……\nいや、女子でも同じか。何を言われるか分からん……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "本当に本物の、裸のお付き合いですね",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "普通、男女の間では使われない言葉なんだけどな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、ビックリしました。お父さまの身体、想像以上にたくましいんですね",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "まあ、それなりには鍛えてるしな。俺の場合、魔法の強化もないから、身体能力が頼みの綱だし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あのあの、触ってもいいですか?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……少しだけな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の身体に触れようと身を乗り出してくるリンセ。破壊力の高すぎるその胸の部分から目を逸らし、俺は自分の理性を保つ。\nリンセの手のひらが、そっと俺の胸へと触れた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うわぁ……カチコチです。これがお父さまの身体なんですね……私とは全然べつもの",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "俺の、っていうよりは、男の身体、かなあ。男と女じゃまったく構造違うしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっぱりいいですね。こういうたくましさって、憧れます\nあ、すみません。ずっと触りっぱなしで……\nえっと、代わりにお父さまも触ってみますか?私の",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "こら、わざと言ってるだろう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんなことはないですよ。ただお父さまに、こんな風に成長しました、って知ってほしいだけです\nお父さまとお母さまたち、それにみんなの愛の結晶、それこそが私ですから。どれだけ立派になったか、ちゃんと見てもらわないと",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "リンセの立派は全体的な成長のことを言ってる……んだと思うんだが、これだとその……胸の成長、としか聞こえないよなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "結構頑張って手入れもしているんですよ。どうでしょう?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "リンセ……とりあえず、若い女の子がその裸を若い男に対して隠そうともせずに晒している状況を頭の中で考えてみようか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うう……いやらしいです。女の子たるもの、もっと自分を大事にしないといけません",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "あー、うん。じゃあ次に、その女の子をリンセ本人だったとしてみよう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "かわいそうな男性ですね。一秒後にはお亡くなりになってます♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……まったく躊躇無し、ですか。\nが、そんなリンセが、唐突に恥ずかしそうに顔を赤らめた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "で、でもですよ、その相手がお父さまだったら、って考えたら……な、なんかちょっと恥ずかしくなってきちゃいました",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "予想外ではあるけれど、それはこちらの狙った方向。ぜひともそのまま、恥じらいを持っていただきたい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "当然だろ。男に対して隠さず見せてるんだから",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そうですよね……お父さまも男の人で……それもかっこよくって優しくて強くて頼れる男の人で……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "そうだ。その調子でちょっと慎みを持って……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あの、私、お父さまになら捧げられますよ!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "そっちにいくなっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "結局、行って欲しかった方角とはまったく違う場所へ着地したらしいリンセ。将来のためにも、リンセには父親に対する正しい考えを持ってほしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "リンセは娘ではあっても子供じゃないからな。父親相手にだって見せるもんじゃないぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですよねぇ……お父さまも男の人で……いえ、むしろお父さまが男の人で!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "まあ、それでも少しは理解できたんじゃないか。俺だって男なんだって、ことだよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でも、男の人はお父さまじゃありませんよ?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "うわ、そうきたかー",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さて、俺はこの子にどうやって何を説明してあげればいいんでしょうか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "見たい場所があれば言ってくださいね。恥ずかしいですけど……お父さまも男の人なんだって思えば当然のことですもんね\nガマン、できます……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "はにかむような可愛らしい笑顔で、こちらの頭がのぼせてしまいそうなことを言うリンセ。\n……すみません。男として、今反応してしまってます……。\n最初から、俺が一番だ、俺より上の男はいない、そう聞かされ続けて成長してしまったリンセは、完膚無きまでに最強無敵のお父さん子になってしまったようだ。\nさて、これからどうするか。\n正直、男としてはこのままリンセを見ていたい、とも思ってしまうわけで。けれども、理性は当然それを引き止めている。\nもう一緒には入ったし、さっさと上がってしまえばいいんだが……男として、今はそれができない事情もある。主に生理的理由により。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちなみに、お父さまは私の身体、見たいって思ってくれます?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "当たり前だろ……ただでさえお前は可愛いわけだし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへ。お父さまに見たいと言ってもらえるなら、よかった。お父さまに見せるために、今まで磨いてきたんですから\nふう……でも、結構長湯しちゃいましたね。私はそろそろ限界かも",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "正直、緊張でどれくらい時間が過ぎたのかなんてまったく分からないが、言われてみればもう結構経ってる気もする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お父さまはどうしますか?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "あ、ああ。俺はもう少し入っていくから……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やっぱり、長風呂なんですね。あんまり長すぎるとのぼせちゃいますよ\nそれじゃあ、私はお先に上がります。また一緒に入ってくださいね",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "リンセは可愛らしい笑顔を残し、湯から上がると軽い足取りで出て行った。\n湯から上がる際に、ちょっと危険なものが見えてしまったことは言わないでおこう……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まあ、俺も結構限界なんですがね……これが静まってくれないことには……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "大きく成長しきった自分自身に、俺は深く嘆息した。\nいくら同年代の凄い美少女とはいえ、娘相手に……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……とはいえ、あんなのずっと見せられて無節操って言うのも可愛そうだよなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、湯船の中に全身を投げ出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "男っていうのも辛いよなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あー……なんだろう、意識が……遠く……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 021302_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "夕食も終わり、のんびりとした時間。俺はリンセとの約束通り、部屋の前へと訪れていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "リンセ、俺だ。いるか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノックと共に名乗った瞬間、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ほら、お父さま来ちゃいましたよ!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "で、ですから無理ですこんなのっ。絶対似合いません!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "室内から、ドタバタと慌ただしい声が聞こえてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あー、それは私に対する挑戦?別に変なものじゃないでしょ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "着る人間の差を考えて下さいっ。ニコですよ!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "うん。ニコだもん、可愛いよね♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "扉の中から聞こえる二人のやり取りに、俺は完全に固まっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーと……これはさすがに今入ったりしたらまずいよなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それから待つこと五分少々、ようやく決着がついたのか、室内が静かになる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えへへー、すみませんお父さま。大変お待たせいたしました",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "そして、中から申し訳なさげな苦笑を浮かべたリンセが姿を見せた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もしかして、もう寝る準備してたのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あ、いえいえ。この格好にはちょっとした訳がありまして。さささ、まずは中へとどうぞどうぞ~",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "俺はリンセに押されるようにして、部屋の中へと通される。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あの……これはつまり、ですね……あううぅ……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そしてそこには、真っ赤になったニコの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふっふーん。いかがでしょうか。とってもおいしそうに仕込んでみました",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "なるほど、リンセの服を着せてみたのか。うん、よく似合ってる。可愛いよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そうでしょうか……ありがとうございます……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "お礼を言いながらも、恥ずかしさからか更に小さくなってしまうニコ。本当にこの子は、もう少し自分に自信を持っていいと思うんだが。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、さすがにちょっとだぶだぶだな。そこがまた可愛いけど",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい。ニコとリンセでは身長差がどうしても……でも胸のところはちょっと苦しいんですが……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "うううう……お約束とはいえその返しはやっぱり胸に突き刺さります。ちっちゃいくせにおっきいとか、ニコのずるっこー",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "そ、そう言われてもですね……大きいといってもいいことなんてないんですよ。肩は……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "はいそこまで!使い古された理由はもう結構です。素直に神に選ばれたことを喜んで下さい。でないと余計に腹が立ってお腹が空きます",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "なるほど。リンセは食べることでストレスを発散するタイプか。にしては、よくこんなスタイル維持できるな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、それで主さま?何かお話があると聞かされたんですが、ニコに何かご用でしょうか?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "なるほど、そういう風に言ってあるのか。確かにこっちから持ち出さないと、絶対に自分から甘えてきたりはしないだろうしな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、単純に俺が、ちょっとニコと話をしたくなっただけだよ。あのデート以来、あまりニコとの接触がなかったからさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまり、ニコともっといちゃいちゃえろえろしたい、ってことですねっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "リンセッ、いくらなんでも主さまがそんな",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "まあ、そんなところかな。エロエロは言い過ぎとしても",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えええええええええええええええええ!?\nで、ですが主さま?あの、昨夜は……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "いや、昨日のあれは行き過ぎというか……軽いスキンシップだったら望むところだぞ。たとえば……そうだな、抱っことか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "想像したのか、ぼんっ、と音を立ててニコの顔が赤く染まった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、それはダメですっ。ニコはあくまで従者ですから",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "あれ?でもこの前、海行った時のこと話したら、すっごい羨ましそうな顔してたよね。お父さまの上に座った、ってやつ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "なに言っちゃっているんですかぁっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "なるほどなるほど。よーし、そういうことがあるなら実践といこうか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃあっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺は素早くニコの手を取ると、そのまま引っ張りながらベッドの上へ腰を下ろした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ああ……主さまの腕の中……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "うん、可愛いなあ、ニコは",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "片手でしっかりとニコを抱き寄せながら、もう片手でその頭、というか耳の部分を撫でてやる。うん、凄い気持ちいいなあ、この手触り。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あのあの……寄りかかってしまって、重く、ないですか……?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "全然。やっぱり女の子だよなーって感じに軽いから、もっと遠慮無く身体を預けていいよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "恐れ多いとでも思っているのか、今一つ俺に体重をかけてこない。でも俺としては、もっと大胆に甘えてほしいなあ、と思う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "は、はい……それでは失礼して……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そう言いながら、ぎこちなく寄りかかってくるニコ。柔らかい重みが伝わってくる。\n恥ずかしそうにモジモジとしているその指の動きが見ていて愛らしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ちなみに私はその状態で、おっぱいの成長を確かめてもらいました。お父さまの手で",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "はわっ!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "リンセの衝撃自白に、ニコは驚きの声をあげた。\nうん、そういう声すら可愛いな、この子は。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お父さまの手はとても優しく私の胸を包み込んでくれて……思わず声に出してしまうほど気持ち良かったです……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "はわっ、はわっ、はわっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "一応言っておくけど、俺は断ったぞ。リンセが強引に揉ませたんだ\n力で押さえ込んで離してくれなかったしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でも、気持ち良かったですよね。お父さま、反応してくれてましたし",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ははは、反応!?はわわわわ~っ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺も男なので、理性に限界はあるんです……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あれは、俺の人生でもトップ五にはいる失敗だった……。\nとはいえ、娘とはいえど現実にはまだ生まれておらず、その成長過程すら見ていないわけで。俺からすれば、いきなりやってきた美少女なわけです。\n多少のことはその……仕方ない、と思ってほしいなあ……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "わ、わわわ分かりましたっ。主さまがお望みでしたら、ニ、ニコの胸もぜひにっ\nお、お粗末ではありますがっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "お父さまっ、ニコがケンカ売ってきます!",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "さ、さあどうぞっ。力の限りに揉みしだいて下さい!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "いや、昨日も言ったけどな、女の子なんだからそういうことはやめなさい\nニコに言われたら大半の男は暴走機関車になるからな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ですが、あのっ、男の人というものは女にそういうことを求めるものですよね……?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "まあ、男と女としてはな……\nでもまあ、今はそれよりも、親と娘、みたいな感じで甘えてほしい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "娘だなんて、それこそ恐れ多いっ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "よーし、だったら俺が勝手に娘として可愛がろう。ほーら",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しっかりと抱きしめながら、その頭を更に優しく撫でてやる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふわっ、わ、わうっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "気持ちいいのか、それに合わせてこぼれる声とピクピク動く耳が本当に可愛い。\n……うん、これはまずい。本当に娘に欲しくなってきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どうだ、ニコ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい……すごく、気持ちいいです……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "その身体から力が抜けて、嬉しそうに答えてくれるニコ。俺も、ニコとこうしていられることがすごく気持ちいい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "むむ……お父さま、私の時はそんなに優しくなかったですよ?",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "あの時は、お前が無理やり胸触らせたりして、そういう方向に持ってけなくしたからだろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "し、仕方ないですよっ。娘は父親に女になっていることを知ってほしい存在なんですっ\nニコ、少しでいいから変わってくださーいっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ダメです。主さま分の補給がまだ終わってませんから\nはふぅ……ニコ、今とてつもないほどに幸せです……\nあ、あの、もっとぎゅってしてもらっていいですか……?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ああ……うん、ニコはあったかいなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "主さまこそです……えへへ……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "あ、あの、ニコちゃん?その、五分でいいのでちょっと交替を……",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "それじゃあ、ニコの膝の上ならいいですよ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "何か根本的に違うーっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "そんな二人のやり取りに、自然と俺も笑ってしまう。うん、やっぱり仲いいなあ、この二人は。\nお互いが自然体でお互いを気遣ってるのがよく分かる。\n俺は、そんな二人のやり取りを楽しみながら、それから少しの時間を過ごした。\nこれで少しでもニコが甘え方を分かってくれたなら嬉しい。そう思いながら。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ニコ",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 021702_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "これといった事も無く終わった一日の放課後。俺は、おねだりモードに入ったカミシアに敗北し、広場で屋台巡りをさせられていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "パパー、わたし、あんず飴ごしょもー",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "パパー、私、わたあめー",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "カミシアさん、モノマネどころか同じなんだからやめなさい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへ。結構面白いでしょ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "パパ、パパ、わたし、似てた?",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "ああ、似てたぞ。そっくりすぎて、同一人物かと思っちゃったくらいだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "わーい、やったぁ\n大成功だね、お姉ちゃん",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "言った通りだろう。パパは絶対に喜んでくれると思ったのだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアがこの世界の住人として定着したため、以前とは違い、シャルとも普通に会うことが出来るようになった。\n元々同一人物なせいか、二人は顔合わせと同時に仲良くなり、今ではこうしてサラウンド攻撃で俺を攻めてくる。\nちなみに、カミシアは最初に呼ばれた『お姉ちゃん』が余程気に入ったらしく、以後はその呼び名をずっと使わせている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お姉ちゃん、一つ取り替えっこしよ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "賛成だ。二種類の味が楽しめて非常に合理的だからな",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "でもまあ、この二人が同一人物というのは、結構衝撃だったりもする。\nカミシア……どれだけ辛い出来事がお前にあったんだ?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ねえパパ。今日はママたちはいないの?",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "ああ。今日は呼ぶ暇もなく連れて来られたからな。はは、後で言い訳が大変だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふふ~ん。私が、パパ独占のために引っ張ってきたからな。今日は私たちがパパを独占する日なのだ",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "わあ~っ。わたしたちが独占なんだ。それはとっても素敵です♪\nパパ、だっこ希望です。えへへ",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "喜びを前面に放ちながら、抱きついてくるシャル。俺はそれに笑顔で応えると、抱き上げた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……まあ、たまにはいいか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "とりあえず、どう言い訳するかは後で考えるとして、今は二人との時間を大切にしよう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うん。そんなパパはとっても大好きだよ♪",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "満面の笑顔で同じように抱きついてくるカミシア。普段大人びた姿を見せてるカミシアのこんな姿は、俺としてもつい顔をほころばせてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そもそも、パパはママたちと比べて、私たち娘へのサービスが足りないって思うの",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そ、そうか?俺としては結構平等にしてるいつもりなんだけど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の返答に、カミシアは木の実をためこんだリスみたいに、頬を膨らました。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "む~。だってパパ、あれから一度もしてくれない。ママたちとは何度かしてるの知ってるもん",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "って、そっちのサービス!?",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いや、ほら、カミシアは小柄だから、その……あんまり無理をさせたくないっていうか……\n壊れちゃいそうだなとか、痛いんじゃないかとか考えちゃってだなあ……\nも、もう少し成長したらな、うん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "うう……ちっちゃいのは確かだし仕方ないかなぁ……\n約束だからね、パパ。私がちゃんと成長したら、その時はもう三日間くらい寝かせないんだから\nって、成長しないよ私!",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "ち、気づかれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ねえ、お姉ちゃん。パパ、何かしてくれるの?",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "純粋な瞳で、そう尋ねるシャル。うん、こういう反応はやっぱり可愛くていいな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "うむ。パパの激しくいきり立った肉棒を、私たちの……",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "そこ!!本気で艶めかしい説明するんじゃなーい!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "パパー。わたしもパパの、にくどれー、にしてー",
"speaker": "シャル"
},
{
"utterance": "って、これはシャレにならないんじゃないですか、カミシアさん!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "えへ♪",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "にっこり笑うカミシア。その笑顔は何度見ても、やっぱりシャルだった。\n……中身はちょっと……すれ違った……?",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"カミシア",
"シャル"
] | 07_Endless Dungeon | 021801_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "放課後、早々に帰ってきたニコは、一人部屋のベッドの上で横になっていた。\nそっと下腹部のあたりへと手を添える。痛みはとっくにない。けれど、まだ中に姫がいるかのような、そんな感じがする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "昨日の主さまの……はうぅっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そして、激しく声を荒らげていた自分を思い出し、ニコはその場にうずくまった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あうう……ニコは主さまになんていうことを望んでしまったんでしょうか……\nと、とにかく着替えを……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "いつもの通りにかけられている私服へと手を伸ばし、けれどそこで、隣にかけられているものにニコの視線が吸い寄せられた。\n昨日、着させてもらったリンセの服。\n自分には、こんなヒラヒラした可愛らしいタイプの服は似合わない、そう思っていた。けれど昨日、そんな自分を姫が褒めてくれた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "似合ってるって、言ってくれました……可愛いって……\nそういえば、結局自分ではよく見てなかったですね。恥ずかしさに負けてしまって……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "周囲を見回してみる。リンセはいない。制服もかけられていないということは、まだ戻ってきてないということだろう。\n今なら、いける。ニコは伸ばしていた手を、そっと横へスライドさせた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……やっぱりちょっと気恥ずかしいものがありますね……胸も、ちょっと苦しいです",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "姿見に映る自分の姿を、ニコは改めて見る。サイズ的なものはこの際仕方ないとして、落ち着いて見てみれば、確かにそこまで合っていなくもない気がする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "で、ですが……思っていたよりは似合ってる、のかもしれません……\nそれに、主さまの言葉を信じるのは、ニコにとって当然のこと。ならあの、可愛い、という言葉も……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "リンセだったら、この服を着てどんなポーズをするだろう……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃん♪",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "今の自分が考えられる、思い切り可愛らしいポーズをとってみる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えへ♪\nうふふ♪",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "もしこんな感じで迫ったら、姫はどう答えてくれるだろう。また、耳を撫でてくれるだろうか……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあぁ……主さまぁ……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "昨夜、優しく、けれど激しく愛された。その力強さとを思い出す。自分の中を貫いた、確かな愛情を思い出す。\nもしかしたら、また愛してもらえるかもしれない。いや、そこまではいかなくとも、ナデナデくらいは……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あぁ……本当に素敵でした、主さま……\nあんな素敵な感覚が、ニコの中にあっただなんて……\nうふ……うふふ……うふふふふ……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "それでそれで、ニコはどこをどうされて一番喜んだんですかっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "丁度、一人での下校時にリンセに捕まった俺は、昨夜のことをこうしてずっと聞かれ続けている。\n他の人に言うようなことじゃない、とはね除けてはいるのだけれど、リンセは全然諦めてくれないので、正直困りものだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いや、だからこういう場所でそういうことはだなあ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "むむぅ……しかたありませんね。さすがお父さま、女の子のそういうところはきっちり守ってあげるところ、更に高評価です\nならば仕方ありません。本人の許可があれば問題ないということで、私たちの部屋でバッチリたっぷりねっとり聞かせていただきますっ",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "お前、そういうところ間違いなくオペラさんの影響受けてるだろう……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は諦めの溜息をつきながら、仕方なくリンセの後を着いていく。まあ、ニコがOKを出すわけもないしな。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "というわけで、お父さまと一緒にただいま帰還しましたよー",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ニコ=テンプルです、ニコちゃんって呼んで下さいね、えへ♪",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "……………………えと…………",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "……………………あー…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?主……さまと、リンセ……?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "…………",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "…………",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺達三人の時間が、確かに止まっていた。\n何を言うべきか、いや、この場合は言ってあげるべきか、だろうか。正直、分からない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……えーっと……\nただいま、ニコちゃん♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "はにゃにゃにゃにゃにゃにゃあああああああ!!\nち、違うんです!これは、あの、ですから、うにゃあ!!\nこれはその、だからつまり、えっとえっと、そ、そう、たまたま着てみたくなって、着てみたら思ったよりも可愛いにゃん♪って\nって、これじゃあ自爆じゃないですかああっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "大丈夫ですよ、分かってるから。ね、ニコちゃん♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "や、やめてください、お願いっ。それなし、やっぱなしっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "恥ずかしがる必要なんてないですよ、ニコちゃん♪お父さま、ニコちゃん可愛いですよね♪ばっちぐー、ですよニコちゃん♪",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "ひいいいいいいいいいいっ!!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "……いや、あんまりいじめてやるなよ、リンセ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "リンセの、心から楽しげなニコいじめは、それからしばらく続いた……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ニコ",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 021802_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "はい、こちらお待たせしました。あ、紅茶のお代わりですね、少々お待ち下さいませ\nあ、今こちらのテーブル片付けますから、ほんの少々お待ち下さい",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "夕飯を求めてきた生徒達で賑わう寮の食堂。ルルウはいつも通りにメイド姿で張り切っている。\nウルルの胸の中で、本当に枯れ果てるまで、という言葉が似合うくらいに泣き続けたルルウ。\nそこから寮へと戻ってくると、早速こうして働いている。\nテキパキと、いつも以上に率先して動いているのは、その方が気が紛れるから、なのかもしれない。\n食堂中を回って、そのほぼ全員から仕事を貰い、すべてに応えて動き回っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "にいさま\nルルウちゃんの悲しいのを受け止めるのは、家族であるウルルの役目です\nでも、その先はにいさまにお任せします\nゲンさんの気持ちを受け継いだにいさまにしかできないことだって、ウルルはそう信じてますから",
"speaker": "ウルル"
},
{
"utterance": "丘の上からの帰り際、ウルルに言われたことが頭をよぎる。\n今のルルウにとって、俺はどういう存在に見えているだろう。\n方法はどうあれ、まだ殺したいと思っているのか。殺す必要もない、ただの男と思っているのか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……それでも、ルルウにとってそれをしてやれるのは、あの人の意思を託された俺しかいない、か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "やがて、食堂内の生徒の姿も減り、その仕事も落ち着いてきたためかルルウはキッチンの奥の方へと姿を消した。\nそして。それから少しして、私服姿になったルルウが再び姿を見せる。なるほど、今日の仕事を終えて着替えてきたのか。\nルルウは、そのままキッチンにいる人達に挨拶をすると、俺の存在に気づくこともなく食堂から出ていった。その背中には、やっぱり、何か寂しさのようなものが見える。\n……やっぱり、このままっていうのはイヤだな……。\n俺は、ルルウを追って、食堂を後にした。\nルルウは、夜空の下にいた。\n丘にいた時と同じように、ただ黙って星空を見上げている。\n俺は、何かを言うでもなく、その隣に並び立った。そのまま、静かに空を見上げる。\n言葉はいらないと思った。ただ隣に、この同じ場所にさえいればいい、そんな気がした。\n静寂が支配する夜の帳の中で、それでも確かに、想いを持って立ち続ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ありがとうございます……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "不意に、そんな言葉が聞こえた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺は、ただここにいるだけだよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それでも……ありがとうございます",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "そっと俺に寄り添いながら、ルルウが笑ったのが分かった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの人は、ゲンくんは、決してルルを娘と呼んではくれませんでした\nそれは、ルルにはちゃんと本当のお父さまがいるからで……自分がその場所に収まってはいけないからだって、だから俺を父と呼ぶなって、ずっとそう言っていて\nなのに、ルルを見る目は紛れもない、娘を見る父親の目で……\nだからルルも、決してお父さまとは呼びませんでしたけれど……それでも、娘としてあの人を見続けていました\n誰に何を言われようとも、ルルにとってあの人はもう一人のお父さま……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "ルルウが、俺の袖をきゅっと握った。視線を送れば、その瞳が真っ直ぐに俺を見て、俺を求めていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今晩だけ……本当に甘えてはいけませんか?ぽっかりと空いてしまったルルの中に、土足で入ってきてはいただけませんか?",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "俺は、ゲンさんの代わりにはなれないよ。あくまでも白鷺姫でしかない\nそれでも、いいのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あなたしか、入れないんです",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "一人の少女として、俺を見つめるルルウ。その瞳には、ゲンさんではなく、間違いなく俺の姿が映っていた。\nゲンさんの代わりとしてでなく、白鷺姫という一人の男として、俺を求めている。\n必要なのは勇者ゲンでなく、白鷺姫という存在でいいというなら。\nそれが、寂しさを埋めるピースになれるなら。\n俺は確かに頷いていた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルルウ",
"ウルル",
"姫"
] | 07_Endless Dungeon | 021904_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "あ……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "朝、食堂へ向かおうとしたところでバッタリとルルウに出会った。\n昨夜のことを思い出してか、その顔がぼん、と赤く染まるのが分かる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーと、その、おはよう",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "は、はい……おはようございます",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "身体の方、大丈夫か?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その……まだちょっとジンジンとしていまして……姫くんが、中にいらっしゃるような感じが……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "すみません。もっと優しくするべきでした……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "い、いえ……激しく、とお願いしたのはルルですので……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "恥ずかしそうに、それでも笑みを浮かべるルルウ。その笑顔に、もう大丈夫そうだな、と俺は納得する。\nそんな俺を察したのか、ルルウは小さく頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "その……すみません。今日一日だけ、まだ自分の中にこもらせて下さい……\nそうすればきっと……大丈夫ですから。あの人はいなくなっても、あの人の意思を継いだ人がルルを見てくれてるって……分かってるから……",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "少し潤んだような瞳でルルウが俺を見る。俺も、そんなルルウの瞳をしっかりと受け止めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、お二人とも、される場所と時間は考えた方がいいですよ",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "ミ、ミヤちゃんっ!?",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "ミヤ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "不意に現れたその姿に、俺達は同時に声をあげた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええと……それはいったいなんのことで……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ルルちゃんを気にしていたのは白鷺くんだけじゃないっていうことです\nこれでも、勇者ゲンの娘、なんですよ、私は",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "心配、してくれてたんですか……?",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "当然です。こちらの世界で再会してから、ずっと何かを考えていたみたいですし",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "ごめんなさい、ミヤちゃん。でももう大丈夫ですから",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "そう言って見せるルルウの笑顔に、昨日見た寂しさはもうなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "みたいですね。さすがは白鷺くん、と言うべきなのかもしれませんが……\n一応、音がもれないように結界は張っておきましたけれど、もう少し注意はした方がいいですよ",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "ええっと、ミヤさん?その……昨夜の俺とルルウに気づいてたりしました……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "引きつりながら尋ねる俺に、ミヤは呆れたとばかりに溜息をつく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "気づいたのが私だったから良かったですけれど、カミシアちゃんだったりしたら、確実に他の人も呼んで見学してますから",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "それは、あまりに容易に想像できた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、あうう……そ、それではルルは失礼しますっ",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "そして、その空気に耐えかねたのか、ルルウはダッシュでその場から消え去っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……あの様子なら、大丈夫そう、かな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね。まあそうなった場合……頑張って下さいね、白鷺くん♪",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "……えーと、そのまばゆい笑顔さまはいったい……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "いえ、気にしないで下さい。ただルルちゃんをよく知る者として、この後が少し予想できただけです\nそれじゃあ、私は先に行きますから\n……おかげで、思い出しちゃいましたよ……",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すれ違う瞬間、囁くように残していったミヤの言葉。俺は驚き振り返るものの、ミヤは何もなかったかのように、そのまま立ち去っていった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……俺の聞き間違い、じゃないよなあ……?",
"speaker": "姫"
}
] | [
"ルルウ",
"姫",
"ミヤ"
] | 07_Endless Dungeon | 022001_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "迷宮攻略試験、数日前。もう既にパーティーメンバーの選定も終わった生徒が殆どで、各自が最後の準備段階に入っている。\n学園全体が少しピリピリしたムードに包まれる中、俺は学園長室へと向かっていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "でも、学園長室を使っちゃって大丈夫なのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "平気よ、今は私が学園長代理だもの。それに別に遊びで使う訳じゃないから問題ないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まあ、確かにある意味で学園の運営に関わる事だしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、だから気にしなくて大丈夫",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルが言う通り、わざわざ相談場所に学園長室が選ばれた理由は、他の生徒も含めて絶対に誰にも聞かれないという保証がある場所だから。\nそしてそこまでして話し合うべき議題は一つ。以前皇女を襲った甲冑騎士についてだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺以外には誰を呼んだんだ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ノートとウルルとフォンには声をかけたわ、それとミヤも来てくれるはずよ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "なるほど、基本的に各世界の代表と、可能性の世界経験者達を集めた訳か。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "リンセ達は呼ばなかったのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、一階級組は呼んでないわ。あの子たちにはなるべく余計な事を考えずに試験に臨んで欲しいから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そうだな、皇女やリンセ達にとって、今回は入学して最初の試験だし",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺と一緒に戦えるとはしゃいでいたリンセは勿論、皇女やニコ、カミシアも今回の迷宮試験には気合を入れているのが、端からも見てとれる。\nそんな彼女達のワクワクに水を差したくないという、ヴェルなりの気遣いなのだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "絶対に成功させような",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええ、私も母さまに頼まれている以上、絶対に失敗させないわ\nというか、失敗したらどんな風にからかわれるか、考えるだけで憂鬱だもの",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はは、それは確かにあるかもな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんだかんだいってヴェルは真面目だから、トリアさんから寄せられている期待には応えたいと思っているのだろう。\n普段から口ではトリアさんの事を色々言っているが、トリアさんはやっぱりヴェルにとって大切な人なんだなと、こういう時に実感する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "っと、俺達が最初みたいだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "みたいね。待って、すぐに開けるから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "学園長室につくと、まだ誰か来た気配はなく、その扉も閉まっていた。\nまあ、ヴェルが授業などで不在の場合は基本的にここの鍵は閉まっているので、当然といえば当然だ。\nヴェル以外でここを開ける事は出来るのは、ヴェルと同じくここの鍵を所持しているノートとウルルくらいだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それじゃあとりあえず、みんなが来るまで待ってましょうか",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "へ?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ちょっ!?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "何気なくヴェルが開けた扉の先には、半裸で無防備に立っているノートの姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ノ、ノート!?何やってるの!?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "な、なんで……ボク、ちゃんと鍵……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "何が起こったか分からないという顔で呟くノートに、ヴェルは嘆息しながら手に持った鍵をかざす。ノートは納得したように頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あぁ……そっか、ヴェルちゃんも……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "というか……何故こんなところで着替えを……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "無防備な下着姿から目が離せないでいる俺に、ノートが震えた声を出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そ、その……ボクたちのクラス、さっきの授業が実技だったんですけど……そのちょっと長引いちゃって\nヴェルちゃんに呼ばれてたし、急がなくちゃって思って",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "あー……それで鍵を持ってて普段は誰も来ないここで着替えを済ませちゃう気だったのね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "な、なるほど……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "真面目なノートの事だ、きっと大事な話し合いだと聞いて、遅刻してはいけないと焦ったのだろう。\nそこで、鍵をかけることが可能で、普段人の来ないここで着替えることにしたんだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "確かに、ノートが来てる事を予想してノックしなかった私も悪いけど……だからって",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "は、はぅ、だってこんなに早く来るなんて思わなくて……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ごめん、俺達のクラスちょっと早めに終わったんだ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今日はバリアリーフ先生が何か用事があったらしく、HRが早々に切り上げられた。だから俺達は他のメンバーより学園長室に来れたわけだ。\nまあ、それがこの悲劇を生んだわけだが。\n不幸中の幸いなのは、この辺りに他の生徒がいない事だろう。ノートの裸体は俺とヴェル以外には見られずにすんでいる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "…………",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ところでノート",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "は、はい……",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "そろそろ、ちゃんと服着た方がいいと思うわ。ヒメの顔が色々と凄い事になっちゃってるから",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ひうっ!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "うおっ!?俺としたことが!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すっかりノートの肢体に見惚れてしまっていたことをヴェルに指摘され、俺は慌てて顔を背ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "きゃあああ!姫くん見ないでくださいー!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ご、ごめん!い、いや、本当に!す、すぐに出て行くから!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうね、ヒメはここで待ってて",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ヴェルに言われるまでもなく、俺が学園長室を飛び出すと、ヴェルが扉を閉める。\nその瞬間。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もう、ヒメのえっち",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ぐはっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヴェルの放った一言が、俺の心にクリティカルヒットした。\nごめんなさいこれも男の性なんです。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もうっ!ノート!お説教よ!そこに直りなさい!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "こ、この格好のままですか!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ずるいわよ!一人だけヒメにあんな所やそんな所見せちゃうなんて!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "しかも、怒るところそこなんですかー!?",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "とにかく、不用意な誘惑禁止!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ボクも狙ってやってる訳じゃないですよー!",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "扉が閉じると同時に廊下まで聞こえて来た二人の声に、俺は扉に身体を預けながら、ただただ頭を抱えた。\nにしてもノート、やっぱり突発的だと弱いなあ……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"ヴェル"
] | 07_Endless Dungeon | 030401_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "甲冑騎士の襲撃というイレギュラーはあったものの、俺達のパーティーは無事迷宮の攻略に成功した。\n襲撃により時間を取られたことでトップ通過こそ逃したものの、かなりの上位ではあったので、リンセたちと健闘をたたえ合っていたのだが、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "複数の甲冑騎士が現れた!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ヴェルとノートに迷宮内の事を説明しにいった時に聞かされた言葉に、思わず声を荒らげてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ええ、私たちの手が空いてたから、なんとか対処できたけど……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "合計すると十六体の甲冑騎士が同時に現れた事になります",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "十六体……結構な数だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "迷宮内の遭遇戦から、甲冑騎士が何者かによる遠隔操作なのは分かっていた。\nけれど、まさかそれほどの数が同時に出現するとは思っていなかった。\n最初は、甲冑をまとった強力な戦士系のクラスの敵と考えていたけれど、完全に騙されたな。\nむしろ、あんな甲冑を複数同時に操れる技能をもった、特殊なタイプのクラスだったわけか。今回の相手は。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それで、他の甲冑騎士もやっぱり遠隔操作を?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "はい。ボクたちが倒したものに限らず、全ての甲冑の中は空でした",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "だから動きを止めるのにちょっとだけ苦労したわ。腕がちぎれようが身体に穴が空こうが平気で動くんだもの",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "やっぱりか",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺達を襲った甲冑騎士がそうだったように、迷宮内の複数の箇所に現れた甲冑騎士も、どうやら遠隔操作されたもので中には誰も入っていなかったらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヴェルちゃんが言った通り、動きを止めるには完全に破壊しなくてはいけなくて、原型を留めてる鎧は残ってません\nなので、詳しく鎧を調べるにはちょっと時間がかかりそうです",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "せめて遠隔操作の魔法か自立稼働の魔法かだけでも分かれば良かったんだけどね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "まあ、そればっかりは仕方ない。俺達なんてリンセが跡形も無く消し飛ばしちゃったからな、他の鎧が残ってただけでも良かったよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ただ、これまで一度も俺達の前に姿を現わさず、さらに襲撃まで遠隔操作で行うような相手だ、おそらく鎧が残っていたとしても情報は得られなかっただろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それと、二人のおかげで他の生徒達もほとんど軽傷で済んだみたいだし、本当に良かった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "と、言っても私たちが倒したのは二、三体だけだけどね",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はい、姫くんの他にもウルルちゃんやデイルくんのパーティーも鎧を倒してくれましたから",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "話によると、甲冑騎士単体では異常に頑丈ではあるものの、それほどの戦闘力はなかったらしく、三階級レベルの生徒ならば問題無く破壊出来たらしい。\nそのおかげで、一部甲冑騎士と遭遇した俺達と無関係のパーティーも、ちょっと強いモンスターに遭遇した程度の認識でいてくれたようだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それでも、一階級の後輩達にはまだ辛い相手だったし、二人ががんばらなかったらちょっとまずい事態になってたかもしれない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうですね、他の生徒さんたちを巻き込まなくて本当に良かったと思います",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "せっかく苦労して準備したんだもの。部外者に台無しにされたらたまったものじゃないわ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "実際この二人がいなかったらどうなっていたか……想像するだけでも恐ろしい。\nなにせ俺達は全員、甲冑騎士は一人だと思い込んでいたから、目の前の甲冑騎士を倒したところでもう終わりだと思っていた。\n他の場所で、誰かが襲われているなんて考えもしなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "とりあえず、今後についての詳しい話は、明日にでもみんなを集めてしよう\nこの後にメインイベントも控えてるし、今日はまだ忙しいだろうしね",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の言葉に二人も了承してくれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "さすがに今日はもう仕掛けてこないと思うけど、何かあったときはお願いねヒメ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "任せろ。他のみんなも観客席から目を光らせてるし、絶対に二人の邪魔はしないよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ありがとうございます",
"speaker": "ノート"
},
{
"utterance": "ああ、もちろん二人の応援にも手を抜かないからな。二人ともがんばってくれ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺が親指を立てながらそう宣言すると、二人とも嬉しそうに笑ってくれた。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ノート",
"ヴェル"
] | 07_Endless Dungeon | 030507_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "迷宮試験も終わり、最後の大イベントも終わった。\n甲冑騎士の出現の時にはどうなるかとも思ったけれど、それ以降は大きな問題もなく、トリニティは静まり返っている。\n今、この学園には誰もいない。俺と、\n彼女を除いては。\n勝った方へのご褒美。ヴェルはそれを待っているのか、さっきから恥ずかしそうにしながらも、チラチラと俺を見ている。\nまあ、俺も男だし、ヴェルに求めてもらえるなら、それを拒む理由もない。むしろこれまで、ヴェルは本当に頑張ってたし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヴェル?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ひゃ、ひゃいっ!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺の呼びかけに、ヴェルはびくん、と大きく跳ねる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えーと、もしかして緊張してる、のか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そ、そ、そ、そんにゃこと、は……\nあるみたい……えへへ……やっぱり、久しぶりだから……\nそれにね、本当に苦しい戦いだったの。今までのどの戦いよりも……母さまとの戦いよりもよ\nそれを勝てたのは、ヒメ……あなたのおかげ。それがね、すっごく嬉しくて……なんだかもう、それだけで胸がいっぱいいっぱいになっちゃってて……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はは。俺の声がヴェルの力になったっていうなら、俺も嬉しいな\nいつもヴェル達には助けられてばかりだから……俺が力になれるっていうのが実感できたよ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もちろんよ。いつでもヒメは……私に、私も知らなかった力をくれるの……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺達は、そのまま自然に見つめ合う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こんな場所でいいのかな……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ここには私とヒメがいるわ……だったらそれだけで私には充分だもの",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "その頬を赤く染め、そう微笑むヴェルは綺麗で……俺はそっとその細い両肩へと手を置いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ヒメ……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "すみません、フォン、ちょっと失礼しますね\nあ、ノックはあえてしませんでしたので、そこは悩まないで大丈夫です",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "え?フォ、フォン!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ち、ちょっとあなた、今一番素敵で最高でクライマックスな場面だったのよ!",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "だから、入ったんじゃないですか。ヴェルさま、こんなところで一人でこっそり、なんてずるすぎです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "ずるいも何も、これが今日の勝者の権利じゃない。あなたに言われる筋合いはないんだけど",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "はい。フォンも普通ならそのまま枕を涙で濡らしつつ、布団を噛みしめグヌヌ……なつもりだったんですが……\n姫先輩?フォン、今日頑張りましたよねっ。姫先輩や、他の生徒を守るために、頑張ったんです",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "え?あ、ああ。それはもちろん分かってる。フォンのおかげで、俺も無事だったしな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "でしたらっ!\nその、ですね……フォンも、ご褒美ほしい、です……",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "あなた、すっごく図々しいんだけど……\n甲冑騎士とノートじゃ、相手にする難易度違いすぎじゃない",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "イベントで、全力全開で何も考えずに戦うのと、周囲を警戒して人々を守る、では後者の方が重要度高いと思いませんか。学園長代理♪",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "……あなた、本当に痛いところ突いてくるわね……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "それはもう。姫先輩に関してはフォンも譲れませんから\nですが、姫先輩に楽しんでいただく、という点においては、フォンとヴェルさま、お互いに譲れる部分があるのでは、と思ってますけどいかがです?",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "うふ、と、可愛らしく笑うフォン。その意図に気がついてか、ヴェルも呆れたように嘆息する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まあ、そうね。たまにはそういうのも有りなのかも",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "えーと……まったく話が見えないんですが……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "簡単なことですよ。つまりはですね",
"speaker": "フォン"
},
{
"utterance": "三人で愛し合いましょう、ってこと",
"speaker": "ヴェル"
}
] | [
"姫",
"フォン",
"ヴェル"
] | 07_Endless Dungeon | 030511a_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "その日は、自然と目が覚めた。\n迷宮試験で疲れていたはずなのに、布団の温もりに包まれながら、俺は心地よい目覚めに、そっと時計へと視線を送る。\n今日は、迷宮試験の疲労を抜くための休日。なのにいつもとほとんど変わらない時間に目覚めてしまった。\nもっとゆっくり眠れただろうことを残念に思うべきか、今日一日を有意義に過ごせるだろうことを得したと思うべきか。\n俺はそんな自分の考えに苦笑しながら、ゆっくりと身体を起こした。\n昨日、迷宮試験が終わった後の、あの時間。あの時の感触が、まだ身体に残っているような感じがする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……やっぱり、俺も男なんだなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そう苦笑した瞬間、俺の隣にあった、その妙に安らぐ温もりがもぞり、と動いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ふわぁ……おはよう、ヒメ。いいの?今日はもっと寝ていられるのに",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "布団の中から、下着姿のヴェルが現れる。\n少しはだけたその姿に、思わず目を奪われてしまった。やっぱりヴェルはその……可愛い。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ああ、ヴェル。おはよう。いや、俺も早起きした自分に驚いてるところでさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だったら、もう少し寝ちゃう?私は構わないわよ……はい、抱き枕……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "ああ、それもいいなあ。凄い気持ち良く寝直せそうで……\n…………\nって、ヴェル!?なんで俺の布団に!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あら……?ヒメの布団……?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺の疑問に、ヴェルはキョロキョロと周囲を見回し、やがて、ああ、と頷いた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "おはよう、ヒメ",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そして、満面の笑みを浮かべて挨拶をしてくれる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、ああ、おはよう……それで、なんで俺の布団に?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "んー……自分へのご褒美、かしら……準備に頑張ってた迷宮試験、終わったし\nそれで、ちょこっと夜に忍び込んでみました。ヒメの身体あったかくて、気持ち良かった\nおかげで疲れも吹っ飛んじゃったわ\nヒメはもういいの?迷宮試験明けで、せっかくの休日なんだもの。もう少し寝ててもいいのに",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "あー……うん、ちょっと目が冴えちゃったかなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "目の前の、この肢体が原因だとはさすがに言えない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふふ。昨日はヒメも、試験や甲冑騎士との戦いで頑張ってたものね。精神の方が充足してるのかしら",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "そう、だな。精神の充足は確かに……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なんといっても、昨晩のあれから、今のこの光景だ。男として張り切らないはずがない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あれ……っていうことは、俺は今……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?……あ……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "俺の下半身へと下りたヴェルの視線が、それはもうお約束通りに、俺のそれで止まった。\n今朝は、特に元気がいいようで……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの……お、お口で鎮めてあげると喜ばれる……って母さまには言われたんだけど……必要、かしら?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "その頬を赤らめながら、それから視線を逸らすヴェル。\nこの子は、俺とそういう関係になっても、こうやって恥じらう姿を見せてくれる。\nどうやら、心の準備が出来ていない時は、羞恥が勝ってしまうらしい。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "い、いえ、大丈夫、です……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それはつまり、お口よりも、っていうこと……かしら……\nえっと、あの、ね?私はヒメがしたいって言うなら別にその……今からでもいい、わよ?",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "それはその……嬉しいんだけど、困るかなあ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "チラリ、と背後に送った視線の先、やはり布団の中で、真っ赤になってこちらを見ている紅の姿があった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あ、いえ、その……\nあ、あたしは何も見ていません!どうぞごゆっくりー!!",
"speaker": "紅"
},
{
"utterance": "紅は、俺と視線を合わせると、そう叫びながら布団の中に潜ってしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……うん、ちょっと残念ね……",
"speaker": "ヴェル"
},
{
"utterance": "残念そうなヴェルの声が、本当に俺の後ろ髪を引く……。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"紅",
"ヴェル"
] | 07_Endless Dungeon | 031600_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "塔へと続く渡り廊下。この学園内でも特に人通りの少ないその場所に、カミシアはミヤを連れて来ていた。\nそこにいた少女の姿にミヤは驚くこともなく、笑顔で返す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "どちらだろうと思ってましたが、あなたの方でしたか、リンセちゃん",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "あはは……やっぱりミヤちゃんにもバレてましたか",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "当然です。私も元々は可能性の世界の住人ですから",
"speaker": "ミヤ"
},
{
"utterance": "それで、私とミヤをわざわざ指名したということは、当然そっち側の話なんだろう?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "うーん、どうでしょう。半分そうだし、半分違うかも\nただ、二人に相談があるんです。私の、剪定者という正体を知っている二人にしか出来ない相談が",
"speaker": "リンセ"
},
{
"utterance": "まあ、大体想像はつくけどな。なんだ?",
"speaker": "カミシア"
},
{
"utterance": "カミシアに促されると、リンセは二人を真っ直ぐに見ながら、そして言った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "第三の扉、その未来の作り方、です",
"speaker": "リンセ"
}
] | [
"カミシア",
"ミヤ",
"リンセ"
] | 07_Endless Dungeon | 031701_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "いくぞ、皇女",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "闘技場へと向けて再び走ろうとする。が、横から伸びた皇女の手が、俺の腕を掴んだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "皇女……?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ごめん、姫にぃ。姫にぃがあんなに腹を立てた理由、すっごいよく分かった……\n残される側の気持ちも考えず、別の方法を試しもしないでただの親切の押し売り?そんなの絶対ありえない!\nあたし、ニコのこと好きだよ。ちょっとぶっきらぼうな感じするけど、でも常に周囲に気を配って、優しくて\nだけど、今回は納得できない。ニコの考えが気に入らない……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "その拳をギュっと握り、皇女は俺にも伝わるくらいに怒りを立ち上らせる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "いいわ!だったら覆してあげる!あたしは白鷺姫の妹なんだから!なってあげようじゃない、あなたたちのお母さん!",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "皇女、お前、今何言ったか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だって、それが一番確実でしょ。リンセを産める人がいないから、あたしがそれを納得しないから、だからこの未来を壊す……そんなの、やっぱり間違ってる\nそれに、あたしだって……リンセもニコもルルウも、みんな助かってほしい。みんな、これからも一緒にいてほしい",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "そして、ピッタリと、俺にその身体を寄せた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫にぃだって、同じだよね……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "あ、ああ、それはもちろん",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "だったらお願い……覚悟決めて",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "切なげに俺を見上げる皇女。それは皇女はもう覚悟を決めたということで、そして、俺を求めるもので……。\n兄と妹。その壁に、俺は動けない。けれど、みんなのために決めた皇女の覚悟を否定もできない。\n真っ直ぐに見下ろす俺の視線の中で、皇女はそっと目を閉じる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "っ!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "それは確かに、皇女の唇の感触だった。\n小さくて柔らかな、唇の感触。実の妹の唇が、今俺の唇に重ねられている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……む……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "切なげにこぼれる吐息と声。それは俺の意識を浸食し、真っ白に塗りつぶしていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ん……ぷはぁ……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "やがて、その温もりがゆっくりと俺から離れ出す。\n真っ赤に染まった、けれども恥じらうような笑みが、目の前にあった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "えへっ。しちゃった、ね",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "いや、しちゃったって……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "何かを言わなければいけないはずなのに、白く染まった頭はそれを導き出してはくれない。\nただ唇に残る熱い感触だけが、俺の心臓を早鐘のように打ち鳴らしていく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お兄ちゃん。あたしはね、平気だよ。相手がお兄ちゃんだから……白鷺姫だから、平気なの\nお兄ちゃんは、あたしじゃ……白鷺皇女じゃ、ダメ……?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "お前は、本当にさ、俺の、白鷺姫の妹だな\nその……お前がそれでいいって言ってくれるなら……分かった\nリンセを、頼むな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "任せて。元気いっぱいの子供、産んでみせるから",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "うふふ……皇女ちゃん、思い切りましたね\n見ていて、ルルもドキドキとしてしまいました",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "した方だって、ドッキドキだもん",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "でも、皇女ちゃんがそう言ってくれたおかげで、確かにニコちゃんの未来は崩れましたよね\nだからあとは、思いっきり叱ってあげて下さい",
"speaker": "ルルウ"
},
{
"utterance": "俺達はルルウに頷き返すと、走りだした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……でも、今さらだけど、ニコ、聞いてくれるかな",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "あいつの目的は、誰でもいいから殺すことだ。俺やお前にとって大切な人でなくていい。無関係でも構わない。とにかく誰かを殺すこと\nその時点で、俺達はこの未来を選べなくなる。無関係な犠牲者が出てしまった以上、もう一つの未来を選ぶしかない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "つまり、ニコとルルウの犠牲で、あたしが姫にぃを受け入れる、っていう未来だよね。それなら、リンセは生まれるから……\nあたし、まだ信じられないんだ。あのニコが、そんな犠牲を出すようなことやるなんて……",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "覚悟は決めたんだろうな。悪人になる覚悟は……\n皇女がもう一つの未来を選べば、ニコとルルウ以外の犠牲はなくなる。できることなら、ルルウの犠牲もなくしたいんだろうけれど……\nだけどそれでも、一般の人は巻き込めなかった。このトリニティ内の、抵抗を出来る人達しか、その相手に選べなかった",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そっか……それで、トリニティなんだ……\nやっぱりさ、ニコはニコってことだよね",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "本当に、なんてはた迷惑な悪人だろう。悪人になりきれない悪人。\nただの悪人なら、全力で倒せばそれで終わる。だけどそうでないなら、分からせてやらないといけない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これでも叱るのは苦手なんだぞ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まったく……これだからリンセがあんなファザコンになっちゃうのよ",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "苦笑する皇女に、俺はもちろん何も言えなかった。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"ルルウ",
"姫",
"皇女"
] | 07_Endless Dungeon | 040002_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "辿り着いた闘技場は、不気味なほどに静まり返っていた。\n甲冑騎士の待ち伏せも、防衛すらもなく、学園全体が戦場になっているはずのトリニティの一部とは思えないほどだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "姫にぃ……本当に、ここにいるの?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "ああ、間違いない。ニコは自分が悪人になることを狙ってるんだ。だとしたら、最後まで自らの意思を示し続けないとな\nけれど、一方的な意思の押し付けっていうのは、得てしてスルーされるものだぞ、ニコ\nお前の意思を通したいなら、まずはこっちの話も聞いてみろ\nまあ、本当のことを言うとだ、全部分かった。お前がやろうとしてることも理由も。この時点でお前の狙いは狂ってるわけだが……\nだけどまあ、ここはあえてスルーしてやるよ。その辺は、全部戦いが終わってからだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ええっ。ちょっと姫にぃ、それっていいの!?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "だから、出てこい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "驚愕する皇女を無視して、俺はまっすぐ正面を睨み続ける。この時点で、俺とニコの戦いは始まっているんだ。\n俺はニコから、絶対に目を背けたらいけない。ニコから逃げたらいけない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "……あのままで終わってくれるとは思っていませんでした……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "やがて、そんな俺の視線を受け止めるように、また音も無くニコの姿が現れる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そもそも、あんな今考えました、なんて理由で、本気で俺達を騙せると思ってたならそれこそ心外だ\n俺達のお前を見る目を、もう少し信じてほしいところだな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "この作戦のために導入した甲冑騎士は、全部で二百五十六体。数は力です。姫さまたちの力を持ってしても、すべてを倒すより犠牲が出る方が早いはず\nだからあとは、この扉の世界の結末へと辿り着くだけ。そうして、妹さまがもう片方の扉を選んでくれれば……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "無理だな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "まだ言葉を続けようとするニコを、俺は一言で止める。\nそこには、ニコが言葉を失うだけの怒りがこめられていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺も、お前に言いたいことがある",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その怒りを感じとってくれたのか、ニコが微かに表情を歪めた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "俺はさ、怒ってるんだよ……怒ってるんだよ、本当に\n知ってたか?お前が今回やったこと、悪人のフリ。それ一度、ノートがやってるんだ\nあいつはすべての世界の結末を全部一人で背負って……俺を信じて……俺なら、きっと自分を殺してくれるって信じて、死んだ。俺が殺した\nあの時の感触が、まだ思い出せるんだ。分かるか?それがどんなに気持ちの悪い感触か。大切な人の、命の感触が\n俺は、怒ってるんだよ。あの時の悔しい気持ちを、あんな行為をノートにさせてしまった自分の無力さを、悔しさを、もう一度思い出させたお前に\nいや、違う。俺じゃない。俺達全員が、だ。あの時、俺達全員が苦しみ、そして嘆いた。苦渋を嘗めた\nだから……おしおきだ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……それは、予想外でした……まさか、主さまが……\nそれで、なのですね。あくまでもこの場に、主さまがいらしたのは。この期に及んで、ニコに、そんな優しい言葉をかけるのは……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺の本心を察したんだろう。この瞬間、確かにニコの計画は完全に崩れた。その綺麗な顔立ちが、悲しげに陰る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "未来の確定は、剪定者の宣言で行われる。だから、皇女が宣言するまでは決まらない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なにを、するつもりですか……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺は、あの日のやり直しをする",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "すべてを背負い、俺達のために命を投げ出した少女の姿が浮かぶ。\n届かなかった手を、どれだけ悔いたか。どれだけ責めたか。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "お前を打ちのめして、それでこんなバカなマネを止めてやる。そうだな、お尻ぺんぺんくらいはするから覚悟しろ\nそうして、俺達は全員揃って、笑顔で退散するんだ。文句は言わせない!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "言い切る俺の横に、皇女が並ぶ。そしてそのまま、言い切った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "約束する。ニコが姫にぃに勝てたのなら、宣言してあげる。もう一つの未来を\nだけど勝てないのなら……黙ってあたしのいうことを聞きなさい",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "……主さまの強さは知っています。でも、個人の力だけなら、ニコの方が上、です……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺は勇者だ。未来から来た娘の期待を、これ以上ないくらいに背負ってきた。だったら、俺は負けない、絶対\nそうだろう、ニコ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……今だけ、主さまに刃を向けます。あとでいくらでも叱って下さい\nニコは……勝つんです。あの子のために……いいえ、あの子に生きてほしいと願った、ニコ自身のために!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "その背中に、八枚の翼が広がった。淡い紫と白の、綺麗な翼。ニコの心を映し出しているかのような、鮮やかな羽。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "よりにもよって、八翼!?",
"speaker": "皇女"
},
{
"utterance": "十翼に進化したヴェルを除けば、八枚もの翼を持つ魔族は、歴史上にもそう多くはない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あの時は、真名無しとはいえ、憑依兵器モードのノートだったっけな\nそれで今回は、あの時のヴェルと同じ八翼か。俺も本当、運がいい",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "終わらせるには、これ以上ないシチュエーションだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "行くぞ、ニコ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ニコの力、お見せします!",
"speaker": "ニコ"
}
] | [
"皇女",
"姫",
"ニコ"
] | 07_Endless Dungeon | 040003_converted.jsonl |
[
{
"utterance": "皇女を傍から離し、俺は抜刀して正眼に構えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "すぐに終わらせます",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "言葉ではそう言い捨てたニコだが、その表情に油断は無い。ただ目の前の敵を倒す、それだけの為に練られた殺気が俺を貫く。\nけれど、俺はそれを軽く受け流し、あえて言う。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こないのか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "っ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "先手を譲ってやる、そう暗に言い切った俺に、ニコが新たに取り出した投げナイフを一瞬で投げつけてきた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、そうくるか!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "飛んで来た二つのナイフを弾き、俺はニコに向かって踏み込む。\n既にニコの手には本来の武器であるククリナイフが握られているが、俺は踏み込んだ勢いを殺さずに突きの姿勢に移行する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "思ったより速い!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ふっ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "連続で突きを繰り出しながら前進、ニコは両手に持ったナイフでこちらの剣を弾きながら、後退していく。\nどうやら純粋な剣術ならこちらの方が上のようだ。ニコは反撃をせずに剣を弾く事に集中している。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ちっ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺はそんなニコの回避の隙を見つけ、剣を払い右手のナイフをはね飛ばした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだっ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "迂闊すぎるぞ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そして、それに焦ったニコがもう片手のナイフを振った瞬間、俺はその軌道に自分の剣の軌道を合わせ書き換える。\n俺の十八番であるカウンター技にニコのバランスが崩れ、もう片方のナイフも宙を舞った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これで、どうだ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "……フフ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "普通ならこれで終わる一撃。しかし俺は気がついてしまった、ニコの唇に浮かぶ隠し切れない笑みを。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は背筋を走る悪寒を信じ攻撃を中止、右に転がるように回避行動をとった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やっぱり、そう上手くはいきませんね",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺が回避行動をとった直後に、一瞬前まで俺の背中があった位置を二本のナイフが高速で通り過ぎる。\n間違いない。今のは、開幕と同時に弾き飛ばしたナイフ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なるほど、これがマリオネッターの本領か",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "甲冑騎士を操ったように、ナイフにも魔術によるプログラムが仕込まれ、ニコと魔力の糸で結ばれている。後は、ニコが魔力を流すだけで、狙った通りの動きをする。\nナイフを、ただの武器ではなく、自立稼働する、一種の魔法生命体として操っている。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "純粋な剣術ではニコは主さまには勝てないかもしれない。けれど、これはなんでもありの実戦です!\nだから、これを使う事も躊躇いません!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そう言った直後、再び背後に気配が出現した。俺は慌てて飛び退きながら、背後に剣を走らせる。\n金属を弾く手応えと共に、今かわしたばかりのナイフが再び宙を舞う。\n確かにこれはやっかいな能力だ。四方八方、あらゆる方向から自在に敵を攻撃できるわけだ。俺は、改めてそれを理解した。が、その刹那、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "穿ちなさい!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "!?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ニコの命令に、弾いたばかりのナイフが空中で向きを変え、再び俺に向かって飛んでくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "今度は弾くのは無理と判断。思い切り顔を逸らして避けるが、頬に走る灼熱感にかわしきれなかった事を悟る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだいきます!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "さらに、ニコが新たに取り出したナイフ二本を投擲。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ちっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は素早く二本の軌道を読むが、",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "切り裂け!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そんなこともできるのかっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "二つのナイフは突如としてその軌道を変えた。\nそれにより、二本とも弾くはずが、一本を弾きそこねてしまう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "痛っ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ナイフが今度は腕をかすり、痛みが走る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "更に二本追加……追い詰めます!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そして、ニコは更に二本を投入。今度は左右に投擲し、回り込む様な軌道でこちらに迫る。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "これは、接近しないと話にならないな!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "変幻自在に軌道を変えるナイフ達に、俺はこのままでは不利だと悟ると、思い切り地面を蹴ってニコの方へと一直線に向かった。\nニコは、接近戦用のククリナイフだけは常に持っている。対応は出来るだろうが、それでも剣術だけなら俺の方が上なのはさっき確認済みだ!",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "近づかせると思いますか?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "思っちゃいないさ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "背後、一瞬前に俺が立っていた位置を、交差するように二本のナイフが通り過ぎる。\nそして、そのすぐ後に感じた気配に思いっきり横っ飛びをした。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こいつは、しつこいな!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さらに横っ飛びから着地直後、足を狙った一撃をすんでのところで弾き返す。\nなるほど、走るなら常に全速力でないと捕まる。かといって一直線すぎれば狙われる。ジグザグに攻めるも、これじゃあ曲がる瞬間を狙われかねない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "逃げ回っても無駄です。ニコがいる限りどこまでもナイフたちは主さまを追いかけます。逃げられません",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "けど、こいつを使ってる間、ニコは大規模魔法は使えない、違うか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "これだけの複雑な動きをするプログラムだ、動かすにもそれなりの魔力を必要とするはず。なら、これを使っている間は、他の大規模な魔法は使えないだろう。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だからどうしたって言うんですか?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そして、その考えは正しかったみたいだ。迫ってきたナイフを弾きながらの俺の質問に、ニコは素直に答えを返す。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "別に。魔法攻撃が無くて楽でいいなって思っただけさ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "更に三本追加、これで終わりです!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "余裕を見せた俺の言葉が気にくわなかったか、ニコが更にナイフを追加。全方位から、ナイフが一斉に俺に群がってくる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ニコ、いいことを教えてやる",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺にあまり手の内を見せない方がいいぞ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "なっ!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺はそう発すると同時に、ナイフが飛んでくる一角へ自ら突撃。その一本を弾き包囲を破る。\nそして、軌道を修正しこちらに迫るナイフの柄をキャッチして、そのままニコに投げ返した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "止まれ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ま、やっぱりダメだよな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺が投げたナイフはニコの手前で止まり、ニコの身体には届かなかった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "読まれた……まさか",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "結構不規則だったから読みにくかったけど、大体見えた",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そんなバカな!ニコ自身が振ってるならともかく、ナイフ半自動追尾です!真眼を使ったところで、完全に読み切ることは出来ません!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "なるほど、半自動か。それはいいことを聞いたな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "あっ",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "口を滑らし、自分から情報を与えてしまった事に気がついたのだろう、ニコがしまったという顔をする。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "それと、別に真眼で読めるのは人の動きだけじゃないぞ。真眼の本質は、様々な条件を統合して未来を先読みする能力だ、極めれば予測対象に制限はない",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もっとも、さすがに未来の完全予想、とまではいかないけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "あり得ません……そんな事あるわけが",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "もう、無駄だ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺の言葉に納得出来ないのか、ナイフが一斉に俺に向かって飛翔する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ふっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は、それに対して目を見開き集中力を爆発させる。\n世界から色が消え、速度が落ちる。これが今の俺の全力。そのすべての集中力を絞った、俺の世界だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "合計八本!この数をかわせますか!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "動揺してるな、包囲が甘い",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は体感時間が引き延ばされた世界の中で、飛び交うナイフの位置関係を一瞬で把握。その軌道を予想し、さらにニコに辿り着く最短コースを導き出す。\n瞬間、俺は動いていた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そんな!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "迫り来るナイフの中から、予想した通り必要最低限のものだけを剣で弾きながら、俺は速度を緩めることなく一直線にニコへと向かって走り込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "接近する俺を見て、ニコが後に跳びながら魔力光を発生させる。あの発光量と色、間違いない、低級の風魔法だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "主さまの吐息",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "無駄だ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "っ!?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "予想通りに放たれた風の弾丸を、俺はサイドステップで斜線上から待避しかわすと、再び前方に走り込む。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "がはっ!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そして今度こそニコの身体を完璧に捉えた。\n恐らく気鱗か防御魔法か。渾身の一撃だったが、少々通りが悪い。これじゃあまだ終わらない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だが、もう逃がさないぞ?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "けれど、それでもここは完全に俺の間合いだ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ!まだっ、まだです!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコはそう言ってナイフを引き寄せるが、俺はそれを読み、ニコの手を掴むと自分と位置を入れ替えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "位置を入れ替えられ、このままでは自分に当たると悟ったのか、ニコがナイフを緊急停止する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "はあっ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "きゃっ、うん!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "その背中に、全力でケリを叩き込む。体重の軽いニコは、軽々と目の前に吹き飛んだ。そこには、未だ空中にとどまるナイフがある。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くっあああああ!!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "自分が空中に固定したナイフに正面から突っ込み、ニコが悲鳴を上げる。それでも予想通り、大した傷は負っていない。やっぱり気鱗を展開しているんだろう。\nまあ、そうでもなければ、こんな酷な攻撃はしないけれど。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ぐっ、うう……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "読み切ったぞニコ、まだ続けるか?",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "負けない、負けられない……",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "苦しげに言葉を発しながら、ニコはどうにか立ち上がろうとする。恐らくはこのまま立ち上がるだろう。けれど、それでももう無理だ。\nその動きは、もう読み切った。正直に言えば、最初からパワー勝負をされていたら厳しかった。\nその八翼をフル動員した殲滅魔法や、気鱗を全開にしての正面からの攻撃相手だったら、こうも簡単にはいかなかった。恐らくはニコも分かっていたはず。\nそれでも、ニコは俺に、技での勝負を挑んできた。それが剪定者である皇女がいるからなのか、それとも相手が俺だったからなのかは分からない。\nだけど、ニコはやっぱりニコで、本心から悪になれるような奴じゃない。本心から俺に剣を向けるなんて絶対にできない。俺は、そう思ってる。\nけれど、まだニコは諦めなかった。ふらつきながらも立ち上がり、俺をキッと睨み付ける。\nその瞳はいまだ死んでいない。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そうか……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "その心がどれだけ否定をしていても、それでもニコは闘おうとしている。リンセのために。なら、その想いは最後まで遂げさせてやるべきだ。\n俺はそれ以上何も言わずに再び剣を構えた。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだです、ええまだ、切り札が残ってます!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコの言葉に反応するように、闘技場の入り口に三つの影が現れる。ガチャガチャと音を立てる、三体の黒い騎士。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "甲冑騎士か!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "もしもの時の為に残していた予備戦力です。本当ならここで使い潰したくはないのですが……主さまに勝つには必要です!\n行きなさい!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコの指示と共に三体の甲冑騎士が突っ込んでくる。それに合わせてナイフ、そしてニコ自身すらもがこちらに迫ってくる。\n本当に、何もかもを捨てた特攻攻撃。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "こいつはちょっと、しんどいな",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "最初に言いました、数は力です!いかに真眼で動きが読まれようと、物量で圧倒してしまえばいいだけです!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "まさにその通りだ。どんなに動きが読めようとも、物理的に逃げ道がなければどうしようもない。来ることが分かっているのに避けられないというのが、一番最悪のパターンだ。\nここに来てニコは、ただ勝つために正面からの力押しを選んだ。\nただ、それでも……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "くそっ、それにこいつらの攻撃と装甲は!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は甲冑騎士の攻撃を受け止めるが、耐えきれずに後に吹き飛ばされた。\nそこにすかさず飛んでくるナイフを転がって避ける。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "!!!",
"speaker": "甲冑騎士"
},
{
"utterance": "ぐっ、ああああ!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "しかし、それは読まれていたか。避けた先に走り込んできた甲冑騎士に蹴り飛ばされて、再び吹き飛ばされる。\n咄嗟に剣を間に入れたとはいえ、甲冑騎士の攻撃力は尋常じゃない。こっちのダメージは相当だ。\nそれでも俺は素早く立ち上がると、剣を構えて集中する。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "もっとだ……まだ、足りない……もっと、もっと集中しろ……",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "無駄です。たとえ動きが読まれたとしても、主さま単体の攻撃力では甲冑騎士の装甲は破れません",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコの言う通り、甲冑騎士の装甲は迷宮試験の時、攻撃魔法にすら耐えてみせた。俺の手持ち武器では、せいぜい凹ませる程度にしかならないだろう。\nしかも、こいつを止めるには、完全に破壊するしかない。今の俺の攻撃力では絶対不可能。\nけれど、それでも……。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "だからって、諦める理由にはならないな!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は本心からの笑みを浮かべて、言い放った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "なら、これで戦闘不能にします!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "そう宣言したニコの周囲を、かつてない規模の魔力光が照らす。それと同時に、今までこちらを囲むように展開していたナイフや甲冑騎士達が一斉にニコの周りへと集結した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まずい!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "魔力を纏い発光する甲冑騎士とナイフを見て、魔法名の宣言を待たずに俺は悟る。\n大聖堂でニコが見せた、あの切り札だと。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "フルレンジバースト!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "魔法名の宣言を発動の合図とし、魔力を纏った武具達が一斉に俺へと突撃を開始する。\n真っ直ぐに突進してくる三体の甲冑騎士はもちろん、その三体に追随するナイフが掠っただけでも、おそらく俺は戦闘不能になるだろう。\n今、自らの操れるすべての力を、魔力を増幅暴走させた状態でただ一点に叩き込む。まさに必殺の一撃だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "まだだっ!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "迫り来る暴力の波に、俺は再び集中力を爆発させる。\n今この場所にあるもの。俺の持っている力、技。ニコの攻撃。迫ってくるものの動き。\nそして、甲冑騎士と一緒に飛んでくるナイフの存在に、俺は一つの結論に辿りつく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "やれるか?……いや、やるんだ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は自身に言い聞かせる様に叫ぶと、自ら甲冑騎士の一体に向かって駆け出した。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "無駄な事を!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "ニコが叫ぶが、俺の耳には届かない。\n恐らくは、間合いに入った敵をすべて叩きつぶせとプログラムされているんだろう。その先頭を駆けていた甲冑騎士が、突撃中でありながらもその剣を抜いた。\n俺はただ、極限の集中力の中、目前に迫った絶対的な死の気配へと剣を振り上げる。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "ここ、だ!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "甲冑騎士が、俺めがけて振り下ろした剣の軌道に自らの剣の軌道を合わせ、逸らす。\n俺の十八番であり切り札でもあるカウンター。\n当然、この状況では目の前の甲冑騎士の攻撃を逸らしたところで、続く攻撃によって俺は跳ね飛ばされて終わるだけだ。\nしかし。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "え?",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "まが、れえええええええ!!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "俺は全身の筋肉を連動させ、甲冑騎士の剣の軌道を、ある方向へと誘導した。\nそれは、すぐ隣で同じように俺に向かって剣を振り下ろすもう一体の甲冑騎士。\nニコの魔力によって強化された一撃同士がぶつかりあい、その衝撃によって二体の甲冑騎士がそれぞれ別方向へと、周囲のナイフを巻き込みながら弾け飛ぶ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そして、こいつは!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "さらに俺は、死角をついて飛んで来たナイフの一つを目視せずに掴みとった。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "つっううう……!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "ニコが込めた魔力が手のひらを焼き、激痛が走る。\nしかし俺は痛みに構わず、飛んで来た勢いを利用して、目の前に迫った三体目の甲冑騎士の関節に、そのナイフを突き刺した。\nガチリと嫌な音がして、甲冑騎士の右膝の関節部が歪み、勢いのままに前に倒れ込む。\n甲冑騎士は、その勢いのまま地面を転がり、ばらばらになりながら壁へと突っ込んでいく。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "今度こそ、終わらせる!",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "そうして三体の甲冑騎士をやり過ごすと、俺は今度こそニコに向かって駆け寄った。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "そん、な!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "甲冑騎士とナイフ、その全てを突破され、ニコは完全に無防備だった。その手に持った武器のことすらも忘れて、ただ呆然と俺を眺める。\nそうだ、それでも……。\nそれでもお前はリンセの、俺の娘の、親友だ。",
"speaker": "地の文"
},
{
"utterance": "気鱗があるんだ、多少痛いのは我慢しろ",
"speaker": "姫"
},
{
"utterance": "!!",
"speaker": "ニコ"
},
{
"utterance": "俺は踏み込みと同時に腹部に剣をめり込ませてそう言うと、そこから一気に連撃を叩き込んだ。",
"speaker": "地の文"
}
] | [
"姫",
"ニコ",
"甲冑騎士"
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